2019 年 68 巻 8 号 p. 543-552
重イオンによる厚い標的からの中性子生成は,加速器施設の遮蔽安全設計において放射線源となる非常に重要なデータである。様々なエネルギーのHeイオンからXeイオンに至るビームをC, Al, Cu, Pbの厚いターゲットに入射して,生成される2次中性子のエネルギースペクトルを,0, 7.5, 15, 30, 60, 90°の角度で,有機液体シンチレータを用いて飛行時間分析法(TOF)により測定した。得られたスペクトルは互いに良く似ていて,次の3種類の成分を持っている。前方方向で特に顕著な入射粒子が直接中性子をはじき出すノックオン成分,核内カスケードによる成分,複合核生成後の蒸発成分である。この実験結果はPHITSコードによる計算と比較していて,全般的にファクター3以内で良く一致している。また,Moving Source Modelという簡易評価式でもうまく表現できることがわかった。さらに,5 MeV以上のスペクトルを角度積分した結果は2つの指数関数の和で与えられ,これを0°から90°で積分した前方方向の全中性子生成量を与える近似式を得た。
これらのデータは高エネルギー重イオン加速器施設の安全設計における中性子遮蔽計算の線源評価にとって不可欠のデータであり,世界中で広く利用されている。OECD/NEAの遮蔽ベンチマーク実験データベース(SINBAD)にも登録されている。