理学療法学
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実践報告
キャリアパス制度の有益性認識とセラピストの職場認識との関連
—リハビリテーション部門における3年間の反復横断調査による検討—
庄司 寛
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電子付録

2026 年 53 巻 5 号 p. 367-374

詳細
要旨

【目的】本研究ではリハビリテーション部門におけるキャリアパス制度導入後の2023~2025年度の3年間(I~Ⅲ期)の反復横断調査により,キャリアパス認識の推移と,III期の有益性認識と職場認識との関連を検討することを目的とした。【方法】北海道立北見病院と北見赤十字病院のリハビリテーション部門に勤務する理学療法士,作業療法士,言語聴覚士(セラピスト)を対象に,無記名アンケート調査を実施した。3時点を比較し,III期37名を有益群23名,非有益群14名に分け職場認識を比較した。自由記述回答はKH Coderで年度別に分析した。【結果】3時点の推移に有意差はなかった。III期では有益群で,「職場の雰囲気は友好的」「働きがいのある部署」の肯定的回答が有意に多かった。自由記述回答では,年度ごとに特徴的な語の結びつきがみられ,III期では「キャリアパス」「面談」「今後」「自分」「考える」などの語が中心となった。【結論】III期では,キャリアパスの有益性認識は職場の友好性および部署の働きがいと関連した。ただし,同時点における認識間の関連であり,因果関係を示すものではない。自由記述の共起関係から,キャリアパス面談が自身の今後を考える機会として捉えられている可能性が示唆された。

はじめに

近年,専門職としての臨床能力に加え,組織人としての社会性やマネジメント能力等,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士(以下,セラピスト)の多面的な成長を客観的に支援するための明確な指標やツールが不足しており,包括的な人材育成に苦慮することが多い。Ikedaら1)は,自己成長感や満足度には,良好な人間関係に加え,肯定的な学習環境が不可欠であると報告している。特に,自己成長を促す学習環境の醸成には,単に友好的なだけでなく,厳しさや勤勉さが認識される風土が重要であるとも述べている。このような状況下で,セラピスト個々のキャリア形成を組織的に支援し,専門性を向上させるための人材育成システムとして2022年度よりキャリアパス制度(以下,キャリアパス)を導入し,セラピストが目指すべき方向性を明確化した人材育成を進めてきた。しかし,キャリアパス導入後のセラピストの認識等に関する調査は少ないのが現状である。われわれは,2023年度より3年間にわたり,キャリアパス導入後の調査を実施してきた。そこで,本研究では,キャリアパス導入後の3年間における制度認識および職場認識の推移を記述するとともに,III期(2025年度)時点におけるキャリアパスの有益性認識と,働きがいおよび職場環境の認識との関連を明らかにすることを目的とした。

対象および方法

1. 対象

北海道立北見病院と北見赤十字病院(2病院一体運営:以下,当院)のリハビリテーション部門に勤務する理学療法士,作業療法士,言語聴覚士を対象とした。各年度のアンケート配布数は,I期(2023年度)46名,II期(2024年度)46名,III期(2025年度)42名(延べ134名)であった。倫理的配慮の観点からアンケートは匿名で実施し,個人内での経年変化を追跡する対応のあるデータとしての解析は行っていない。また,退職や新規入職により年度ごとに解析対象者数は変動した。

2. 期間とデザイン

2023年4月,2024年4月,2025年4月の3時点において,Googleフォームを用いた無記名式アンケート調査を実施した。本研究は,各年度の回答をそれぞれ1つの時点における集団データとして扱う反復横断調査である。なお,解析上は各年度を独立した集団として取り扱った。

