2026 年 53 巻 4 号 p. 229-237
【目的】就学前の幼児後期の基本的な動きに影響する要因を検討するため,走行,跳躍力,両足連続跳び越し,身体の支持,バランスおよび足部・足趾形態の要因構造モデルを構築し,前庭覚による反射性姿勢制御の影響を検討することを目的とした。【方法】対象は4~6歳の幼児163名とした。評価は25 m走,立ち幅跳び,両足連続跳び越し,体支持持続時間,重心動揺検査,土踏まず形成度とし,要因構造モデルを作成して適合度を検証した。【結果】25 m走には,立ち幅跳び,両足連続跳び越し,体支持持続時間および土踏まずの形成度が直接的に影響し,立ち幅跳び,両足連続跳び越し,フォームラバー上での閉眼単位面積軌跡長が体支持持続時間を介して間接的に影響した(χ2値=6.508, df=8, p=0.591, CMIN/DF=0.813, GFI=0.988, AGFI=0.966, CFI=1.000, RMSEA<0.001, AIC=32.508)。【結論】幼児の走行には瞬発力と土踏まずの発達,身体の運動制御は前後バランスが直接的に影響し,前庭覚による姿勢制御が前後バランスを介して間接的に影響した。
Objective: We constructed factor structure models for running ability, jumping ability, continuous jumping over the feet, body support duration, balance, and foot and toe morphology to examine the factors influencing basic movements in typically developing preschool children.
Methods: The participants were 163 preschool children aged 4–6 years. The assessments included a 25 m run, standing long jump (SL-jump), continuous bipedal jump (CB-jump), body support duration (BSD) of the MKS motor skills test for young children, foot arch development (FAD), and the number of floating toes (FT). Statistical analysis was performed to examine the model fit using path analysis to assess correlations.
Results: SL-jump, BC-jump, BSD, and FAD had direct effects on run, whereas BSD had indirect effects on SL-jump, BP-jump, and FT (χ2=6.508, df=8, CMIN/DF=0.813, p=0.591, GFI=0.988, AGFI=0.966, CFI=1.000, RMSEA<0.001, AIC=32.508).
Conclusion: Running by typically developing children was directly influenced by the degree of instantaneous force and development of the foot as a propulsive force to transfer lower limb muscle power to the ground and anterior-posterior balance that regulates body movements. The vestibular postural control sensation affects running through dynamic and static balance and jumping forces.
わが国における児童・生徒の運動能力低下1)について,基本的な動きの習得が不十分な幼児の増加による影響が指摘されている2)。幼児期運動指針3)では,4~5歳ごろに経験した基本的な動きが定着し,5~6歳ごろに基本的な動きが上達するとされている。幼児期における基本的な動きの習得の遅れは,運動強度や運動量を高めることができず,学童期以降の運動能力の向上を阻害する因子となっている2)。そのため,幼児期に基本的な動きを習得することは,就学後の運動能力の発達を促進し,体力を向上させる基盤を構築する上で重要な課題である。
