理学療法学
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研究論文(原著)
高濃度水素+酸素ガス吸入が下肢血流動態,筋柔軟性,関節可動域,垂直飛び高に与える影響
—単盲検クロスオーバー試験を用いた検討—
田村 将希 阿蘇 卓也蜂須 貢北井 仁美古屋 貫治三邉 武幸西中 直也
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2024 年 51 巻 4 号 p. 93-100

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Abstract

【目的】目的は,高濃度水素+酸素ガス吸入による下肢血流動態と下肢柔軟性,関節可動域,垂直飛び高との関連を調査することである。【方法】健常成人男性を対象に,高濃度水素+酸素ガス吸入による血流と身体機能面への影響を検討した。測定項目は,膝窩動脈の血管径と血流速度,下肢伸展挙上角度,踵臀部間距離,足関節可動域(背屈,底屈),下腿前傾角,垂直飛び高とした。統計学的検討には吸入ガスおよび吸入時期の2要因に対する2元配置分散分析を行った。また,ガス吸入前に対する吸入後の各測定項目の比を算出し吸入前後で比較した。危険率は5%未満とした。【結果】すべての項目で主効果と交互作用を認めなかった。ガス吸入前に対する吸入後の比率の検討では,血流速度比のみ高濃度水素+酸素ガス吸入後で有意に高値を示した(p=0.02)。【結論】高濃度水素+酸素ガス吸入により,下肢血流速度が増大する可能性がある。

Translated Abstract

Objective: This study explored the association between lower limb hemodynamics, lower limb flexibility, joint range of motion and vertical jump height due to the inhalation of a high concentration of a gas mixture of hydrogen and oxygen.

Method: We investigated the effects of inhaling high concentration of gas mixture with hydrogen (Ca. 68%) and oxygen (Ca. 32%) and an air (placebo) on blood flow and physical function in healthy adult men. Lower limb blood vessel diameter, blood flow velocity, straight leg raising angle, heel–buttock distance, ankle joint range of motion, lower leg forward tilt angle, and vertical jump height were measured. Statistical analysis was conducted using a two-way analysis of variance for two factors: inhalation gas and timing. Furthermore, the ratio of each measured item before and after gas inhalation was computed and examined using the Wilcoxon rank sum test, unpaired t-test and Welch test; p<0.05 indicated the statistical significance.

Results: No interaction was observed between the major effects and/or any measured items. Regarding the ratio of each measured item before and after gas inhalation, only the blood flow velocity ratio was significantly higher after the inhalation of a high concentration of hydrogen and oxygen gas mixture (p=0.02).

Conclusion: Inhalation of a high concentration of hydrogen and oxygen gas mixture may elevate blood flow velocity in the lower extremities.

はじめに

水素ガス研究は,Ohsawaらが脳虚血後のラットに対し高濃度水素+酸素ガスを吸入させ,その効果を検討したことから始まる1。この研究の結果において,水素ガスは強力な抗酸化作用を示し,活性酸素を選択的に除去することが発見された。さらにHayashidaらはラットに心筋梗塞モデルを作成し,Ohsawaらと同様の結果を報告した12。以後,水素ガスの持つ抗酸化作用に着目した研究が行われるようになってきており,水素ガスの効果として,1)強力な抗酸化作用,2)優れた細胞透過性,3)正常細胞の抗アポトーシス特性,4)炎症反応の抑制などがある34。これらの効果に着目し,術後疼痛の緩和,がん細胞のアポトーシス促進,糖尿病への効果などが報告されている57。三浦らは水素ガス摂取による末梢血流改善の効果を報告し,Matsuokaらは重症出血性ショックに対する水素ガスの効果として,蘇生後2時間の血圧の安定および代謝恒常性の維持を報告した89。このように,水素ガス吸入により血流や血行動態にも影響を及ぼす可能性が示され,血流量に対する効果も報告されている。

下肢血流と下肢柔軟性,関節可動域との関連では,下肢温浴後に皮膚血流が増大し,足関節背屈可動域が改善するといった報告がある10。また,畠山らは経皮的炭酸ガス吸収療法が末梢血流の増加と半腱様筋の筋硬度を低下させることを報告した11。このように,下肢血流の改善が下肢柔軟性や関節可動域を改善させることは明らかとなってきているものの,水素ガス吸入による下肢血流動態と下肢柔軟性,関節可動域,垂直飛び高への影響を調査した報告はない。もし,高濃度水素ガス吸入により血流が改善し筋柔軟性や関節可動域が改善するのであれば,垂直飛びのような下肢機能が重要視される運動パフォーマンスも副次的に改善する可能性が考えられる。

