抄録
【はじめに】
運動失調の理学療法はPNF,緊縛法があり本症例に対して実施し
たが成果は挙げられなかった.2021年の脳卒中ガイドラインでは
体重免荷式トレッドミル歩行練習(以下BWSTT)のエビデンス推奨
度Bと有効性が報告されているが,運動失調性歩行を呈する患者
にBWSTTで練習を行い歩行能力が向上した報告は少ない.本症
例にBWSTTで課題難易度を調整した歩行を繰り返し行った結果,
運動失調性歩行が改善したため報告する.
【症例紹介】
対象は左視床出血に伴う運動失調性片麻痺を呈した60歳代男性
である.右下肢に失調症状を呈し立脚期で股関節の安定性低下や
遊脚期のスティフネスによる歩行障害を認めた.X+53日時点で
麻痺側下肢Fugl Meyer Assessment(以下FMA)26点,表在
感覚2/10, 深部感覚5/10,Scale for the assessment and
rating of ataxia(以下SARA)10.5点,Functional Ambulation
Category(以下FAC)2点であった.また,歩行は三軸加速度計
(AYUMIEYE,早稲田エルダリーヘルス事業団製)を使用して計測
し,Root Mean Square(以下RMS)8.275,歩行周期のばらつき
0.075秒であった.
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に準拠し対象者には研究内容について十分な説明
を行い,同意を得た.
【介入内容と結果】
課題難易度調整を目的としたBWSTTの設定は免荷20%,歩行速
度1.5km/h,10分間2セット,徒手修正しながら実施した.最終
的に免荷0%(安全懸架のみ),歩行速度2.5㎞ /hとし4週間介入
を行った.X+83日に再評価を行いFMAの向上,感覚改善は認め
なかった.SARA 6.5点,FAC 4点と改善を見せ,歩行計測では
RMS 3.475,歩行周期のばらつき0.037秒となった.
【考察】
BWSTTの初期で体重免荷に加えて徒手的な運動修正を反復し下
肢スティフネス異常が出現しないよう歩行を促した結果,目標とし
た歩行を学習することができたと考える.また,免荷0%まで免荷
率を漸減させたことによりさらなる運動学習が進み,歩行時RMS
の減少を認めた可能性がある.
以上の事から,運動失調性歩行を改善するために運動学習状況を
考慮した課題難易度調整と正しい運動軌道で高頻度反復が貢献し
た可能性が示唆された.