Review of Polarography
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臭素酸の還元の反応電流現象
高橋 玲爾舘 勇
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1961 年 9 巻 2 号 p. 76-83

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抄録
 ポーラログラフィーにおける反応電流現象は主として有機酸について研究され,かなりの例が知られている.被還元性の無機酸については,最近沃素酸及び臭素酸についてCermáckの短い報告がある.無機酸の場合その反応機構は有機酸に比べて複雑さが少なく,反応電流そのもののより進んだ検討に際して有利な対称となることが期待される所から,ここでは主として臭素酸について通常のポーラログラフ的取扱いによる詳細な検討がなされた.一定濃度の臭素酸カリウムについて酢酸塩を主体とする緩衝液を用いて得たポープログラムは,第1表に示す如く,半波電位についてはpHの増大によつて陰電位へ移り,限界電流については強酸性では一定であるがpH1.5以上になるとpHの増大とともに著しく減少し,pH6以上で認められない程度となる.強アルカリ性において再び強酸性におけると等大の還元波が生じるが,この波はpHに影響されず半波電位は-1.75V.vs.N.C.E.で一定である.微量のランタンイオンを共存させると,第1図に示す如く第2波が現われる.この第2波は臭素酸が存在する時にのみランタンによつて現わされ,ランタンが,濃い程より陽電位へ移動する所から,ランタンが共存しない時にはポーラログラムの末端上昇によつて蔽われている臭素酸アニオンの還元波と考えられる.第1波は水素イオン濃度によつて大きく影響されランタンには影響されない所から,臭素酸分子の還元波と見なされる.さらに第1波と第2波の波高合計が一定で強酸性及び強アルカル性における単一の波の波高に等しい所から,pH1.5~6の範囲における臭素酸の還元は,一部がより陽電位で還元される臭素酸分子の形,残りがより陰電位で還元される臭素酸アニオンの形でなされ,2段波となるものと考えられる. 臭素酸分子と臭素酸アニオンとの間には,溶液中において(1)式の如き平衡があり,第1波には臭素酸分子の生成反応による反応電流の重なりが予測されるので,反応電流を含む限界電流ilの理論式(2)1から導かれた(3)式に従い水銀溜の高さを変え種々の適下時間τを用いて第1波の測定を行ない,第2図に示す如く, iι√τ~iι プロットを検討した.その結果,pH0.76及びpH12.5(この場合は第2波に相当する)ではともにil軸に平行な直線が得られることから,現われる限界電流は強酸性では臭素酸分子,強アルカリ性では臭素酸アニオンの純拡散電流であり,中間のpH,例えばpH4.55では負の傾斜をもつ直線が得られることから限界電流には反応電流が加わつており,さらにpH5.69ではilに垂直な直線が得られることからほほ紬反応支配の電流が生じていると結論された. 以上の如くpH1.5~6の範囲で検出される反応電流について(1)式の如き化学反応を考え,理論式(2)の変形(4)式を適用して臭素酸アニオンと水素でオンの再結合速度定数が計算された.その結果は,第2表の如く,定数とならずpHの増人とともにやや人きくなる傾向を示す.このことは臭素酸アニオンからの臭素酸分子の生成が,水素イオンとの反応以外に緩衝液成分との反応(6)にも起因し,これの寄与がpHの増大とともに増すことから説明される.さらに得られた臭素酸の再結合反応の速度定数は桁において,通常のボーラログラフ法により得られた有機酸についての値に比しかなり小さいのが特徴的である.なお(5)式から計算される所の反応層の厚さに相当するμの値は,以上の反応速度定数のポーラログラフ的測定に必要な前提条件が物理的にみたされていることを示すに充分な大きさをもつている.
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© 日本ポーラログラフ学会
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