以上を踏まえると,高濃度水素ガス吸入により血流面,身体機能面,運動パフォーマンス面に前述したような影響が生じるのであれば,水素ガス吸入療法と理学療法は運動機能面や心肺機能面において相乗効果をもたらす可能性がある。つまり,理学療法の対象となる様々な分野において有益な情報となる可能性があり,高濃度水素+酸素ガス吸入の影響を検討する理由になりうると考える。本研究の目的は,高濃度水素+酸素ガス吸入による下肢血流動態と下肢柔軟性,関節可動域,垂直飛び高との関連を調査することである。仮説は,水素ガス吸入により下肢血流は増大し,下肢柔軟性,関節可動域および垂直飛び高は増大するとして検討を行った。

対象および方法

1. 対象

対象は本研究に同意を得られた成人男性10名(以下,平均値±標準偏差,年齢:25.7±2.9歳,身長170.3±3.1 cm,体重:63.5±5.8 kg, Body Mass Index:21.9±1.4 kg/m2)とした。利き手は右利き8名,左利き2名だった。利き脚は右脚9名,左脚1名であった。選択基準は,1)四肢に疼痛や運動障害を有さず,下肢の手術歴のない成人男性,2)内臓疾患や循環器疾患などがなく健康なものとした。男性のみに限定した理由は,対象者間によるバイアスや交絡因子を可能な限り少なくするようにするためである。除外基準は,計測時に下肢に疼痛があるもの,全身状態が疲労困憊であるもの,過去に下肢の手術歴や骨折歴などの傷害歴があるものとした。本研究は昭和大学における人を対象とする研究等に関する倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:22-122-A)。なお,本研究の実施に際し,対象者には倫理委員会で承認された書面を用いて研究内容の説明を行い,書面にて同意を得た。

2. 研究デザイン

被検者間のバイアスを少なくし,高濃度水素+酸素ガス吸入により下肢血流量,関節可動域,筋柔軟性が変化するのかを検討するために,クロスオーバーデザインを採用した。1回目の計測では,対象者を無作為に高濃度水素+酸素ガス吸入群(n=5)とプラセボガス(大気)吸入群(n=5)に割り付けを行った。1週間以上のwash-out期間(8.1日[7–14日],平均[最小–最大])をあけてから,2回目の計測を行った。2回目の計測では,各群で吸入するガスを入れ替えて同様の計測を行い,各群の合計人数が10名ずつになるように割り付けを行った(図1)。

図1 研究デザイン

単盲検クロスオーバーデザインを採用し,wash-out期間を1週間以上あけて実施した.

3. 実験手順

ガス吸入前後で膝窩動脈の血管径,血流速度,下肢伸展挙上(straight leg raising:以下,SLR)角度,踵臀部間距離(heel buttock distance:以下,HBD),足関節可動域(背屈,底屈),下腿前傾角,垂直飛び高を測定した(図1)。過去の報告から,骨格筋は脳や臓器などの他の器官に比べ水素濃度がプラトーに達するのが遅く約30分程度かかるとされる12。このため,本研究におけるガス吸入時間は,骨格筋の水素ガス濃度が十分にプラトーに達していると考えられる1時間とした。ガス吸入中は自律神経が過度に興奮しないよう,背臥位または腹臥位でリラックスした状態を保つよう指示し,ガス吸入後は可及的早期に測定を開始した。

4. 吸入ガス

研究に使用した高濃度水素+酸素ガスは,水素+酸素ガス発生装置(株式会社ヘリックスジャパン,Hycellvator ET100)を用いて生成した。生成されるガス組成は水素約68.0%,酸素約32.0%となっている。生成された高濃度水素+酸素ガスまたはプラセボガス(大気)は鼻カニューラを用いて経鼻的に吸入を行った。なお,水素ガスは可燃性であるが,機器メーカーにおいて安全性についての点検はなされており,密閉されていない部屋においては安全性が高いことが保証されている。また,ガス吸入中は水素+酸素ガス発生装置の周りでは火気厳禁とした。

