2026 年 53 巻 4 号 p. 274-279
【目的】低侵襲心臓手術後に再膨張性肺水腫を発症し離床が遅延したが,適切な病態評価と医学的管理,呼吸理学療法を中心とした介入により離床遅延を挽回し,運動耐容能の改善を認めたため,その経過を早期離床例との比較を交え報告する。【経過】症例は60歳代男性,三尖弁形成術,心房中隔欠損閉鎖術が施行され,術後に再膨張性肺水腫を発症し離床が遅延した。急性期は病態評価にもとづき酸素療法や薬物療法などの医学的管理と呼吸理学療法を中心に介入を行い,段階的離床と運動負荷漸増を図り術後15日目に退院した。病態評価にもとづく適切な介入により離床遅延挽回につながり,早期離床例と比較し入院期間の長期化に至らなかった。退院後も外来理学療法を継続し健常人同等の運動耐容能改善を認め社会復帰を果たした。【結論】適切な病態評価にもとづく個別性を考慮した理学療法介入は,離床遅延挽回と運動耐容能改善をもたらす可能性が示唆された。
心臓外科手術における技術進化はめざましく,低侵襲心臓手術(minimally invasive cardiac surgery:以下,MICS)が普及し2018年に保険適用された。宇都宮記念病院(以下,当院)では2024年から完全3D胸腔鏡下MICSを施行している。MICSの利点として,胸骨骨髄炎の懸念がない,創が目立ちにくい,術後の運動制限時間が短く社会復帰が早いなどが挙げられ1),その効果は開創器を使用しない完全胸腔鏡下でのMICSで顕著である。MICSは術後回復が早く早期心臓リハビリテーション介入が可能となる一方で,術後介入における注意点の検討が課題である2)。
近年,手術と術後管理の進歩から,術当日に人工呼吸器を離脱し,術翌日から立位および歩行を開始し,術後4日目に歩行自立を目指すプログラムが標準となっている3)。その心臓手術後リハビリテーションの標準的な進行から逸脱する離床遅延例は心臓手術後患者の8.7~25.4%である4)と報告されており,詳細な病態評価や具体的な介入方針の明示がのぞまれる。今回,MICS後に再膨張性肺水腫(re-expansion pulmonary edema:以下,RPE)を発症し早期離床に難渋したものの,離床遅延の挽回と運動耐容能改善に至った理学療法介入を経験した。MICS後にRPEを発症した報告は少なく,さらに心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise testing:以下,CPX)を実施して運動耐容能の改善度を詳細に示した報告は稀有である。MICS後の早期離床例との比較を交え心臓手術後理学療法における病態評価や介入方針,継続的介入の必要性などを再認識させる一例であるため報告する。
倫理的配慮として,患者に対して本報告の目的と意義について文書および口頭にて十分に説明を行い書面にて同意を得た。また,本報告は社会医療法人中山会倫理委員会にて承認を得た(承認番号:2025-016)。
60歳代・男性。
2. 診断名三尖弁閉鎖不全症兼肺動脈弁閉鎖不全症,心房中隔欠損症(atrial septal defect:以下,ASD)。
3. 既往歴なし。
4. 現病歴1年3カ月前に健診にて肺動脈拡張を指摘され受診した。精査の結果,巨大ASDと三尖弁閉鎖不全症にて手術方針となった。
5. 入院時身体・検査所見・身長175.1 cm,体重62.9 kg,Body Mass Index(以下,BMI) 20.5 kg/m2。
・血圧124/75 mmHg,経皮的酸素飽和度(saturation of percutaneous oxygen:以下,SpO2)99%(室内気)。
・心電図:洞調律,心拍数83 bpm。
・胸部単純X線検査:心胸郭比52%,肺うっ血・胸水貯留を認めず(図1a)。

a:術前2日.b:術後1日目,再膨張性肺水腫による著しい肺野の透過性低下を認めた.
c:術後4日目.d:術後13日目,肺野の透過性低下は改善し,正常な画像所見となった.
