理学療法学
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研究論文(原著)
回復期リハビリテーション病棟における脳卒中患者の個人レベル実績指数相当値48以上達成に対する入棟時予測モデル
—基本臨床モデルに対するBerg Balance ScaleとTrunk Impairment Scaleの追加的予測情報—
池上 滉一 , 船引 啓祐, 中谷 友哉, 田中 裕規, 虎津 裕
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ジャーナル オープンアクセス HTML

2026 年 53 巻 5 号 p. 347-357

詳細
要旨

【目的】本研究は回復期脳卒中患者の個人レベル実績指数相当値48以上達成へのBerg Balance Scale(以下,BBS)・Trunk Impairment Scale(以下,TIS)の追加的予測情報を探索的に検討することを目的とした。【方法】150名を対象に,年齢,発症後日数,入院前modified Rankin Scale(mRS),入棟時Functional Independence Measure(以下,FIM)認知項目合計からなる基本臨床モデルにBBS, TISまたは両者を追加した。Area under the receiver operating characteristic curve(以下,AUC),Brier score,較正傾き,1000回bootstrap法で記述的に評価し,FIM運動項目合計を含む感度解析を行った。【結果】基本臨床,BBS追加,TIS追加,両者追加モデルの補正後AUCは0.733, 0.772, 0.784, 0.781,補正後Brier scoreは0.204, 0.187, 0.182, 0.183であった。感度解析でも追加モデルは参照モデルより補正後AUCが数値上高く,補正後Brier scoreが低かった。【結論】BBS・TISは追加的予測情報となる可能性が示された。モデル間の優越性は評価せず,外的妥当性検証が必要である。

Abstract

Objective: This exploratory study examined whether the Berg Balance Scale (BBS) and Trunk Impairment Scale (TIS) provide additional predictive information beyond a prespecified basic clinical model for achieving an individual-level performance index equivalent of ≥48 in patients with stroke admitted to a convalescent rehabilitation ward.

Methods: Participants were 150 patients. A basic clinical logistic regression model included age, days from stroke onset to admission, pre-admission modified Rankin Scale, and Functional Independence Measure (FIM) cognitive score. Three additional models were prespecified by adding BBS, TIS, or both to the basic clinical model. Changes in predictive performance relative to the basic clinical model were descriptively evaluated using the area under the receiver operating characteristic curve (AUC), Brier score, calibration slope, and 1,000 bootstrap resamples. A sensitivity analysis incorporated the admission FIM motor score.

Results: The optimism-corrected AUCs for the basic clinical, BBS-added, TIS-added, and BBS-plus-TIS models were 0.733, 0.772, 0.784, and 0.781, respectively; the corresponding optimism-corrected Brier scores were 0.204, 0.187, 0.182, and 0.183. In the sensitivity analysis, models adding BBS, TIS, or both had numerically higher optimism-corrected AUCs and lower optimism-corrected Brier scores than the reference model.

Conclusion: BBS and TIS may provide additional predictive information beyond the basic clinical model. This study did not evaluate superiority among the additional models. External validation is required before clinical application.

はじめに

回復期リハビリテーション病棟では,入棟早期から患者の日常生活動作(Activities of Daily Living:以下,ADL)改善の見通しや退院支援上の課題を把握し,リハビリテーション目標,治療プログラム,退院支援の方向性を多職種で共有することが求められる。脳卒中患者のADL予後については,年齢,発症から回復期リハビリテーション病棟入棟までの日数(以下,発症後日数),病前ADL,認知機能,入棟時ADL,運動機能などが関連することが報告されている1–4)。Jeongら1)は,多施設大規模データを用いて脳卒中患者の退院時Functional Independence Measure(以下,FIM)予測式を開発し,回復期では年齢,発症後日数,発症前modified Rankin Scale(以下,mRS),入院時FIM運動項目合計,入院時FIM認知項目合計などが予測因子となることを示した。また,徳永ら2)は,退院時運動FIMに影響する因子は患者層により異なることを報告しており,重症脳卒中患者において年齢,入院時認知FIM,発症後日数,発症前mRS,座位安定性などが退院時運動FIMの有効な説明変数であったと報告している3)。これらの知見は,入棟時情報に基づく個別的な予後予測の重要性を示している。さらに,回復期脳卒中患者を対象とした入棟時予測モデルは,退院時FIM予測やトイレ自立など,臨床上重要なADLアウトカムに対しても応用されている4)5)。

近年,回復期リハビリテーション病棟では,患者個人のADL改善だけでなく,病棟運用および医療制度上のアウトカム指標として実績指数が重視されている。実績指数は,FIM運動項目利得を在棟日数と疾患別算定上限日数に基づいて補正して算出される指標であり,限られた入院期間の中でどの程度効率的にADLが改善したかを反映する6)7)。徳永ら6)は,FIM利得には天井効果があり,FIM効率や実績指数は在院日数の影響を受けることを指摘している。実績指数に関連する患者因子については,八木ら8)がサルコペニア,Fujiiら9)が身体機能や病前フレイル指標,井上ら10)が大腿骨近位部骨折術後例における個別症例ごとの実績指数40以上の予測因子,柴崎ら11)が栄養障害リスクとの関連を報告している。このように,実績指数は病棟単位の管理指標である一方,研究上はその算出式を個人レベルに便宜的に準用したADL改善効率指標としても検討されつつある。

