理学療法学
Online ISSN : 2189-602X
Print ISSN : 0289-3770
ISSN-L : 0289-3770
症例報告
術前からの呼気トレーニングを含む呼吸筋トレーニングの効果が示唆されたDuchenne型筋ジストロフィー児の一症例
附田 紘介 古川 徹宮部 由利笹沼 直樹内山 侑紀道免 和久
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2026 年 53 巻 4 号 p. 280-285

詳細
要旨

【目的】全身麻酔下で胃瘻造設術を予定した呼吸機能低下の著しいDuchenne型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy:以下,DMD)児に対し,術前から水吹きを用いた呼気筋トレーニングを含む呼吸理学療法を実施し,呼吸・咳嗽機能の改善を認めたため報告する。【方法】症例は16歳男児。最大呼吸気圧,最大強制吸気量,咳嗽力はいずれも低値であった。術前約70日間,エアスタッキングを伴う吸気筋トレーニング,機械的排痰補助による肺リクルートメント,水吹き呼気筋トレーニングを継続した。【結果】介入後,呼吸・咳嗽機能は改善し,術後呼吸器合併症を認めず自宅退院した。【結論】DMD児の周術期において,肺リクルートメントと呼吸筋トレーニングを組み合わせた包括的介入は,呼吸・咳嗽機能改善に寄与する可能性がある。特に水吹き呼気筋トレーニングは,負荷量を調整しやすく,簡便かつ在宅でも安全に継続しやすい実用的な介入として有用である可能性が示された。

はじめに

Duchenne型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy:以下,DMD)は,ジストロフィン遺伝子異常によるジストロフィンタンパクの欠損により引き起こされる。臨床症状は全身の筋力低下に始まり,呼吸不全,心不全(拡張型心筋症様),嚥下障害,知的障害や発達障害などを呈し,それらが相互に関連しあう複雑な病態となる1。DMD児は呼吸機能の低下に伴い咳嗽力が低下することで,気道内分泌物の除去が困難となりやすく気道閉塞による呼吸困難や肺炎を合併する可能性が高い2。特に全身麻酔下で手術予定のDMD児は呼吸不全や人工呼吸器離脱困難となるリスクが高く,事前に予防策が必要である3

術後の合併症予防や早期の人工呼吸器離脱には咳嗽などによる気道内分泌物の除去が重要となるが,その際,最大呼気流速(Cough Peak Flow:以下,CPF)が重要とされる。日常的にCPFが160 L/min以下,上気道感染時には270 L/min以下で気道内分泌物の除去が困難になる4。有効な咳嗽を得るためには1)吸気期,2)圧縮期,3)呼気期それぞれが十分に機能する必要があり,胸郭の拡張性,呼吸筋力が必要となる56

DMD児の呼吸理学療法としてはその疾患特性から,肺の健常性を保つための肺リクルートメント(Lung Volume Recruitment:以下,LVR)が有用である1。病期の進行に伴って呼吸筋力や咳嗽機能が低下し,気道クリアランス障害や周術期呼吸器合併症のリスクが高まる。そのため,呼吸管理においては,LVRや咳介助(cough assistance)を含む包括的な呼吸理学療法が重要とされている7。また,呼吸筋トレーニングに関しては長期的には過用(overuse)による呼吸筋へのダメージを引き起こすため推奨されていない810。一方で,手術前における短期的な呼吸状態改善目的の吸気筋トレーニングには効果が期待できる1112が,呼気筋トレーニングについての報告は渉猟し得た限りではない。

本症例は呼吸機能が著しく低下したDMD児であり,全身麻酔下での胃瘻造設術予定であった。吸気筋トレーニングやLVRに加え,簡便かつ自主訓練が可能な呼気筋トレーニングを実施するため,介入方法を工夫した。術前から理学療法を開始し,呼気筋トレーニングを含めた周術期理学療法介入を行った。介入方法を工夫することにより自宅でもトレーニングを継続することができ,術前には呼吸機能の向上を認め術後合併症なく自宅退院に至ったため報告する。

また,本症例報告の公表にあたり,個人情報の保護に十分配慮したうえで,患児本人および保護者より文書による同意を得た。

症例紹介

症例は16歳男児であり,DMDの診断を受けていた。身長:147.0 cm,体重:18.0 kg,Body Mass Index(以下,BMI):8.3 kg/m2。厚生省筋ジストロフィー研究班による新機能障害度はステージ8で自己での座位保持不可能であり,上肢運動機能障害分類はステージ9で机上での手の運動のみ可能であった13。その他としては,軽度の精神遅滞があるが意思の疎通や従命は可能であった。

