抄録
【はじめに,目的】
一般的に脛骨骨幹部骨折は術後1 ~ 2 ヶ月間の免荷期間を要する.
増井ら(2007)は,脛骨骨幹部骨折は足関節背屈制限を呈する例
が多いと述べており,背屈制限は歩行やバランス機能に影響する
とされている.
今回,主治医によるプレート追加術後より荷重制限なしとなった
症例を担当し,T字杖歩行自立を目標に足・膝関節の可動域に着
目し介入したため報告する.
【症例紹介,評価,リーズニング】
80代女性,X日に自転車走行中に転倒し,右脛骨開放骨折と診断.
X+4日に骨接合術施行.主治医より術後安静度は2ヶ月間歩行器使
用と指示あり.骨接合の補強目的でX+20日にプレート追加術を施
行し荷重制限なしとなる.X+35日,地域包括病棟へ転院となった.
初期評価(X+5日)では,右膝関節屈曲120°,伸展0°,足関節背
屈-5°,歩行は患側荷重量の低下や恐怖心により困難であった.
追加術翌日(X+21日)より右膝関節伸展-15°の制限を認め,足・
膝関節ともに筋・軟部組織性の制限であった.足関節の制限因子
は下腿三頭筋の柔軟性低下と距骨の可動性低下,膝関節伸展の制
限因子は,ハムストリングスの短縮とハムストリングス・腓腹筋交
差部の滑走性低下と考えた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,書面と口頭にて説明を行い,同
意を得た.
【介入内容と結果】
筋・軟部組織性の制限に対しては伸長性を意識したストレッチング
を中心に,T字杖歩行獲得に向けては股関節周囲筋中心の筋力訓
練,歩行訓練を中心に介入した.その結果,最終評価(X+34日)
では,右膝関節屈曲125°,伸展-10°,足関節背屈0°となった.歩
行はピックアップ型歩行器自立,歩容は右LRからMStでの下腿前
傾が乏しく前足部への荷重が不足していた.
【考察】
本症例は, 右足関節背屈・膝関節伸展の可動域制限によって右LR
からMStにかけて下腿前傾が乏しく,骨盤帯が足関節よりも後方
に位置する歩容を呈していた.その問題点に対して上記訓練を実
施し,筋・組織の柔軟性向上と浮腫軽減を認めたが,可動域の改
善は不十分であった.
福本(2016)は足関節背屈時に腓骨の挙上が,福原(2013)は外旋
が必要であると述べており,本症例は一度目の手術において脛骨の
前外側部を切開していることから,腓骨の動きを妨げ背屈制限を呈
していた可能性がある.しかし腓骨に対する詳細な評価はできてお
らず可動域制限が残り,T字杖歩行が獲得できなかったと考えた.