令和8年度診療報酬改定では,回復期リハビリテーション強化体制加算が新設され,その施設基準の一つとしてリハビリテーション実績指数48以上が示された12)。したがって,実績指数48以上は,強化体制加算の施設基準の一つとして示された高い実績指数水準であり,今後の回復期リハビリテーション病棟において重要性が高まるアウトカムと考えられる。ただし,強化体制加算の取得には実績指数以外の要件も含まれるため,本研究は病棟加算の取得可否そのものを判定するものではない。また,実績指数は本来,病棟単位で算出される制度上の指標であり,個々の患者の機能回復そのものを直接表す指標ではない。実績指数にはFIM運動項目利得だけでなく,在棟日数,退院調整,家族背景,合併症,病棟運用などが影響しうる。そのため,本研究では,実績指数の算出式を各症例に便宜的に適用した値を個人レベル実績指数相当値として扱い,制度上の病棟単位実績指数とは区別して検討する。

脳卒中患者における効率的なADL改善には,歩行能力や立位バランスだけでなく,座位姿勢制御や体幹機能も重要である。Hsiehら13)は,発症早期の体幹コントロールが6カ月後の包括的ADLを予測することを報告している。Trunk Impairment Scale(以下,TIS)は,静的座位バランス,動的座位バランス,体幹協調性を評価する信頼性・妥当性を有する尺度であり14),Verheydenら15)は,入院時TISが脳卒中6カ月後のADL帰結を予測することを示している。また,岡本ら16)は,回復期脳卒中片麻痺患者において,体幹機能,年齢,認知機能といった阻害因子の影響が入院時ADLの程度により異なることを報告し,Miyazakiら17)は,説明可能な機械学習を用いた亜急性期脳卒中患者のFIM予測において,年齢,体幹機能,握力などが重要因子であったことを示している。一方,Berg Balance Scale(以下,BBS)は脳卒中患者のバランス評価として広く用いられ,Maoら18)はその信頼性・妥当性を,Louieら19)は入院時BBSが退院時歩行能力を予測することを報告している。BBSとTISはいずれも脳卒中患者の機能予後に関連する理学療法評価指標であるが,BBSが主に立位・動的バランスや移動能力を反映する一方,TISは座位を中心とした体幹機能や姿勢制御を反映する点で異なる。

これまで,回復期脳卒中患者の退院時FIMや歩行自立を予測した研究,ならびに実績指数に関連する患者因子を検討した研究は報告されている1–4)8–11)16)19)。しかし,回復期脳卒中患者を対象に,入棟時情報から個人レベル実績指数相当値48以上を予測し,事前に設定した基本臨床モデルにBBSおよびTISを追加した際の予測性能の変化を検討した研究は乏しい。

そこで本研究の目的は,回復期リハビリテーション病棟に入棟した脳卒中患者を対象に,個人レベル実績指数相当値48以上の達成をアウトカムとして,事前に設定した基本臨床モデルに入棟時BBS,TIS,または両者を追加した際の予測性能指標の数値変化を探索的に評価することである。加えて,入棟時FIM運動項目合計を含む感度解析を行った。

対象および方法

1. 対象

本研究の対象は,2025年1月から2026年3月の期間に社会医療法人三栄会ツカザキ病院(以下,当院)回復期リハビリテーション病棟に入棟した脳梗塞または脳出血患者157名とした。このうち,他疾患の合併や再発により急性期病棟へ転棟した5名,1週間以内の早期退院となった1名,評価データに欠損のあった1名を除外し,最終的に150名を解析対象とした。

2. 方法

本研究は,入棟時から退棟時までの経過を追跡した後ろ向き縦断コホート研究である。対象者の電子カルテより,対象者背景項目,入棟時のリハビリテーション評価項目,および入退棟に関する情報を後方視的に収集した。

対象者背景項目として,年齢,性別,病型(脳梗塞または脳出血),再発の有無(初発または再発),病変部位(テント上またはテント下),発症後日数,病前ADL能力の指標としての入院前mRSを収集した。これらは対象者背景の把握および群間比較に用い,そのうち年齢,発症後日数および入院前mRSは,後述する基本臨床モデルの構成変数としても用いた。年齢,発症後日数,病前ADL,認知機能は,先行研究において脳卒中患者の退院時FIMや実績指数関連アウトカムの予測因子として報告されている1–3)16)。

入棟時のリハビリテーション評価項目は,先行研究および臨床的妥当性を踏まえて選定した。使用した評価項目は,バランス能力の指標としての入棟時BBS,体幹機能の指標としての入棟時TIS合計,認知機能の指標としての入棟時FIM認知項目合計とした1–3)13–19)。入退棟に関する情報として,回復期リハビリテーション病棟の在棟日数,入棟時のFIM運動項目合計,退棟時のFIM運動項目合計・認知項目合計を記録した。BBS, TISおよびFIMは,病棟内で共有された評価基準に基づき,担当するリハビリテーション専門職が実施した。評価手順と判定基準は病棟内で共有されており,データ抽出時には電子カルテ上の評価記録を確認した。記載内容に疑義がある場合には,診療録およびリハビリテーション記録を確認した(表1)。

