2010 年 59 巻 8 号 p. 491-500
中性子回折の応用の一例として,強力永久磁石,特に希土類を含む磁石の磁気的性質を紹介する。20世紀における永久磁石の発展の歴史を紹介した後,強磁性体の磁気異方性についての基本的性質やその起源について,結晶場相互作用の概念を用いて説明する。本稿の主要部分は,現在最強であるネオジム磁石についての記述に費やされている。このネオジム磁石の主成分は粉末中性子回折によってNd2Fe14Bという金属間化合物であることがわかっている。そこで,一連のNd2Fe14B型単結晶の構造と磁気的性質について,中性子非弾性散乱,中性子小角散乱や強磁場磁化の実験手段を用いて系統的に調べた結果を紹介する。最後に,最近の話題である,ハイブリッド自動車の駆動モーター用の,Dyを多量に添加したネオジム磁石の問題点に言及し,その解決のために活発化している省Dy型ネオジム磁石において保磁力を向上させる研究の一端を紹介する。