入院前は特別支援学校へ通学しており,在宅医療中心で経過していた。夜間のみ非侵襲的陽圧換気療法(Noninvasive Positive Pressure Ventilation:NPPV)を使用し,就寝前に喀痰貯留がある場合に限り排痰補助器械を使用し機械的排痰補助(Mechanical Insufflation-Exsufflation:以下,MI-E)を行っていた。食事は経口摂取量が低下し,栄養補助飲料が追加されたが改善に乏しく,半年で4 kgの体重減少がみられたため,精査目的に20XX年X月(第0病日)に兵庫医科大学病院(以下,当院)入院となった。

介入前の自宅での食事によるエネルギー摂取量は300~500 kcal/日程度と少なく,栄養補助飲料が追加されていたものの,十分な経口摂取は困難であった。入院後も経口摂取は0~2割程度にとどまり,経腸栄養で720 kcal/日が追加された。入院中,栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:NST)介入は行われていなかった。

経過

第1病日に理学療法を開始し,術前検査後に一時自宅退院となった。その後,第30病日に再入院したが,再入院後も経口摂取は0~2割程度にとどまり,経鼻経腸栄養を併用して栄養管理が行われた。第51病日に全身麻酔下での胃瘻造設術を施行された。胃瘻造設後は栄養量を漸増し,最終的に1200 kcal/日まで増量され,第76病日に自宅退院に至った。体重は再入院時18.0 kg,術前18.8 kg,退院前19.3 kgで推移した(図1)。

図1 症例の経過

入院後は経口摂取(0~2割)に加え栄養補助飲料が追加され,エネルギー摂取量は増加するものの,一時自宅退院後は経口摂取および栄養補助飲料の摂取困難で,再入院時は体重,エネルギー摂取量ともに低下していた.胃瘻造設後は栄養量を漸増し,最終的に1200 kcal/日まで増量され,第76病日に自宅退院に至った.呼気筋トレーニングの負荷量はMEPの10%から開始し,修正Borg scaleおよび翌日の疲労感を基準に段階的に増加させた.自宅での自主訓練は,吸気筋トレーニング,MI-EによるLVR,呼気筋トレーニングであった.実施頻度は平日毎日としたが,MI-EによるLVRについては機器への抵抗もあり,7割程度で一部実施困難日を認めた.

MEP: Maximal Expiratory Pressure, MI-E: Mechanical Insufflation-Exsufflation, LVR: Lung Volume Recruitment.

理学療法初期評価(第1病日)

第1病日より術前呼吸リハビリテーション目的に理学療法を開始し,同日初期評価を実施した。体重は18.0 kg,厚生省筋ジストロフィー研究班による新機能障害度はステージ8であった。筋力はManual Muscle Testing(以下,MMT)で測定した。頚部,手関節以遠では1レベル,それ以外の筋はMMT0レベルであった。関節可動域(Range of Motion:以下,ROM)はゴニオメーターを使用し測定したが股関節屈曲20°,膝関節屈曲70°,足関節底屈25°の拘縮を認めており,手指も屈曲拘縮していた。呼吸機能はスパイロメーター(CHEST社,SPIROMETER HI-801)を用いて測定した。測定姿勢はベッドアップ座位で上肢はオーバーテーブル上に乗せて行った。2度測定し最大値を採用した。努力性肺活量(Forced Vital Capacity:FVC)は0.69 L,最大呼気圧(Maximal Expiratory Pressure:以下,MEP)は9.7 cm H2O,最大吸気圧(Maximal Inspiratory Pressure:以下,MIP)は27.6 cm H2Oであった。最大強制吸気量(Maximal Insufflation Capacity:以下,MIC)はバッグバルブマスクを使用し測定した13。CPFは簡易式ピークフローメーターで測定し,自己で120 L/min,理学療法士の徒手介助下で170 L/min,MI-Eと徒手介助を組み合わせて行い210 L/minであった。胸郭拡張差は,仰臥位で剣状突起高の胸郭周径をテープメジャーで測定した。最大吸気時と最大呼気時の周径差を0.1 cm単位で測定し,各2回の平均値を用いた(表1)。