表1 対象者の基本情報,入退棟時評価項目,在棟日数および個人レベル実績指数の群間比較

全体(n=150)実績指数48以上(n=90)実績指数48未満(n=60)p値
年齢(歳)74.1±12.573.8±11.874.5±13.70.741
性別(名)男:86女:64男:52女:38男:34女:261.000
病型(名)脳梗塞:108脳梗塞:66脳梗塞:420.712
脳出血:42脳出血:24脳出血:18
病変部位(名)テント上:119テント上:73テント上:460.542
テント下:31テント下:17テント下:14
再発の有無初発:128初発:79初発:490.349
再発:22再発:11再発:11
発症後日数(日)24.3±12.120.8±8.229.5±14.9<0.001
在棟日数(日)58.8±32.049.9±25.972.1±35.7<0.001
入院前mRS1.1±1.40.9±1.31.5±1.60.024
入棟時BBS(点)28.1±20.135.1±17.017.6±19.9<0.001
入棟時TIS(点)11.4±7.314.2±5.77.2±7.4<0.001
入棟時FIM運動項目合計(点)41.8±22.647.7±19.333.0±24.5<0.001
入棟時FIM認知項目合計(点)20.5±8.722.9±7.716.9±9.0<0.001
退棟時FIM運動項目合計(点)64.1±25.876.4±15.245.7±27.7<0.001
退棟時FIM認知項目合計(点)24.6±8.927.1±7.120.9±10.0<0.001
個人レベル実績指数相当値72.1±62.2106.3±57.920.8±15.9<0.001

値は平均値±標準偏差,または例数で示した.群間比較は対象者背景および入退棟時評価項目の分布を把握する目的で実施したものであり,予測モデルに投入する変数の選択には用いなかった.

mRS: modified Rankin Scale, BBS: Berg Balance Scale, TIS: Trunk Impairment Scale, FIM: Functional Independence Measure.

本研究対象病棟では,脳卒中患者に対して,理学療法,作業療法,言語療法を365日体制で1日7~9単位提供しており,特別な事情がない限り,本研究対象者にも同様のリハビリテーションが実施された。

主要アウトカムは,退棟時における個人レベル実績指数相当値48以上の有無とした。実績指数は本来,病棟単位で算出される指標である。本研究では,先行研究を参考に,実績指数の算出式を各症例に便宜的に適用し,各症例におけるFIM運動項目利得と在棟日数から算出した値を個人レベル実績指数相当値と定義した。以下,文脈に応じて「個人レベル実績指数」と略記する。

  
  

なお,本指標は制度上の病棟単位実績指数を直接代替するものではなく,病棟加算取得の可否や患者個人の機能回復そのものを直接示す指標でもない。本研究では,FIM運動項目利得と在棟日数に基づくADL改善効率を個人レベルに便宜的に準用した研究上の指標として扱った。個人レベル実績指数48以上の有無で二値化した。本研究の主目的は個人レベル実績指数48以上達成に対するBBSおよびTISの追加的予測情報を検討することであり,異なるカットオフ値を用いた補足解析は行わなかった。

説明変数は,入棟時に取得可能であり,先行研究および臨床的妥当性から重要と考えられる項目を,群間比較の結果とは独立して事前に設定した。主解析における基本臨床モデルは,年齢,発症後日数,入院前mRS,入棟時FIM認知項目合計の4変数で構成した。基本臨床モデルにBBSを追加したモデル,TIS合計を追加したモデル,BBSおよびTIS合計の両者を追加したモデルを事前に設定した。ここでいう「追加的」とは,本研究で事前に設定した基本臨床モデルに対する追加を意味する。

主解析では,個人レベル実績指数がFIM運動項目利得と在棟日数に基づくことから,アウトカム算出過程との構造的関連を考慮し,入棟時FIM運動項目合計を基本臨床モデルに含めなかった6)7)。感度解析では,同項目の臨床的重要性を踏まえ,基本臨床モデルに入棟時FIM運動項目合計を加えたモデルを参照モデルとし,これにBBS, TIS合計,または両者を追加した際の性能指標の数値変化を補足的に確認した。

3. 統計解析

統計解析は,まず個人レベル実績指数48以上群と48未満群における対象者背景項目および入退棟時評価項目に対して群間比較を行った。連続変数は分布に応じて対応のないt検定またはMann-WhitneyのU検定を用い,カテゴリ変数はFisherの正確確率検定を用いた。群間比較は対象者背景の把握を目的に実施し,単変量解析による機械的な変数選択は行わなかった。

主解析では,個人レベル実績指数48以上達成の有無を目的変数とし,事前に設定した前述の4モデルについてロジスティック回帰分析を行った。

モデル性能は,Akaike information criterion(以下,AIC),area under the receiver operating characteristic curve(以下,AUC),Brier score,較正プロット(以下,calibration plot),較正傾き(以下,calibration slope)により評価した20)。AUCの95%信頼区間(confidence interval:以下,CI)はDeLong法により算出した。多重共線性はvariance inflation factor(以下,VIF)により確認した。内部妥当性は1000回bootstrap法により検証し,optimism補正後のAUC, Brier score, calibration slopeを算出した21–24)。また,bootstrap法により得られたoptimism補正後AUC, Brier score, calibration slopeについて,bootstrap分布に基づく95%CIを算出した。

