抄録
【はじめに,目的】
体性感覚障害に対するリハビリテーションでは,障害部位に様々
な物品を用いて感覚入力を行い,識別させる課題が推奨されてい
る.一方,これらは刺激量を増幅させ,残存している感覚の感度
や精度の改善を図る目的であることから,感覚が完全に途絶した
感覚脱失患者に対しても有効であるかは不明である.従って本研
究の目的は感覚脱失症例に対する足底刺激が歩行時最大荷重量
に及ぼす即時効果について,シングルケースデザインを用いて明ら
かにすることである.
【方法】
症例は当院回復期リハビリテーション病棟に入院した右視床出血
により左片麻痺を呈した50歳代女性である.ベースライン測定時
は発症後54日,麻痺側Brunnstrom Recovery Stageは上肢Ⅴ,
手指Ⅴ,下肢Ⅵであった.左上肢,下肢の全部位において表在感
覚検査は10点法にて0点であった.理学療法時のみ歩行練習を行っ
ており,片手で平行棒を把持することで介助なく歩行可能であっ
た.本症例に対する足底刺激の即時効果を検討するため,介入は
ABAB型シングルケースデザインとし,通常の運動療法に加えA期
は裸足での立位,歩行練習を行い,B期は市販の凹凸のあるイン
ソールを用いて足底刺激下での立位,歩行練習を行った.各期終
了時に普段靴を履いた状態での平行棒内歩行における歩行時最大
荷重量を測定,体重比を算出した.なお荷重量の測定には荷重測
定器GET'Aを使用した.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は院内倫理審査委員会の承認を得て実施した.また症例に
対して口頭にて説明を行い,研究参加の同意を得た.
【結果】
歩行時最大荷重量はベースライン時 8 6.9%BW,A1 86.4%BW,
B1 89.4%BW,A2 85.8%BW, B2 88.9%BWであり,A期終了
時と比較してB期終了時に高い値を示した.
【考察】
本研究において足底刺激下での歩行練習後により,即時的に歩行
時荷重量が増加することが明らかになった.足底からの荷重感覚
情報は脊髄を介して下肢の伸筋群を促通し,荷重支持に貢献する
ことが報告されているおり,本症例においても足底刺激により歩
行時最大荷重量が増加したと考えられる.従って本研究より足底
への感覚入力は知覚が困難な感覚脱失症例においても脊髄が残
存していれば即時的な下肢支持性改善に有用であることが示唆さ
れた.