イノベーション・マネジメント
Online ISSN : 2433-6971
Print ISSN : 1349-2233
論文
日本企業のサステナビリティ目標設定に対する分析
北田 皓嗣
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 16 巻 p. 1-18

詳細
要旨

本稿では、日本企業のサステナビリティ目標の設定状況について検討している。具体的には環境関連項目および社会関連項目の目標についてそれぞれの目標設定期間を2014年から2018年の5年間で比較しその傾向を分析している。また併せて2015年から2018年までの日本企業のSustainable Development Goals(SDGs)へのコミットメントの状況と17の目標それぞれへの対応状況について分析している。これにより企業のサステナビリティ目標について2020年や2030年などの特定の年度を対象に活動目標を設定していること、また通常の中期経営計画と比べ目標の改定の頻度が高くないことが示された。長期目標の設定について環境関連項目の目標については産業の影響がみられるものの、社会関連項目の目標については産業ごとの特徴はほとんどみられなかった。特徴的なものとして建設業の企業は環境関連項目および社会関連項目のいずれにおいても目標設定について高い開示割合と長期的な目標設定期間を示していた。SDGsについては2015年に国連で承認されて以来、日本企業もより積極的に企業経営に反映させようと進めてきてSDGsへのコミットメントを開示する企業数は増加してきている。ただしその活動として本業と近い製造責任や消費者責任に関する項目や地球温暖化に関連する項目に関する活動がより優先され取り組まれていた。これらを通じて本稿ではサステナビリティ目標の設定状況に関する研究に対して、特に企業の計画との関連でエビデンスを示すことで既存の研究に貢献を試みるものである。

1. はじめに

近年、企業に対してより実質的なサステナブルマネジメント目標を設定させようという動きが活発となっている。Rockström et al.(2009)がPlanetary Boundaries(PB)として示した枠組みでは地球の許容限界が示されており、個々の企業はこれをベースに科学的な根拠に基づいた環境保全活動を展開することが期待されている。特にScience Based Target(SBT)は2015年にパリ協定が締結された2°C目標を達成するために、企業に科学的根拠に基づいた目標設定をすることを促している。また同じく2015年に国連で採択されたSustainable Development Goals(SDGs)は、人間や地球、社会の繁栄のあるべき姿を目指し2030年までの開発目標を設定している。そしてこの目標を企業のサステナビリティ活動につなげる方法として、SDGコンパスのなかではアウトサイド・インとして外部のコンセンサスをベースにした目標設定の考え方が示されている。

いずれも社会全体、地球全体で求められる水準をもとに、企業のサステナビリティ目標を設定するアプローチを採用している。そこで目指されているのは組織中心の目標設定から生態系の回復力をベースとした目標への移行であり(Haffer and Searcy, 2018)、組織の内部のロジックではなく科学的根拠や社会的コンセンサスを優先させる目標設定を実践するための枠組みを提供するものである。しかしながらこれらの目標設定アプローチはあまり多くの企業には浸透しておらず、特にコンセプトとしてこれらの枠組みを参照する企業はしばしばみられるものの、実際に数値目標を設定する段階までは届いていない企業が多い(Haffer and Searcy, 2018)。

このようにサステナビリティ経営における目標設定の問題は学術的にも実務的にも重要な研究課題となってきている。しかしながらこのような科学的根拠を重視した目標設定のための技術的、工学的な研究と比べ、経営学分野でのサステナビリティ目標設定の研究はまだあまりみられない。従来、経営学のなかで目標設定の問題はマネジメントコントロールシステム(MCS)のひとつのツールや、戦略策定のひとつのプロセスとして位置付けられてきた。サステナビリティや環境を対象にするMCSについて特集号が近年しばしば編纂されているように(Bebbington and Thomson, 2013Joshi and Li, 2016)、今後、経営学分野でも重要な研究課題として位置付けられるようになってくると考えられる。

そのため報酬とのサステナブル目標の関連性(Maas and Rosendaal, 2016)やPBに基づいた目標の設定状況(Haffer and Searcy, 2018)といった個別のテーマに加えて、サステナブル目標設定の企業への普及のメカニズムについても理解を深める必要がある。これに対して本研究では日本企業のサステナビリティ目標の設定状況を明らかにする。具体的には環境および社会の目標についてそれぞれの目標設定期間を2014年から2018年の5年間で比較しその傾向を分析している。またSDGsへの対応状況について2015年から2018年の4年間で対応状況の推移を調べ、対応状況と目標設定との関係について分析する。これによりサステナビリティ目標設定に関する先行研究に貢献することを試みる。

本論文は以下のように構成されている。第2節では先行研究のレビューを通じて、問題の所在を明らかにしている。第3節では研究方法を示すとともに、続く第4節でデータの分析を行う。第5節では分析結果を考察し本論文を締めくくる。