幼児期運動指針3)では,1~6歳の幼児期のうち運動発達が顕著となる3~6歳の幼児期の後半(以下,幼児後期)に経験する基本的な動きの例として,バランスを取る動き(転がり,起き上がり,立ち上がり,着座,前転,渡る,ぶら下がる),移動(歩く,走る,跳ねる,跳ぶ,登る,降りる,這う,よける,滑る),用具の操作(持つ,運ぶ,投げる,捕る,転がす,蹴る,積む,こぐ,掘る,押す,引く)を含む36の動きが紹介されている3)。また,幼児の身体活動について1日60分以上の楽しい遊びの中でさまざまな運動の種類を行うことが推奨されている3)。これは,幼児の運動発達を促進するためには,運動遊びにおける中強度以上の運動強度での身体活動量と多様な基本的な動きの経験が必要であることを示している。しかしながら,幼児の自由遊びでは生活場面で多用される基本的な動き(座る,立つ,歩く,走る,回る)のうち,回る動きの出現率が低く4),女児と活動性の低い男児においても回る動きが出現しにくいことが報告されている5)。また,幼児が遊ぶ公的施設の環境の変化として,2002年に策定された「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」を受け6),揺動式遊具である箱ブランコ,回転搭はリスクとハザードの観点から撤去対象となった7)。このように近年の幼児は運動遊びの中で回転を伴う動きの経験が限定されていることから,運動経験を補填することを目的とした運動教室などが拡大している8)。その結果,幼児期の運動経験の個人差が拡大し,基本的な動きの習得に影響している可能性がある。
基本的な動きの習得には,動作によって生じる身体の動揺を四肢や体幹の運動により相殺し,身体を効率的に操作するための協調運動が必要である9)。スポーツ科学や発育発達学領域では,基本的な動きを操作する調整力はコオーディネーション能力と呼ばれ,7つの能力(平衡能力,定位能力,分化能力,リズム化能力,反応能力,結合能力,変換能力)で構成されており,幼児期が敏感期である10)。幼児の自立歩行の発達では,独立歩行開始後60週までは頭部と体幹の運動を抑制して頭部を安定させる戦略を取っている11)。また,四肢の交互運動と体幹,骨盤回旋運動は,3~4歳の無秩序な状態から5歳から8歳で協調性が高くなり,9~10歳で大人と同じ円滑な歩行パターンを獲得し,歩行中のバランス制御に寄与する12)13)。このように運動発達の過程では,バランス制御である平衡能力が運動の土台となっており,空間内で自己の位置,方向,姿勢を認識する空間識が関連する定位能力,運動課題に対して身体を精密に操作する分化能力が発達することを示している10)。空間識を形成する視覚,前庭覚および体性感覚14)のうち,日常生活で経験しにくい回転を伴う動きや揺動式遊具での直線あるいは回転運動による刺激は内耳の前庭覚で受容される。姿勢制御における感覚系の発達は,視覚,体性感覚,前庭覚の順で起こり,9歳で機能的に成熟すると報告されている15)。そのため,幼児期における回転を伴う動きの経験の違いが前庭覚による反射性姿勢制御の発達に影響し,幼児後期の基本的な動きにおける個人差の要因となっている可能性がある。しかしながら,コオーディネーション能力に関する研究において,調整力の構造および発達特性が明らかにされていないことが指摘されており10),基本的な動きの発達の敏感期である幼児後期の運動能力の要因構造を明らかにする必要がある。
本邦では,4~6歳の基本的な動きの評価としてMKS幼児運動能力検査16)が使用されており,25 m走,立ち幅跳び,両足連続跳び越しおよび体支持持続時間が開眼片脚立位時間と相関することが報告されている17)。また,幼児後期には足部の発達も進み,4~5歳の間に扁平足が減少し18),扁平足型の幼児は標準型と比較して男児では25 m走,体支持持続時間,女児では立ち幅跳び,体支持持続時間が低い値18)であること,土踏まずの形成と走力が相関することが報告されており19),基本的な動きに影響することも考えられる。これらのことから,MKS幼児運動能力検査,バランス能力および足部の発達について,要因構造モデルを構築することができれば,幼児の基本的な動きの要因構造における前庭覚による反射性姿勢制御の影響を明らかにできる可能性がある。
そこで,本研究の目的は,4~6歳の定型発達幼児を対象にMKS幼児運動能力検査,バランス能力および足部・足趾形態の要因構造モデルを構築し,前庭覚による反射性姿勢制御の影響を検討することとした。要因構造モデルを構築する背景として,幼児の運動発達の過程では平衡能力を運動の土台として,空間内で自己の位置,方向,姿勢を認識する定位能力,身体を精密に操作する分化能力が発達するとされていることが挙げられる10)。また,要因構造の仮説として,先行研究では幼児の基本的な動きのうち走力が動きの質と関連し20),疾走速度が速いものは上下肢の動きの程度と関連していることから21),走力を目的変数,その他の運動能力検査項目と足部・足趾形態を直接的に影響する要因とし,幼児の静的バランスは動的バランスと関連することが報告されていることから22),重心動揺指標による動的および静的バランスに関する項目は間接的に影響する要因とした。
