抄録
前報の場合と同一形式のフラックスに,合金元素としてNi,Cr,Mo,WおよびVをそれぞれ単独に添加した五系列の溶接棒を製作して溶接を行い,その際に起る化学反応を物理化学的に研究し,さらに第1報から本報告までに得られたデーターを総括して,つぎの結果を得た.
1.K'Ni{(%Nio)/[%Ni]・(%FeO)}は塩基度によって変化せず,その値はつぎのごとくである.
logK'N;(NiAddition)=-2.586
2.K'Cr{(%Cr203)/[%Cr]2・(%FeO)3}は塩基度の増加によってわずかに減少するような傾向が見られ,両者の間の関係はつぎの式で表わされる.
logK'cr(Cr Addition)=-0.080BL-2.903
3.K'Mo{(%MoO2)/[%Mo]・(%FeO)2}は塩基度の増加によって増大し,両者の間の関係はつぎの式で表わされる.
logK'Mo(MoAddition)=+0.262BL-3.111
4.K'w{(%WO2)/[%W]・(%FeO)2}は塩基度の増加によって増大し,両者の間の関係はつぎの式で表わされる.
logK'w(w Addition)=+0.277BL-2.532
5.K'v{(%V2O3)/[%V]2・(%FeO)3}は塩基度の増加によって増大し,両者の間の関係はつぎの式で表わされる.
logK'v(v Addition)=+0.218BL-1.427
6.溶接スラグ中の各種酸化物の活量係数yMmon。と塩基度との関係は,それぞれつぎの式で表わされる.
log YNio(Ni Addition)=O
log YCr2O3(cr Addition)=+0.080BL
log YMoO2(Mo Addition)=-0.262BL
log YwO2(W Addition)=-0.277BL
log YV2O3(V Addition)=-0.218BL
すなわち,YNioは塩基度によって変化しないが,YCr2O3は塩基度の増加によってわずかに増大する.またyMoO2,yWO2およびyV2O3は塩基度の増加によって減少する.
7.K'Mnの挙動については前報で得られた結果,すなわち,(1)大部分の場合塩基度によって変化しない,(2)脱酸方式が強力になるほどこの値は低下する.(3Mnの添加量が少いほどこの値は低下する.という事実が再確認された.
8.K'SiO2は塩基度の低下によって急激に増加するが,脱酸方式あるいは合金元素の添加方式による差はあまり明りようではない.すなわちK'SiO2の挙動も前報の場合と同様である.
9.溶接過程において溶鋼中の各種元素がスラグ中のFeOと反応して酸化する化学反応の平衡指数の大小の順序は,純元素が酸素ガスと反応してその酸化物を生成する化学反応の平衡恒数の大小の順序と,だいたい同じである.
10.酸化物の活量係数の塩基度に対する勾配すなわち∂logッMmon/∂BLは,酸化物の酸性度を示す2z/R2なる値と密接な関係があり,alog.YMmon/∂BLは2Z/R2が減少するに従ってだいたい直線的に増加する.