抄録
【はじめに,目的】
凍結肩は退行性変化を基盤に発症し,関節可動域制限を主症状と
して日常生活動作やQuality of life(QOL)低下に影響する疾患で
ある.臨床において,肩関節内転制限(内転制限)により下垂位保
持が困難になり可動域改善に期間を要する症例を多く経験する.
我々は過去に内転制限は凍結肩患者の40%に発生し,内転制限に
より肩関節屈曲・外旋角度が低下すると報告した.近年,患者主
体の医療の重要性が提唱され,患者立脚型の評価法が用いられて
おり,肩関節疾患においてはShoulder36(Sh36)が推奨されてい
る.しかし,凍結肩における内転制限とSh36との関連性について
の報告は渉猟し得ない.そこで本研究の目的は内転制限とSh36
との関連を明らかにする事とした.
【方法】
対象は,2023年8月~ 2024年4月までに当院で凍結肩と診断さ
れた61名61肩(男性21名,女性40名,平均年齢60.7±12.9歳)と
した.炎症期(安静時痛・夜間時痛), ISAKOSの基準に該当した
拘縮肩,頸部疾患,両側症例は除外した.調査項目は年齢,性
別,Sh36,内転制限テストとした.統計解析は内転制限陽性群
(陽性群),内転制限陰性群(陰性群)の2群に分け,年齢,Sh36
をMannWhitneyのU検定.性別をχ2検定で実施した.有意水
準は5%とした.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,当院倫理規則を厳守して実施
した.
【結果】
対象61肩のうち,陽性群27肩(44%),陰性群34肩(56%)であっ
た.Sh36における群間比較zzの結果,可動域:陽性群3.1±0.6,
陰性群3.4±0.6,筋力:陽性群2.6±0.7,陰性群3.1±0.8で陰性
群が有意に高値であった(p<0.05).疼痛:陽性群3.2±0.5,陰
性群3.3±0.7,健康感:陽性群3.6±0.4,陰性群3.7±0.5,日常
生活動作:陽性群3.3±0.5,陰性群3.5±0.6,スポーツ:陽性群2.2
±1.0,陰性群2.6±0.9では有意差を認めなかった(p>0.05).
【考察】
本研究において,陰性群ではSh36における可動域,筋力の領域で
有意に高値を示した.先行研究においてSh36における可動域,
筋力の領域と自動肩関節可動域の間に相関を認めるとされており
本研究と同様の結果となった.その他の領域で有意差出なかった
要因として,炎症期を除外している事,内転制限の影響を受けづ
らい項目があった事,スポーツ活動を行っている症例が少ない事
が挙げられる.本研究において内転制限が凍結肩患者のQOLにも
関与する可能性があり,今後は内転制限の改善がQOLに影響を与
えるか検討していきたい.