2021 年 70 巻 2 号 p. 55-62
文化財である版木の汚染カビについて,低エネルギーX線による殺菌効果を検討した。ベトナム阮王朝の版木から分離されたカビの中で,最も放射線抵抗性の株はCladosporium sp.であった。用いたX線 F1(1 mm アルミニウム フィルター装着)とF0(フィルターなし)の版木表面における線量率は,1.14 及び4.64 kGy/hであった。版木の中心部(表面からの深さ8.5 mm)の線量は,表面線量に対しF1で76%,F0で20%に減少した。F1は深部の照射に適しており,版木中心部のカビは表面6.2 kGyの照射で4桁減少し,8.3 kGyで検出されなくなった。これらの結果から,版木中の汚染カビはX線(F1)を用いた両面照射により,線量10 kGy,線量均一度1.04で効果的な殺菌が可能であることが示された。