抄録
【はじめに,目的】
脳血管障害や脊髄損傷による下肢麻痺例では下肢装具やBWSTT
(Body Weight Supported Treadmill Training)を用い,高強
度の歩行練習を行うことは脳卒中治療ガイドラインや理学療法ガ
イドラインで推奨されている.一方で急性大動脈解離術後のリハ
ビリテーションにおいて,解離の再発や悪化を懸念して運動制限
を強いられることが多い.本症例のように交通事故による急性大
動脈解離,両下肢麻痺を呈した症例では循環動態の管理をしなが
ら適切な運動強度での歩行練習が求められる.そこで免荷式歩行
器による歩行練習が本症例の様な病態でも歩行機能の改善に寄与
すると仮定して介入した経過と結果について報告する.
【症例紹介,評価,リーズニング】
70代男性.X年Y月Z日自動車同士の交通事故により外傷性急
性大動脈解離(Stanford A型)を受傷し救急搬送され前医にて
TEVAR施行.術前から両下肢麻痺症状を認め術後から徐々に
回復が認められた.Z+44日当院回復期病棟へ転院.初期評価
ではBMI 26.6kg/m,安静時血圧104/53mmhg,労作時血圧
110/62mmhg,MMT下肢体幹2,両膝以遠に5/10の表在・深
部感覚低下.HDS-R 27/30点,BBS 12/56点.歩行は10m歩
行(歩行器)0.66m/s,FAC 1,立脚中期に両側の膝折れあり.
FIM 60点(運動25点,認知35点).歩行練習は循環動態への配
慮に加え,歩行練習後の血尿がみられたこともあり,負荷量の調
整をしやすい免荷式歩行器を選択.
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表はヘルシンキ宣言を遵守し,本人の自由意思による同意を
文章で取得して実施した.
【介入内容と結果】
歩行条件は免荷10kg,Borg Scale 13となる30m程度の歩行(自
由速度)を反復し,歩行距離を増加させた.訓練中血圧の変動は
大動脈解離診療ガイドラインの基準内に収まり有害事象なく経過.
その後も練習方法を都度変更し運動負荷の増加,安静度の拡大
が得られ,Z+119日には杖歩行自立となった.Z+149日MMT下
肢体幹4,10m歩行(T-cane)1.02m/s,BBS 46/56点,6分間
歩行テスト322m,FAC 4.FIM 113点(運動78点,認知35点).
【考察】
免荷式歩行器では免荷により身体や心肺系への負荷を抑えなが
ら,歩行練習を行うことにより,本症例でも歩行速度,耐久性の
改善に寄与した可能性がある.一方でBWSTTを使用した小野塚
らの報告と比較すると,同等のADLに達するまでに期間を要し,
歩行練習条件や運動量の差異による影響が示唆された.臨床場面
では,これらの差異を踏まえた練習内容の選択が重要であると考
えられる.