2.  サステナビリティ目標の設定

2009年にRockström et al.(2009)によって発表されたPBのコンセプトのなかで地球の生態系による環境回復の許容限度が示された。2015年に改定された論文も含めこれらの考え方はSDGsにも多大な影響を与えている。企業活動との関係についてはWhiteman et al.(2013)などによって企業のパフォーマンスとPBとの関係が整理され、これらの考え方はGlobal Reporting Initiativeやthe World Business Council for Sustainable Developmentの報告書のなかにも採用され企業の取り組みに影響を与えつつある。

学術的には工学系の分野で目標設定に関する研究が先行しており、たとえばJournal of Cleaner Production誌ではPBの考え方が広く浸透しはじめた2012年ごろより“target”に関連する論文が増加しており(図1)、近年は全体の7–8%程度の論文のタイトル、アブストラクト、キーワードのいずれかに“target”が含まれている。これらの論文にはPBに基づいてサステナビリティ関連の目標設定について技術的なソリューションの提案を目指すものも多数含まれており、たとえばRödger et al.(2018)は企業がライフサイクルベースでPBに基づく目標設定をするためのフレイムワークを提示している。

図1 Journal of Cleaner Production誌における目標設定関連研究の推移

(出所)筆者作成。

これら技術的な開発は環境と経済を結びつけるうえで重要な知見であることに疑いはないものの、技術的にすぐれた指標が企業によって必ずしも採用されないことはこれまでの多くの研究が示しており(e.g. Schaltegger et al., 2013)、マネジメント領域での議論との接合が必要となる。それらの一つがサステナブル目標の設定の議論である。

議論は近年ではサステナビリティの分野にも応用されておりIoannou et al.(2016)は目標設定機能をMCSを構成するひとつのツールとして位置付け、当該分野での先行研究をもとにサステナビリティ目標設定の議論を展開している。具体的には旧Carbon Disclosure ProjectであるCDPのデータを用いて、目標設定の難易度がそれらの目標の達成度合いに影響を与えることを示している。特にこの関係はカーボンマネジメントの項目に金銭的なインセンティブが反映されている場合には弱められることも示しており、外的な動機付けがサステナビリティへの取り組みを阻害することも指摘されている。

またBusiness, Strategy and the Environment誌においてはサステナビリティ目標の設定に関する論文が続けて発表されており、領域として確立しつつある。Maas and Rosendaal(2016)は報酬設計にサステナビリティ情報が組み込まれている状況を分析している。これにより33%の企業はサステナビリティ目標を報酬制度に反映していること、主にそれらは環境負荷の大きい産業に属する企業であること、それらの目標は主に短期目標であること、環境目標よりも社会目標がより設計に反映されていたことを明らかにしている。Haffer and Searcy(2018)はサステナビリティ目標設定が、組織基準(organization-centric)か環境許容基準(resilience-centric)かを分析している。カナダ企業を対象とした分析でほとんどの企業が組織基準に基づいた目標設定に留まり、一部、定性的なプロセスを示す企業のみが観察されていた。

ただしいずれの研究も記述統計による分析をベースとしており、実務的にも学術的にも萌芽段階にある分野であるため企業実務の現状の記述が重要な貢献となる段階であると考えられる。このようななか本研究では、日本企業のサステナビリティ目標の設定状況について長期目標の設定状況およびSDGsへの対応との関係について分析を行う。

3.  研究方法

本稿では企業のCSR関連の報告書に開示されている情報をもとに日本企業のサステナビリティ目標の設定期間に関する分析を行なう。なお、ここでCSR関連の報告書には環境報告書やサステナビリティ報告書、CSR報告書などとともに、サステナビリティ情報開示の媒体がこれらの報告書から移行した場合には統合報告書やアニュアルレポートも対象にしている。

まず日本企業のサステナビリティ目標の設定期間に関する分析について、2018年8月1日付で日経225に選定されている企業を対象にCSR関連の報告書に開示されている情報を収集する。具体的には環境関連項目および社会関連項目に関する目標設定期間を調べ、掲載されている環境関連項目および社会関連項目のぞれぞれについて最も長期に設定されている目標の年度を抽出する。なお調査期間は2014年から2018年の5年間とする。また「設定されている目標の年度」から「報告書の発行年度−1年」を引いて、その企業のその年度の目標設定期間としている。たとえば2017年に発行された報告書で2030年度の温室効果ガス抑制目標が設定されている場合、「2030−(2017−1)=14(年)」が当該企業の2017年の環境目標の設定期間となる。

次に日本企業のSDGsへの対応状況に関する分析について、2018年5月1日付で東証一部に上場している企業を対象にCSR関連の報告書に開示されている情報を収集する。具体的には各企業のCSR関連報告書の開示の有無を確認するとともに、それらの報告書で開示されているSDGsの目標設定状況についての情報を抽出し目標設定期間との関係も分析を行なっている。

