洛北史学
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Print ISSN : 1345-5281
論説
ニュルンベルク市当局・教区牧師・民衆の「共同体意識」と「宗派化」
領域教会巡察記録(一五六〇/六一年)の分析を中心に
井上 智也
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2019 年 21 巻 p. 19-42

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抄録

ニュルンベルクはいち早くルター派の宗教改革を導入した帝国都市だが、一六世紀後半までに、人々の意識がいかに変わり「宗派化」が進んだのだろうか。市参事会主導で行われた一五六〇/六一年の領域教会巡察記録から、市当局と各教区の教会関係者(牧師)・教区民(民衆)の間で行われた巡察時のやり取りを復元し、次の四点を明らかにした。 一.市当局は「宗派化」よりも統治の安定を重視したが、公権として紛争を仲裁し、支配領域の民衆の救済にまで責任を持とうとする意識を持っていたこと。二.牧師は異宗派を排除するより、教区民の不和や「魔術」などを警戒し、教区共同体の安寧を重視する意識を持っていたこと。三.民衆は伝統的な共同体の慣習や信仰の存続を望み、宗派意識はほぼ見られないこと。四.「宗派化」はこの時点では不徹底だが、上記三者の「共同体意識」の違いが巡察を契機にすり合わされ、 各々の意識の変容をもたらしたであろうことである。

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