表1 呼吸機能およびADL評価

第1病日第50病日第73病日
呼吸
FVC(L)/%FVC(%)0.69/22.10.90/290.96/30.8
FEV1.0 (%)95.598.6103
MEP (cm H2O)9.712.413.6
MIP (cm H2O)27.631.734.9
MIC (L)0.981.211.32
CPF(L/min)
(自己)120150170
(徒手介助)170210230
(MI-E+徒手介助)210240280
持続呼気時間(秒)6.58.28.5
胸郭拡張差(cm)2.53.24.8
食事量1~2割1~2割+胃瘻
ADL WeeFIM(点)50

FVC: Forced Vital Capacity(努力性肺活量),FEV1.0: Forced Expiratory Volume(1秒率),MEP: Maximal Expiratory Pressure(最大呼気圧),MIP: Maximal Inspiratory Pressure(最大吸気圧),MIC: Maximal Insufflation Capacity(最大強制吸気量),CPF: Cough Peak Flow(最大呼気流速),MI-E: Mechanical Insufflation-Exsufflation(機械的排痰補助),ADL: Activities of Daily Living(日常生活動作),WeeFIM: Functional Independence Measure for Children(子どものための機能的自立度評価法).

理学療法介入

1. 吸気筋トレーニング(図2

500 gの重錘を使用し腹式呼吸練習を5回1セットとし,2セット実施した。吸気位には1秒程度のエアスタッキングを指導し実施した。視覚的・触覚的フィードバックを得られやすくするために重錘を使用し腹式呼吸の誘導を行ったが過負荷を防ぐため500 gと低負荷で実施した。疲労度については修正Borg Scaleで評価し修正Borg Scale:5以下で実施した。

図2 吸気筋トレーニングの様子

視覚的・触覚的フィードバックを目的に500 gの重錘を使用し仰臥位で実施した.5回を1セットとし,吸気位でのエアスタッキングを指導した.

2. MI-Eを使用した肺リクルートメント(Lung Volume Recruitment:LVR)(図3

MI-E(カフベンテックジャパン株式会社製,排痰補助装置コンフォートカフII)を使用し,±40 cm H2Oで5回を3セット実施した。実施姿勢はベッド座位で患児本人には前腕部および胸部で体幹を支持してもらい,母親には頭頚部の介助とマスクフィッティングを依頼した。理学療法士は側方から呼吸介助を実施した。MI-E施行時には,LVRの目的に加え咳嗽補助を意図して呼気相に同期して理学療法士による胸郭への徒手呼吸介助を補助的に併用した。

図3 MI-Eを使用したLVR

患児は座位で上肢はクッションもしくはオーバーテーブル上に置いた.患児の母親に頭頚部の介助とマスクフィッティングを依頼した.理学療法士は側方から介助を実施した.

MI-E: Mechanical Insufflation-Exsufflation, LVR: Lung Volume Recruitment.

3. 呼気筋トレーニング(図4

紙コップに水を入れ,ストローを用いた水吹きトレーニングを実施し,水の深さで負荷量を設定した。初期評価時のMEPが9.7 cm H2Oであったため,その10%に相当する負荷量の静水圧1 cm H2O(紙コップ内の水1 cm)から開始し,修正Borg Scaleによる自覚的疲労度に合わせて30% (3 cm),50% (5 cm)負荷と漸増した(図1)。また,トレーニングは持続呼気で行い,持続時間は3秒とした。負荷量を増加させる基準は修正Borg Scale5以下,および翌日に疲労感が残らないこととし,入院中は数日おきにCPFの低下がないことも確認しながら実施した。

図4 呼気筋トレーニング

(a)1 cmずつ目印をつけた紙コップ.(b)一般的なストロー(約15 cm,内径6 mm)を使用した.水吹きは持続呼気で実施した.コップ内の水の誤嚥のリスクもあるため持続時間を短くし,鼻は塞がず鼻腔からの呼気の漏出は許容した.

