本稿の目的は、構音障害の診断と治療で活躍する言語聴覚士 (speechtherapist=ST)にとって、音声学的知見がどのように有用であるのかを、具体的な症例に即して示すことである。方法としては、およそ2 ヵ月後に小学校入学予定の男児をとりあげ、観察される構音障害の例示と、これに対する診断および治療の方略などについてIPA を併用して詳細に述べた。
結論として、特に機能的構音障害においては、同一の音であっても条件が異なると発症にばらつきが生じるなど細かい変異が見られることが多いので、何よりもまず綿密な観察と、ある程度の段階まではボトムアップによる帰納的な方法が不可欠であることを主張した。