洛北史学
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論説
王莽「元始儀」の構造
前漢末における郊祀の変化
目黒 杏子
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2006 年 8 巻 p. 85-103

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抄録
本稿では、前漢から後漢に至る間の郊祀制度変遷の具体的様相を解明し、それが示す皇帝権力構造の変化を探る研究の一環として、王莽が創立した「元始儀」の復元を行い、前漢郊祀と比較、検証する。王莽の「元始儀」は、後漢光武帝に継承され、以後の諸王朝における郊祀制の基礎となるが、史料的な問題のために実態解明が遅れていた。そこでまず、「元始儀」について史料の校訂を行い、現代語訳と復元図を、筆者の解釈として提示した。前漢武帝代 に創設され、郊祀制の中核として代々行われてきた甘泉泰畤の上帝郊祀は、都より遠く離れた「世界」を模す祀場において、皇帝が傍観する中、巫らが降 神を行う儀礼であった。これに対し、成帝期以降、儒家は、「世界」を表現する祀場形態はそのままに、郊祀を天と皇帝の直接的関係を顕示する儀礼へと改変した。王莽はこの主旨に、経書に基づく理論を加味して独自の郊祀体系「元始儀」を創立した。その祀場は、自然的「世界」の秩序を表すと同時に、そこに皇帝と官僚からなる「人間」の秩序が重層する構造を持つ。これは、郊祀を、皇帝が天から授かった秩序を地上に体現する儀礼に位置づける、儒家思想の具象化と考えられる。
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© 2006 洛北史学会
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