・心臓超音波検査:左室拡張終期径48.3 mm,左室収縮終期径32.0 mm,左室駆出率63%,肺体血流比1.59。
・経食道心臓超音波検査:ASD(二次欠損型,欠損孔28.1 mm×18.3 mm)。
・呼吸機能検査:%肺活量72.1%,1秒率79.2%。
・血液検査:白血球数6300 µL,C-reactive protein(以下,CRP)0.04 ug/L,血色素量12.7 g/L,brain natriuretic peptide 45.8 pg/mL,尿素窒素9.9 mmol/L,クレアチニン0.63 umol/L,アルブミン(Albumin:以下,Alb)4.1 g/L。
・冠動脈造影検査:有意狭窄なし。
・右心カテーテル検査:平均肺動脈圧23 mmHg,肺動脈楔入圧12 mmHg,右房圧10 mmHg,右室圧12 mmHg。
・術前リスク(Japan SCORE)5):30 Days Operative Mortality 1.0%,30 Days Operative Mortality+主要合併症5.8%。
6. 術前理学療法評価表1に示す。
| 評価項目 | 本症例 | 参考(早期離床例) | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 手術前日 | 術後125日目 | 手術前日 | 術後83日目 | ||
| SPPB | /12点 | 12 | 12 | 12 | 12 |
| バランス | /4点 | 4 | 4 | 4 | 4 |
| 4 m歩行 | /4点(秒) | 4 (2.0) | 4 (1.88) | 4 (3.44) | 4 (2.88) |
| 5回椅子からの立ち上がり | /4点(秒) | 4 (8.4) | 4 (7.12) | 4 (8.22) | 4 (7.75) |
| 握力 | kg | 右24.2/左25.1 | 右27.9/左28.4 | 右23.0/左24.6 | 右19.9/左23.6 |
| 膝伸展筋力 | kgf | 右14.4/左12.9 | 右21.3/左20.7 | 右22.0/左22.1 | 右29.1/左23.5 |
| 膝伸展筋力体重比 | % | 右22.9/左20.5 | 右33.8/左32.9 | 右51.6/左51.9 | 右72.8/左58.8 |
| TUG | 秒 | 5.3 | 4.8 | 7.6 | 7.2 |
| 10 m歩行テスト | 秒 | 4.8 | 3.8 | 6.4 | 6.5 |
| 6MWD | m | 541 | 654 | 526 | 575 |
SPPB: short physical performance battery, TUG: timed up and go test, 6MWD: six-minute walk distance.
MICS(三尖弁形成術・ASD閉鎖術,右第5肋間開胸,手術時間212分,麻酔時間321分,人工心肺時間124分,大動脈遮断時間77分,出血量663 mL,人工呼吸器離脱時間520分,最低体温32.9°C)を施行し,肺高血圧により術中から一酸化窒素(inhaled nitric oxide:以下,iNO)療法を開始した。術後約9時間で抜管後は高流量鼻カニュラによる酸素療法(Nasal High Flow:以下,NHF)流量50 L/min,吸入気酸素濃度(fraction of inspiratory oxygen:以下,FiO2)60%,iNO(5 ppm)で呼吸管理が行われた。術後1日目よりNHFおよびiNO使用下で理学療法を開始した。iNOは心臓手術後の肺高血圧の改善目的で使用され,術後のiNO使用による効果と安全性は報告されている6)。そのため,高度治療室(High Care Unit:以下,HCU)での理学療法は各種ガイドラインの基準3)7)を参考にし,医師立会いのもと身体所見やバイタルサインなどの他覚的指標をもとに離床を図った。術直後の胸部単純X線検査から肺野の透過性低下を認めRPE発症と考えていたが,術後1日目朝6時の動脈血酸素分圧(arterial partial pressure of oxygen:PaO2)/FiO2比(以下,P/F比)231.7であり,NHF(流量30 L/min,FiO2 50%)使用下で午前に20分の端座位離床は可能であった。