各モデルについて,基本臨床モデルを参照として,BBS, TIS,または両者を追加した際の性能指標の数値変化を記述的に評価した。モデル間差の直接的な統計学的検定は行わず,各追加モデル間の優越性の評価および最適モデルの選択は行わなかった。

感度解析では,基本臨床モデルに入棟時FIM運動項目合計を追加したBase+FIM運動モデルを参照モデルとした。さらに,Base+FIM運動モデルにBBSを追加したモデル,TIS合計を追加したモデル,BBSおよびTIS合計を追加したモデルを作成した。各モデルについて,主解析と同じ性能指標および内部検証方法を用いて評価した。

Calibration plotおよび予測式は,事前に設定した追加モデルの提示例として,TIS追加モデルについて示した。Calibration plotはbootstrap法により補正し,横軸を個人レベル実績指数48以上の予測確率,縦軸を実際の達成割合として,補正前曲線,補正後曲線および理想線を表示した。また,本データに基づく回帰式と予測確率の算出方法を示した。

個人レベル実績指数48以上達成をアウトカムとして,各予測モデルのdecision curve analysis(以下,DCA)を行った。DCAでは,treat-allおよびtreat-noneと比較したnet benefitを算出した25)26)。図2では,臨床的判断に用いられうる範囲として閾値確率20~80%を表示し,各予測モデルのnet benefitを比較した。本研究におけるDCAは,予測確率に基づいて患者を達成・未達成に断定するためではなく,入棟早期から重点的な目標設定,退院支援,介入方針の再検討を行う症例を抽出する際の補助情報としてモデルを用いる場合の臨床判断上の有用性を探索的に評価する目的で実施した。

統計解析にはR version 4.4.1を使用し,有意水準は5%とした。

4. 倫理的配慮

本研究は,当院回復期リハビリテーション病棟に入棟した患者の診療録情報を匿名化して使用した。対象患者には入院時に,診療録などの匿名化データを研究目的で利用する可能性について説明し,研究利用に関する文書による包括同意を事前に取得した。したがって,オプトアウトによる同意手続きは行っていない。研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,ツカザキ病院倫理審査委員会の承認(承認番号:2604002)を得て実施した。

結果

1. 個人レベル実績指数相当値48以上群と48未満群の2群間比較(表1)

対象者の基本情報,入退棟時評価項目,在棟日数および個人レベル実績指数について,個人レベル実績指数48以上群と48未満群の2群間で比較した結果を表1に示す。個人レベル実績指数48以上群は90名(60.0%),48未満群は60名(40.0%)であった。個人レベル実績指数48以上群は48未満群と比較して,BBS, TIS, FIM運動項目合計,FIM認知項目合計がいずれも有意に高値を示し(いずれもp<0.001),発症後日数は有意に短く(p<0.001),入院前mRSは有意に低値であった(p<0.05)。年齢,性別,病型,再発の有無,病変部位には有意差を認めなかった。個人レベル実績指数の分布は,中央値62.6,四分位範囲27.9–92.2,最小値−9.7,最大値360.0であった。最小値および最大値を含む全例について算出式と元データを確認し,明らかな入力誤りは認めなかったため,除外せず解析に含めた。

2. 主解析:個人レベル実績指数48以上達成予測(表2,表3,表4,図1,図2)

個人レベル実績指数48以上達成をアウトカムとした主解析では,基本臨床モデルにBBS, TIS,または両者を追加した各モデルにおいて,基本臨床モデルと比較してAICは数値上低値,AUCは数値上高値,Brier scoreは数値上低値を示した(表3)。基本臨床モデルのAICは177.75,AUCは0.759(95%CI:0.679–0.839),Brier scoreは0.189であった。BBS追加モデルではAIC 168.91,AUC 0.795(95%CI:0.718–0.873),Brier score 0.172であった。TIS追加モデルではAIC 165.47,AUC 0.808(95%CI:0.732–0.884),Brier score 0.166であった。BBS+TISモデルではAIC 166.69,AUC 0.809(95%CI:0.732–0.885),Brier score 0.165であった。最大VIFは,基本臨床モデルで1.21,BBS追加モデルで1.64,TIS追加モデルで1.52,BBS+TISモデルで2.88であった。

表2 主解析におけるTIS追加モデルのロジスティック回帰係数

回帰係数β標準誤差オッズ比95%CIp値
切片−1.3911.656——0.401
年齢0.0220.0171.0230.989–1.0580.193
発症後日数−0.0550.0200.9470.910–0.9850.007
入院前mRS−0.1790.1460.8360.628–1.1140.220
入棟時FIM認知項目合計0.0120.0291.0120.955–1.0730.680
入棟時TIS合計0.1330.0371.1431.062–1.229<0.001

目的変数は個人レベル実績指数相当値48以上達成の有無とした.TIS追加モデルは,年齢,発症後日数,入院前mRS, 入棟時FIM認知項目合計,入棟時TIS合計を含む.オッズ比は各変数1単位増加あたりの値を示す.本表は,事前に設定した追加モデルのうち,TIS追加モデルを本データにおける提示例として示したものである.

CI: confidence interval, mRS: modified Rankin Scale, FIM: Functional Independence Measure, TIS: Trunk Impairment Scale.

