抄録
【はじめに,目的】
電気刺激(ES)には歩行神経筋電気刺激WalkAide(以下WA)や随
意運動介助型電気刺激(以下IVES)などがあり,脳卒中後の歩行
能力の改善に寄与するとされているが,急性期脳卒中患者の足関
節底背屈筋の双方に対するESの効果は十分に検証されていない.
本研究では,急性期脳梗塞後の1症例を対象に,歩行動作に同期
した足関節底背屈筋の双方に対するESが歩行速度に与える効果を
検証した.
【症例紹介,評価,リーズニング】
症例は脳梗塞を発症した60代男性である.ABC法によるシング
ルケースデザインを6病日から開始した.開始時の理学療法評
価は, 下肢のFugl-Meyer Assessmentが26点,Functional
Ambulation Categoryが3点であった.介入期間は各5日間で計
15日設けた.1時間の介入のうち,50分の通常介入と,A期では
通常の歩行練習,B期では足関節背屈筋に対してWAを使用した歩
行練習,C期ではB期の介入に加えて足関節底屈筋に対するIVES
を併用した歩行練習を各期10分ずつ実施した.効果判定の指標
として,各介入の翌日に最大歩行速度(MWS)を測定した.WA
は総腓骨神経,IVESは腓腹筋内側頭上に貼付し,刺激強度はい
ずれも運動閾値で設定した.バランス評価としてMini Balance
Evaluation Systems Test(以下Mini-BESTest)を介入前後に測
定した.解析はFingerhutら(2021)のチャートに沿い,A期の有
意な傾向がないことを確認し,Tau-Uを用いた(有意水準:5%).
Tau-Uは,A期-B期,B期-C期,A-C期で求めた.
【倫理的配慮,説明と同意】
参加者には事前に本研究の趣旨と測定内容に関する説明を十分に
行い,紙面にて同意を得た.
【介入内容と結果】
MWS(m/s)はA期が0.72/0.76/0.79/0.83/0.92,B期が
0.79/0.89/0.85/0.82/0.90,C期が0.94/0.87/0.98/1.02/0.94
であった.Tau-Uは,A期-B期がTau-U=0.60(p=0.117),B-C
期がTau-U=0.68(p=0.076),A-C期がTau-U=0.84(p<0.05)
であった.Mini-BESTes(t 点)は介入前/後で20/24であった.
【考察】
慢性期脳卒中患者に対する足関節底背屈筋の双方に対するESは
通常歩行群,背屈筋へのES群と比較して足関節底屈角度や前
方床反力の改善を認め歩行速度に寄与したことが報告されている
(Yiqun Dongら,2023).本研究ではA-C期において有意に改
善しており,急性期脳卒中患者においても歩行動作に同期した両
筋群へのESは歩行速度に寄与する可能性が示唆された.