2024 年 51 巻 2 号 p. 41-46
理学療法評価の目的は運動制限の原因となっている運動能力の要素を明らかにし,患者に最適な治療プログラムの立案と治療の効果判定に役立てることである。運動能力の要素の中でも筋機能の評価に関しては徒手筋力測定法やHand Held Dynamometerを用いた筋力測定,筋電図を使用した骨格筋の筋活動評価,超音波診断装置を使用した筋厚や筋の弾性の評価などが試みられている。徒手筋力測定やHand Held Dynamometerを用いた筋力測定は,主動作筋と補助筋などが関節を介して作用した筋出力を簡便に評価することができるが,各筋の筋力を個別に評価することは難しい。表面筋電図や超音波診断装置は主に表層筋を測定する場合が多く,特に超音波診断装置は動作中の形状変化の影響が少ない筋の機能評価に適している。骨盤や股関節周囲の深層筋に対しては厚い表層筋に覆われており,動作中の形状変化も大きく,機能評価に苦労することが多い。
以前より深層筋の機能評価は針筋電図1–3)やコンピューター断層撮影(computed tomography:以下,CT)4),磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging:以下,MRI)5)6)などが用いられている。針筋電図を用いた研究では針やワイヤー電極を筋腹に直接挿入し,動作時の筋活動を評価しているが,侵襲を伴うため評価の実施には倫理的な課題が残る。CTを用いた研究では筋断面積7)や骨格筋量8)9)の測定が可能であり,近年ではCT値を用いた筋質の評価10)が活発に行われている。CTによる骨格筋量の測定は,測定による誤差は少なく選択的に被検筋の計測が可能であるが,被曝による被検者への影響が課題となる。一方,MRIを用いた評価は人体への影響が少なく筋線維や脂肪組織など軟部組織間の分解能が高いため軟部組織の評価や測定に適している。MRIは撮像面を任意に設定することで表層筋だけではなく深層筋に対しても多層的な機能評価が可能である。MRIを活用した先行研究には筋断面積11–13)の測定,筋線維組成の評価14),MRIの横緩和時間(以下,T2値)を用いた筋活動評価5)6)が報告されている。そこで本稿においては筋機能の評価機器として活用されているMRIに注目し,先行研究や自験例を紹介しながらMRIを活用した筋機能評価方法とその臨床的活用方法について述べる。
MRIはX線と違い,静磁場内で主に水素原子核(以下,プロトン)に高周波パルスを照射することで共鳴を起こし,励起した状態から元の状態に戻る過程を画像化している15)。つまり,簡単に言うと組織内のプロトンのエネルギー平衡の回復および持続過程を画像化したものである。この緩和現象を表す時定数として縦緩和時間(以下,T1値)とT2値があり,浮腫,炎症,変性などではT1値は小さく(画像上は黒く),T2値は大きく(画像上は白く)なり,脂肪組織ではT1値は大きく(画像上は白く)なる(表1)。例えば,通常の骨格筋はT2値で黒く映し出されるが,炎症などで筋内に水分子が溜まると白く見える部分が増える。また,習慣的に運動している人の骨格筋はT1強調画像で黒くなるが,運動をあまりしない人の骨格筋は筋内の脂肪が増えるため脂肪が沈着している部分は白い画像となる(図1)16)。
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健常高齢者(左図)では,皮下脂肪が少なく,筋実質が大部分を占める.一方,虚弱高齢者(右図)では,筋萎縮だけでなく,筋内脂肪浸潤を認める.