3. 当院のキャリアパスについて

本研究で対象としたキャリアパスの構成を補遺1に示す。キャリアパスは,「急性期における,あらゆるリハビリテーションのニーズに対応できる」「科として求められる人間力の向上に努める」「チームのマネジメントを通して管理力を高める」の3つの大項目を柱としている。これらはさらに「臨床能力」「リスク管理」等の臨床能力関連5項目,「自己形成力」「社会力」等の人間力関連5項目,「マネジメント力」「課題解決力」等の管理力関連5項目による計15の中項目によって構成されている。各項目はラダーレベル(適応期ラダー1~管理職ラダー5)に応じて具体的な到達目標が設定されている。なお,キャリアパスは給与や昇進を決定する人事考課とは明確に区別して運用されている。人事考課のように過去の業績を査定するのではなく,セラピスト自身が自らのキャリアビジョンに基づいて目標を設定し,その実現に向けて取り組む「未来志向型」の人材育成システムであることを特徴としている。キャリアパスは,院内アンケートやグループワークを通じて段階的に構築し,2022年7月に運用を開始した。その後も継続的な見直しを行い,2023年度には面談者研修を実施した(表1)。

表1 キャリアパス制度構築から運用に至るまでの経過

年月作業内容
2020年
10月キャリアパスワーキンググループメンバー決定(PT2名,OT2名,ST1名)
2021年
2月科内へ理想の職場についてアンケート実施
4月キャリアパスの大枠(大項目と中項目)について院長へ報告
7月科内グループワーク①(ラダー作成に向けた協議)
9月科内グループワーク②(ラダー作成に向けた協議)
10月臨床能力サブラダー作成(各課で協議)
12月科内グループワーク③(ラダー作成に向けた協議)
2022年
1月キャリアパスマニュアル作成
3月キャリアパス面談者研修会
6月院長へキャリアパス完成報告
7月キャリアパス完成・運用開始
8月キャリアパスメンテナンスワーキンググループとして活動継続 
月2回の会議を実施(2026年3月まで)
2023年
4月本研究アンケートI期
2024年
2月キャリアパス面談者スキルアップ研修(年2回)
4月本研究アンケートII期
2025年
4月本研究アンケートIII期

キャリアパス制度構築から運用までの経過を示す.グループワークを通して段階的に準備を進め,2022年に運用開始した.

4. 調査項目

I~III期ともに同様の調査項目を用いた。Q1:経験年数(1–3年目,4–5年目,6–10年目,11–15年目,16–20年目,21年目以上)。Q2:キャリアパス面談で実際に話題となった内容。Q3:面談で必要だと認識された(聞いてほしい)話題。Q2およびQ3は,面談において重要と考えられるエンゲージメント,心理的支援,キャリア発達支援の観点を踏まえ,業務の進捗や進め方,人間関係,心身状態,プライベート,今後のキャリア,スキルや能力の向上,会社や部署の方針,その他の8項目からの3つまでの複数回答とした。Q4–6:ラダー中項目15個の中で最も重要,2番目に重要,3番目に重要だと思うもの。Q7:職場の雰囲気は友好的だと思いますか。Q8:働きがいのある仕事だと思いますか。Q9:働きがいのある部署だと思いますか。Q10:キャリアパスは有益だと思いますか。Q7–10は,職業性ストレス簡易調査票2)を参考に作成し,回答は「たいへん当てはまる」「当てはまる」「どちらとも言えない」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」の5件法とした。また,Q11はキャリアパスに関する自由記載とした。

5. 分析方法

本調査は無記名式であり,個人の経年変化を追跡できないため,各年度の結果を独立した群として扱う反復横断調査の形式をとった。Q1–3およびQ4–6については,年度ごとに集計した。Q7–10については,「たいへん当てはまる」「当てはまる」を肯定的回答,「どちらとも言えない」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」を非肯定的回答として二値化し,年度間の比較にはχ2検定を用いた。また,Q10のキャリアパスの有益性に関する項目については,III期(2025年度)において,「たいへん当てはまる」「当てはまる」と回答した者を有益群,「どちらとも言えない」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」と回答した者を非有益群に分類し,Q7–9の肯定的回答率を群間で比較した。ただし,期待度数5未満のセルを含む比較についてはFisherの正確確率検定を用いた。自由記述回答の分析には,計量テキスト分析ソフトであるKH Coder3)を用いた。各年度(I~III期)の回答を独立したデータセットとして扱い,年度ごとの共起ネットワーク分析を実施した。形態素解析により抽出された語のうち,最小出現数4回以上の語を分析対象とした。対象とした品詞は,名詞(固有名詞,サ変名詞等を含む),動詞,形容動詞,副詞とした。抽出された語間の類似性(Jaccard係数)に基づくWard法による階層的クラスター分析を実施し,クラスター数は自動設定とした。さらに,語間の関連性を可視化するため共起ネットワーク分析を実施した。描画する共起関係はJaccard係数に基づき,上位60組の強い結びつきを抽出して図示した。統計学的有意水準は5%未満とした。なお,解析対象項目に欠測値は認めなかった。