5. 血流測定方法

血管径および血流速度の導出は超音波診断装置(キャノンメディカルシステムズ社,Aplio 400)を用い,リニアプローブ(周波数:7.5 MHz)を使用した。測定部位は両側膝窩動脈とし,腹臥位にて計測を行った。横断走査にてカラードプラ法を併用しながら膝窩動脈の部位を同定し,縦断走査にて血管走行を描出し,パルスドプラ法を用いて血流速度波形を記録した(図2)。その際,超音波ビームの計測角度が60°以下になるように描出した1314。得られた血管断面像から血管径を測定し,血流速波形から収縮期最高血流速度を計測した(図3)。収縮期最高速度は5パルス分測定し,1パルス目と5パルス目を除いた中間3パルスの平均値を収縮期最高血流速度(解析値)とした。計測は両側で実施し,収縮期最高血流速度を計測した肢を解析対象とし,すべての解析方法でこの値を用いた。

図2 プローブ走査方法

横断走査にて膝窩動脈を同定後,縦断走査にて血管走行を描出した.

図3 血管径および血流速度測定方法

なお,計測は理学療法士1名で実施した。事前に計測の信頼性を示す級内相関係数(intra-class correlation coefficients:以下,ICC(1, 1))1517と測定の標準誤差(standard error of the measurement:以下,SEM)1718を算出した。その結果,血管径のICC(1, 1)は0.75, SEMは0.47,血流速度のICC(1, 1)は0.77, SEMは8.35であった。諸家の報告と比較すると,OK~goodの評価となった1617

6. 関節可動域,筋柔軟性,垂直飛び高測定方法

足関節可動域(背屈,底屈)およびSLR角度は,神中式ゴニオメーター(村中医療器株式会社,MMI角度計)を用いて日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会の基準に従って計測した。下腿前傾角はBennellらの方法を参考に,荷重位での鉛直線と下腿長軸とのなす角を神中式ゴニオメーターで計測した(図4a19。HBDは伊藤らの報告を参考に,腹臥位で下腿遠位部に3 kgの重錘を装着した状態で膝を屈曲した際の踵と臀部の最短距離をテープメジャーで計測した(図4b20。垂直飛び高はデジタル垂直飛び測定器(TOEI LIGHT社製,ジャンプメーターMD)を用いて計測した(図4c)。測定時の条件は腕振りを許可し,前方や側方にジャンプしないよう,できるだけ真上にジャンプするように指示した。関節可動域,筋柔軟性,垂直飛び高の計測に関しても,測定者は理学療法士1名で測定を実施した。

図4 下腿前傾角,踵臀部間距離,垂直飛び高測定方法

7. 統計学的解析

統計学的解析には統計ソフトJMP® pro 17.0.0(SAS Institute)を使用し,血管径,収縮期最高血流速度,足関節可動域(背屈,底屈),下腿前傾角,SLR角度,HBD,垂直飛び高について,吸入ガスおよび吸入時期の2要因に対し,2元配置反復測定分散分析を行った。また,計測した各項目について,吸入前に対する吸入後の変化率を算出し,高濃度水素+酸素ガス吸入群とプラセボ吸入群で比較した。Shapiro-wilk検定を行い,正規分布を仮定する場合はLevene検定を用いて等分散性の検討を行った。分散が等しい場合はt検定を使用し,分散が等しくない場合はWelchのt検定を使用した。一方で,正規分布を仮定しない場合は,Wilcoxonの順位和検定を用いた。2元配置反復測定分散分析とWilcoxonの順位和検定およびt検定ともに危険率は5%未満として検討を行った。なお,サンプルサイズによって左右されない数値の指標として効果量を算出した21。2元配置分散分析では効果量η2を算出し,Wilcoxonの順位和検定およびt検定では効果量rを算出した。効果量の目安としては,η2ではsmall(0.01),medium(0.06),large(0.14)であり,rではsmall(0.10),medium(0.30),large(0.50)とした21

結果

吸入ガスおよび吸入時期の2要因に対し,2元配置反復測定分散分析を行った。その結果,すべての項目で両群間および両水準間において主効果および交互作用を認める項目はなかった(表1)。効果量η2は,血流速度(要因:吸入ガス)において最大値(0.05)を示したが,すべての項目でsmallであった。吸入前に対する吸入後の変化率の比較では,高濃度水素+酸素ガス吸入群の血流速度比は,プラセボガス吸入群と比較して有意に増大した(p=0.02)。他の項目には有意差を認める項目はなかった(表2)。効果量rは血流速度比で0.71(large),SLR角度において0.45(medium)となった。なお,高濃度水素+酸素ガス吸入による,有害事象の発生はなかった。

