2025 年 52 巻 3 号 p. 162-172
日本循環器学会が主導している循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry of All cardiac and vascular Disease Diagnosis Procedure Combination:以下,JROAD-DPC)によると,2012年と比較して2020年の心不全患者は高齢化,低Activities of Daily Living(以下,ADL)(Barthel Index(以下,BI)低値),Intensive Care Unit(以下,ICU)入室患者が多いなどの特徴があり,着目すべきは心臓リハビリテーション実施率が28%から55.8%に急上昇している点である1)。つまりJROAD-DPCのデータから考えると,我々理学療法士が循環器領域のリハビリテーションの依頼を受けて介入する対象は,高齢な低ADLでICUに入室するような重症患者が増えているということである。2021年に発表された「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」2)によると中強度の持久性トレーニングを行う事が推奨クラスI,エビデンスレベルAに該当しているが,サルコペニアやフレイルな高齢心不全患者が増加している現代においてはガイドラインに基づくシステマティックな運動処方が困難になってきている現状がある。また,JROAD-DPCのデータが示すように急性期の介入が増えているということは,様々なデバイスによって管理されている症例や,静注強心薬を投与された急性期の段階でリハビリテーション介入するケースも増えていることが想定される。機械的循環補助(Mechanical Circulatory Support:以下,MCS)などのデバイス装着患者や静注強心薬を投与された症例が増えていることもシステマティックな運動処方が困難であり,かつ個別の対応が求められている要因の一つであろう。なお,静注強心薬投与中の患者2)やMCS装着患者3)などの集中治療が必要な患者に対するリハビリテーションも徐々に整備されてきており,この数年でさらに変化がある領域と考えられる。
今回は「高齢」「フレイル」をキーワードに,設定すべきアウトカムならびにテーラーメイドな介入戦略について解説する。
心不全患者の無作為化比較対象試験(Randomized Controlled Trial:以下,RCT)論文や観察研究をチェックすると,トップジャーナルに掲載される研究の多くは死亡や再入院などのイベントをアウトカムに設定していることが多い。一方で,リハビリテーションの多くは国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)や国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps:ICIDH)をもとに問題点を整理することが多く,そのアウトカムは活動やADLが中心となって整理される。つまり,理学療法士の基本として学習してきた土台に死亡や再入院などのアウトカムが入ることが少ないことに加え,日本の平均寿命を越えるような高齢・フレイルな患者が増加していることから,リアルワールドなアウトカムとして実感が湧かない現状がある。また,そもそも対象患者と医療者とで求めるアウトカムが異なる場合もある。平均年齢70歳の心不全患者を対象とした研究によると,61%の心不全患者は生命予後よりもQuality of Life(以下,QOL)を重視していたと報告されており4),患者の求めるアウトカムによっても評価すべき指標が異なってくることも理解しておきたい。2021年に発表された「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」2)においても,心臓リハビリテーションの目的として従来の目的に加えてフレイル予防や抑うつ改善の項目が追加された(図1)。高齢+multimorbidityな患者層が増えていることから,多様な患者背景を考慮したアウトカムセッティングが求められている。
文献2)より引用.