6. 倫理的配慮

本研究の実施にあたり,対象者には書面にて研究の目的と内容を十分に説明し,研究参加が自由意志に基づくこと,アンケート回答の送信をもって同意取得とみなすことを伝えた。無記名式調査であるため,回収後に同意撤回の申し出があった場合は,該当アンケートを特定できずデータを除外することはできない旨をあわせて説明した。本調査はキャリアパスや職場環境といった個人の認識にかかわる内容を含むため,対象者の心理的安全性を最優先し,率直な回答を得られるように無記名式とした。当院の規模においては,経験年数に加えて職種や職位を聴取した場合,個人の特定につながる可能性があるため,これらの属性情報の収集は行わなかった。本研究は,所属施設である北見赤十字病院の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2259)。

結果

1. 経験年数の分布および面談の主な話題(Q1–3)

アンケートの回収率は,I期37名(回収率80.4%),II期35名(同76.1%),III期37名(同88.1%)であった。回答者のうち,経験年数11年以上の者は,I期62%,II期65%,III期81%を占めた。面談の話題と必要と認識された話題を表2に示す。

表2 面談で実際に扱われた話題(Q2)と面談で必要と認識された話題(Q3)

I期(2023年度)
相談項目面談の話題(Q2)必要と認識された話題(Q3)
業務の進捗や進め方30/37(81%)25/37(68%)
人間関係7/37(19%)10/37(27%)
心身状態6/37(16%)5/37(14%)
プライベート0/37(0%)3/37(8%)
今後のキャリア14/37(38%)20/37(54%)
スキルや能力の向上23/37(62%)27/37(73%)
会社や部署の方針16/37(43%)16/37(43%)
その他1/37(3%)0/37(0%)
II期(2024年度)
相談項目面談の話題(Q2)必要と認識された話題(Q3)
業務の進捗や進め方25/35(71%)25/35(71%)
人間関係5/35(14%)5/35(14%)
心身状態4/35(11%)10/35(29%)
プライベート5/35(14%)2/35(6%)
今後のキャリア20/35(57%)18/35(51%)
スキルや能力の向上24/35(69%)17/35(49%)
会社や部署の方針18/35(51%)17/35(49%)
その他0/35(0%)0/35(0%)
III期(2025年度)
相談項目面談の話題(Q2)必要と認識された話題(Q3)
業務の進捗や進め方28/37(76%)26/37(70%)
人間関係5/37(14%)12/37(32%)
心身状態9/37(24%)9/37(24%)
プライベート2/37(5%)4/37(11%)
今後のキャリア23/37(62%)25/37(68%)
スキルや能力の向上19/37(51%)19/37(51%)
会社や部署の方針18/37(49%)15/37(41%)
その他3/37(8%)0/37(0%)

面談で実際に扱われた話題(Q2)と,面談で必要と認識された話題(Q3)の選択者数/有効回答者数(%)をI期~III期について示す.Q2およびQ3はいずれも複数回答(3つまで選択可).割合は各年度の有効回答者数(I期37名,II期35名,III期37名)を分母として算出した.

必要と認識された話題においても,実際の面談で扱われた話題と類似する項目が多く選択された。なお,Q2とQ3は設問意図が異なるため,両者の比較は記述的に示すにとどめた。

2. キャリアパスの重視項目(Q4–6)(図1)

キャリアパスの15項目において重要と認識された項目の推移をI~III期にわたって分析した。その結果,「臨床能力」および「課題解決力」については,全期間を通じて高い割合で選択されており,重要視する傾向が一貫していた。一方で,「マネジメント力」や「社会力」を挙げる回答は,時期を経るにつれて増加する傾向を示した。

図1 キャリアパスにおいて重要と認識された項目の推移(I~III期)

キャリアパスのラダー中項目全15個の中で,セラピストが「最も重要」「2番目に重要」「3番目に重要」と回答した項目の推移を示す.全期間を通じて「臨床能力」および「課題解決力」への関心が高い.一方,I期からIII期にかけて「マネジメント力」や「社会力」を重視する割合が増加傾向にある.

