RADIOISOTOPES
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総説
鉛同位体比法の応用
—歴史資料の産地推定—
平尾 良光
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2008 年 57 巻 11 号 p. 709-721

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抄録

大分県大分市の16世紀末における大友氏の遺跡から発掘された鉛や青銅製品に関して,材料産地の推定という研究のために鉛同位体比法が応用された。これらの資料の中でいくつかは中国,朝鮮半島,日本などの東アジア産の材料とは大きく異なった鉛同位体比を示した。この鉛同位体比は16,17世紀の長崎県の原城遺跡,熊本県の田中城址からの資料,韓国6世紀の武寧王陵からの資料にも見いだされた。また,この特別な鉛は1~5世紀頃のカンボジア,プンスナイ遺跡からも検出された。
地域が異なり,時期が違うこれら資料に関する鉛同位体比の一致は偶然かもしれない。しかし,この地域における一つの鉛鉱山産材料の流通や交流として説明できるかもしれない。一つの推論は次のようである。すなわち,東南アジアでは前400年以降に青銅やガラス製作技術が発達した。5,6世紀に製造されたガラス製品が中国の海岸線をたどり,韓国までもたらされた。その後,16,17世紀になって,ヨーロッパ人が東南アジアに寄港し,日本へ持って行くために鉛,火薬,その他の物資を調達した。

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