抄録
【目的】
PNFは脳卒中理学療法ガイドラインで一般運動療法の実施,ま
たはその併用も含め適切に選択し適用することが推奨されている.
今回,脳梗塞後の片麻痺を呈した症例に対し歩容改善を目的に
PNFを実施し,即時的ではあるが効果を認めた為,報告する.
【症例紹介】
脳梗塞(左内包~放線冠)で入院した,30代男性.Brunnstrom
Stage右Ⅴ-Ⅴ-Ⅳ,徒手筋力検査(MMT)右三角筋・前鋸筋・僧帽
筋中・下部線維は4,右腸腰筋・中殿筋・大腿四頭筋・前脛骨筋
は3,表在・深部感覚は軽度鈍麻,片脚立位は左10秒,右は困難.
歩行は右荷重応答期(LR)~立脚中期(MSt)で膝関節外反位及び
体幹右側屈位,右遊脚相の努力的な振り出し,クリアランス低下,
全歩行周期で右優位の肩甲帯屈曲・前傾を観察した.16病日目の
肩甲帯の評価では,右肩関節最終屈曲位にて肩関節前面に圧迫
感があったが,右肩甲帯を後傾方向へ誘導する事で軽減した.右
肩甲帯下制・内転のMMT時に,左股関節伸展・外転を観察した.
【倫理的配慮 説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,個人情報保護に配慮し,本人へ説明を
行い,同意を得た.
【介入内容と結果】
15,16病日目の2日間介入.15病日目は右股関節周囲の筋出力向
上を目的に介入.介入後,右LR ~ MStの膝関節外反位は改善し
たが,右肩甲帯屈曲・前傾,体幹右側屈は残存した.さらに体幹
の左右動揺,右クリアランス低下が著明となった.
16病日目は前日の介入に加え,右僧帽筋中・下部線維の筋出力
向上を目的に介入.介入後,右肩関節最終屈曲位での圧迫感は
軽減,MMT時の左股関節伸展・外転は消失した.歩行では右LR
~ MStで体幹右側屈軽減,右遊脚相の円滑性・クリアランス向上,
全歩行周期で右肩甲帯屈曲・前傾の軽減を観察した.
【考察】
歩行の振り子モデルは,位置エネルギーと運動エネルギーの変換
作用により,効率化を図っている.本症例では右肩甲帯屈曲・前
傾の改善が,右LR ~ MStでの体幹右側屈の軽減に繋がり,位置
エネルギーが増大した事で遊脚相の円滑性・クリアランスが向上し
たと考える.一方,15病日目の右股関節周囲筋への介入では右LR
~ MStでの体幹右側屈が残存し,重心の過度な右側方偏位が生
じ,歩容の悪化へと繋がったと考える.PNFを基に運動療法を実
施し,動作の変化を認めたが,下肢アライメントの変化のみに焦
点をあてるのではなく,全身のアライメントを捉え,歩容改善に必
要な機能に対して介入することが重要であった.