 

表3 主解析における各モデルの見かけ上の性能

モデルAICAUC (95%CI)Brier score最大VIF
Base177.750.759 (0.679–0.839)0.1891.21
Base+BBS168.910.795 (0.718–0.873)0.1721.64
Base+TIS165.470.808 (0.732–0.884)0.1661.52
Base+BBS+TIS166.690.809 (0.732–0.885)0.1652.88

Baseモデルは年齢,発症後日数,入院前mRS, 入棟時FIM認知項目合計を含む.Base+BBSモデルはBaseモデルにBBSを追加した.Base+TISモデルはBaseモデルにTIS合計を追加した.Base+BBS+TISモデルはBaseモデルにBBSおよびTIS合計を追加した.

AIC: Akaike information criterion, AUC: area under the receiver operating characteristic curve, CI: confidence interval, VIF: variance inflation factor, BBS: Berg Balance Scale, TIS: Trunk Impairment Scale, mRS: modified RankinScale, FIM: Functional Independence Measure.

 

表4 主解析における各モデルの内部検証後性能

モデル補正後AUC
(95%CI)
補正後Brier score
(95%CI)
補正後calibration slope
(95%CI)
Base0.733 (0.660–0.815)0.204 (0.175–0.245)0.877 (0.573–1.297)
Base+BBS0.772 (0.699–0.849)0.187 (0.156–0.227)0.887 (0.599–1.239)
Base+TIS0.784 (0.716–0.858)0.182 (0.148–0.220)0.884 (0.605–1.238)
Base+BBS+TIS0.781 (0.709–0.853)0.183 (0.151–0.223)0.863 (0.581–1.197)

Baseモデルは年齢,発症後日数,入院前mRS, 入棟時FIM認知項目合計を含む.Base+BBSモデルはBaseモデルにBBSを追加した.Base+TISモデルはBaseモデルにTIS合計を追加した.Base+BBS+TISモデルはBaseモデルにBBSおよびTIS合計を追加した.内部妥当性は1000回bootstrap法により評価し,optimism補正後のAUC, Brier score, calibration slopeを示した.

AUC: area under the receiver operating characteristic curve, CI: confidence interval, BBS: Berg Balance Scale, TIS: Trunk Impairment Scale, mRS: modified Rankin Scale, FIM: Functional Independence Measure.

図1 主解析におけるTIS追加モデルの較正プロット

個人レベル実績指数相当値48以上達成をアウトカムとしたTIS追加モデルの較正を示す.本図は,事前に設定した追加モデルのうち,TIS追加モデルを本データにおける提示例として示したものである.  TIS: Trunk Impairment Scale.

図2 主解析における各モデルのdecision curve analysis

個人レベル実績指数相当値48以上達成をアウトカムとして,各モデルのdecision curve analysisを行った.横軸は閾値確率,縦軸はnet benefitを示し,閾値確率20~80%の範囲を表示した.Baseモデルは,年齢,発症後日数,入院前mRS, 入棟時FIM認知項目合計を含む基本臨床モデルである.Base+BBSモデルはBaseモデルにBBSを追加し,Base+TISモデルはBaseモデルにTIS合計を追加した.Base+BBS+TISモデルはBaseモデルにBBSおよびTIS合計を追加した.Treat-allは全例を個人レベル実績指数相当値48以上達成として扱う方略,treat-noneは全例を未達成として扱う方略を示す.本図は,各モデルのnet benefitを探索的かつ記述的に示したものである. mRS: modified Rankin Scale, FIM: Functional Independence Measure, BBS: Berg Balance Scale, TIS: Trunk Impairment Scale.

TIS追加モデルでは,発症後日数とTISが個人レベル実績指数48以上達成と有意に関連した(表2)。TISの回帰係数は0.133であり,TISが1点高いごとに個人レベル実績指数48以上達成のオッズ比は1.143であった。

Bootstrap法による内部検証では,基本臨床モデルのoptimism補正後AUCは0.733(95%CI:0.660–0.815),補正後Brier scoreは0.204(95%CI:0.175–0.245),補正後calibration slopeは0.877(95%CI:0.573–1.297)であった。BBS追加モデルでは,補正後AUCは0.772(95%CI:0.699–0.849),補正後Brier scoreは0.187(95%CI:0.156–0.227),補正後calibration slopeは0.887(95%CI:0.599–1.239)であった。TIS追加モデルでは,補正後AUCは0.784(95%CI:0.716–0.858),補正後Brier scoreは0.182(95%CI:0.148–0.220),補正後calibration slopeは0.884(95%CI:0.605–1.238)であった。BBS+TISモデルでは,補正後AUCは0.781(95%CI:0.709–0.853),補正後Brier scoreは0.183(95%CI:0.151–0.223),補正後calibration slopeは0.863(95%CI:0.581–1.197)であった(表4)。基本臨床モデルと比較して,BBS, TIS,または両者を追加したモデルでは,補正後AUCは数値上高値,補正後Brier scoreは数値上低値を示した。

TIS追加モデルのcalibration plotでは,高予測確率域でbootstrap補正後の曲線が理想線を下回った(図1)。

事前に設定した追加モデルのうち,TIS追加モデルを本データにおける例として取り上げ,予測確率の算出式を以下に示す(表2)。

  

DCAでは,各予測モデルは20~80%の閾値確率範囲においてtreat-noneを上回るnet benefitを示した(図2)。

3. 感度解析:入棟時FIM運動項目合計を含めたモデル性能(表5,表6)