本症例の主要な問題は,著明なCPF低下に伴う咳嗽機能低下であり,周術期呼吸器合併症のリスクが高い状態であった。そこで,吸気筋トレーニングは吸気量の確保を目的として行いFVCやMIP,胸郭拡張差を評価指標に用いた。MI-Eを用いたLVRは最大吸気量の拡大および咳嗽準備のために行い,MICを評価指標とした。また,呼気筋トレーニングは呼気筋力および咳嗽時呼気流速の改善を目的として実施し,指標はCPF,MEPを用いた。

また,本介入の安全性評価として,各セッションでSpO2,心拍数,修正Borg scale,呼吸状態の変化を確認した。加えて,翌日の疲労感,呼吸困難感,咳嗽困難感増悪の有無を聴取し,入院中はCPF,FVCの経時的変化を併せて確認しながら負荷調整を行った。

すべてのトレーニングは入院期間中に限らず,手術までの在宅期間においても継続するよう指導した。患児および保護者には,実施状況を自己記録するための簡易カレンダーを配布し,実施日には印を付けるよう促した。再入院時にその記録と家族からの聴取で,在宅期間中の実施状況を把握した。実施状況として,吸気筋トレーニングと呼気筋トレーニングは平日に毎日実施されたが,MI-EによるLVRについては機器への抵抗もあり,7割程度で一部実施困難日を認めた。

4. 理学療法中間評価(第50病日)

第30病日に再入院し,手術日まで入院での理学療法を実施した。手術前日の第50病日に中間評価を実施した。機能障害度はステージ8であり,MMTおよびROMにも著変はなかった。呼吸機能は僅かに向上しておりFVCは0.90 L,MEPは12.4 cm H2O,MIPは31.7 cm H2Oであった。MICは1.21 L,CPFは自己で150 L/min,徒手介助下で210 L/min,MI-Eと徒手介助の組み合わせで240 L/minであった(表1)。

5. 理学療法最終評価(第73病日)

手術後は合併症なく経過し,その間も理学療法を継続した。第76病日に自宅退院予定となり,第73病日に最終評価を実施した。機能障害度は変化なくステージ8であり,MMTおよびROMも変化は認めなかった。一方で,呼吸機能には変化が見られ,FVCは0.96 L,MEPは13.6 cm H2O,MIPは34.9 cm H2Oであった。MICは1.32 Lであり,CPFは自己で170 L/min,徒手介助下で230 L/min,MI-Eと徒手介助の組み合わせで280 L/minであった(表1)。

なお,介入期間中,明らかな呼吸状態の悪化,疲労の遷延,追加治療を要する有害事象は認めなかった。

考察

今回,呼吸機能が著しく低下したDMD児を担当した。全身麻酔下での胃瘻造設術が予定されており,著しく低下した呼吸機能では手術後の合併症や人工呼吸器の離脱が困難になる可能性が高かったため,術前から手術に向けて理学療法介入を行った。吸気筋トレーニングやLVRに加え,簡便に自主トレーニングでも実施できるように呼気筋トレーニングの方法を工夫した。その結果,自宅でもトレーニングが継続でき,術前には一時的な呼吸機能の向上を認め,術後合併症なく自宅退院に至った。

1. 介入方法について

本症例では重錘を使用した腹式呼吸練習や紙コップ内の水吹きトレーニングを実施した。先行研究における呼吸筋トレーニングには機器を使用するものや負荷量を設定しないものが散見される。機器を使用する場合は負荷量の設定は可能であるものの細かい訓練内容の調整は難しく,患児が楽しみながら行うことが難しいという問題点がある。一方,負荷量が設定されていないものでは負荷の定量化が困難であり,過用による筋力低下を引き起こす可能性がある。本症例では紙コップ内の水吹きトレーニングを導入し,水の量を調整することで負荷量を細かく設定した。その結果,簡便かつ楽しみながら定量的なトレーニングが実施できたと考えられる。

2. 負荷量・期間について

先行研究ではピークフローメーターを使用した負荷のない10回の呼気筋トレーニングを18日間実施したが筋力の向上は認められなかったとされる14。また,2カ月間にわたり20%負荷での呼吸筋トレーニングを行なった研究では,呼吸持久力の向上は認めたものの呼吸筋力の向上は認めなかったと報告されている15。本症例では73日間にわたり30~50%という中等度負荷での呼吸筋トレーニングを実施した結果,MEP/MIPは9.7/27.6 cm H2Oから13.6/34.9 cm H2Oへと向上を認めた。このことから30~50%の中等度負荷で長期間トレーニングを実施することの有用性が示唆された。また,本症例では修正Borg Scale,翌日の疲労感,呼吸状態の変化を確認しながら負荷調整を行い,介入期間中に明らかな呼吸状態の悪化,疲労の遷延,追加治療を要する有害事象は認めなかった。このことから,本症例において30~50%の中等度負荷での呼気筋トレーニングは,一定の安全性を保ちながら実施可能であったと考えられた。