本研究ではこれらのデータの記述統計量をまとめ、日本企業のサステナビリティ目標設定の状況について考察する。

4.  目標設定に関する分析の結果

4.1  目標設定期間

本節では日経225企業を対象に企業のサステナビリティ目標設定の期間の推移について分析する。まず環境目標の設定状況、設定期間の推移、次に社会目標の設定状況、設定期間の推移について分析するとともに、その後、サンプルを製造業企業と非製造業企業に分けサステナビリティ目標設定の傾向について分析する。

まず対象企業の環境および社会目標の設定の推移について図2に示している。対象企業の環境目標設定状況の2014年から2017年の推移について、2014年の段階で日経225企業のうち48.4%にあたる109社の企業が環境関連項目に関する数値目標を設定しており、その後の3年間で1.46倍に増加し159社が目標を開示している。社会目標と比べ相対的に数値による活動の管理や目標の利用に馴染みやすいため積極的に目標設定が進められてきたといえる。

図2 環境関連項目および社会関連項目の目標を設定する企業数の推移

(出所)筆者作成。

これに対して社会目標の2014年から2017年の推移として、2014年の段階で日経225企業のうち17.3%にあたる39社の企業が社会関連項目に関する数値目標を設定しており、その後の3年間で3.38倍に増加し132社が目標を開示している。社会的な活動は必ずしも数値による目標が設定しやすくないため当初は一部の企業のみが目標を設定していたが、近年、環境目標と同様に社会目標についても数値による目標を設定し開示する企業が増加しており環境関連項目に関する数値目標の開示と近い水準まで増加している。次節以降では環境および社会目標のそれぞれについて、より詳細に目標設定の状況を分析する。

(1)  環境目標の設定期間

日本企業の環境目標の設定状況について、表1にあるように数値目標を設定している企業は2014年から2017年の間に45.9%増加している1。また目標設定期間の平均値も一貫して増加している。これらのなかで2020年目標を設定している企業数はほとんど変化がなく、これらの企業群の目標設定期間は目標年度が近づくにつれ毎年1年づつ短くなっていくためそれらを踏まえると日本企業の環境目標の設定期間が全体的に長期化しつつある傾向がより明確になる。

表1 日本企業の環境目標設定期間の状況
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 109(48.4%) 14.08 13.13 12 0 37 0.52 −1.49 60(55.0%)
2015 127(56.4%) 11.75 11.93 4 0 38 0.98 −0.62 60(47.2%)
2016 138(61.3%) 11.02 11.35 4 0 39 1.28 0.12 59(42.8%)
2017 159(70.7%) 8.95 10.15 5 0 35 1.83 2.02 60(37.7%)
2018 48(21.3%) 8.82 9.83 6 1 36 2.16 3.21 18(37.5%)

(出所)筆者作成。

他方で図3にあるヒストグラムを比較すると分布がより滑らかになっていく傾向がみてとれる。2014、2015年はそれぞれ目標設定期間が6年、5年のところに大きな企業群がありこれが2020年目標を設定している企業群となっており、それ以外は5年未満の目標を設定している企業がいくつかみられる。これに対して2016年以降は徐々に2030年、2050年目標を設定した企業群が増加し分布が広がっているのが観察できる。特に2017、2018年には2020年もしくはそれ未満の目標を設定している企業数を、それより長期の目標を設定している企業数が上回っておりより長期の目標を設定する傾向が読み取れる。

図3 日本企業の環境目標設定の状況(ヒストグラム)

(出所)筆者作成。

次に日本企業の環境目標の改定状況について表2では、上の4行は前年度の目標と比べた時の目標設定期間の増減を比較しており、下の2行は集計初年度の2014年からの増減の比較をそれぞれ示している。網掛けのセルはその期間中に目標設定に変化のなかった企業数を示しており、これより右側にあるセルには目標設定期間を延長した企業が含まれている。表2から2年以上続けて目標を開示している企業のうち平均して毎年15.8%の企業が環境目標を延長しており、この5年間続けて目標を設定している企業の半数以上が目標を延長していることが示された。

表2 日本企業の環境目標の改定状況
2014から2015年 改定年数 −1 0 3 4 9 13 29 30 N=103
企業数 92 3 1 2 2 1 1 1
2015から2016年 改定年数 −2 −1 0 4 9 12 13 14 24 29 N=115
企業数 1 90 2 2 11 1 1 2 2 3
2016から2017年 改定年数 −1 0 3 4 9 19 29 31 N=130
企業数 112 3 1 2 5 2 4 1
2017から2018年 改定年数 −1 0 1 2 4 29 31 N=41
企業数 34 1 1 1 1 2 1
2014から2018年 改定年数 −4 −1 1 6 11 21 26 27 28 N=32
企業数 14 1 3 4 2 1 5 1 1
2014から2017年 改定年数 −4 −3 −2 0 1 2 5 7 11 12 22 27 28 29 N=89
企業数 1 56 1 3 1 7 1 14 3 2 2 8 1 1