表1 2元配置分散分析結果

高濃度水素+酸素ガスプラセボガスp-valueeffect size(η2)
吸入ガス吸入タイミング吸入ガス×吸入タイミング
SLR(°)pre71.5±9.473.9±8.50.690.000.030.01
post76.5±10.073.0±10.3
HBD(°)pre12.6±6.712.4±5.70.990.000.000.00
post13.1±4.712.6±6.1
背屈(°)pre19.5±2.817.0±6.70.470.040.020.01
post20.0±4.118.5±6.7
底屈(°)pre49.0±7.751.0±8.70.380.030.040.01
post51.0±9.955.0±8.5
下腿前傾角(°)pre38.0±5.436.5±4.10.930.000.010.01
post38.0±5.939.0±5.2
垂直飛び(cm)pre56.3±5.655.5±5.90.740.000.020.01
post53.4±6.155.1±7.2
血管径(mm)pre4.7±0.85.0±0.80.750.030.000.00
post4.6±1.25.0±1.0
血流速度(cm/s)pre64.1±28.057.4±11.50.420.050.010.02
post78.3±60.753.9±16.4

mean±standard deviation, SLR: straight leg raising, HBD: Heel buttock distance.

 

表2 ガス吸入前に対する吸入後の比率の比較

高濃度水素+酸素ガスプラセボガスp-valueeffect size(r)
SLR1.07±0.091.01±0.070.150.45
HBD1.10±0.301.02±0.030.420.18
背屈1.03±0.151.27±0.410.180.42
底屈1.04±0.031.12±0.230.430.25
下腿前傾角1.00±0.091.04±0.130.460.16
垂直飛び0.94±0.040.98±0.020.150.31
血管径0.98±0.190.99±0.030.820.05
血流速度1.14±0.23*0.94±0.140.020.71

mean±standard deviation, SLR: straight leg raising, HBD: Heel buttock distance. *: p<0.05.

考察

本研究は高濃度水素+酸素ガス吸入が下肢血管径および血流速度,下肢柔軟性,関節可動域,運動パフォーマンスに与える影響を調査する目的で実施した。その結果,血管径,血流速度,下肢柔軟性,関節可動域,垂直飛び高について,高濃度水素ガス吸入による要因の主効果は認めなかった。血流速度比については高濃度水素ガス吸入前後において有意差を認めた。

まず,超音波診断装置で計測した下肢血管径,血流速度,血管比,血流速度比の結果について考察する。本研究では,高濃度水素+酸素ガス吸入により血管径は増大し,血流速度は増加すると仮説を立てたが,血管径,血流速度については主効果を認めなかった。しかし,高濃度水素+酸素ガス吸入前に対する吸入後の血流速度比には有意差を認めた。三浦らは冷え性を自覚している女性30名を対象に,水素水の単回摂取による影響を検討し,摂取後1分から3分後に毛細血管径の拡張と流速および流量の上昇を認めたと報告している8。今回の結果では膝窩動脈の血管径と血流速度に変化はなかったが,毛細血管レベルでは血管拡張が生じている可能性がある。つまり,末梢での血流量を増大させるために膝窩動脈レベルでの血流速度が上昇し,血流速度比に差が生じたと考える。また,ラットを用いた重症出血性ショック後の高濃度水素+酸素ガス吸入による効果として,高濃度水素+酸素ガス吸入群ではコントロール群と比較して2時間後の平均血圧が安定し,6時間後の生存率が有意に高かったと報告されている9。まだ結論は出ていないものの,高濃度水素+酸素ガスが血流に与えるメカニズムとして,血管内皮細胞から放出される一酸化窒素(NO)の消失速度に影響を及ぼしている可能性がある22。一方で,プラセボガス吸入群では血管比や血流速度比に差はなかった。この要因として,使用したプラセボガスは大気であるため,血管比や血流速度比に差はなかったと考える。

