関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第43回関東甲信越ブロック理学療法士学会 ・ 第30回千葉県理学療法学術大会 合同大会
セッションID: P8-5-5
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一般演題
ロボットスーツHALによる歩行訓練により数年ぶりに立位
歩行を実現した遺伝性運動感覚 ニューロパチーの一例
*川上 未央樋口 拓哉
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抄録
【はじめに,目的】 沖縄型神経原性筋萎縮症(以下,HMSN-P)は,成人発症の常染色 体優性遺伝性疾患で,近位筋優位の筋力低下・筋萎縮,深部腱反 射の低下・消失,感覚障害,緩徐進行性の経過を特徴とする遺伝性 運動感覚ニューロパチーである.本研究では,ロボットスーツHAL 医療用下肢タイプ(以下,HAL)による立位・歩行を施行し,数年ぶ りに立位・歩行を実現した1例の効果とQOLへの影響を報告する. 【症例紹介,評価,リーズニング】 60代男性,X年にHMSN-Pと診断.家族歴に沖縄県出身の父・ 叔父が同病.X+3年に電動車椅子使用,X+6年に訪問診療開始. X+11年,HALリハビリを目的に当院入院.入院時評価は,FIM 64点(運動項目29点,認知項目35点)であった.徒手筋力測定(以 下,HHD)による膝伸展筋力は右4.7kg,左5.8kg.MRCスコア は28点,TISは16点,TCTは49点であり,座位保持では介助が 必要であった.長期間の電動車椅子生活により,ADLが著しく低 下していた.HALを用いて立位・歩行を施行し、筋活動の促進を 図り,QOL改善を目指した. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は当院の倫理委員会の承認を得た.患者に研究目的,方法, 個人情報保護について説明し,書面による同意を得た. 【介入内容と結果】 5週間の入院期間中,HALを用いた歩行訓練を週3回(1回60分), 計13回実施.安全性を配慮し免荷機能付き歩行器を併用した. 退院時評価では,FIMは68点(運動項目33点,認知項目35点), HHDは右4.9kg, 左7.7kg,MRCスコアは28点,TISは16点, TCTは49点と評価結果に大きな変化はなかったが,端座位保持 が自立となった.さらに殿筋群,腹筋群の収縮触知が可能となり, 前後方向へのお尻歩きが可能となったことから移乗時の部分的な 介助量が軽減した.今回,HALを使用し,約8年ぶりに立位・歩 行が行えたことで,患者の達成感と意欲が大幅に向上した. 【考察】 今回,HALを使用した運動療法を施行するにあたって目標を立位・ 歩行の再獲得ではなく,身体機能維持や介助量軽減を踏まえた介 入を行なった.HALによる立位・歩行によって,体幹機能は変化 がなかったが,座位姿勢の安定性,移乗動作の改善,介助量の軽 減に繋がった.また進行性疾患であるHMSN-P患者において,数 年ぶりに立位・歩行を実現したことは単なる身体機能の改善以上 に,QOLへの影響を与えた.実際「立った姿勢からの景色が久し ぶりでまた観れると思ってなかった」と話されていた.今後は,長 期的効果や適応基準の検討など,さらなる研究が必要であると考 える.
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© 2024 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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