抄録
【はじめに】
大腿四頭筋の筋力低下は,歩行やバランス能力に影響を与えること
から改善することが望まれる.筋力増強には随意運動と電気刺激
療法の併用が効果的である(Borzuola et al., 2022).今回,対麻
痺症例に対し,運動中に大腿四頭筋へ電気刺激療法を行い能力
の向上を認めたため経過を報告する.
【症例紹介・経過】
本症例は腰部脊柱管狭窄症と診断され,令和4年7月Y日にL2-4
椎弓,椎間板切除術後,術創部に膿腫が生じ,L2-4領域の運動
麻痺が増悪した70歳台男性.Y+124日,当回復期病院転院時の
ASIA分類はC.標準的な筋力増強練習と動作練習を行うも,入院
後4か月経過時点でASIA分類はD,下肢MMT(右/左)は腸腰筋
4/4,大腿四頭筋4/3,前脛骨筋4/3と運動麻痺と筋力低下が残存
していた.歩行は固定式歩行器と両短下肢装具を装着し見守り
だったが,手洗い動作時に後方傾倒を認め介助を要していた.後方
への立位制御が不安定な要因として,大腿四頭筋の筋出力低下が
考えられた.そこで,立位,起立,歩行中に大腿四頭筋へ電気刺
激を併用した.介入前の等尺性膝伸展トルク(右/左)は6.3/1.9
kgf,立位時の最大後方重心移動距離は9.0㎝,TUG は50秒
だった.電気刺激(ESPURGE,伊藤超短波)は周波数50Hz,パ
ルス幅300μs,刺激強度は痛みのない最大強度,貼付位置は両側
大腿直筋とし,30分/1回,5回/1週,計2週間行った.
【結果】
等尺性膝伸展トルク(右/左)は9.3/1.9kgf,最大後方重心移動距
離は23.3cm,TUGは44秒となった.手洗い動作時の後方傾倒は
消失し,室内歩行が自立した.
【考察】
介入後の等尺性筋トルクは殆ど改善しなかったが,バランス能力
の改善を認めた.Sevinらは電気刺激によって遠心性収縮力が高
まり,バランス能力が改善する可能性を示唆している.本症例に
おいても電気刺激によって後方への立位制御時に必要とされる大腿
四頭筋の遠心性収縮力が高まり,動作能力の向上を認めた可能性
がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
本人へ本介入の目的,発表の趣旨を十分に説明し,書面にて同意
を得た.