正午のP/F比が110.5に低下し,NHF(流量40 L/min,FiO2 60%)に変更となった。午後の理学療法前にはP/F比が152.5に向上したが,立位負荷は達成できなかった。実施前SpO2 96%,安静時SpO2 94%であったが実施後にSpO2が88%に低下し,FiO2 100%に変更となった。このことより術直後からRPEを発症し,術後1日目の正午にP/F比が急激に低下し増悪傾向を呈したと判断された。夕方の胸部単純X線検査にてRPE増悪を確認し(図1b),呼吸状態が悪化したためステロイドが投与された。術後2日目はNHF(流量40 L/min,FiO2 80%),iNO(5 ppm)使用下でP/F比は103.4でありベッドサイドにて体位変換呼吸介助手技・排痰などの呼吸理学療法を中心に実施した。SpO2 94%を維持していたが,体動時の呼吸困難感著明で,水泡音を聴取した。術後3日目はNHF(流量40 L/min,FiO2 70%),iNO(5 ppm)使用下で呼吸理学療法を実施した。P/F比は285.7に向上しており,呼吸困難感は軽減し水泡音は軽減した。術後1日~3日目までは体動にともなう創部痛(右第5肋間開胸創35 mm,右側胸上部ポート創10 mm,5 mm,計3か所)が生じ,鎮痛剤を使用しながら介入した。術後1日目昼から食事開始となったが,食思不振により術後2日目まで摂取できず,術後3日目夕から2~3割程度摂取可能になった。睡眠は夜間におおむね確保できていたが熟睡感は得られなかった。術後4日目はP/F比は360に向上し,胸部単純X線検査で肺野の透過性改善を確認したため(図1c),低流量鼻カニュラ(流量3 L/min),iNO(1.0 ppm)使用下で,午前に座位での呼吸理学療法の他に立位足踏みを実施した。午後はHCU内のトイレに症状なく車いすを使用して移動できることを確認した。術後4日目夕方にiNOが終了となり,術後5日目に低流量鼻カニュラ(流量3 L/min)使用下でHCU内トイレ移動程度の20 m歩行を4セット実施し,SpO2 98%を維持し呼吸困難感なく遂行可能であった。また,術後5日目から8割以上の食事摂取が可能となり排便がみられた。術後6日目に尿道留置カテーテルを抜去しトイレでの排泄を達成した。同日に酸素投与が終了してHCUを退室し,以降は徐々に歩行距離の延長,日常生活活動(Activities of Daily Living:ADL)の拡大,運動負荷の漸増を行った。術後13日目に胸部単純X線所見は正常化した(図1d)。同日に医師指示のもと運動処方目的で無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold:以下,AT)検出までのCPXによる運動耐容能評価を行った(肺運動負荷モニタリングシステム(ミナト医科学株式会社,AE-310S),運動負荷心電図測定装置(日本光電工業株式会社,STS2100),エルゴメータ(三菱電機エンジニアリング株式会社,ストレングスエルゴ8))。ステロイド投与は術後14日目まで漸減し終了となり,術後15日目に退院した。

二重線矢印:本症例の術後経過.点線矢印:早期離床例の術後経過.a:術後呼吸状態の推移.b:離床達成状況(早期離床例との比較).
註1:術後は同期式間欠的強制換気およびプレッシャーサポートによる人工呼吸器管理を行い,術後9時間で人工呼吸器から離脱した.離脱後は術後4日目午前まで高流量鼻カニュラによる酸素療法(nasal high flow: NHF)を実施した.註2:術中から一酸化窒素(inhaled nitric oxide: iNO)使用し,術後4日目に漸減して夕方で終了となった.
P/F比:arterial partial pressure of oxygen(PaO2)/ fraction of inspiratory oxygen (FiO2) 比,NHF: Nasal High Flow, iNO: inhaled nitric oxide, CPX: cardiopulmonary exercise testing, CE: cycle ergometer.
