抄録
【はじめに】
股関節離断(以下,股離断)者での義足歩行練習の報告は散見され
るが,多くの合併症および非切断側の支持性低下を呈した股離断
者に対して,義足歩行練習の介入および経過に関する報告はきわ
めて少ない.今回,交通事故にて骨盤・体幹部損傷などの合併症
を併発した股離断者に対し,長期的な介入にて義足の製作および
歩行練習が可能となったため報告する.
【症例紹介】
20代男性.職業はトラックの運転手.仕事中の交通事故で受傷し,
左股離断となった.合併症として左仙腸関節離開,右恥坐骨骨折,
第5腰椎脱臼骨折,直腸穿孔,左横隔膜損傷,左横隔膜ヘルニア
があった.非切断側下肢は殿筋群,下腿三頭筋の筋力低下が著
明で感覚障害も認め,さらに腹筋の部分切除により体幹筋力低下
も著明であった.受傷から約2年後,義足製作希望のため当院に
入院となった.
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表は倫理審査委員会の審査において承認を受け,総長の許可
を得て実施している(承認番号:○○).
【経過】
股関節義足(以下,股義足)はカナダ式ソケットとし,股継手と膝継
手はどちらも固定(オットーボック社製,7E7および3R40),足部
は単軸足とした.まず立位練習においては,入院時は断端管理お
よび合併症の治療を優先し,入院後4週より義足1/3荷重練習を
開始し,入院後10週に全荷重での立位練習が可能となった.その
後,股義足に体幹支持部を追加し体幹部の支持性向上を図ること
で歩行練習が可能となった.歩行練習は平行棒内から開始し,入
院後11週で両ロフストランド杖歩行練習を開始した.その後,自
宅環境での階段昇降,車椅子座位での長時間の義足装着を考慮
し,体幹支持部から肩つりへ変更を行い,入院後約15週で両ロフ
ストランド杖歩行,階段昇降,車椅子座位での長時間の義足装着
が可能となった.最終的な義足の仕様が決定し,訓練用仮義足を
製作して入院後32週(受傷後2年8 ヶ月)で退院となった.退院後
も外来リハビリテーションにて義足の歩行練習を継続し,その後,
地域の訪問リハビリテーションサービスで義足歩行練習を継続し
たが,実用的な歩行獲得には至らなかった.
【考察】
本症例は原疾患の治療から義足歩行練習まで長期的な期間を要
し,また限定的な場面での歩行獲得に留まった.しかし,若年症
例であることを勘案すると義足歩行練習を実施できたことは,今
後の健康の維持・増進に寄与すると考えられる.