MRIを用いて筋機能の評価をする利点は,1)解像度が高いため,骨格筋の形態的特性を正確に測定できる,2)T1値,T2値の計測により筋の生理学的5)6),生化学的17)な評価が可能である,3)表層筋だけではなく深層筋の筋機能に関して左右同時に,多層的に任意の断面で測定が可能である。一方,MRIを用いた評価の欠点としては,1)検査時間が長い,2)心臓ペースメーカーなど体内に金属がある場合は測定ができない,3)MRIの撮像中は安静が必要であり,小児など安静を維持することが難しい場合の測定は難しい,4)運動前後にT1値,T2値を測定する場合,運動後からMRI撮像までの時間が測定結果に影響する,5)MRIの設備費,運転コストが高いことが考えられる。これらの点を考慮し,測定目的や対象により測定方法を工夫する必要がある。
当初,筋断面積の測定は屍体の筋を摘出し,筋体積を筋長で除して計測していた。1980年代後半よりMRIが研究分野に活用されるようになり,MRIを用いて筋断面積や筋体積の測定が試みられてきた。筋断面積は被検筋の横断画像(解剖学的断面積)より算出し(図2)18),筋体積に関しては全筋長で測定した横断面積にスライス厚を乗じて算出可能である。ただ筋の形態的に紡錘筋もあれば羽状筋もあるため,筋力などの筋機能と比較するには生理学的断面積を用いる必要がある。生理学的断面積はMRIにて筋体積を測定し,超音波で測定した筋線維長で除して生理学的断面積を算出する方法やFukunagaら11)の方法でも測定可能である。先行研究には,Fukunagaら11)が下腿筋の横断画像より生理学的筋断面積,筋体積を計測した報告や秋間ら12)が等速性膝伸展筋力と大腿四頭筋および各筋の筋断面積との相関を調べた報告がある。MRIを用いて筋断面積や筋体積を計測する場合の注意点として,筋内には筋線維の他に脂肪組織や結合組織も含まれており筋断面積を過大評価する可能性もある。Overendら13)は加齢に伴い筋間の脂肪が蓄積されると報告している。また,Akimaら19)は外側広筋と大腿二頭筋の筋内脂肪とプロトン磁気共鳴分光法(proton magnetic resonance spectroscopy:1H-MRS)から求めた筋細胞内・外脂肪との関係を検討した結果,筋内脂肪は主に筋細胞外にある脂肪を反映している可能性があると報告している。したがって,高齢者やサルコペニアを対象として筋量評価を行う場合,次に述べる筋質も考慮した筋機能の解釈が望ましい。
筋質の評価は2010年頃よりサルコペニアや集中治療室獲得性筋力低下(Intensive Care Unit-acquired weakness:ICU-AW)に関連した研究にて注目されている。筋質とは筋内の脂肪組織や結合組織の量,あるいは細胞外液比などを指標として評価する。筋質の評価にはMRIのほか生体電気インピーダンス法,超音波法,CT値などが用いられている。MRIによる筋質の評価はT1値の脂肪と筋線維の信号強度の違いを利用して算出する。MRIの画像では骨格筋よりも脂肪組織のT1値が高値であるため,脂肪組織は白く描写される(図1)16)。Malyら20)はMRIを用いてT1値による大腿四頭筋の筋内脂肪量を計測し,膝伸展筋力,運動パフォーマンス能力と比較し,大腿四頭筋の筋内脂肪量の増加は変形性膝関節症の発症リスクであると報告した。同じく,Raynauldら21)も内側広筋への脂肪浸潤が変形性膝関節症の進行に関係すると報告している。これらの研究は表層筋に対する筋質の研究であるが,MRIの利点としては深層筋に対しても左右同時に選択的に測定が可能であるため,今後の研究に期待したい。
3. 筋線維組成の研究筋線維組成は運動パフォーマンスを評価するにあたり重要な運動能力の要素である。筋線維は収縮特性の違いにより主にTypeI線維(遅筋線維)とTypeII線維(速筋線維)に分類される。以前は筋生検により筋線維組成を測定し,分類してきたが,測定の実施にあたり倫理的な課題がある。MRIにおいては筋線維組成と緩和時間の違いを利用しTypeI線維とTypeII線維に分類が可能である。久野ら14)はMRIのTypeII線維の割合とT1値またはT2値は非常に高い相関関係があり,TypeII線維の割合が大きいほどT1値またはT2値も高値を示したと報告した。MRIを用いた筋線維組成の測定は非侵襲的であり,深層筋の筋機能評価に活用できる。