本研究は,I市にある5つの保育園に登園する4~6歳の定型発達児207名のうち,測定日に欠席したものを除外した163名(男児81名,女児82名,4.5±0.5歳,身長108.0±5.8 cm,体重18.5±3.0 kg,BMI 15.8±1.6 kg/m2)であった。除外基準は,測定日に体温が37.5°Cを超えており評価を実施できなかったもの,運動機能および神経機能の障害があるもの,現在治療中の整形外科的疾患および神経疾患があるものとした。倫理的配慮として,本研究は九州産業大学倫理審査委員会(承認番号2021-0007号)の承認を得た後,各保育園の園長に研究内容について説明を行い書面で承認を得た。そして,各保育園で研究協力者,園児および保護者に対して研究説明会を開催した後,保育園の研究協力者である保育士を通じて対象児の保護者から書面で同意を得てから実施した。対象者のリクルート期間は,2022年4~8月とした。
2. 方法1)MKS幼児運動能力検査本研究では,MKS幼児運動能力検査のうちバランス能力との相関関係が報告されている25 m走,立ち幅跳び,両足連続跳び越しおよび体支持持続時間を選択した16)。25 m走は,25 mの走行路と5 mの減速路を含めた30 mで構成され,口頭でスタートの指示を出した後,25 mのゴールラインを通過した時間をストップウォッチで記録した。測定回数は1回とした。立ち幅跳びは,対象児を裸足にして両足を肩幅程度に開き,踏み切り線を踏まない位置での立位となった後,できるだけ両足を同時に前方へ踏み切り,遠くへ飛ぶように指示した。そして,踏み切り線と着地した地点のうち,踏み切り線に近い方の足の踵の位置との最短距離をメジャーで測定した。両足連続跳び越しは,幅5 cm,高さ5 cm,長さ10 cmの積み木を10個用いて,屋内の床に50 cm毎に積み木を並べ,スタートラインとゴールラインの積み木までの距離を20 cmとした。測定者は,対象児に両足を揃えて積み木を跳び,できるだけ速くゴールラインを越えることを説明し,スタートの合図からゴールラインを越えるまでの時間をストップウォッチで測定した。測定時の注意点として,積み木を片足で飛び越えた場合,積み木の上に立った場合,積み木を蹴飛ばした場合,積み木を2つ以上まとめて跳び越した場合は再測定になることを説明した。測定は2回行い時間が短い方を採用した。体支持持続時間は,高さ70 cmの台を30 cm間隔で設置し,台の間に補助台を置いた。台には端から幅2 mmビニールテープを貼り,体支持課題中の手を置く位置を示した。測定者は,対象児を補助台に立たせた後,「用意」の合図で両腕を伸ばして台に手を置くよう指示し,「始め」の合図で足を上げて補助台から離し,両腕で身体を支えられなくなるまでの時間を測定した。測定の中止条件は支持している腕が曲がった場合,掌以外の身体が台や床に触れた場合とし,最長3分とした。
MKS幼児運動能力検査の評定点は1~5点の5段階評定で点数が高いほど運動機能が発達していることを示している16)。判定は,5点:発達が標準より非常に進んでいる,4点:発達が標準よりかなり進んでいる,3点:標準的な発達である,2点:発達が標準より少し遅れている,1点:発達が標準よりかなり遅れていると解釈する。評定点を定めている運動能力判定基準表は,性別,月齢(4歳前半,4歳後半,5歳前半,5歳後半,6歳前半,6歳後半)で区分されている16)。
2)重心動揺検査静的バランス能力の評価は,バランスコーダBW-6000(ANIMA社製)を使用し,サンプリング周波数20 Hzで,足底圧中心変位を30秒間記録した。測定条件は,固い床面での開眼(Eyes Open:以下,EO),閉眼(Eyes Close:以下,EC),フォームラバー上での開眼(Foam rubber EO:以下,FEO),閉眼(Foam rubber EC:以下,FEC)とした。測定時の注意点として,測定中は話さないこと,両手は体側に下垂すること,足は30°開いて踵を付けること,開眼時は2 m前方の目線の高さに設置された固視点を見るよう指示した。静的バランス能力の指標は,身体動揺の全体的な傾向を示す総軌跡長,身体動揺の広がりを示す外周面積および身体動揺の微細な制御を示す単位面積軌跡長(外周面積/総軌跡長)を使用した23)。測定条件と感覚系による姿勢制御の関係は,EOおよびFEOでは視覚,ECでは体性感覚,FECでは前庭覚14)24)によって制御されている。
3)Body Tracking Test(以下,BTT)動的バランス能力の指標として,バランスコーダBW-6000(ANIMA社製)を使用し,左右に動く指標に合わせて身体を移動させるBTTを行った。BTTは,2 m前方に設置されたディスプレイにマーカーを提示し,左右に動く指標に合わせて重心移動を追従させるように説明した。測定時の注意点として,測定中は話さないこと,両手は体側に下垂すること,足は30°開いて踵を付けること,開眼時は2 m前方の目線の高さに設置された固視点を見るよう指示した。BTTスコアは,視覚刺激の指標に対する足底圧中心の追従度を10段階で評価した。