(出所)筆者作成。

(2)  社会目標の設定期間

日本企業の社会目標の設定状況について、表3にあるように数値目標を設定している企業は2014年から2017年の間に3.38倍に増加している。表1と比べると目標設定している企業の割合は少ないもののここ数年で社会項目についても定量的な目標を設定する傾向が強くなっているといえる。目標設定期間の平均値は増減があるものの、2020年に目標を固定している企業が目標設定年度に近づくにつれ毎年1年づつ目標設定期間が短くなっていくことを考慮すると若干、社会目標も長期化しているといえる。

表3 日本企業の社会目標設定期間の状況
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 39(17.3%) 4.13 5.69 2 0 32 3.41 12.70 16(41.0%)
2015 63(28.0%) 3.91 3.76 3 0 33 4.44 26.95 36(57.1%)
2016 110(48.9%) 4.44 2.50 4 1 19 2.99 12.21 63(57.3%)
2017 132(58.7%) 5.14 3.03 5 1 20 2.44 8.73 71(53.8%)
2018 39(17.3%) 4.87 3.43 6 1 21 2.46 9.93 24(61.5%)

(出所)筆者作成。

図4にあるヒストグラムを比較しても分布に大きな変化がないことがうかがえる。ただし表4をみてみると企業が社会目標を延長する傾向が読み取れる。表2と同様に上の4行は前年度との目標設定期間の増減を比較しており、下の2行は集計初年度の2014年からの増減の比較をそれぞれ示している。網掛けのセルはその期間中に目標設定に変化のなかった企業数を示しており、これより右側にあるセルは改定された目標の期間を表している。表4から2年連続で目標を開示している企業のうち平均して毎年16.1%の企業が環境目標を延長している。ただし表2と比べるとその延長期間は多くの場合に10年以下でこれらは通常の改定のサイクルを大きく出ないものであると考えられる。

図4 日本企業の社会目標設定の状況(ヒストグラム)

(出所)筆者作成。

表4 日本企業の社会目標の改定状況
2014から2015年 改定年数 −1 0 1 2 4 7 N=33
企業数 27 1 1 1 2 1
2015から2016年 改定年数 −5 −1 0 1 2 3 4 N=56
企業数 1 45 1 4 2 1 2
2016から2017年 改定年数 −4 −2 −1 1 9 29 N=99
企業数 1 1 92 2 2 1
2017から2018年 改定年数 −1 0 1 6 9 N=36
企業数 29 3 2 1 1
2014から2018年 改定年数 −4 −3 −2 −1 0 6 26 N=9
企業数 2 1 1 2 1 1 1
2014から2017年 改定年数 −3 −1 0 1 2 3 5 6 7 27 N=30
企業数 16 2 3 2 4 1 1 1 2 1

(出所)筆者作成。

(3)  環境および社会目標の設定期間に対する製造業・非製造業の影響

環境および社会目標の設定状況についてサンプルを日経業種分類の大分類に基づいて製造業(N=136)と非製造業(N=89)に分けて分析する。まず環境目標に関して、表5表6を比べると製造業企業は非製造業企業と比べてより多くの割合の企業が数値目標を開示しており、積極的に環境関連の数値目標を設定していることがうかがえる。しかしながら非製造業企業の方が製造業企業より長期の目標期間を設定する傾向にあり、Wilcoxonの順位和検定により2018年(p<0.05)、2017年(p<0.01)、2016年(p<0.01)は製造業企業は非製造業企業と比べ有意に目標設定期間が短いことが示された。

表5 日本企業の環境目標の設定状況(製造業、N=136)
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 72(52.9%) 8.11 8.67 6 1 36 2.5 5.18 44(61.1%)
2015 83(61.0%) 8.07 9.26 5 0 35 2.16 3.5 44(53.0%)
2016 97(71.3%) 9.37 10.34 4 0 34 1.62 1.21 48(49.5%)
2017 108(79.4%) 10.31 11.47 3 0 33 1.22 −0.12 49(45.4%)
2018 36(26.5%) 11.33 12.01 5.5 0 32 0.9 −0.86 15(41.7%)

(出所)筆者作成。

表6 日本企業の環境目標の設定状況(非製造業、N=89)
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 37(41.6%) 10.19 11.76 6 2 36 1.61 0.82 16(43.2%)
2015 44(49.4%) 10.61 11.58 5 1 35 1.33 0.25 16(36.4%)
2016 41(46.1%) 14.93 12.74 14 1 39 0.68 −1.2 11(26.8%)
2017 51(57.3%) 14.8 12.42 13 1 38 0.58 −1.24 11(21.6%)
2018 12(13.5%) 22.33 13.36 32 1 37 −0.45 −1.67 3(25.0%)