さらに,アウトカムは病期によって異なることも意識しておかなければならない。特に心不全患者に対する治療はチームで介入することが多く,リハビリテーションはその構成の一要因である。つまり,チームとしてのアウトカムを共有しなければ,リハビリテーションだけが先走ってしまうということになりかねない。例えば,退院間際で再発予防がチームのアウトカムである場合,患者指導や家族指導のためにリハビリテーションとして有益な身体機能や認知機能の情報を提供しなければならない。一方,ICUでアウトカムが早期離床である場合,再発予防に向けた評価結果を提供するのはタイミングが間違っている。再入院よりはHospitalization-Associated Disability(以下,HAD)やPost Intensive Care Syndrome(PICS),ICU Acquired Weakness(ICU-AW)に関する評価や介入内容のほうがチームとして求めるアウトカムに近い。アウトカムのセッティングは重要であるが,病態と時期を考慮して決定していく必要がある(図2)。
全ての症例に対して心肺運動負荷試験 (Cardiopulmonary Exercise Testing:CPX)を実施してpeak VO2やAT VO2をアウトカムとして,自転車エルゴメータを用いて有酸素運動を実施することが必ずしも最適解ではない。上述したアウトカムが明確になることで,初めて介入内容が決まる。日本循環器学会やアメリカ心臓協会(American Heart Association:AHA),ヨーロッパ心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)から発表されているガイドラインをみると,有酸素運動やレジスタンストレーニングなどがクラスI,エビデンスレベルAに位置しており,また心不全患者に対する急性期リハビリテーションとして離床プログラムも提案されているが,目の前の患者に適応できるのかは十分に吟味する必要がある。さらに,多疾患併存が多い患者ではpeak VO2の改善が乏しいこと5)も加味すると,これまでのゴールドスタンダードな評価指標の適応を吟味する必要がある。運動機能やperformanceに限定されるが内部障害で評価されている代表的な評価指標を下記に図表で示す。表1は上段から平均年齢の若い順番で評価指標が列挙してある6)。こちらの表はアウトカムが生存や再入院といったイベントに限定されているが,平均年齢が上がるにしたがってより負担量の少ない指標でイベント発生のアウトカムを予測しているのが分かる。また,表2はアウトカムに関わらず各評価指標の意義についてまとめた一覧表である7)。表1と合わせて,病期や時期によって必要なアウトカムと目的を理解した上で評価項目をまとめていく必要がある。さらに,おおよその評価指標の概念について図3にまとめる。最近では高齢化に伴い身体的フレイルを有する患者も多く,有用な評価項目であっても身体的フレイルによって評価が難しい場合も存在する。なお,図3では,横軸はADLと予後の記載となっているが,もちろんアウトカムによって考える概念はこの限りではない。また,高齢化により身体的フレイル症例も増加しており,身体的フレイルは機能改善に時間を容し在院日数の延長に繋がる。この入院期間中の機能障害をHAD8)とよび,理学療法士はHADリスクを常に意識しなければならない。2024年に,日本循環器理学療法学会が主導し高齢心不全患者のHAD発生率を調査したJapanese PT multi-center Registry of Older Frail patients with Heart Failure(以下,J-Proof HF study)の結果が発表された9)。J-Proof HF studyは96施設9,403例(平均年齢83歳)とHAD研究としては国内最大規模の研究であり,登録症例のうち37.1%にHADが発生することが明らかとなった。すなわち,急性期病院に入院した高齢心不全患者の約4割は入院中にADL低下が惹起され,環境調整や回復期リハビリテーションの適応がある潜在患者がいることを意味している。しかし興味深いのは,信州大学医学部附属病院の心不全患者を対象したデータによると,入院時ならびに退院時のADLが低いことは予後不良因子となり得るが,入院期間中にADLを改善させることで予後改善に繋がる,すなわち可逆性の要素があるという点である10)(図4)。心不全患者の可逆性がある身体機能をアウトカムとして評価する事が,何よりも重要である。
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上段から平均年齢が若い順番で列挙してある.文献6)より引用.
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文献7)より引用.
(A)リハビリテーション開始時のbarthel index(BI)得点が60点以上の患者は60点以下の患者より生存率が高い.(B)退院時のBI得点が60点以上の患者は60点以下の患者より生存率が高い.(C)リハビリテーション開始時BIが60点以下の患者で,入院中にBIが15点以上改善した者はそうでない患者と比較して生存率が高い.(D)リハビリテーション開始時BIが60点以上の患者で,入院中にBIが15点以上改善した者はそうでない患者で生存率に有意差なし.文献10)より引用.
心臓リハビリテーションのアウトカムは再入院予防(二次予防)がメインのアウトカムであるが,フレイルがある患者層では死亡理由が異なる。フレイルの程度と死亡理由を調査した台湾のデータによると,心血管死はフレイルの程度で割合に差がなかったのに対して,肺炎や呼吸器疾患による死亡割合はフレイルであるほど増加した11)。また,日本でセッティングされたFRAGILE-HF studyのデータでは12),身体・認知・社会的の3つのフレイルドメインの数によって3群に分類して予後を比較した。その結果,フレイルドメインの数は全死亡と強い関連を示した。興味深いのは全死亡の原因についてさらに追加解析を実施したところ,フレイルドメイン数は心不全死亡や心血管死亡と関連がなかったのに対して非心血管死亡と強い関連を示し(図5),フレイルドメイン数が多いほど非心血管死亡の割合が増加した(図6)。これらの結果から,フレイルな患者は心血管イベントに着目したリスク因子を把握して介入するだけでは不十分な可能性があり,呼吸機能などのより包括的な管理や評価が必要になることを示唆している。
FD:Frailty Domain(フレイルドメイン).フレイルドメイン数が増えると非心血管死亡率が上昇する.文献12)より引用.