4)足部・足趾形態の評価足部足趾形態の評価は,足圧分布測定器FootLook(フットルック社製)を使用した。フットスキャナーによる土踏まずの形成度は,小児では側方荷重レントゲン写真と高い相関関係があり25),成人ではNavicular drop testとの高い相関性,評価者内信頼性および評価者間信頼性があると報告されている26)。また,幼児を対象としたフィールド研究では,短時間で簡易に計測できる点を重視しフットプリント法が採用されている19)27)。そのため,本研究ではフットスキャナーによる土踏まずの形成度を採用した。測定では,対象者を裸足で椅子座位とし,フットスキャナー上に足底を設置させた。その後,立位を保持させ,2 m前方の目の高さに設置した指標を注視した状態での足底圧力分布を測定した。土踏まずの形成度は,幼児の発達特性を考慮し浅見ら28)のIライン法(内側線と外側線の交点と各指の中央交線を結んだ線が土踏まずを超えたか)で測定した。第1指の腹部中心点から内足線と外足線の交点とを結んだ線を1.0,第5指の腹部中心点から内足線と外足線の交点とを結んだ線を5.0とした。土踏まずが外足線を越える凹型については6.0とした。浮き趾は,接地面と完全に離れている足趾を浮き趾と判定し,各趾ごとに浮き趾の数を測定した(図1)。土踏まずの形成度および浮き趾の数は,左右の合計を代表値とした。

文献28)より引用.
土踏まずの形成度は足の各指の腹部中心点から内足線と外足線の交点に向けた線で測定した.第1指の腹部中心点から内足線と外足線の交点とを結んだ線を1.0,第5指の腹部中心点から内足線と外足線の交点とを結んだ線を5.0とした.土踏まずが外足線を越える凹型については6.0とした.
統計学的分析は25 m走,立ち幅跳び,両足跳び越しおよび体支持持続時間の各評定点,重心動揺検査の総軌跡長,外周面積および単位面積軌跡長,土踏まずの形成度および浮き趾との関係は,Pearson積率相関係数を用いて分析した。そして,有意差を認めた変数をもとに幼児の基本的な動きにおける運動能力と,バランスおよび足部・足趾形態の影響を説明するモデルを構築し,共分散構造分析であるパス解析を行い,要因構造モデルの適合度を判定した。要因構造モデルは,幼児の基本的な動きのうち,走力が動きの質と関連することから20),走力を目的変数とし,各変数間で有意な相関関係を認めた変数を直接的に関連するパス係数とした。要因構造モデルの適合度判定には,χ2値,Chi-square Minimum divided by Degrees of Freedom(以下,CMIN/DF),Goodness of Fit Index(以下,GFI),Adjusted Goodness of Fit Index(以下,AGFI),Comparative Fit Index(以下,CFI),Root Mean Square Error of Approximation(以下,RMSEA),Akaike’s Information Criterion(以下,AIC)を用いた。各指標の適合度判定は,χ2値を用いてモデルが適合することを帰無仮説とした指標であり,確率が有意でないことが絶対条件となる。各指標の適合度判定は,適合度判定の結果であるχ2値が有意でないこと,CMIN/DFが小さいほど適合度が高く,GFIとAGFIは0.90以上でより1に近い値であること,CFIは0.95以上でより1に近い値であること,RMSEAは0.07以下の数値であることを基準にし,AICが小さいほど良好な適合度を有するモデルと判断した29)。統計解析は,SPSS Statistics 28.0(IBM社製)およびAmos28.0(IBM社製)を使用し,有意水準は5%とした。
各評価の測定結果を表1, 2に示した。25 m走は,立ち幅跳び,両足連続跳び越し,体支持持続時間,土踏まずの形成度と有意な正の相関を認めた(立ち幅跳び:r=0.429, p<0.001,両足連続跳び越し:r=0.387, p<0.001,体支持持続時間:r=0.394, p<0.001,土踏まずの形成度:r=0.283, p<0.001)。また,立ち幅跳びは,体支持持続時間と有意な正の相関(r=0.310, p<0.001),両足連続跳び越しは,体支持持続時間およびBTTと有意な正の相関(体支持持続時間:r=0.267, p<0.01, BTT:r=0.171, p=0.030),体支持持続時間はFEC単位面積軌跡長および浮き趾の数と有意な負の相関を認めた(FEC単位面積軌跡長:r=0.177, p=0.024,浮き趾:r=−0.159, p=0.043)。
| 評価項目 | 結果(評定点) | |
|---|---|---|
| MKS幼児運動能力検査 | ||
| 25 m走(sec) | 7.4±5.5 | (3.2±1.1) |
| 立ち幅跳び(cm) | 97.9±18.2 | (3.4±0.9) |
| 両足連続飛び越し(sec) | 6.7±2.8 | (3.0±1.1) |
| 体支持持続時間(sec) | 36.2±29.2 | (3.1±1.0) |
| 足部・足趾の形態 | ||
| 土踏まずの形成度(点) | 5.0±1.6 | |
| 浮き趾(本) | 4.6±2.8 | |
| BTT(点) | 3.0±2.6 | |
平均値±標準偏差,BTT: Body Tracking Test.
