抄録
【はじめに,目的】
Mihara(2014)は姿勢制御と皮質-網様体脊髄路が大きく関与して
おり,身体に対して加わる外乱の予測が行われている際に,外乱
後の姿勢を安定させるため,それに先行する筋活動が生じるとして
いる.これを,予測的姿勢制御と呼び,前運動野・補足運動野に
関与していると述べている.今回,予測的姿勢制御に着目して体
幹機能へのアプローチにより,座位保持能力の改善に至ったため,
以下に報告する.
【症例紹介,評価,リーズニング】
70代女性,X日に言葉が出ないことに息子が気付き救急要請.
MRIにて左前頭葉梗塞と診断され,X+31日に当院回復期病棟に
転院.
初期評価(X+40日)右Brunnstrom Recovery stage( 以下
BRS)Ⅰ-Ⅰ-Ⅱ,SIAS 23点(垂直機能1点,腹筋0点),Trunk
Control Test (以下TCT)37点.体幹筋の低緊張が著明であり,
座位は立ち直り反応が見られず,右後方への姿勢崩れを認め重介
助.また,左上肢でベッド柵を把持すれば,短時間の座位保持は
可能であった.
本症例は一次運動野から内包にかけての脳梗塞によって,右上下
肢に運動麻痺が生じていた.そして,前運動野・補足運動野も障
害されており,座位姿勢制御困難となっていると考えた.また,
体幹筋群と股関節周囲筋の低緊張により座位保持が困難であり,
座位バランスの低下が著明であった.
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,口頭・書面にて説明を行い同意を得た.
【介入内容と結果】
姿勢制御機能の賦活:下肢・体幹筋群の神経筋促通.寝返り動作.
鏡を用いて視覚的フィードバックを利用した端坐位訓練,立位訓
練や長下肢装具での歩行訓練を実施.
本症例は,重度の運動性失語も生じており,治療の工夫として
YES / NOといったクローズドクエスチョンにて意思疎通を図りな
がら上記治療を実施した.
結果(X+82日)右BRSⅠ-Ⅱ-Ⅳ,SIAS 33点(垂直機能2点,腹
筋1点),TCT 62点. 体幹筋の低緊張改善により,座位姿勢は,
左右への立ち直り反応が出現し,右後方への姿勢崩れが改善.ま
た,ベッド柵を把持せず長時間見守りで座位保持可能となった.
【考察】
先行研究より,予測的姿勢制御に着目し,体幹機能へアプローチ
した結果,下肢・体幹筋の低緊張が改善したことにより,座位姿
勢制御の改善に繋がったと考える.また,立位や移乗動作の介助
量軽減も認めた.