入棟時FIM運動項目合計を含めた感度解析では,Base+FIM運動モデル,Base+FIM運動+BBSモデル,Base+FIM運動+TISモデル,Base+FIM運動+BBS+TISモデルを作成した(表5,表6)。

表5 入棟時FIM運動項目合計を含めた感度解析における各モデルの見かけ上の性能

モデルAICAUC (95%CI)Brier score最大VIF
Base+FIM運動178.470.767 (0.686–0.848)0.1852.09
Base+FIM運動+BBS166.160.812 (0.740–0.885)0.1665.45
Base+FIM運動+TIS165.450.817 (0.744–0.889)0.1653.22
Base+FIM運動+BBS+TIS162.680.835 (0.768–0.902)0.1605.58

Baseモデルは年齢,発症後日数,入院前mRS, 入棟時FIM認知項目合計を含む.Base+FIM運動モデルはBaseモデルに入棟時FIM運動項目合計を追加した.Base+FIM運動+BBSモデルはBase+FIM運動モデルにBBSを追加した.Base+FIM運動+TISモデルはBase+FIM運動モデルにTIS合計を追加した.Base+FIM運動+BBS+TISモデルはBase+FIM運動モデルにBBSおよびTIS合計を追加した.

AIC: Akaike information criterion, AUC: area under the receiver operating characteristic curve, CI: confidence interval, VIF: variance inflation factor, BBS: Berg Balance Scale, TIS: Trunk Impairment Scale, mRS: modified RankinScale, FIM: Functional Independence Measure.

 

表6 入棟時FIM運動項目合計を含めた感度解析における各モデルの内部検証後性能

モデル補正後AUC
(95%CI)
補正後Brier score
(95%CI)
補正後calibration slope
(95%CI)
Base+FIM運動0.737 (0.659–0.818)0.202 (0.171–0.241)0.856 (0.558–1.272)
Base+FIM運動+BBS0.782 (0.711–0.858)0.185 (0.151–0.226)0.842 (0.565–1.204)
Base+FIM運動+TIS0.787 (0.718–0.859)0.183 (0.149–0.226)0.850 (0.562–1.214)
Base+FIM運動+BBS+TIS0.801 (0.735–0.873)0.181 (0.146–0.224)0.822 (0.551–1.149)

Baseモデルは年齢,発症後日数,入院前mRS, 入棟時FIM認知項目合計を含む.Base+FIM運動モデルはBaseモデルに入棟時FIM運動項目合計を追加した.Base+FIM運動+BBSモデルはBase+FIM運動モデルにBBSを追加した.Base+FIM運動+TISモデルはBase+FIM運動モデルにTIS合計を追加した.Base+FIM運動+BBS+TISモデルはBase+FIM運動モデルにBBSおよびTIS合計を追加した.内部妥当性は1000回bootstrap法により評価し,optimism補正後のAUC, Brier score, calibration slopeを示した.

AUC: area under the receiver operating characteristic curve, CI: confidence interval, BBS: Berg Balance Scale, TIS: Trunk Impairment Scale, mRS: modified Rankin Scale, FIM: Functional Independence Measure.

見かけ上の性能では,Base+FIM運動モデルではAIC 178.47,AUC 0.767(95%CI:0.686–0.848),Brier score 0.185であった。Base+FIM運動+BBSモデルではAIC 166.16,AUC 0.812(95%CI:0.740–0.885),Brier score 0.166であった。Base+FIM運動+TISモデルではAIC 165.45,AUC 0.817(95%CI:0.744–0.889),Brier score 0.165であった。Base+FIM運動+BBS+TISモデルではAIC 162.68,AUC 0.835(95%CI:0.768–0.902),Brier score 0.160であった。最大VIFは,Base+FIM運動モデルで2.09,Base+FIM運動+BBSモデルで5.45,Base+FIM運動+TISモデルで3.22,Base+FIM運動+BBS+TISモデルで5.58であった(表5)。

Bootstrap法による内部検証においては,Base+FIM運動モデルでは,補正後AUC 0.737(95%CI:0.659–0.818),補正後Brier score 0.202(95%CI:0.171–0.241),補正後calibration slope 0.856(95%CI:0.558–1.272)であった。Base+FIM運動+BBSモデルでは,補正後AUC 0.782(95%CI:0.711–0.858),補正後Brier score 0.185(95%CI:0.151–0.226),補正後calibration slope 0.842(95%CI:0.565–1.204)であった。Base+FIM運動+TISモデルでは,補正後AUC 0.787(95%CI:0.718–0.859),補正後Brier score 0.183(95%CI:0.149–0.226),補正後calibration slope 0.850(95%CI:0.562–1.214)であった。Base+FIM運動+BBS+TISモデルでは,補正後AUC 0.801(95%CI:0.735–0.873),補正後Brier score 0.181(95%CI:0.146–0.224),補正後calibration slope 0.822(95%CI:0.551–1.149)であった(表6)。

Base+FIM運動モデルと比較して,BBS, TIS,または両者を追加したモデルでは,補正後AUCは数値上高値,補正後Brier scoreは数値上低値を示した。

