抄録
【はじめに】
幻肢痛の発症は脳における感覚運動野の不適応が関与しており,
切断者において強い幻肢痛は睡眠などを妨げ,義士装具装着練習
が困難となる.今回,右膝壊死性筋膜炎による右下肢切断にて幻
肢痛が持続した症例を経験した.本症例に対し自主練習をベース
にしたミラーセラピー(MT)を提供し,幻肢痛の軽減と義足歩行の
獲得に至ったため報告する.
【症例紹介】
40歳台男性,X-34日に右膝部腫脹・疼痛出現.壊死性筋膜炎に
てX-25日に切開排膿施行.X-18日に深部まで炎症が波及してい
るため右大腿切断に至る.切断後より幻肢痛が出現.X日に当院
へ転院し同日よりリハビリ開始となる.
【評価】
幻肢痛は入院時及び1か月ごとの平均の痛みの強度をnumerical
rating scale(NRS)にて評価した.入院時はNRS 7であり,しび
れ・むずむずする・血管内をさされるなどの内省があり睡眠障害も
認めた.幻肢痛の頻度は毎日で煩わしさあり.幻肢の運動は困難.
断端長は26.1cm,断端部の股関節内転20度,伸展15度,MMT
は3 ~ 4レベル,感覚は断端部軽度しびれあり,歩行能力は平行
棒内軽介助で病棟内の移動は車いすを使用.FIM:93点(運動62
点・認知31点).
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例には報告の趣旨や個人情報の保護等に関して説明し同意を
得た.
【介入内容】
右大腿切断に対し理学療法開始.並行して自主練習ベースでの
MTを指導した.MT時の姿勢は端坐位,切断部位を鏡の後ろに
隠し,鏡に映った非切断肢の反対像を確認し,ゆっくりと動かす.
また動きに変化を加え,切断肢を運動している錯覚を惹起するよ
う設定した.自室にて1日1回,10 ~ 25分間行い,日記(NRS・
実施時間・練習内容)を記入するよう説明した.
【結果】
介入1か月後,さされるような痛みは残存したが,強度はNRS 3と
軽減し,睡眠中の発現は無くなった.頻度は毎日と変わらなかっ
たが,幻肢痛の煩わしさは無いとの内省あり.X+43日より義足
歩行練習を開始し,幻肢痛に変化がないためMT終了とした.義
足歩行練習において幻肢痛による阻害はなく,約2か月にてロフス
トランド杖を使用した屋外歩行・階段昇降を獲得し,FIM:119点(運
動84点 認知35点)と向上が見られ自宅退院となる.
【考察】
一般的な義足歩行練習期間は2 ~ 4か月とされ,幻肢痛によりそ
の期間は延長する.自主練習ベースでのMTは幻肢痛の軽減に伴
い義士装具適応期間を最適化し,義足歩行の獲得・ADL向上に
寄与すると示唆される.