抄録
【はじめに】
近年,2つ以上の慢性疾患が一個人に並存している状態であるマ
ルチモビディティが臨床上の課題となっている.
今回,慢性心不全と右変形性股関節症による影響で活動量減少を
伴っていた症例に対し,装具療法による歩容改善後,運動耐容能
改善を目指した症例を報告する.
【症例紹介】
症例は70代女性,身長151.0cm,体重45.0kg,BMI 19.74kg/m,
慢性心不全と診断され入院した.左室駆出率(LVEF)40-45%であ
り,重度僧帽弁狭窄症を認めた.僧帽弁置換術後,右変形性股関
節症による跛行がADL拡大の制限因子となっていた.脚長差は左
棘果長75cm,右棘果長72.5cmであった.自宅退院後,外来リハ
ビリ導入となり継続介入となった.外来リハビリでは,装具を作成し,
運動耐容能改善にむけて生活指導,運動指導を実施した.
【倫理的配慮,説明と同意】
症例報告についての主旨,匿名性の保持について口頭で説明し,
協力の同意を得た.
【介入内容と結果】
(評価)10m歩行,体成分分析装置での測定,大腿四頭筋筋力
(治療内容)歩行練習による有酸素運動を実施したが,脚長差によ
る跛行を生じ下肢の易疲労性を認めた.そのため簡易的な補高を
行いエルゴメーターでの有酸素運動,レジスタンストレーニングを
実施し,1カ月後に再評価を行った.
(結果)体成分分析装置による評価では全身筋肉量27.1kgから
29.2kg,右下肢筋肉量3.77kgから4.30kg,骨格筋指数4.3kg/
mから4.9kg/mへとそれぞれ増加した.
【考察】
本症例は慢性心不全と右変形性股関節症の並存により活動量減少
や筋力低下が生じ,運動耐用能が低下していた.僧帽弁置換術後
にADL拡大,運動耐用能向上のための心リハ介入を行う際に,ま
ず右変形性股関節症に対し,装具療法と運動療法を実施した.全
身の骨格筋量増加と右下肢骨格筋量の増加の結果からは,脚長差
が解消され,歩行数増加や日常生活動量が増加した可能性が示唆
される.
入院早期より理学療法士が介入し,活動制限の原因とひとつであ
る運動器の問題点に対し装具療法や運動療法を行ったことで,心
リハの本来の目的である運動耐容能の改善,生活の質の向上にも
大きく関与したと考えられる.
【結論】
身体機能全般に介入できる理学療法士はマルチモビディティに対
し,有効な介入ができる可能性が示唆された.