抄録
股関節外転筋は骨盤に広い起始部,大腿骨に停止部があり扇状の形態を有していることから,骨盤傾斜角度と外転トルクとの間に何らかの関係を有している可能性がある。実際に外転トルクが低下する代表疾患である変形性股関節症では,股関節屈曲拘縮の代償により骨盤前傾したり,腰椎の退行性変化により骨盤後傾したりすることが知られている。そこで,変形性股関節症患者における外転トルク低下の要因を探る予備研究として,健常若年女性11名(20.0 ± 1.2歳)を対象に骨盤傾斜角度変化と外転トルクの関係を検討した。骨盤前後傾斜角度を中間位,前傾5°,前傾10°,後傾5°,後傾10°と任意に変化させ,各肢位における外転トルクを携帯用筋力測定機器により測定した。その結果,骨盤中間位で外転筋出力が最も高く,前傾位でも後傾位でも外転筋出力は有意に低下した。このことは,生体力学的観点からも重要な情報であり,外転トルク低下の新たな要因として骨盤傾斜異常が示唆された。