抄録
【はじめに】
視床出血は血腫の部位により5つの型に分類され,病型ごとに運
動感覚麻痺や運動失調,認知機能障害など,出現する症状およ
びその程度に異なる特徴を持つ.背側型は軽度の運動感覚麻痺
を主症状とし,後外側型は重度の運動感覚障害や視床性失調症
候群,失語などの出現が特徴的であると報告されている.しか
しながらリハビリテーション評価を用いた臨床所見の経過を詳
細に報告した例は乏しい.そこで本報告では,視床出血症例1名
を対象に,Fugl-Meyer Assessment(FMA)やScale for the
assessment and rating of ataxia(SARA),改訂長谷川式簡
易知能評価(HDS-R),Trail Making Test(TMT),標準失語症
検査(SLTA)を用いて実施した検査結果の経過について報告する.
【症例紹介】
60歳代女性.右利き.発症前の生活は自立していた.左視床出
血を発症し入院,保存的治療が行われ,第28病日に回復期病院
へ転院となった.
【倫理的配慮】
症例報告の目的と意義について,対象者およびその家族に対し口
頭および書面にて説明し同意を得た.
【結果】
第28病日(1M)のCT画像所見にて視床背側部及び後外側部に高
吸収域を認めた.血腫サイズは約3.4mLであった.1Mにおいて,
FMA運動項目:23点,FMA感覚項目:4点,SARA:検査不
可,HDS-R:18点,TMT-A:53秒,TMT-B:308秒,SLTA:
語列挙4語であった.第63病日(2M)にはFMA運動項目:37点,
FMA感覚項目:4点,SARA:10.5点となり,第109病日(4M)に
は,FMA運動項目:80点,FMA感覚項目:21点,SARA:5.5点,
HDS-R:29点,TMT-A:35秒,TMT-B:126秒,SLTA:語列
挙11語であった.
【考察】
本症例は視床背側部および後外側部の損傷が疑われた視床出血
症例である.回復期病院への転院当初,重度の運動感覚麻痺を
認めていた(1M〕.経過途中より運動失調が顕在化したが(2M),
運動感覚麻痺および運動失調はともに軽度まで改善を認めた
(4M).また当初,注意記憶障害と語想起の明らかな低下も出現
していたが(1M),4M時点では注意,記憶,語想起の機能が全
て年齢標準相当まで回復した.症状からは背側型または外側型の
判別は困難であったが,各検査を経時的に実施することで,本症
例の機能能力とその回復を客観的かつ詳細に評価できた.