下肢柔軟性,足関節可動域,垂直飛び高に関しては水素ガス吸入前後において主効果や交互作用を認めず,高濃度水素+酸素吸入前後の比率の検討においても変化はなかった。水素水は液体であるため,水を飲まないと水素を摂取することはできず,一度に摂取できる量には限界がある。しかし,水素ガスは気体であり呼吸をしているだけで体内に取り入れることが可能である。このため,臨床的には高濃度水素+酸素ガス吸入により水素水摂取よりも多くの水素を血管内に取り入れることができ,血流改善が期待される。その結果として下肢柔軟性や可動域が改善するのではないかと仮説を立てた。しかし,高濃度水素+酸素ガス吸入により下肢柔軟性や関節可動域は改善しなかった。その要因として,本研究結果から膝窩動脈の血管径や血流速度には主効果を認めるほど差が生じなかったことがあげられる。水素ガス吸入による血流改善のメカニズムは,体内の活性酸素を除去することにより,一酸化窒素が消費されやすい環境が整い血流改善につながると考えられる。一方で,筋柔軟性や可動域を改善するために広く使用されているストレッチングでも末梢の微小血流が改善する23。ストレッチングによる血流改善メカニズムとしては,ストレッチングにより筋線維が伸張されることで,対象筋への伸張刺激や血管への圧刺激などの機械的刺激が加わる。これにより,血管内皮細胞から一酸化窒素が放出されるため,血管径が拡張し血流が改善すると考えられている24。今回の結果では,血流は改善傾向であったが筋に対し直接的にアプローチを行ったわけではないため,SLR角度やHBDといった下肢柔軟性や足関節背屈および底屈可動域には差が生じなかったものと考える。また,高濃度水素ガス吸入による垂直飛び高への影響もなかった。垂直飛び高に関しては,膝関節伸展筋力や足関節底屈筋力との関係性が報告されている2527。今回測定した身体機能面のパラメーターは筋柔軟性と関節可動域のみであり,水素ガス吸入による変化が生じなかった。筋力パラメーターは測定していないが,水素ガスを吸入しただけでは筋力値が向上することは考えにくい。可動域と筋力の身体機能面の変化が生じにくいことが予想されるので,垂直飛び高には変化が生じなかったと推察する。

一方で,血管径比には差がなく,血流速度比に有意差を認めていることから,高濃度水素+酸素ガス吸入後は即時的には血流が増加傾向であると考えられる。スポーツの分野では,高強度運動後の酸化ストレスに対し,高濃度水素+酸素ガス吸入により酸化ストレスマーカーが低下することが報告されている2829。本研究においても疲労課題を行った後の,筋柔軟性や関節可動域の回復経過などには,高濃度水素+酸素ガス吸入による影響が生じる可能性があるが,今後の検討課題である。

本研究の限界点として,毛細血管レベルでの血流動態を計測できていないことや,疲労課題後の筋柔軟性や関節可動域の回復経過に対して高濃度水素+酸素ガス吸入による影響が明らかではないことがあげられる。さらに,高濃度水素+酸素ガス吸入に加えて理学療法介入を実施した効果を検討できていない。このような限界点があるものの,高濃度水素+酸素ガス吸入後の血流動態の一側面を検討できたことは,パイロットスタディとして非常に意義があることと考える。今後,理学療法を行う上でストレッチングや筋力強化エクササイズとの併用を行った研究デザインで検討を行い,さらに検討を進める必要がある。

結論

健常成人男性10名を対象に,高濃度水素+酸素ガス吸入による膝窩動脈の血管径および血流速度,下肢柔軟性(SLR角度,HBD),足関節可動域(背屈,底屈),下腿前傾角,垂直飛び高に与える影響を検討した。その結果,血管径,血流速度,下肢柔軟性,関節可動域,下腿前傾角,垂直飛び高に主効果と交互作用は認めなかった。高濃度水素+酸素ガス吸入前に対する吸入後の比率の検討では,血流速度比でのみ高濃度水素+酸素ガス吸入後で有意に高値を示した。高濃度水素+酸素ガス吸入により,下肢血流速度が増大する可能性がある。

謝辞

本研究の実施にあたり協力していただきました,昭和大学藤が丘リハビリテーション病院臨床検査室の皆様および株式会社ヘリックスジャパンの皆様に感謝いたします。

利益相反

本研究は昭和大学スポーツ運動科学研究所研究助成金(2021年度)の助成と,株式会社ヘリックスジャパンから高濃度水素+酸素ガス発生装置の提供を受けて実施した。

文献
 
© 2024 日本理学療法学会連合

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