4. 筋活動評価の研究MRIのT2値を用いて骨格筋の活動状態を評価することが可能である。MRIのT2値は骨格筋の収縮による筋細胞内外の水分子量の変化を反映していると考えられている。筋細胞内の水分子は蛋白質などの生体高分子に結合している水(結合水)と筋細胞内を自由に移動している水(自由水)に分類できる。筋収縮によって水分子量が変化する機序は未だに明らかになっていないが,筋細胞の結合水が自由水に変化して自由水の量が相対的に増加する説と,筋収縮によって細胞内浸透圧が変化し,細胞内の水分子の量が増加する説,乳酸などの代謝産物の増加によって血管外浸透圧が変化し,細胞外水分子量が増加する説がある。T2値を用いた筋活動研究は,1988年にFleckensteinら22)が初めて報告した。Yueら23)は運動負荷量とT2値の増加には正の相関関係があると報告し,Adamsら24)は骨格筋の収縮様式(求心性収縮と遠心性収縮)の違いもT2値は反映したと報告している。このようにMRI, T2値を用いて筋機能の解明が試みられている。次に,このMRIの特性を活用した股関節の深層筋に対する筆者の研究を紹介し,臨床現場における活用方法について述べる。
5. MRIを用いた内閉鎖筋,外閉鎖筋の筋活動に関する研究5)股関節の深層筋に対しては,超音波や筋電図による機能評価が困難な場合が多く,屍体解剖や針筋電図を用いて検討されていた。屍体解剖では,股関節の短外旋筋群の起始と停止から推測した作用ベクトルをもとに機能的役割が推測されている。また,Delpら25)は屍体を用いて股関節の屈曲角度の変化に伴う股関節周囲筋のモーメントアームを計測し,短外旋筋群の機能的特徴を報告した。しかし,運動に伴う短外旋筋群の筋活動評価はあまり実施されておらず,短外旋筋群に対する運動課題や運動負荷量に関しては明らかにされていなかった。そこで筆者は短外旋筋群のなかでも股関節の運動軸を作り,衝撃吸収作用があるとされている内閉鎖筋と外閉鎖筋に着目して検討を行った。まず,屍体解剖を用いて股関節屈曲角度の違いによる作用ベクトルを確認した(図3)26)。内閉鎖筋の外旋作用は,屈曲0°で最も強く,屈曲角度の増加に伴い外旋作用は低下し,屈曲90°では停止腱と大腿骨軸を結んだ筋の走行が一直線になり外転作用が優位になると考えられた。外閉鎖筋に関しては,屈曲0°から90°にかけて外旋作用があり,停止腱と大腿骨が直交した屈曲40~50°で外旋作用が強いと考えられた。次に,これらの屍体解剖からの知見をもとに運動課題を決定し(図4),MRI, T2値を用いて内閉鎖筋,外閉鎖筋の筋活動を評価した。MRIの撮像は,1.5T,医療診断用MRI(MAGNETOM SYMPHONY,SIEMENS社製)を使用し,スピンエコー法(マルチエコー法)にて撮像した。撮像条件は,撮像視野(field of view:FOV)300×300 mm, 256×256 matrix,繰り返し時間(repetition time:TR)3,000 ms,エコー時間(echo time:TE)20~120 ms,スライス厚3 mmのシーケンスで実施した。撮像したT2強調画像より内閉鎖筋,外閉鎖筋に2か所の関心領域(region of interest:以下,ROI)を設定し(図5),その平均値をT2値とした。結果は,外旋運動課題および内転運動課題では内閉鎖筋よりも外閉鎖筋の筋活動が有意に増加していた(表2)。外旋運動課題では,股関節中間位では股関節外旋モーメントアームは外閉鎖筋よりも内閉鎖筋の方が大きく25),内閉鎖筋のT2値が大きくなると予想していたが,結果は外閉鎖筋のT2値増加率が大きくなった。その要因として大殿筋,内転筋群などの共同筋の筋活動や運動肢位,運動負荷量,筋線維組成の違いなどの影響が考えられ,一概にモーメントアームなどの位置的特性だけでは説明がつかないその他の要因があると考えられた。内転運動課題に関しては,内閉鎖筋に比べ外閉鎖筋のT2値増加率が有意に高値となった。股関節屈曲30°における両筋の作用は,外閉鎖筋は内転作用,内閉鎖筋は外転作用であるため,外閉鎖筋のT2値が増加したと考えた。これはMRI, T2値が動作筋の筋活動を反映している結果であると考えられる。
図内の矢印は停止腱と大腿骨軸を結んだ筋の走行が一直線上になり,筋の回旋作用が少なくなる角度を示す.