FD:フレイルドメイン.フレイルドメイン数が多い(3つの)患者はunknown死亡の割合が高い.文献12)より引用.
日本循環器学会のガイドラインでは有酸素運動とレジスタンストレーニングは推奨クラスI,エビデンスレベルAに該当する2)。心不全患者に対する推奨の運動プログラムや強度設定は表3の通りである。なお,近年ではより急性期からの介入も考慮し,離床プログラム(不必要に安静臥床にしない)も発表されている(表4)。従来のガイドラインと比較して,入院期間中のADL低下を予防するために,離床に焦点を当てたプログラムが整備されていることは,近年の高齢フレイル症例やHADに対する対策と考えることが出来る。
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文献2)より引用.
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文献2)より引用.
前述したガイドラインに基づく介入検証がある一方で,近年増加している身体的フレイルを有する高齢者に対する運動療法のデータは依然として少ない。65歳以上の心不全患者を対象としたFRAGILE-HF study13)によると,本邦の高齢心不全患者の56%が身体的フレイルを有することから,介入効果を検証するstudyは喫緊の課題である(図7)。65歳以上の心不全患者約1万人を対象にした国内最大規模のJ-Proof HF studyでは,高齢心不全患者の運動療法の内容が検証された14)。その結果,BI85点未満の患者層における有酸素運動とレジスタンストレーニング実施率は85点以上の患者層と比較して有意に低く,BI85点未満の患者層で最も多い運動療法はADLトレーニングであることが報告された(図8)。すなわち,ガイドラインで有効性が検証されている有酸素運動とレジスタンストレーニングは,ADLが低下した高齢心不全患者ではあまり実行されていないというリアルワールドデータである。国外のデータを網羅した最新のメタアナリシス研究によると,対象論文72試験のトレーニング内容として有酸素運動単独が最も多く46%,次いで有酸素運動とレジスタンストレーニングの組み合わせが33%という結果である(表5)15)。また対象年齢については,平均年齢が80歳代のRCTがあるものの,60–69歳の試験が最も多いという結果であり,J-Proof HF studyの患者背景と比較した際にこのメタアナリシスの結果を目の前の高齢フレイル心不全症例に応用出来るかどうかはしっかり吟味していく必要がある。
文献13)より引用.
文献14)より引用.
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身体機能の低下した高齢な急性心不全患者を対象としたREHAB-HF trial16)では,Short Physical Performance Battery(以下,SPPB)約6点,Friedクライテリア2–3点の患者を対象に,機能状態に合わせて入院早期から3ヶ月間レジスタンストレーニングやバランス練習などの段階的な個別運動療法の効果検証が行われた。なお,本研究のprimary outcomeは生命予後や再入院などのイベントアウトカムではなく,SPPBの身体機能がアウトカムでありながらNew England Journal of Medicineに掲載されたことは特筆すべき点である。さらに,REHAB-HF trialの特徴として,介入方法が画期的である事もご紹介する。通常のRCTなどのtrialは頻度(Frequency),強度(Intensity),時間(Time),種類(Type),運動量(Volume),漸増/改訂(Progression/Revision)(FITT-VP)を明確にし,特に強度設定は厳格に行われている事が多い。しかし,REHAB-HF trialでは運動プログラムを個々の身体機能によって各ステージに分け,段階的に難易度が上がるシステムを採用している。個々の能力に配慮しているため,テーラーメイドでありながらシステマティックに運動プログラムが組まれており,フレイルな症例でも比較的導入しやすいプロトコルとなっている(表6)。また,運動負荷も自覚的な疲労度をメインとしており,強度設定として臨床にも汎化しやすい内容となっている。
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文献16)のプログラムを著者翻訳.
