抄録
【はじめに】
高度化・専門分化された医療において,円滑な多職種連携は患者
の心身機能回復や在院日数短縮,入院満足度向上に貢献するとい
われている.回復期リハビリテーション病棟(以下:回リハ病棟)の
多施設研究では,入院時運動FIM 56点未満の脳卒中患者に対し,
リハ職種以外の病棟スタッフによる追加練習の実施は退院時運動
FIMを改善することを明らかしている.今回,重度片麻痺,注意機
能障害により機能予後不良と予測した症例が,多職種の協力,合
同練習を通じADL自立に至った.治療経過と考察を加え報告する.
【症例紹介】
発症日+23日で回リハ病棟に転院した50代男性(右視床出血 左利
き).下肢BrsⅡ,SIAS:39/76点,ABMSⅡ:13/30点の重度片
麻痺.感覚は中等度鈍麻と痺れあり.FIM:36/126点.WAISⅣ:
処理速度IQ 68.移動場面では麻痺と左空間の注意機能低下によ
り躓き,接触などの転倒リスクが高く,機能予後不良と予測した.
利き手の麻痺に固執し,作業療法士によるADL練習は拒否した為,
セルフケア含めたADL練習を看護師と共同する必要があった.
【倫理的配慮】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には口頭説明と同意書にて発表
の同意を得た.当院倫理委員会の承認を得た.
【介入内容】
理学療法では身体機能練習と装具療法で歩行再建を試みた.発
症日+75日に一部介助レベルで歩行能力獲得したため,看護師に
よるセルフケア促しと歩行練習を開始した.言語聴覚士では視覚
探索課題を用いた歩行練習を実施し,ADL場面での左空間への
注意機能改善を図った.発症日+141日からCovid-19クラスター
発生し隔離,移動能力低下.発症日+151日に本人罹患し再度隔
離となったが,看護師による歩行練習を継続し移動能力の更なる
低下を予防.発症日+173日に杖と短下肢装具用いて近辺移動自
立した為,看護師による階段練習を開始した.
【結果】
身体機能は下肢BrsⅢ,SIAS:46/76点,ABMSⅡ:28/30点.
FBS:48/56点.FIM:111/126点.注意機能はWAISⅣ:処理
速度IQ 75.中等度運動麻痺と左空間への注意機能低下は残存す
るも,短下肢装具使用し独歩自立.発症日+203日目で自宅退院
となった.
【考察】
機能予後不良であったが,移動自立に至った.これは理学療法ア
プローチに加え看護師によるセルフケア促しと練習量確保,言語
聴覚士による探索課題練習の結果,移動能力改善と左空間へ注意
を向ける代償戦略獲得が図れたからと考える.