| EO | EC | FEO | FEC | |
|---|---|---|---|---|
| 総軌跡長(cm) | 64.1±22.9 | 88.0±32.2 | 91.9±28.9 | 165.4±63.1 |
| 外周面積(cm2) | 5.2±3.2 | 6.8±4.7 | 7.9±6.2 | 16.2±12.8 |
| 単位面積軌跡長(1/cm) | 14.5±5.0 | 14.6±4.2 | 13.8±4.7 | 11.8±3.3 |
平均値±標準偏差,EO: Eyes Open, EC: Eyes Close, FEO: Foam rubber EO, FEC: Foam rubber EC
仮説モデルとして,25 m走に対する直接的に関連するパス係数は,立ち幅跳び,体支持持続時間,両足連続跳び越しおよび土踏まずの形成度とした。また,体支持持続時間は立ち幅跳び,両足連続跳び越し,BTTは両足連続跳び越し,浮き趾の数およびFEC単位面積軌跡長は体支持持続時間を介して間接的に関連させた(図2)。その結果,この仮説モデルは適合度判定の基準を満たすことができなかった(χ2値=34.905, df=10, p<0.001, CMIN/DF=3.490, GFI=0.930, AGFI=0.854, CFI=0.757, RMSEA=0.124, AIC=56.905)。そのため,修正モデルでは体支持持続時間を両足連続跳び越しおよび立ち幅跳びを介して25 m走への間接的な関連を追加し,変数間のパスの条件を多角的に検証した(図3)。その結果,修正モデルはすべての適合度判定の基準を満たし(χ2値=6.508, df=8, p=0.591, CMIN/DF=0.813, GFI=0.988, AGFI=0.966, CFI=1.000, RMSEA<0.001, AIC=32.508),変数間のパス係数もすべて統計学的に有意差を認めた。25 m走に対する影響は,立ち幅跳び,両足連続跳び越し,体支持持続時間および土踏まずの形成度が直接的に影響し,体支持持続時間は立ち幅跳び,両足跳び越しを介して,FEC単位面積軌跡長は体支持持続時間を介して間接的に影響した。また,25 m走に対する各観察変数の標準化直接効果,標準化間接効果,標準化総合効果を表3に示した。

パス図は,図中の数値は標準化係数,単方向矢印は因果関係(パス),□は観測変数,〇は潜在的な誤差変数を示す.
モデル適合度:χ2値=34.905, df=10, p<0.001, CMIN/DF=3.490, GFI=0.930, AGFI=0.854, CFI=0.757, RMSEA=0.124, AIC=56.905.

パス図は,図中の数値は標準化係数,単方向矢印は因果関係(パス),□は観測変数,〇は潜在的な誤差変数を示す.
モデル適合度:χ2値=6.508, df=8, p=0.591, CMIN/DF=0.813, GFI=0.988, AGFI=0.966, CFI=1.000, RMSEA<0.001, AIC=32.508.
