抄録
【目的】
重度運動麻痺により麻痺側下肢の振り出しが困難であった一症例
に対して,非麻痺側下肢を先に振り出した前型歩行を行い,練習
効果を検討した.
【症例紹介,評価,リーズニング】
70歳代男性.脳梗塞(右前頭葉・放線冠),重度左片麻痺.5病
日に当院へ転院し,リハビリテーションを開始した.26病日の基
本動作は開始時から変化なく,起居動作・座位保持が全介助,起
立・立位保持が重度介助であった.歩行は金属支柱付き長下肢装
具(以下,KAFO)を使用して後方から抱きかかえるようにした全介
助,麻痺側下肢の振り出しにも介助を要した.GCS:E4V5M6.
SIAS下肢運動機能:0-0-0,表在・深部感覚:3,合計36点であっ
た.そのほか注意障害・脱抑制・病識低下を認めた.従来の3動
作揃い型では麻痺側下肢の振り出しが困難であるため,非麻痺側
下肢先行の前型歩行により麻痺側下肢の振り出しが可能となると
考えられた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は症例の承諾を得て行い,当院研究倫理委員会の承認を得
た(番号:1603).
【介入内容と結果】
26病日に非麻痺側下肢を先に前に出した状態からの股関節伸展
と背伸びにより麻痺側下肢を振り出す前型の歩行練習に先駆けて
のステップ練習を開始した.2日目からは転倒防止介助で可能,7
日目に監視で可能,10日目で終了した.歩行練習は4日目に平行
棒把持歩行を開始した.歩行練習は麻痺側下肢KAFOにて,①平
行棒把持,麻痺側補高2㎝,②平行棒手掌支持,補高2㎝,③サ
イドケイン,補高2㎝,④サイドケイン,補高1㎝,⑤サイドケイ
ン,補高なしの5段階の進行とした.段階の移行は理学療法士の
判断とした.各段階への移行は,3日目に段階②,5日目に段階③,
11日目に段階④,18日目に段階⑤に移行した.13日目には麻痺
側下肢を先に振り出すことが可能となったが,ふらつきが目立ち注
意障害も考慮して非麻痺側下肢を先に出すパターンを続けた.17
日目にはSIAS下肢運動機能:2-1-1,表在・深部感覚:3,合計
57点であった.30mを監視から転倒防止介助で歩行が可能となっ
た.
【考察】
麻痺側下肢にKAFO装着しての平行棒歩行において,麻痺側下肢
を先に振り出すことが困難である場合,非麻痺側下肢を先に振り
出して股関節伸展と背伸び(または補高)により麻痺側下肢振り出
しを得る歩行を行うことが有効である可能性がある.