フロセミド錠10 mg,エプレレノン錠25 mg,ビソプロロールフマル酸塩錠2.5 mg(運動処方に影響を与える薬剤のみ抽出)。
9. 退院時検査所見・心臓超音波検査:左室駆出率57.6%,三尖弁閉鎖不全症,明らかな心内シャントや左房圧上昇,うっ血を示唆する所見を認めず。
・血液検査:白血球数9100 µL,CRP 0.19 ug/L,血色素量14.1 g/L,尿素窒素13.2 mmol/L,クレアチニン0.68 umol/L,Alb 4.1 g/L。
10. 退院時運動耐容能表2に示す。
| 本症例 | 参考(早期離床例) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 術後13日目※註1 | 術後58日目 | 術後133日目 | 術後13日目※註1 | 術後69日目 | ||
| peak V̇O2 | ml/min/kg | 13.0 | 17.4 | 25.8 | 10.8 | 22.6 |
| % peak V̇O2※註2 | % | 50.1 | 67.0 | 99.3 | 46.9 | 98.1 |
| peak R | 0.93 | 1.07 | 1.11 | 0.90 | 1.20 | |
| peak WR | watt | 59 | 84 | 122 | 40 | 84 |
| % peak WR※註3 | % | 53.0 | 67.0 | 98.0 | 58.0 | 129.0 |
| peak METs | 3.71 | 4.98 | 7.36 | 3.1 | 6.46 | |
| AT-V̇O2 | ml/min/kg | 11.3 | 12.8 | 17.9 | 9.4 | 16.9 |
| %-AT※註2 | % | 73.2 | 82.9 | 115.9 | 62.7 | 112.6 |
| RCP-V̇O2 | ml/min/kg | 解析に至らず | 17.7 | 24.6 | 解析に至らず | 19.7 |
| peak ETCO2 | % | 6.41 | 6.43 | 6.12 | 5.64 | 5.60 |
| ΔςΟ2/ΔWR | ml/min/W | 5.93 | 9.04 | 11.2 | 5.9 | 9.08 |
| minimum VE/VCO2 | ml/ml | 34.2 | 31 | 28.4 | 42.2 | 34.6 |
| V̇E vs. V̇CO2 slope | 34.2 | 29.5 | 30.5 | 33.9 | 34.1 | |
| peak borg scale | SOB17/LF13 | SOB15/LF13 | SOB12/LF16 | SOB13/LF13 | SOB14/LF15 | |
註1:術後間もない時期であるため安全性を優先し,医師指示にてAT検出後に検査終了とした.註2:伊東らの標準値をもとに算出した8).註3:安達らの「最高仕事率の標準値」をもとに算出した9).
CPX: cardiopulmonary exercise testing(心肺運動負荷試験),V̇O2: oxygen uptake(酸素摂取量),R: gas exchange ratio(ガス交換比),WR: work rate(仕事率),METs: metabolic equivalents, AT: anaerobic threshold(嫌気性代謝閾値),RCP: respiratory compensation point(呼吸性代償開始点),ETCO2: end-tidal carbon dioxide tension(呼気終末二酸化炭素濃度),V̇E: minute ventilation(分時換気量),V̇CO2: carbon dioxide output(二酸化炭素排出量),SOB: shortness of breath(息切れ),LF: leg fatigue(下肢疲労).
週1回の頻度でATでの運動処方にもとづいたサイクルエルゴメータおよび下肢レジスタンストレーニングからなる監視型運動療法を行った。ATの心拍数をもとにしたウォーキングや下肢レジスタンストレーニングを指導し,自宅での非監視型運動療法を週3日以上継続した。術後2カ月で軽労作の労働条件で復職したが,術後58日目のCPXでの運動耐容能改善は不十分であり理学療法を継続した。術後133日目で運動耐容能の改善を認め,重労作を含む社会復帰を果たし,術後147日目で終了した。
12. 終了時理学療法評価心臓手術後リハビリテーション遅延の要因として年齢,術前腎機能障害,低心機能,手術侵襲の関与が報告されており10),本症例においてはこれらの要因を認めなかった。さらに,心臓手術後の100 m歩行自立日を術前情報や手術情報(手術の緊急度,年齢,性別,BMI,慢性腎臓病の有無,不整脈,心血管治療歴,術前New York Heart Association心機能分類,麻酔時間,出血量,術後帰室から人工呼吸器離脱までの時間)から予測すると,術後3.7日と予測された11)。また術前身体所見においてフレイルが認められなかったことやJapan SCORE5)から早期離床は首尾よく遂行できると予測された。