3. 咳嗽機能について

術後の合併症予防や早期人工呼吸離脱には咳嗽による気道内分泌物の除去が重要であるが,CPFが160 L/min以下では日常的に気道内分泌物の除去が困難になるとされている4。神経筋疾患患者を対象とした比較研究では,徒手介助下での咳嗽,MI-E単独,MI-Eと徒手介助の併用を比較した結果,MI-Eと徒手介助の併用が最も高いCPFを示したと報告されている16。本症例でも,著明な咳嗽機能低下を認めたためLVR実施時には咳嗽補助を目的としてMI-Eによる機械的補助に加えて徒手呼吸介助を併用した。また,ピークフローメーターを使用した負荷のない10回の呼気筋トレーニングでCPFが有意に改善する可能性があると考えられている17。本症例でも最終評価時にはMI-Eおよび徒手介助併用下で280 L/minとなった。CPFの向上にはMICの増加が重要であるとされる一方で18,DMD児においてはFVCとMEPを比較した場合,MEPの方がCPFとの相関が高い19とする報告もある。本症例ではMEPとMIC,FVCのすべてに向上を認めたがそれぞれの変化率はMEP:+40%,MIC:+35%,FVC:+39%であり,MEPの変化率が最も大きかった。このことから,MICやFVCの向上に加えて,MEPの向上も咳嗽機能の改善に寄与した可能性がある。

以上のことから,DMD児に対する周術期呼吸理学療法において,中等度の負荷で継続可能な呼気筋トレーニングを包括的介入の一要素として組み込むことで,短期的な呼吸機能および咳嗽機能の改善に寄与する可能性があると考えられた。

一方で,本症例はBMI 8.3 kg/m2と著しい低栄養状態であり,介入前の食事によるエネルギー摂取量は300~500 kcal/日程度と少なく,栄養補助飲料が追加されていたものの,十分な経口摂取は困難であった。入院後も経口摂取は0~2割程度にとどまり,経腸栄養が併用され,胃瘻造設後は栄養量が1200 kcal/日まで漸増された。体重は入院時18.0 kgから術前18.8 kg,退院前19.3 kgへと推移しており,このような栄養状態および栄養管理の変化は呼吸筋機能,咳嗽機能,ならびに負荷量設定に影響した可能性がある。したがって,本症例で認めた変化を呼吸理学療法のみの効果として解釈することはできない。

また,本報告にはいくつかの限界もある。第一に,本症例は当院入院前までは自宅での呼吸機能訓練は実施しておらず,MICが低値であった。本介入ではLVRも併用しているため,呼吸筋トレーニングのみの効果は不明であると考えられる。第二に中間評価を手術直前の第50病日に実施したが,在宅介入期間中の効果判定を目的とした第30病日付近での中間評価は実施できていない。そのため,在宅期間中の各介入効果を直接評価できていない点も本報告の限界であると考える。第三に,本症例では比較的侵襲度の低い胃瘻造設術を施行されており,全身麻酔下の手術ではあるものの,脊柱固定術などの先行研究に比べて術後合併症のリスクは低かったと考えられる。第四に,本症例では栄養管理の概要および体重推移は把握できたものの,タンパク質摂取量や体組成変化などの詳細な栄養指標は十分に評価できておらず,この点は本症例の解釈における限界である。第五に,呼気筋トレーニングは,水深3~5 cm(静水圧3~5 cm H2O)に設定したコップに対し,市販ストロー(長さ約15 cm,内径6 mm)を用いて呼気を行わせた。なお,静水圧は呼気開始に必要な開口圧である一方で,ストロー径が小さい場合には呼気流に対する流体抵抗が増大し,負荷の一因となる。今回はストロー径や長さを一定とし,水深のみで段階的に負荷調整を行ったがストロー径や長さが変わる場合は負荷や疲労感は変動する可能性がある。

結論

今回,著しく呼吸機能が低下したDMD児を担当した。術前から周術期合併症の予防を目的に,負荷量や方法に留意しながら呼吸筋トレーニングを実施した。また,自宅でも継続的かつ定量的にトレーニングが行えるよう工夫した。その結果,術前には呼吸機能の改善を認め,術後の合併症なく自宅退院に至った。

利益相反

開示すべき利益相反はない。

文献
 
© 2026 日本理学療法学会連合

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
feedback
Top