| 標準化直接効果 | 標準化間接効果 | 標準化総合効果 | |
|---|---|---|---|
| 立ち幅跳び評定点 | 0.319 | 0.319 | |
| 両足連続飛び越し評定点 | 0.294 | 0.294 | |
| 体支持持続時間評定点 | 0.198 | 0.177 | 0.375 |
| 土踏まずの形成度 | 0.224 | 0.224 | |
| FEC単位面積軌跡長 | 0.066 | 0.066 |
本研究では,定型発達幼児における基本的な動きとバランス能力および足部・足趾形態の要因構造モデルについて検討し,走力の指標である25 m走には,立ち幅跳び,両足連続跳び越し,体支持持続時間および土踏まずの形成度が直接的に影響し,体支持持続時間は両足連続跳び越しおよび立ち幅跳びを介し,FEC単位面積軌跡長は体支持持続時間を介して間接的に影響することが明らかとなった。
走行と歩行の類似点として,動作による動揺を相殺するため上下肢の左右交互運動および体幹と骨盤の体軸内回旋運動が協調的に作用していることが挙げられる30)31)。歩行の発達における四肢の交互運動と体幹,骨盤の体軸内回旋運動といった協調運動は,3~4歳の無秩序な状態から5~8歳で協調性が高くなり,9~10歳で大人と同じ円滑な歩行パターンを獲得し,歩行中のバランス制御に寄与する12)13)。一方で,走行と歩行の相違点としては,歩行の両脚支持期が遊脚相に置き換えられ,運動の大きさやタイミングが異なり移動速度の増大に伴って動作様式の個人差が大きくなることが挙げられる30)。幼児の走行における先行研究では,25 m走の時間が走行中の下肢挙上の程度や腕の振りといった動きの質と関連することが報告されている31)。そのため,本研究で作成した要因構造モデルは,幼児の走行が複数の基本的な動きと土踏まずの形態および前庭覚によるバランス制御によって構成されており,幼児の運動能力を総合的に示す指標になることを示唆している。また,下肢筋力とバランスに関するシステマティックレビューでは,幼児から高齢者まで低い相関関系はあるが直接的な因果関係はなく,筋骨格系と神経系の要素が独立していることが報告されている32)。そのため,本研究の要因構造モデルにおいて,瞬発力の指標である立ち幅跳びと動的バランスの指標である両足連続跳び越しが独立して25 m走に直接影響していたと考える。
25 m走に直接的に影響した要因のうち,走行における推進力に寄与するものとしては立ち幅跳びと土踏まずの形成度であった。幼児の走行に関する先行研究では,2~8歳の幼児44名を対象に下肢筋力と筋量,短距離走,立ち幅跳びの関係を調査し,ランニングやジャンプのように瞬発力が必要な課題は下肢筋力への依存度が高くなると報告されている33)。また,未就学の3~5歳児429名を対象とした研究では,幼児の瞬発力を予測する因子のひとつとして立ち幅跳びが選択されている34)。これらのことから,立ち幅跳びは地面を蹴り移動するための瞬発力が走力に直接的に影響していたと考える。また,走力は足部形態のうち,土踏まずの形成度が直接的に影響していた。学童期の子どもにおいては,走行やジャンプパフォーマンスにおいて,足部内側縦アーチが高い方が優れたパフォーマンスを示すことが報告されており35)36),本研究の結果から足部内側縦アーチの発達は4~5歳の段階から走力に影響することを示唆している。歩行における足部内側縦アーチの役割として,他動的に足趾を背屈することで足底腱膜の張力により挙上されるウインドラス機構(Windlass Mechanism:以下,WM)があり,蹴り出し時の推進力の産生において速度の上昇に寄与すると考えられている37)。しかしながら,走行時の推進力の産生には,能動的な下肢筋力の影響力が大きく,受動的なWMの寄与は限定的であることが報告されている38)。これらのことから,幼児の走行における推進力の産生には,立ち幅跳びにおける下肢筋の瞬発力による地面の蹴り出しと,土踏まずの内側縦アーチによる受動的なWMが直接影響していたと考える。
両足連続跳び越しは協調運動にかかわる要因として,25 m走に直接的に影響があった。両足連続跳び越しは,積み木を視認して前方への跳躍,着地を繰り返す課題であり16),視覚と体性感覚による協調運動39)と動的バランス能力が要求される。ジャンプから着地まで安定して行うためには視覚情報を利用した身体操作の重要性が示唆されている40)。また,前方ジャンプ着地課題におけるバランス能力には,体幹の前後運動による垂直方向の動的バランスが関連すると報告されている41)。前方ジャンプ後の着地動作の発達について3~9歳の小児44名で比較したところ,3~6歳と7~9歳の間で運動方法が異なっており,臨界期は4~5歳にあることが示唆されている42)。そのため,幼児の走行における協調運動のうち前後の動的バランス能力として両足連続跳び越しが直接的に影響したと考える。重心動揺検査における動的バランス指標であるBTTは,両足連続飛越しと相関関係は認めたが,パス係数は有意とならなかったため除外した。これは,BTT課題は左右に動く指標に対する追従課題であったが,両足連続飛越しでは前後の動的バランスを要求されるため,動的バランスの制御方向の違いが影響していた可能性がある。