しかし,術後のRPE発症にともなう呼吸状態悪化により離床が遅延し,急性期は呼吸理学療法を中心に実施した。当院におけるMICS施行後の早期離床例(60歳代女性,僧帽弁形成術・三尖弁形成術,術後19日目退院)と比較すると,トイレ程度の短距離歩行が開始されるまで4日間遅延した(図2)。
2. RPEを発症した病態評価と理学療法介入RPEは虚脱した肺を再膨張させた後に発症する血管透過性亢進型の肺水腫であり,MICSに関連したRPEでは比較的短時間でも発症し時に重症化する12)ことが報告されている。また,術前Alb値,分離肺換気時間,大動脈遮断時間,手術時間,術中新鮮凍結血漿投与量などの因子が術後酸素化能低下の発生に関係している可能性13)も報告されている。
本症例はASDによる左–右シャントに伴う高肺血流曝露の状態で長年経過し,肺高血圧に近似した病態を呈していた。肺高血圧はガス交換に有効な肺血管床を減少させ,肺胞でのガス交換率を低下させる9)ことから,本症例において肺血管予備能の低下が生じていたと予測された。本症例におけるRPE発症機序は,通常合併症として想定されるMICSにともなう右肺虚脱だけに起因するRPEではなく,肺血管予備能の低下と術中および術後の血行動態変化が関連した結果であると推察される。肺血管予備能の低下によって,術中の人工心肺使用による肺血流停止と術後の肺再膨張および急激な血流再開に適応しきれず,肺血管に水分漏出が生じたことが推察された。人工心肺使用により生じる活性酸素が肺合併症をもたらしやすいと指摘されており14),また肺再膨張にともなう物理的刺激や肺高血圧がRPEに関連することが報告されている15)16)。77分という大動脈遮断時間にもかかわらず発症した本症例のRPEは,これらが複合的に作用したことが発症機序であると推察された。この病態を術前予測していたため,医学的管理としてiNOを術中から開始し術後5日目まで使用した。また,抜管後から術後4日目までのNHF使用,術後14日目までステロイド投与が行われた。
酸素療法に関して,iNOは肺血管を選択的に拡張させ17),換気血流比を改善するため,心臓手術後の肺高血圧患者に有効である18)とされている。また,NHFは心臓外科術後患者の酸素化能を改善させ19),従来の酸素療法よりも有効であることが報告されている20)。薬物療法に関しては,ステロイドが血管内皮障害の原因と考えられている液性因子の産生や,びまん性肺胞障害による不可逆的な線維化の抑制に寄与するとされている21)。こうした医学的管理のもと,理学療法は術後3日目まで体位変換呼吸介助手技や排痰,コンディショニングなどの呼吸理学療法を中心に行った。ベッド上の姿勢が横隔膜運動や換気量に影響を及ぼす22)ことが報告されており,端座位時間以外でもベッド上座位姿勢の調整をHCU看護師と協働して行った。術後の酸素療法と薬物療法,病態評価を軽視した一律的な早期離床ではなく適切な病態評価にもとづく呼吸理学療法を中心としたプログラム,HCUとしてのチームアプローチが奏功し,呼吸機能の改善と離床遅延の挽回につながったと考えられる。結果的に早期離床例と同じ術後13日目にCPXを実施できるまでに至り入院期間の長期化を防ぐことができた(図2)。
回復期における外来理学療法では,早期離床例は術後69日目のCPXと術後83日目の身体機能評価において改善を確認できた(表1, 2)。一方,本症例は術前の高肺血流に曝露された肺血管予備能低下と術後RPEという病態から短期的な運動耐容能改善は困難であると推察され,実際に術後58日目のCPXでは運動耐容能改善度合いは不十分であった(表2)。よって早期離床例よりも長期的な介入を要するものと考え,術後5カ月まで運動療法の他に非監視型での自主トレーニングや生活指導を含めた外来理学療法を継続した。本症例は最高酸素摂取量の完全な改善が難しいことも想定されたが,術後133日目のCPXでは健常人以上の運動耐容能改善を図ることができた(表2)。術後125日目の身体機能評価では膝伸展筋力の改善度合いこそ不十分であったが(表1),CPXでの%仕事率から推察される総体的な骨格筋機能は良好であると考えられた。最終的に運動耐容能は改善し完全社会復帰を果たすことができた。
3. 本報告の限界MICS後のRPE発症例に対して良好な経過を得られたが,単一症例の検討にとどまる。これは本報告の限界である。今後は引き続き症例の蓄積を行い,MICS後の呼吸機能低下要因の詳細な分析と理学療法効果を明確にする必要がある。
MICS後の理学療法では病態評価に基づき個別性を踏まえたアプローチを展開し,その病態に応じて長期的介入を検討する必要性がある。これらの理学療法介入が離床遅延挽回と運動耐容能改善に寄与しうる可能性が示唆された。
開示すべき利益相反はない。
本報告の要旨は第32回日本心臓リハビリテーション学会学術集会(2026年7月18–19日,千葉県)で発表した。