抄録
【目的】
The modified Gait Efficacy Scale(mGES)は歩行に対する
自己効力感尺度であり,地域在住高齢者における尺度特性は検討
されているが,疾患を持つ患者を対象とした研究は少ない.本研究
の目的は,脊椎圧迫骨折,大腿骨近位部骨折,脳卒中患者における
mGESの尺度特性を検討することである.
【方法】
本研究は,回復期リハビリテーション病棟入院中の65歳以上の
脊椎圧迫骨折(n=56),大腿骨近位部骨折(n=39),脳卒中患者
(n=49)を対象とした.自宅退院日の2週間前から退院日までの期
間に,mGES,Falls Efficacy Scale-International(FES-I),
Maximum Walking Speed(MWS),Timed Up&Go Test
(TUG),Berg Balance Scale(BBS)を測定した.各疾患におけ
るCronbachのα係数を算出し,内的整合性を検討した.全体での
探索的因子分析を実施し,構造的妥当性を検討した.mGESと
FES-IのPearsonの積率相関係数を算出し,併存的妥当性を検討
した.また,mGESとFES-IそれぞれとMWS,TUG,BBSとの
Pearsonの積率相関係数を算出し,構成概念妥当性を検討した.
有意水準は5%とした.
【結果】
Cronbachのα係数は0.97,0.95,0.95であった(脊椎圧迫骨折,
大腿骨近位部骨折,脳卒中).探索的因子分析の結果,mGESは
一次元性が認められ,因子寄与率は73.1%であった.mGESと
FES-Iの相関係数は-0.73,-0.50,-0.54であった.mGESおよ
びFES-Iとの相関係数(mGES/FES-I)はMWSが0.50/-0.39,
0.23/-0.02,0.65/-0.45,TUGが-0.48/0.36,-0.33/0.14,
-0.60/0.41,BBSが0.55/-0.39,0.19/-0.16,0.57/-0.44で
あった.
【考察】
mGESは良好な各疾患で内的整合性を示し,全体の因子分析に
おいてモデルの一次元性を認めた.MWS,TUG,BBSとの相関
分析では,他疾患と比べ大腿骨近位部骨折において,mGES,
FES-Iともに低い相関係数を示した.これは,mGES,FES-Iに
共通しており大腿骨近位部骨折患者のMWSやTUG,BBSの分布
の影響を受けた可能性がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は公益財団法人老年病研究所倫理審査委員会の承認を得て
実施した(承認番号81).対象者には本研究の趣旨を文書および
口頭にて説明し,書面にて同意の署名を得たうえで実施した.