体支持持続時間が直接的に影響した要因は,25 m走,立ち幅跳びおよび両足連続跳び越しであった。体支持持続時間は,両手で身体を支持し続ける課題であり16),上肢から肩甲帯,体幹による身体の支持性と,身体の平衡を保つための静的バランスが要求される。25 m走だけでなく,立ち幅跳びおよび両足連続跳び越しでは,いずれも身体の前方移動において体幹を安定させた上で,上肢の振り出しを利用することで,運動を効率的に行うことができる。また,幼児に対する介入研究において,バランス能力を高めることで走力,跳躍力が向上したことが報告されている43)。そのため,身体の支持性と静的バランスは,走行,跳躍といった動的なパフォーマンスの基盤として直接的に影響していると考える。
重心動揺検査における静的バランスのうち,フォームラバー上での閉眼による指標であるFEC単位面積軌跡長が体支持持続時間を介して,間接的に25 m走,両足連続跳び越しおよび立ち幅跳びに影響した。体支持持続時間については,上肢で身体を空間で支える持久性の指標とされており44),握力と相関することが報告されている45)。一方で,4~6歳の行動観察から前庭覚,触覚,固有感覚,聴覚,視覚,味覚の感覚機能に関連する行動を評価する日本感覚統合インベントリー短縮版では,前庭覚が関連する行動観察項目が体支持持続時間と有意な相関関係があったことが報告されている46)。これは,空間で身体を安定して支持するためには,筋骨格系による持久性と,前庭覚による頭部の空間定位に基づく姿勢制御が影響することを示唆している。また,前庭機能障害を合併する聴覚障害児47)の体支持持続時間は,健常児と比較して4~6歳のすべての年齢区分で有意に低値であったと報告されている48)。これらのことから,空間で身体を支持する体支持持続時間において,頭部の空間定位のために前庭覚による姿勢制御が影響していたと考える。さらに,走行や跳躍において,頭部が動く中で安定した視覚情報を得る機序として,頭部の運動と反対に眼球が同じ速度で動く前庭眼反射は,動く速さに適応する特性がある49)。半規管形成不全児では首が座る時期や自立歩行開始時期が遅延し50),前庭機能が低下した患者は歩行中の上肢の運動51)と頭部運動が減少する52)ことが報告されている。そのため,走行や跳躍といった動的なパフォーマンスにおいて,前庭覚による反射性の姿勢制御が身体の支持性を介して間接的に影響していたと考える。
本研究の限界として,基本的な動きの測定項目を限定したため,走行の構造を説明する要因が不十分であったことが挙げられる。また,基本的な動きの量的な評価は行っていたが,身体操作の質的評価ができていなかった。基本的な動きの質的評価として,観察による5段階評価法が開発されている53)。そのため,今後は測定項目および質的評価を行うことで,幼児に対する基本的な動きの量と質の両面から運動発達への助言の一助としていきたい。また,幼児の運動発達の背景として,日常生活における身体活動量と保護者の運動に対する考え方を調査し,基本的な動き能力への影響を明らかにすることで,保育現場や保護者と一緒に幼児の運動発達を促せるようにしていきたい。
本研究では,定型発達幼児を対象に基本的な動きと足部・足趾形態とバランス能力の関連性について,共分散構造分析による要因構造モデルを構築した。その結果,走行が基本的な動きのコオーディネーション能力のうち分化能力の指標として,立ち幅跳びによる瞬発力,土踏まずの形成度,両足連続跳び越しによる動的バランスおよび体支持持続時間による身体の支持性が直接的に影響し,前庭覚による反射性の姿勢制御が身体の支持性を介して間接的に動的パフォーマンス課題に影響していることが明らかになった。本研究の結果は,幼児期の運動発達を促進するために必要な運動経験の種類を提示する基礎的資料として意義があり,母子保健領域に従事する理学療法士の乳幼児健診における運動発達支援や保育士への指導54)に寄与すると考える。
本研究を行うにあたりご協力いただいたI市保育協会,6園で参加していただいた園児および保護者,保育者の皆様に深く感謝申し上げる。
本研究は科研費23K02246の助成を受けて行われた。
本研究に関する利益相反はない。