3. 職場認識およびキャリアパス認識の推移(Q7–10)(図2)

I~III期における職場認識およびキャリアパス認識の肯定的回答率を比較した。「職場の雰囲気は友好的」は,I期40.5%(15/37名),II期28.6%(10/35名)に対し,III期は45.9%(17/37名)であり,年度間に有意差は認められなかった。「働きがいのある仕事」は,I期83.8%(31/37名),II期85.7%(30/35名),III期81.1%(30/37名)であり,有意差は認められなかった。「働きがいのある部署」は,I期51.4%(19/37名)に対し,II期は54.3%(19/35名),III期は59.5%(22/37名)であり,有意差は認められなかった。「キャリアパスは有益」は,I期45.9%(17/37名),II期は54.3%(19/35名),III期は62.2%(23/37名)へ上昇傾向を示したが,年度間に有意差は認められなかった。

図2 職場認識およびキャリアパス認識の3年間における推移

Q7–10における肯定的回答率の推移を示す.いずれの項目においても年度間に統計学的有意差は認められなかった.

4. キャリアパスの有益性認識と職場認識の関連(III期)(図3)

キャリアパスの有益性認識と職場認識との関連を検討するため,III期の有効回答37名(有益群23名,非有益群14名)を対象に分析した。「職場の雰囲気は友好的」については,有益群では15名(65.2%)が肯定的であったのに対し,非有益群では2名(14.3%)にとどまり,有益群で有意に肯定的回答が多かった(p=0.002)。「働きがいのある仕事」については,有益群では21名(91.3%),非有益群では9名(64.3%)が肯定的に回答し,有益群で肯定的回答が多かったが,統計学的有意差は認めなかった(Fisherの正確確率検定,p=0.080)。「働きがいのある部署」については,有益群では18名(78.3%),非有益群では4名(28.6%)が肯定的に回答し,有益群で有意に高かった(p=0.002)。以上より,III期時点では,キャリアパスを有益と認識する群ほど職場認識を肯定的に捉える傾向が認められた。

図3 キャリアパスの有益性認識と職場認識の比較(III期)

III期(2025年度)の有効回答者37名を対象に,キャリアパスを有益と認識した群(有益群)と非有益群における職場認識項目の肯定的回答率を比較した.有益群は全項目で非有益群より肯定的回答率が高く,「職場の雰囲気は友好的」および「働きがいのある部署」で有意差を認めた.なお,Q7およびQ9はχ2検定,Q8はFisherの正確確率検定を用いた. *p<0.05.

5. 自由記述回答のテキストマイニング分析(図4)

自由記述回答の年度別分析では,年度ごとに特徴的な語句の結びつきが認められた。I期(2023年度)では,「期待」「今後」等の語がみられた。II期(2024年度)では,「プレッシャー」「キャリアパス」「導入」「人事考課」「時間」等の語がみられた。III期(2025年度)では,「キャリアパス」「面談」「今後」「自分」「考える」等の語が中心となった。年度ごとに図示される語および共起関係には違いがみられた。

図4 自由記述回答の共起ネットワーク分析(I期~III期)

各年度の自由記述回答について,KH Coderを用いて共起ネットワーク分析を行った結果を示す.