(出所)筆者作成。

また右端の列には2020年目標を設定している企業数と、数値目標を設定している企業に占める2020年目標を設定している企業の割合を示している。製造業企業では環境目標に対して対象期間において、半数近くの企業がきりの良い2020年を目処に目標設定していた。表2にも示されていたように通常の中期経営計画と異なりサステナビリティ目標に関する計画の改定はあまり頻繁でなく、しばしば区切りの良い期間を対象に活動が計画されていることが示された。特に2020年を対象に目標を設定している企業に関しては2014年段階では比較的中期の計画として設定されていたものが、そのまま目標の時期を維持することでより短期的な展望へと変化してきている。

次に社会目標に関して、表7表8を比べるとあまり顕著な傾向は読み取れなかった。製造業企業、非製造業企業ともに社会項目に関する数値目標を設定する企業数が増加しているものの、両者の間に顕著な差は見られなかった。目標の設定期間についてWilcoxonの順位和検定に基づくと(結果は省略)、各年の製造業企業と非製造業企業の間に有意な差は見られなかった。同様に2020年目標を設定している企業の割合についても顕著な差は見られなかった。製造業企業と非製造業企業のいずれも環境目標の場合と同様に半数近くの企業がきりの良い2020年の目標を設定していた。

表7 日本企業の社会目標の設定状況(製造業、N=136)
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 25(18.4%) 5.16 3.95 6 1 21 2.4 7.54 9(36.0%)
2015 37(27.2%) 5.22 3.61 5 1 20 2.34 6.36 17(45.9%)
2016 68(50.0%) 4.41 2.75 4 1 19 2.97 11.5 38(55.9%)
2017 87(64.0%) 3.86 3.13 3 0 18 2.3 5.65 47(54.0%)
2018 26(19.1%) 3.85 3.99 2 0 17 1.98 2.99 16(61.5%)

(出所)筆者作成。

表8 日本企業の社会目標の設定状況(非製造業、N=89)
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 14(15.7%) 4.36 2.24 6 1 7 −0.42 −1.73 7(50.0%)
2015 26(29.2%) 5.04 1.97 5 1 10 0.49 1.26 19(73.1%)
2016 42(47.2%) 4.48 2.06 4 1 14 2.6 9.08 25(59.5%)
2017 45(50.6%) 4 4.81 3 1 33 5.01 26.78 24(53.3%)
2018 13(14.6%) 4.69 8.29 2 1 32 2.72 6.07 8(61.5%)

(出所)筆者作成。

(4)  環境および社会目標の設定期間に対する業種

次に(3)の製造業企業、非製造業企業という業種の分類をより細かく分析し、「電気・ガス」「素材」「機械」「食品」「輸送機器」「医薬品」「通信」「その他製造業」「金融」「サービス」「建設」の11に産業を分類し、目標設定の傾向を分析する。表9ではこれらの11の業種の環境目標の設定状況についての記述統計量を示している。このとき建設に属する企業は平均で25.80年の目標を設定しており最も長期の目標を設定する傾向にあり、これは次に長い食品に属する企業の平均目標期間の約2倍にあたる。同時に開示割合も66.7%で輸送機器の次に高い割合であり、積極的に長期目標を設定している傾向にあることが示された。

表9 2014–2018年における産業別の環境目標の設定状況(N=1,155)
企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度
電気・ガス 13(52.0%) 8.23 4.8 11 0 14 −0.38 −1.6
素材 123(54.7%) 6.46 8.76 3 −1 35 2.21 3.73
機械 162(66.1%) 9.26 10.49 5 −1 35 1.45 0.79
食品 24(36.9%) 13.00 14.46 4 −1 35 0.55 −1.64
輸送機器 34(68.0%) 12.18 14.33 4 −1 34 0.69 −1.51
医薬品 25(55.6%) 4.36 3.25 4 1 13 1.61 1.59
通信 34(52.3%) 5.38 6.16 4 −1 32 2.46 7.63
その他製造業 15(50.0%) 6.67 5.74 5 0 13 0.01 −2.01
金融 41(39.0%) 12.15 12.17 5 0 35 0.87 −0.81
サービス 80(35.6%) 9.89 11.48 4 0 35 1.26 −0.06
建設 30(66.7%) 25.80 12.6 32 4 38 −0.9 −1.03

(出所)筆者作成。

建設、食品と同様に、輸送機器や金融、機械、サービスに属する企業がより長期的な目標を設定する傾向にあった。このうち建設、輸送機器、機械といった産業では開示率も高かったものの、食品、金融、サービスといった産業では開示率が低かった。このように産業ごとに目標設定の期間の長短と、開示に対する積極性は一様でないことが示された。