左図は滑車の先に2 kgの重錘を付け,それを下腿にベルトで巻き付け股関節の外旋を実施した(外旋運動課題).右図は股関節屈曲30°(歩行時の踵接地期を想定)とし股関節の内転を実施した(内転運動課題).
安静時 | 外旋運動後 | T2値増加率(%) (*) | 内転運動後 | T2値増加率(%) (**) | 各運動間の比較 | |
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外閉鎖筋 | 40.0±1.8 | 44.2±3.6 | 10.6±8.1 | 42.7±2.3 | 6.6±3.8 | *** |
内閉鎖筋 | 40.3±0.9 | 42.8±1.9 | 6.2±4.8 | 41.3±1.4 | 2.3±2.4 | n.s |
(平均値±標準偏差) 単位: ms.
*: p<0.05 外旋運動における外閉鎖筋と内閉鎖筋のT2値増加率の比較.
**: p<0.05 内転運動における外閉鎖筋と内閉鎖筋のT2値増加率の比較.
***: p<0.05 外閉鎖筋における外旋運動と内転運動の増加率の比較.
MRIは,組織内のプロトンのエネルギー平衡の回復および持続過程を画像化したものである。そのため,運動後のT2値を測定する場合にはできるだけ運動直後に測定するように,MRI検査室の近くで運動課題を実施する工夫が必要である。また,股関節短外旋筋群などの深層筋の筋活動評価をする場合,骨盤や股関節のアライメントによって筋の作用が変化するため運動肢位における深層筋の作用を確認する必要がある。短外旋筋群に対する運動負荷が強い場合は表層筋の代償性収縮が生じやすくなるため,運動負荷量を細かく調整することが望ましい。T2値の測定では,筋内腱や筋膜は高値となり測定誤差が生じやすくなるので,ROIは筋内腱や筋膜を避けて設定する。
運動器疾患に対する理学療法において股関節の安定化は重要な要素であり,内閉鎖筋,外閉鎖筋はその役割を担っているとされている。筆者の研究より外旋運動および内転運動は,外閉鎖筋の筋活動の賦活に役立つと考えられるが,臨床的には内閉鎖筋,外閉鎖筋の筋収縮を直接確認できないため,運動課題を実施する場合には工夫が必要である。
まず,外旋運動は,腹臥位で実施するので対象者は視覚的に動作を確認できない。そのため外旋運動を実施する場合には対象者に大転子を触知させ,他動的に外旋運動を行いながら股関節の外旋運動を認知させることが重要である。また,大殿筋や内転筋群などの表層筋による代償動作を少なくするように,外旋運動時には表層筋を触知させ,過剰な筋収縮に注意する(図6)。外旋運動の効果に関しては外旋運動前後での股関節の可動性や疼痛の程度を評価し検証する。動作時の股関節の安定化に関しては外閉鎖筋と腸腰筋のカップリング機能も重要であり,共同筋を賦活させながら可動性や疼痛の程度,動作時のアライメントなどをチェックし,総合的に安定性を評価することが必要である。
MRIを用いた筋機能評価は,骨格筋に対して解像度が高く,非侵襲的,多層的に測定可能であり,骨格筋の形態的特性,生理的特性の解明に活用できると考えられる。特に,股関節深層筋をはじめ形態的に複雑な頸部筋や体幹筋の機能評価にも有用である。理学療法における科学的根拠が必須となっており,測定機器の技術の革新と共にそれらを活用した一つ一つの結果の積み重ねが理学療法の礎となると考える。
本稿は「Magnetic Resonance Imaging(MRI)の特性を用いた単一運動課題における内閉鎖筋,外閉鎖筋の筋活動の差異についての検討」5),理学療法ジャーナル44(12): 1114–1115, 2010から図1~3,表1~2を一部改変して転載した。