考察

1. キャリアパスの認識(有益・非有益)に関して(Q7–10)

本研究では,III期時点において,キャリアパスを有益と認識したセラピストは,非有益群に比べ,「職場の雰囲気は友好的」および「働きがいのある部署」で有意に肯定的な評価を示した。また,「働きがいのある仕事」についても有益群で肯定的回答が多かったが,統計学的有意差は認めなかった。これは,キャリアパスを単なる業務評価ではなく,目標設定や将来像の言語化の機会として認識している者ほど,職場認識も肯定的であった可能性を示す結果と考えられる。一方,本研究の主要比較はIII期の横断的な関連を検討したものであり,キャリアパスを有益と感じることが職場認識を高めたのか,もともと職場を肯定的に認識している者がキャリアパスも有益と捉えやすかったのかは判別できない。したがって,本結果は因果関係を示すものではなく,関連性を示したものとして解釈する必要がある。また,キャリアパスを「有益ではない」と感じる層が一定数存在したことも重要で,キャリアパスの枠組みに一律に適合することを求めるのではなく,個々の価値観やキャリア志向に配慮した面談のあり方を検討する必要がある。各セラピストの歩みに寄り添う対話を重ねることが,キャリアパスへの納得感や職場での心理的安全性の向上につながる可能性がある。

2. 面談で実際に扱われた話題(Q2)と,必要と認識された話題(Q3)との関係

本研究では,実際の面談で扱われた話題と,面談で必要だと認識された話題との間に大きな乖離はみられなかった。特に「業務の進捗や進め方」「今後のキャリア」「スキルや能力の向上」「会社や部署の方針」は,実際の面談でも理想の話題としても多く選択されていた。この結果は,キャリアパスを軸とした面談が,業務確認にとどまらず,将来のキャリアや能力開発を含む対話の場として受け止められている可能性を示している。先行研究においても,上司からの支援や意識的なコミュニケーションは,職務満足感や職場満足感に関連するとされている4)5)。Van den Broeckら6)は,このような支援を通じてスタッフの心理的ニーズを満たすことは,専門職としてのウェルビーイングを維持し,燃え尽きを予防する上で極めて重要であるとしている。ただし,本研究では面談場面そのものを観察したわけではなく,面談の質を直接評価したものではない。そのため,本結果は面談内容に対する回答者の認識を示すものであり,対話の質の高さそのものを実証したものではない点に留意が必要である。

3. 職場認識およびキャリアパス認識の3年間の指標(Q7–10)の推移に関して

3年間の比較では,いずれの項目においても統計的有意差は認められなかった。したがって,本研究の範囲では,キャリアパス導入後に職場認識や制度認識が有意に改善したと結論づけることはできない。一方で,III期において「職場の雰囲気は友好的」および「キャリアパスは有益」の肯定的回答率がI期・II期に比べて上昇していた。これらはあくまで傾向として捉えるべきであるが,キャリアパス運用の定着に伴い,セラピストがキャリアパスを理解し,自身の成長や組織内での役割と結びつけて捉えるようになった可能性がある。また,キャリアパスの重視項目(Q4–Q6)において,「臨床能力」や「課題解決力」に加えて,「社会力」や「マネジメント力」を重視する回答が増加していたことは,関心の対象が個人の臨床能力から,他者との関係性や組織運営にも広がっている可能性を示している。当院のキャリアパスでは,社会力を,尊重・承認・連携・一体感を重視する行動として定義しており,こうした行動指針が共通言語として徐々に共有されていたことが,職場認識の変化と関連した可能性はある。ただし,III期では経験年数11年以上の回答者が81%を占めており,年度間で回答者構成が異なっていた。したがって,時点間の差異にはキャリアパス運用の影響だけでなく,回答者属性の変化が反映されている可能性も考慮する必要がある。さらに,本調査では「働きがいのある仕事」の肯定率は一貫して高かった。一方で,「職場の雰囲気は友好的」の肯定率は相対的に低い傾向を示した。この乖離は,仕事そのものの意義や達成感といった側面と,職場環境や対人関係に関する評価とが,必ずしも一致しないことを示唆している。Herzbergの二要因理論7)に照らすと,仕事の意義や達成感にかかわる動機づけ要因と,職場環境や対人関係にかかわる衛生要因とは区別して捉える必要があると考えられる。専門職として仕事にやりがいを感じているスタッフがI期から一定数存在したことは,この「動機付け要因」の強固さを反映している。一方で,部署としての働きがいについては,面談等を通じて衛生要因による不満を吸い上げる機会の創出や,キャリアパスによる能力向上の可能性が考えられるが,その直接的な影響についてはさらなる検討を要する。「職場の雰囲気は友好的」の肯定率が相対的に低かった背景には,業務負荷やコミュニケーション機会の制約等,複数の要因が関与している可能性がある。しかし,本研究ではその背景要因を直接検証していないため,解釈は仮説的である。仕事そのものへの満足と職場環境への満足は規定要因が異なり,本調査における数値の乖離は,スタッフが仕事そのものの価値と,職場環境やコミュニケーションに関する負荷を分けて評価していた可能性を示すものと考えられる。