表10ではこれらの11の業種の社会目標の設定状況についての記述統計量を示している。このとき建設に属する企業は平均で7.24年の目標を設定しており最も長期の目標を設定する傾向にあり、同時に開示割合も46.7%で電気・ガス、輸送機器の次に高い割合であり積極的に情報開示をしていることが示された。ただし社会目標についてはこれら以外の産業では開示率に多少の違いが見られるものの、目標期間にはあまり大きな差がみられなかった。

表10 2014–2018年における産業別の社会目標の設定状況(N=1,155)
企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度
電気・ガス 13(52.0%) 2.54 1.05 2 1 4 0.11 −1.39
素材 84(37.3%) 2.94 2.26 3 0 12 1.78 4.49
機械 83(33.9%) 3.46 4.21 2 −1 20 2.54 6.27
食品 19(29.2%) 4.05 2.88 4 0 11 0.57 −0.47
輸送機器 24(48.0%) 4.92 4.06 3 1 14 1.21 −0.21
医薬品 13(28.9%) 2.38 1.12 2 0 4 −0.39 −0.55
通信 21(32.3%) 2.62 2.71 2 −1 9 0.94 −0.13
その他製造業 9(30.0%) 2.89 1.45 3 0 5 −0.48 −0.66
金融 38(36.2%) 2.58 1.29 3 0 5 −0.1 −0.81
サービス 58(25.8%) 2.97 2.45 3 0 13 2.12 6.03
建設 21(46.7%) 7.24 8.35 5 1 32 2.26 3.86

(出所)筆者作成。

4.2  SDGsへの対応企業の目標設定状況

この節では東証一部上場企業を対象にSDGsへの対応状況について分析する。まず前提となる状況として冒頭に示したように企業のCSR関連報告書発行企業数はこの20年近く増加傾向にある(図1)。そのなかでSDGsが国連で採択された2015年以降のSDGs対応企業数は順調に増加しており、2017年にはCSR報告書開示企業の4社に1社の割合でその報告書のなかでSDGsについて言及されている(表11)。

表11 日本企業の社SDGsへの対応状況
報告書開示年 2015年 2016年 2017年 2018年
SDGs対応企業数 4 56 161 21

(出所)筆者作成。

(1)  日本企業のSDGsへのコミットメントの状況

また図5ではSDGsの17の目標のそれぞれにコミットしている企業数について、表12ではSDGs言及企業に占める17の目標への対応の割合について2017年の開示データに基づいて示している。

図5 SDGs言及企業における17の目標への対応状況

(出所)筆者作成。

表12 SDGs言及企業における17の目標への対応状況
目標1:貧困をなくそう 21.1%
目標2:飢餓をゼロに 23.0%
目標3:すべての人に健康と福祉を 54.0%
目標4:質の高い教育をみんなに 39.8%
目標5:ジェンダー平等を実現しよう 49.7%
目標6:安全な水とトイレをみんなに 37.9%
目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに 44.7%
目標8:働きがいも経済成長も 55.3%
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう 52.2%
目標10:人や国の不平等をなくそう 31.1%
目標11:住み続けられるまちづくりを 45.3%
目標12:つくる責任つかう責任 61.5%
目標13:気候変動に具体的な対策を 56.5%
目標14:海の豊かさを守ろう 30.4%
目標15:陸の豊かさも守ろう 43.5%
目標16:平和と公正をすべての人に 33.5%
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう 36.0%

(出所)筆者作成。

17の目標のうち特徴的なものについてみてみると、「目標12:つくる責任つかう責任」は企業の事業活動との結びつきが最も明確であるため最も多くの企業(99社)が個別の目標として企業の活動との関係について言及している。それに続いて「目標13:気候変動に具体的な対策を」(91社)が高い頻度でSDGsの目標として言及されており、社会課題のなかでも気候変動は突出して企業のからの関心を集めていることが示されている。また「目標8:働きがいも経済成長も」(89社)、「目標3:すべての人に健康と福祉を」(87社)、「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」(80社)といった社内やサプライチェーンを通じた労働条件や人権に関わる項目についても対応が行われていた。

(2)  環境および社会目標の設定期間に対するSDGsへのコミットメントの影響

最後にサンプルをSDGsへの対応企業と非対応企業に分けて、それぞれのグループにおける環境および社会目標の設定状況について比較する。ここでは2017年にSDGsへ対応している企業(56社、24.9%)とSDGsに対応していない企業(199社、75.1%)をサブサンプルとして設定した。まず環境目標について数値目標を設定している企業の割合を比較する(表13および表14)とSDGsに対応している企業はそうでない企業と比べて2014年より平均して20%くらい高くなっている。また目標設定期間についてはWilcoxonの順位和検定を実施すると統計的に有意な差は見られないものの(結果は省略)、SDGs対応企業の方がより長めの期間で目標を設定する傾向にある。

