抄録
【はじめに,目的】
骨盤ベルトは腰痛・骨盤痛の軽減(安藤2012)に加え,股関節伸
展筋力(原口ら2021),荷重能力(高橋ら2017),バランス(清水ら
2020,松田ら2009)の向上といった効果も報告されており汎用
性が高い.ただし,バランスについては両脚立位での検討に留まっ
ていることから,より動的な姿勢での検討の余地がある.そこで
本研究は,骨盤ベルトが片脚立位における静的バランスおよび方
向別の動的バランスに与える影響を明らかにすることを目的とし
た.
【方法】
対象は健常成人22名(男性6名・女性16名:平均年齢20.5±0.5歳)
とした.骨盤ベルトは低伸縮ベルトと高伸縮補助ベルトの2重構造
からなる山田式ストロングベルト(ミノウラ社)を用いた.片脚立位
は左を支持脚とし,静的バランスは開眼・閉眼の重心動揺を重心
動揺計(ANIMA社)で30秒間計測した.動的バランスはmodified
Star Excursion Balance Test(以下,mSEBT)を実施し,さら
にmSEBTの各方向への70%リーチ姿勢(以下,SEBT姿勢)におけ
る重心動揺を10秒間計測した.統計処理は骨盤ベルトの有無によ
る各バラメータの差を群間比較した(p=0. 05).
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の目的や方法を説明し,書面で同意を得た.なお,
本研究は研究実施機関の倫理審査委員会の承認済みである(承認
番号:2024-6).
【結果】
骨盤ベルト有り条件では,閉眼片脚立位の重心動揺において左右
実効値と左右動揺速度の最大値が低値を示した.mSEBTは後内
方と後外方リーチで高値を示した.SEBT姿勢の重心動揺は,後
外方リーチ姿勢の総軌跡長・左右軌跡長・矩形面積・外周面積・
実効値・実効値面積・左右最大振幅・前後最大振幅・重心動揺速
度の実効値・左右動揺速度の最大値で低値を示し,前方リーチ姿
勢の前後実効値で低値を示した.
【考察】
骨盤ベルトがバランスに与える即時効果について,先行研究では
静的バランスを改善させるという報告(清水ら2020)とそうでない
報告(松田ら2009)があるが,本研究は前者を支持する結果であっ
た.また,動的バランスは左右方向での改善が報告されており(松
田ら2009),本研究もおおむね一致する結果であったが,特に後
外方への改善を認めた.これらの変化は,骨盤ベルトによる仙腸
関節の安定化(force closure)や腹横筋機能の代償に加え,中・
大殿筋への圧迫効果(吉武ら2015)によって股関節外転作用が補
われたためと推論された.