抄録
【はじめに,目的】
骨盤底筋群と腹横筋は,体幹の動的安定性に関与しており,骨盤
底筋群トレーニンング(PMFT)と腰椎安定化運動の併用は,慢性
腰痛を有する女性の尿失禁に有効である.今回,腰椎固定術後に
腰痛と尿失禁を呈した患者に対する,PMFTと腰椎安定化運動の
併用効果について検討した.
【症例紹介,評価,リーズニング】
本症例は,腰部脊柱管狭窄症に対し,側方侵入椎体間固定術(L1-
3)と経皮的椎弓根スクリュー(L1-3)を施行された70歳代女性で
ある.介入前評価において,腰痛VASは60mm,自覚的な尿失
禁症状の質問票(ICIQ-SF)は10点,尿失禁の特異的QOL質問票
(KHQ)は44点,過活動膀胱症状質問票(OABSS)は8点,膀胱
底挙上率は4.2%,腹横筋収縮率は33%であった(膀胱底挙上率と
腹横筋収縮率は超音波画像診断装置にて測定).評価より,手術
侵襲に伴う腹横筋と,腹横筋と共同収縮をしている骨盤底筋群に
機能不全が生じ,腰痛と尿失禁を呈したと考えた.そこでPMFT
に加え,腹横筋の機能不全に有効である腰椎安定化運動の併用介
入を実施した.
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき事前に説明を行い,同意を得た上で実施
した.
【介入内容と結果】
介入デザインはAB法を用いた.A期は通常介入とPMFTを実施し,
B期はA期内容に加え腰椎安定化運動を実施した.PMFTは坐骨結
節内側で骨盤底筋群の収縮を確認し,10秒収縮と1秒収縮を各10
回10セット実施した.腰椎安定化運動は膝立て臥位にて圧バイオ
フィードバック装置を腰部へ設置し,圧力を40mmHgに維持しな
がら股関節外旋運動を10回10セット実施した.介入期間は各時期2
週間,評価時期は介入前(A’ ),A期終了時(A),B期終了時(B)とした.
効果判定には腰痛VASは臨床最小重要変化量(MCID:21mm),
ICIQ-SFはカットオフ値(6点)を用い,KHQ,膀胱底挙上率,腹横
筋収縮率は前後比較を用いた.結果を示す(A’→A→B).腰痛VAS
[mm](60→35→10)はA期,B期でMCIDを上回った.ICIQ-SF [点]
(10→4→4)はA期でカットオフ値を上回った.膀胱底挙上率 [%]
(4.2→21→24),KHQ [点](44→42→32)はB期で大幅な改善を
認め,OABSS [点](8→6→4)は各時期で改善を認めた.腹横筋
収縮率 [%](侵襲側33→11→67)はB期で改善を認めた.
【考察】
腰椎固定術後に腰痛を有した患者に対するPMFTと腰椎安定化運
動の併用は,骨盤底筋群と腹横筋の共同収縮が促され,尿失禁
の特異的QOLの改善に有効である可能性が示された.