表13 日本企業の環境目標の設定状況(SDGs対応企業、N=56)
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 33(58.9%) 10.39 10.16 7 2 37 1.82 1.99 18(54.5%)
2015 35(62.5%) 9.57 9.94 6 1 36 1.79 2 17(48.6%)
2016 42(75.0%) 12.21 12.47 5 2 40 1.19 −0.35 21(50.0%)
2017 48(85.7%) 13.46 13.65 4 1 39 0.79 −1.26 22(45.8%)
2018 15(26.8%) 18.2 15.33 13 1 38 0.06 −2.02 5(33.3%)

(出所)筆者作成。

表14 日本企業の環境目標の設定状況(SDGs非対応企業、N=169)
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 76(45.0%) 9.57 9.74 7 2 37 2.28 3.69 42(55.3%)
2015 92(54.4%) 10.1 10.28 6 1 36 1.81 1.91 43(46.7%)
2016 96(56.8%) 11.94 10.9 5 1 35 1.3 0.28 38(39.6%)
2017 111(65.7%) 12.45 11.15 9 1 34 1.06 −0.29 38(34.2%)
2018 33(19.5%) 13.67 11.99 13 2 33 0.72 −1.1 11(33.3%)

(出所)筆者作成。

次に社会目標について数値目標を設定している企業の割合を比較する(表15および表16)とSDGsに対応している企業はそうでない企業と比べて2014年より平均して35%くらい高くなっている。特に2017年以降その差は大きくなっておりSDGsへ関心を寄せる企業はより広く社会課題に対しても関心を示していると考えられる。目標設定期間についてはWilcoxonの順位和検定を実施すると統計的に有意な差は見られないものの(結果は省略)、SDGs対応企業の方がより短めの期間で目標を設定する傾向にある。

表15 日本企業の社会目標の設定状況(SDGs対応企業、N=56)
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 12(21.4%) 6.33 1.72 7 3 8 −1.06 −0.48 7(58.3%)
2015 16(28.6%) 5.94 1.84 6 2 11 0.56 2.03 10(62.5%)
2016 33(58.9%) 5.09 1.57 5 2 10 1.36 3.67 22(66.7%)
2017 42(75.0%) 4.71 2.63 4 2 14 2.27 5.11 26(61.9%)
2018 14(25.0%) 3.43 1.55 3 1 8 1.61 2.84 10(71.4%)

(出所)筆者作成。

表16 日本企業の社会目標の設定状況(SDGs非対応企業、N=169)
年度 企業数 平均 標準偏差 中央値 最小値 最大値 歪度 尖度 2020年目標設定企業
2014 27(16.0%) 5.67 3.97 5 2 22 2.45 7.83 9(33.3%)
2015 47(27.8%) 6.21 3.35 6 2 21 2.34 7.13 26(55.3%)
2016 77(45.6%) 5.58 2.81 5 2 20 2.82 9.9 41(53.2%)
2017 90(53.3%) 5 4.2 4 1 34 4.39 24.37 45(50.0%)
2018 25(14.8%) 6.08 6.87 3 2 33 2.63 6.89 14(56.0%)

(出所)筆者作成。

5.  考察とまとめ

本稿では日本企業の目標設定の状況について、企業がどのような状況下で長期的なサステナブル目標を設定しているのかについて、環境関連項目、社会関連項目のそれぞれについて分析を行なった。まず数値目標の有無を調べるとともに、そのなかでも最も長期間の目標を設定している項目を抽出し、その長さを2014年から2018年の期間で経年比較を行った。これにより日本企業のサステナビリティ目標設定について以下の傾向が明らかになった。

まず環境関連項目に関する目標設定の状況について、2020年をターゲットとして長期目標を設定している企業群が大多数を占めていることが示された。2014年には環境目標を設定している企業のうち約半数の企業が最も長期の環境項目に関連して6年後の2020年を期限として活動目標を設定していた。残りの企業の多くはそれより短い期間の目標のみ設定していたため、この時点では長期目標であっても10年以内の期間を設定することが一般的であったといえる。その後も多くの企業が2020年のような区切りの良い年を目処にサステナビリティ活動を計画しており、2014年から2017年まで常に60社近くの企業が最も長期の環境活動について2020年に達成すべき目標を掲げていた。

また2014から2018年の4年の間には約半数の企業が目標設定期間を改定し、より長期の目標を設定していた。長期目標を改定する企業数は毎年10–20%程度のため改定の頻度はそれほど高くないものの、全体として短期目標のみを設定する企業は減少しており、一方で10年以上の期間にわたる超長期の目標を設定する企業が増加している。これらの結果、2014年には2020年目標を設定する企業に極端に偏っていた分布が、2018年にはいくつかのグループごとに分散しより滑らかな分布を形成していた。