考察

1. 本研究の主な知見

本研究の主な知見は,事前に設定した基本臨床モデルにBBS, TIS,または両者を追加した場合,基本臨床モデル単独と比較してAUCは数値上高値,Brier scoreは数値上低値を示し,bootstrap法による内部検証後も同様の傾向が認められたことである。入棟時FIM運動項目合計を含めた感度解析でも同様の傾向を認めたことから,BBSおよびTISは,個人レベル実績指数相当値48以上の達成を見通すうえで,基本臨床情報を補完する予測情報となる可能性がある。

一方,本研究ではモデル間差の直接的な統計学的検定を行っていないため,各追加モデル間の優越性は評価していない。したがって,本研究結果は,BBS, TIS,または両者のいずれが最も優れるかを示すものではなく,それぞれを基本臨床モデルに追加した際の予測性能指標の数値変化を示すものとして解釈する必要がある。

2. BBSおよびTISの追加的予測情報

TIS追加モデルでは,発症後日数とTISが個人レベル実績指数相当値48以上の達成と関連していた。TISは,静的座位バランス,動的座位バランス,体幹協調性を評価する尺度であり,起居動作,移乗,立位練習,歩行練習へ移行する際の姿勢制御能力を反映する。先行研究では,発症早期の体幹コントロールや入院時TISがその後のADL帰結を予測することが示されており13)15),本研究の結果もこれらの知見と整合する。個人レベル実績指数相当値48以上は,単に退棟時ADLが高いことではなく,FIM運動項目利得と在棟日数との関係から算出されるADL改善効率の高い水準を表す。そのため,入棟時に体幹機能が比較的保たれている患者では,基本動作やADL練習への移行が円滑となり,限られた在棟期間内でのADL改善効率が高まりやすかった可能性がある。

一方,BBS追加モデルでも,基本臨床モデルと比較してAUCは数値上高値,Brier scoreは数値上低値であり,立位バランスや移動能力も個人レベル実績指数相当値48以上の達成に関する追加的情報を有する可能性が示された。BBSは脳卒中患者において良好な信頼性・妥当性を有し,歩行予後との関連も報告されている18)19)。BBSが主に立位バランスや移動能力を反映するのに対し18)19),TISは座位を中心とした体幹機能や姿勢制御を反映する点で異なる13–15)。したがって,BBSとTISは相互に関連しつつも,ADL改善効率の見通しに対して異なる側面から情報を与える可能性がある。

基本臨床モデルにBBSおよびTISの両者を追加したモデルでも,基本臨床モデルと比較してAUCは数値上高値,Brier scoreは数値上低値を示した。一方,両者を含むモデルの最大VIFは2.88であり,BBSとTISはいずれも姿勢制御やバランス機能に関連する評価であることから,情報を一部共有している可能性がある。BBSとTISを併用した場合の追加的価値については,より大規模なデータを用いて検証する必要がある。

3. 入棟時FIM運動項目合計を含めた感度解析の解釈

入棟時FIM運動項目合計はADL予後を見通すうえで重要である一方1)4),本研究のアウトカム算出過程と構造的に関連するため6)7),同項目を含めた場合のモデル性能を感度解析で補足的に検討した。

感度解析では,Base+FIM運動モデルの補正後AUCが0.737,補正後Brier scoreが0.202であったのに対し,Base+FIM運動モデルにBBSを追加したモデルではそれぞれ0.782, 0.185,TISを追加したモデルではそれぞれ0.787, 0.183であった。Base+FIM運動モデルにBBSまたはTISを追加した際に認められたこれらの数値変化は,入棟時FIM運動項目合計を考慮した場合にも,BBSおよびTISが基本臨床情報と入棟時ADL能力だけでは捉えられない情報を付加する可能性を示している。

Base+FIM運動+BBS+TISモデルでは,補正後AUCは0.801,補正後Brier scoreは0.181であった一方,最大VIFは5.58,補正後calibration slopeは0.822であった。入棟時FIM運動項目合計,BBS, TISはいずれもADL能力や姿勢制御能力に関連するため,変数間で情報を一部共有している可能性がある。したがって,変数を追加した際に判別能や予測誤差の数値が変化した場合でも,較正,多重共線性,モデルの安定性を含めて慎重に評価する必要がある。

4. 予測モデルの性能評価と臨床的意義

本研究では,予測モデルの性能をAUC, Brier score, calibration plot, calibration slope, bootstrap法によるoptimism補正,DCAにより多面的に評価した。Steyerbergら20)は,予測モデルの性能評価では,判別能,総合的予測誤差,較正,臨床的有用性を組み合わせて評価することの重要性を述べている。また,予測モデルの臨床応用には,開発データにおける見かけ上の性能評価だけでなく,内部検証,外的妥当性検証,臨床的影響評価が必要である21–24)。

一例として示したTIS追加モデルのcalibration plotでは,高予測確率域でbootstrap補正後曲線が理想線を下回っており,モデルが算出した予測確率に比べて,実際の達成割合が低い傾向を認めた。すなわち,高予測確率域では,個人レベル実績指数相当値48以上の達成確率を過大に推定する可能性がある。Van Calsterら27)は,予測モデルを評価する際には,判別能だけでなく,予測確率と実際の発生割合との一致を示す較正を評価することが重要であると指摘している。したがって,TIS追加モデルの予測確率を個別の臨床判断に用いるには,外的データを用いて較正を再評価する必要がある。

