抄録
本論文では,対人関係における否定的体験から抑うつ的な状態を呈していた対象者Aに対する集団プレイセラピーを通して,成人の自閉スペクトラム症者にプレイセラピーを行うことの意義について,体験の仕方に着目した検討を行った。対象者Aは,一方向なコミュニケーションが見られ,自己の肯定的側面に目が向きづらかったが,自他の感情や思考に目を向け,他者との相互交流を促すプログラムやセラピストのかかわりの中で徐々に相互的なコミュニケーションが増加し,感情を共有するような体験から自己の肯定的側面に着目する様子が見られるようになった。本事例のプログラムやセラピストのかかわりは,Aが困難さに直面せず楽しめる活動の中で,自発的な反応からコミュニケーションの成功体験を得ることにより,対人関係における体験の仕方の変容をもたらし,自己肯定感を高めるものであったことが推察された。