2019 年 18 巻 p. 103-114
今日の日本は,多くの大規模災害に直面している。災害が発生する場合,被災自治体は機能不全に陥り,計画された救援を展開できない可能性が高い。この事態を想定して自治体レベルで策
定されるのが業務継続計画である。本稿は業務継続計画の策定過程に注目し,計画の策定に影響
する要因を解明する。防災に関する先行研究の多くは実務的な関心が強く,理論的な位置付け
が不十分なため,一般性に欠けるきらいがあった。そこで,本稿は行政学の理論に依拠して枠
組みを構築し,業務継続計画の策定要因を分析する。具体的には,組織構造から行政能力を捉え,
計画策定にもたらす影響を実証する。
前半の理論部分は,行政の能力に関する視点を組織と職員の二つに整理し,その上で日本の地
方自治体の行政能力を組織から捉えることがより適切であることを論じる。次に組織構造の原
理を垂直的関係と水平的関係に整理し,業務継続計画の策定に影響しうる要因として,統制職,
組織の独立設置と組織内ネットワークという三つの概念を導出する。後半の実証分析は計量分析
によって行われる。計量分析は都道府県の防災組織の状況を参照して仮説を操作化し,客観デー
タを用いて生存分析で因果効果を確認した。本稿の結論として導き出されるのは,独立的な部局
として設置された防災組織,そして組織内ネットワークの存在が行政の能力を高め,業務継続計
画の策定を促進した点である。この知見は業務継続計画にとどまらず,ほかの防災計画にもある
程度一般化できると考えられる。さらに政策パフォーマンスに対して,従来の政治的影響ではな
く,行政能力に注目する説明は,政策分析に新しい視点を提供したと言える。