段階的な個別運動療法の結果,リハビリテーション介入群はSPPBが2.3点,Fried基準が0.9点の改善を認め,effect size(両群の変化量の差)はSPPBが1.5点であった。層別化分析にて,この介入効果は身体的フレイルがあり,高齢,Heart Failure with Preserved Ejection Fraction(HFpEF)患者で特に効果があったのは特筆すべき点である16)。特に身体的フレイルの解析についてみると,フレイルがないorプレフレイル症例におけるSPPBのeffect sizeは0.7点(95%信頼区間:−0.1~1.5)であったのに対して,フレイル症例のeffect sizeは2.1点(95%信頼区間:1.3~2.8)であった。すなわち,REHAB-HF trialの段階的プログラムを導入するにあたり,フレイル症例には効果的だが,フレイルでない症例に対しては効果が限局的である可能性を考慮する必要がある。なお,REHAB-HF trialの問題点として,このRCTでは27,300例からクライテリアを満たした349例がピックアップされているので,本邦でも臨床応用できるかは今後の課題である。
4. テーラーメイド型の運動療法以外で考える事REHAB-HF trialに代表されるようにテーラーメイド型の運動療法を即座に臨床に汎化する事は難しいかもしれない。しかし,その他にも臨床場面に汎化できるアクションは存在する。
1)定期的な評価REHAB-HF trialはテーラーメイドなプログラムが注目を浴びやすいが,運動プログラムのステップアップのために定期的な評価を行い,研究チームが途中結果を確認していた事の方が重要である。この定期的な評価は,採血や画像データのように理学療法士にとって重要なメルクマールであり,結果を可視化して研究チームと現場チームがディスカッションできていることによる貢献が大きい17)18)。類似した研究として,循環器病棟に入院した高齢循環器疾患患者を対象としたThe MulTicomponent Acute Intervention in FRail GEriatric PaTients with Cardiovascular Disease Using the Essential Frailty Toolset(TARGET-EFT) trialでは,従来のケアや運動療法を対照群,一方でSPPB,Mini Mental State Examination(MMSE)や貧血,栄養など客観的な評価を行って介入した介入群の2群でQOLならびに入院中のADLを比較した。その結果,secondaryのADL変化量には差がなかったものの,primaryのQOLは介入群で有意な変化を認め19),SPPB得点も改善を認めた20)。ここでも重要なのは,評価に基づいた介入を行なっているという点である。評価項目も我々が普段実施している項目であり,いかに日々業務の中で定期的な評価を行い介入方法を決定することが重要であるかを意味している。
2)早期のリハビリテーション介入近年,集中治療領域を中心により早期からのリハビリテーション開始の有用性を示すデータが発表されている。なかでも集中治療領域を対象とする「重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023」21)の発表は貢献度が大きい。Hamazakiらは循環器疾患患者を対象として,ICU入室後24時間以内に医師,看護師,理学療法士で構成されるICUチームで介入を協議し実行した群とそうでない群で傾向スコアマッチングにより検証を行った22)。介入群の早期リハビリテーション開始日の中央値は2日,非ICUリハビリテーション群は4日である。その結果,ICUからの早期心臓リハビリテーション導入は歩行自立獲得率を2.04倍,自宅退院率を1.22倍高めることが明らかとなった。同様にDPCデータを用いてICUに入室した急性心不全患者を対象としたIshibashiらの研究によると,心臓リハビリテーションを2日以内に開始した群の方が有意に院内死亡率の減少と入院期間の短縮に寄与していた23)。また,konoらは高齢心不全患者を対象として退院後の心血管イベントに関わる因子として患者背景や重症度を調整しても初回歩行開始日までの日数が影響し,そのカットオフは3日であることを報告し24),同様に3日以内のリハビリテーション開始が早期歩行獲得の独立した因子とも言われている25)。また2025年に発表されたAcute Phase Intensive Exercise Training in Patients with Acute Decompensated Heart Failure(ACTIVE-ADHF)試験では,早期からの積極的なリハビリテーション介入を実施することによって6分間歩行試験の有意な改善を認めている26)。すなわち,病態が安定しているならば,2–3日以内のなるべく早い段階からリハビリテーション介入を行う取り組みが重要である。
本稿では,主に高齢心不全患者のフレイルに着目し,現行のガイドラインならびに最新のtrialから臨床応用出来るところについて解説を行った。今後,本邦にて高齢心不全フレイルを対象としたRCT試験27)も計画されており,フレイル症例に対するリハビリテーションの整備が期待される。