4. 自由記述回答(Q11)に関して

自由記述回答の分析では,年度ごとに特徴的な語の違いがみられた。I期では「期待」「今後」,II期では「プレッシャー」「キャリアパス」「導入」「人事考課」「時間」,III期では「キャリアパス」「面談」「今後」「自分」「考える」等の語がみられた。II期に「プレッシャー」「人事考課」「時間」といった語がみられたことは,キャリアパス運用に伴う心理的・実務的負担が認識されていた可能性を示唆している。その背景として,手順への戸惑いや心理的・実務的負担が関与した可能性が考えられる。ただし,本研究ではこれらを直接検証していないため,仮説的解釈にとどまる。III期では,「面談」「今後」「自分」「考える」に加え,「話す」「機会」等の語がみられた。これらの共起関係から,面談が自身の今後について考え,話す機会として捉えられている可能性があると解釈した。ただし,本研究は面談過程そのものや対話の質を直接評価したものではなく,この解釈は探索的なものにとどまる。これらの結果は,キャリアパスが単なる評価指標としてではなく,自身の経験を振り返り,今後の成長を考える契機として機能しうることを示唆している。池田ら8)9)が指摘するように,専門職の成長には経験の意味づけや内省が重要であり,定期的な面談や目標設定は,そのような内省を支える場になりうる。Edmondson10)が指摘するように,チームや組織の構造的支援(Context Support)とリーダーのコーチングは,心理的安全性を高める先行要因である。キャリアパスにおける面談が,傾聴や受容といった支持的かかわり(コーチング的要素)を含む場合,それはセラピストの心理的安全性を支える一要素となり,深い内省や率直な発言といった学習行動を促進する土台となる。キャリアパスは個人の成長システムであると同時に,組織の心理的安全性を醸成し,組織学習を促進するマネジメントツールとしても機能しうる可能性がある。

本研究の限界として,第一に職種や職位等の詳細な属性情報を収集していないため,職種間・役職間での認識の差異を検討できなかった。第二に,無記名式調査として実施したため,個人の経年的な変化を直接追跡できず,退職や異動に伴う対象者の入れ替わりが結果に影響を及ぼした可能性を否定できない。第三に,2病院の一体運営のリハビリテーション部門を対象とした単一施設調査であり,結果の一般化には慎重さを要する。第四に,回答者の多くが経験年数11年目以上であり,若年層の認識を十分に反映できていない可能性がある。第五に,自由記述回答から面談の質的側面に関する示唆は得られたものの,実際の面談場面の観察や詳細な質的調査には至っていない。第六に,Q7–10は職業性ストレス簡易調査票を参考に本研究用に作成した項目であり,信頼性・妥当性の検証は行っていない。このため,結果の解釈には慎重さを要する。今後は,属性情報を考慮した多施設研究や,面談過程そのものを対象とした質的研究を組み合わせて検討する必要がある。

結論

本研究では,キャリアパス導入後3年間の反復横断調査により,制度認識および職場認識の推移,III期における両者の関連を検討した。3年間の比較では,各項目で有意差は認めなかった。一方,III期では,キャリアパスの有益性認識と,職場の友好性および部署の働きがいとの間に関連が認められた。ただし,これらは同時点の主観的認識間の関連であり,因果関係を示すものではない。自由記述回答では,年度ごとに特徴的な語の結びつきがみられ,III期では「面談」「今後」「自分」「考える」等の語がみられた。これらの共起関係から,キャリアパス面談が自身の今後を考える機会として捉えられている可能性が示唆された。

謝辞

本研究に協力した対象者ならびに当院リハビリテーション科の職員に深く感謝する。

利益相反

本研究に関して,開示すべき利益相反はない。

文献
 
© 2026 日本理学療法学会連合

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https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
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