一方,DCAでは,BBS, TIS,または両者を追加したモデルが,一部の閾値確率範囲において基本臨床モデルより高いnet benefitを示す区間がみられた。Vickersら25)26)の考えに基づけば,この結果は,BBS, TIS,または両者を基本臨床モデルに追加することで,一定の閾値確率範囲における臨床判断を補助しうる可能性を示す。ただし,DCAの結果は閾値確率の設定に依存し,開発データに基づく探索的な結果であるため,その臨床的有用性については今後検証する必要がある。

本研究で検討した各モデルは,制度上の病棟単位実績指数48以上を直接予測するものではなく,各症例で便宜的に算出した個人レベル実績指数相当値48以上の達成確率を推定するものである。したがって,予測確率は患者を達成・未達成に分類する決定ツールとしてではなく,入棟早期の多職種カンファレンスにおいて,身体機能,ADL能力,医学的状態,家族背景,退院環境などと併せて検討する際の補助情報として位置づける必要がある。

具体的には,見通し共有,支援課題の早期抽出,目標設定の再確認,退院支援の準備を前倒しで検討する際の一情報として活用することが想定される。一方,予測確率が低いことを理由に,個人レベル実績指数48以上の達成が困難であると断定したり,介入量や期待を下げたりすることは不適切である。予測確率が高い場合も達成を保証するものではなく,患者ごとの経過に応じて継続的に評価し,方針を修正する必要がある。

5. 本研究の限界と今後の課題

本研究にはいくつかの限界がある。第一に,本研究は単施設後ろ向き研究であり,対象者数も150名に限られるため,外的妥当性は検証されていない。特に,本研究のアウトカムは在棟日数を含む個人レベル実績指数相当値であり,退院支援体制,病棟運用,リハビリテーション提供体制,家族背景,地域連携の状況に影響されうる。そのため,他施設や異なる時期の症例でも同様の性能が得られるかは現時点では不明である。また,本研究はモデルの予測性能を検討した段階であり,実際にモデルを臨床導入することで,多職種カンファレンス,退院支援開始時期,家族説明,ADL改善効率に寄与するかは未検証である22–24)。

第二に,本研究で扱った個人レベル実績指数相当値は,制度上の病棟単位実績指数そのものではなく,実績指数の算出式を各症例に便宜的に適用した研究上の指標である。また,実績指数はFIM運動項目利得と在棟日数から構成されるため,純粋な機能回復指標ではない6)7)。したがって,本研究モデルは,病棟単位の実績指数や患者個人の機能回復そのものを直接予測するものではなく,予測確率の解釈には注意が必要である。

第三に,入棟時FIM運動項目合計および下肢機能評価の扱いには解釈上の課題がある。入棟時FIM運動項目合計はADL予後を反映する重要な指標であるが1)4),本研究のアウトカムはFIM運動項目利得を含むため,主解析ではアウトカム算出過程との構造的重なりを考慮して除外した。一方,感度解析では入棟時FIM運動項目合計を含めたモデルを検討し,BBSまたはTISを追加したモデルでは,Base+FIM運動モデルと比較して補正後AUCは数値上高値,補正後Brier scoreは数値上低値であった。ただし,FIM運動項目,BBS, TISはいずれもADL能力や姿勢制御能力と関連するため,変数間の情報重複を完全に分離することは困難である。また,本研究では下肢運動機能,筋力,感覚障害などの個別の下肢機能評価を説明変数として含めていない。今後は,より大規模なデータを用いて,入棟時ADL能力および下肢機能評価を含めた予測モデルの構成や,BBS・TISの独立した追加的価値をさらに検証する必要がある。

第四に,本研究では栄養状態,筋量,リハビリテーション単位数の個人差,合併症などをモデルに含めていない。八木ら8)や柴崎ら11)が示すように,サルコペニアや栄養障害リスクは実績指数に影響しうる。今後は,これらの患者要因や治療内容に関する因子を含めた検討が必要である。

第五に,BBSおよびTISは担当するリハビリテーション専門職により評価されたが,後ろ向き研究であるため,本研究内で評価者間信頼性を直接検証することはできなかった。評価基準は病棟内で共有され,データ抽出時には電子カルテ上の評価記録を確認したものの,評価者の経験や評価時の臨床状況が測定値に影響した可能性は否定できない。今後は,評価手順をより標準化した前向き研究により,測定の信頼性を担保した検証が望まれる。

これらの限界はあるものの,本研究は,個人レベル実績指数相当値48以上という高水準アウトカムに対して,BBSおよびTISが基本臨床モデルに追加的な予測情報を有する可能性を示した点に意義がある。

結論

本研究では,回復期脳卒中患者において,BBSおよびTISが個人レベル実績指数相当値48以上の達成予測に関して,基本臨床モデルを補完する情報となる可能性が示された。ただし,各追加モデル間の優越性は評価しておらず,特定のモデルを推奨するものではない。

各モデルから得られる予測確率は達成・未達成を断定するものではなく,他の臨床情報と併せて,入棟早期の見通し共有,目標設定および退院支援を補助する情報として慎重に用いる必要がある。今後は,外的妥当性,臨床的影響および実装可能性を検証する必要がある。

謝辞

本研究の実施にあたり,ご協力いただいた対象者の皆様,ご協力・助言を頂いたスタッフの皆様に心から感謝申し上げる。

助成

本研究において助成はない。

利益相反

本研究において開示すべき利益相反はない。

文献
 
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