抄録
【はじめに】
日本足の外科学会より変形性足関節症(Osteoarthritis:以下
OA)の保存療法として足底挿板が推奨されており,その効果は多
数報告されている.一方で靴型装具は臨床で用いられていること
が多いものの,その効果に関する報告は少ない.従って今回,足
OA患者に対する靴型装具の使用が足関節角度や歩行能力へ与え
る影響を検討した.
【方法】
本症例は小脳出血により,当院回復期リハビリテーション病棟に
入院した70歳代女性である.症状は四肢の軽度失調と筋力低下
を認めた.既往症として右人工股関節全置換術,左股OA,両
膝OA,両足OAを有していた.膝と足に外反変形(Kellgren-
Lawrence分類:グレードⅣ)を認めた.病前にかかりつけ医より
手術を勧められえていたが本人が拒否をしており,ADLは左膝装
具と四点杖を使用し移動していた.入院時は膝や足の痛み,下肢
筋力低下によりADL一部介助,活動性の低下を認めた.理学療法
では失調や筋力低下に対する運動療法に加え,変形に対する靴型
装具の使用を検討した.内側フレアヒール使用時は主観的効果が
得られたことから,右足部に内側フレアヒールを採用した.内側
フレアヒールは,高さ4㎝,横幅2.5㎝のライト材を後足部から前
足部まで熱加工にて接着した.なお,作成は義肢装具士に依頼し
た.内側フレアヒールの効果を検討するため,Leg-Heel-Angle(以
下LHA),立位右下肢最大荷重,日本語版-改訂Gait Efficacy
Scale(以下mGES),膝痛指標としてNRSを測定した.
【結果】
普通靴では右 LHA 19.1°,立位右下肢最大荷重量 30.0 ㎏,
mGES 55点,右膝痛NRS 7点であった.内側フレアヒール使用
時では右LHA 1.4°,立位右下肢最大荷重量 44.5㎏,mGES 72
点,右膝痛NRS 3点であった.
【考察】
内側フレアヒールにより荷重時の足外反を矯正することが可能で
あった.また右足部内側に支持基底面が拡大することで失調を有
する足部の重心制御に貢献した可能性がある.結果として荷重量
の増加や歩行への効力感が増加したと考える.さらに内側フレア
ヒールにより足外反が矯正されたことで上行性運動連鎖により膝
の外反ストレスが軽減し,疼痛も軽減した可能性がある.従って
内側フレアヒールは変形予防や歩行能力の改善を目指すうえで一
助になりうることが示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表を行うにあたり,当院倫理委員会の承諾を得た.また本症
例に対し口頭にて説明を行い,同意を得た.