次に社会関連項目に関する目標設定の状況について、2014年には日経225に登録されている企業のうち20%未満の企業のみが数値目標を設定していたが、その後3年間でその数は3倍以上になり、にわかに社会関連項目に対しても数値目標を設定する企業が増加してきた。これらの企業に関して環境関連項目の目標設定の状況と同様に2020年をターゲットとした長期目標を設定する企業がマジョリティを占めていたが、2014年から2018年までの4年間の改定のペースは環境関連目標の場合よりも低かった。現在も短期目標のみを設定している企業が多く、一部の企業のみ超長期の目標を設定している。その結果、2014年から2018年の間に目標設定期間の分布にあまり大きな変化は見られなかった。

これらの環境関連項目および社会関連項目に関する目標設定の状況に対して、いくつか産業ごとの特徴も観察された。まず環境関連項目について製造業企業は非製造業企業と比べて数値に基づいた環境目標を開示する割合は高いものの、環境関連項目の長期目標の設定期間は非製造業企業の方が製造業企業よりも有意に長いことが示された。産業別では特に建設にカテゴリーされる企業が最も長期の目標を設定する傾向にあり数値目標の開示に対しても積極的であった。

他方で社会関連項目については産業ごとの顕著な傾向はあまりみられず、数値目標を開示する企業の割合も、長期目標の設定期間も製造業企業と非製造業企業の間に有意な差がみられなかった。産業別には環境関連目標の場合と同様に建設のカテゴリーに属する企業は積極的に数値目標を開示するとともに他業種の企業よりもより長期の目標を設定する傾向にあったものの、それ以外の企業では大きな差がみられなかった。

また本稿では日本企業のSGDsへのコミットメントの状況を明らかにするとともに、これらの取り組みが企業の長期目標の設定状況に対して影響を与えているのかどうかについても分析を行った。SDGsへのコミットメントを開示する日本企業の数は国連で採択された2015年より急激に増加しており、2017年時点で東証一部上場企業のうち161社がSDGsへのコミットメントを示していた。また2017年の段階で17の目標それぞれへのコミットメントの状況を調べたところ、企業の本業との関連性の高い目標8、12、13へのコミットメントを示す企業が多かった。しかしながら今回の調査ではこれらのコミットメントの状況と企業のサステナビリティ目標の設定状況との間には関係性を見出すことができなかった。

このように今回の調査を通じて、第一に企業の長期目標について2020年や2030年など特定の年度を対象に活動目標を設定していることが示された。通常のビジネス活動に関連する中期経営計画と比べ、サステナビリティ項目に関する目標設定の期間はキリの良い年度をめどに計画を立てられることが多いとともに、その改定も定期的に実施されているわけではないことが今回の調査結果から示唆されている。そのため活動目標として一定の配慮は行われているものの、マネジメントコントロールとしての実質性については疑問の余地が残る。

第二に環境関連項目についてはここ数年で目標期間を長期に改定する企業が増加していることが示された。SBTなど地球一個分の持続可能な生産や消費に対する社会的な要請が強まるなかで企業はより長期的な展望で環境活動を計画し、展開していると考えられる。改定のペースはそれほど頻繁でないものの2030年や2050年などの超長期的な視点で環境目標を設定する企業が増加しており、日本企業全体のサステナビリティ活動への展望がより長期的な未来を志向するようになったといえる。

第三に社会関連項目について企業は2020年目標を中心に中期的なサステナブルマネジメントを展開していることが示された。環境関連項目と比べしばしば人権や労働環境に関する項目は必ずしも定量的な管理になじまないことも多いため、2014年時点では限られた企業しか数値目標を設定していなかった。また将来予測や理想的な社会像について、相対的に展望を描きにくい社会側面については相対的に短期的な期間で活動目標が設定されていることが示された。

第四にサステナビリティ目標の設定に対する産業の与える影響が示された。サステナビリティ研究においてしばしば産業ごとの違いが直面するステイクホルダーの違いとして企業の実務に影響を与えることが示唆されている。これらはしばしば企業の正統化のプロセスを通じて情報開示の積極性に影響を与えることが指摘されている。これに対して今回の調査では建設、輸送機器、機械に属する企業は設定目標期間が長く開示率も高かったのに対して、同じ設定目標期間が長い企業でも金融、食品、サービスといった業界では開示率が低く開示率と目標設定の期間の関係にばらつきがみられた。このことからサステナビリティ経営に産業が与える影響は従来の研究が指摘するよりも複雑であることが示唆されている。特に目標設定については同一産業内でのベンチマーク活動が活発に行われていることも示唆され、これらのプロセスについても考慮することが必要となる。

本研究では環境、社会のターゲットについて長期的な目標設定について分析を行った。今回の調査では大きく環境と社会の2つのカテゴリーに分類し長期のサステナビリティ目標の設定状況について分析を行った。こういった目標設定実践の背景としてSBTやSDGコンパスで示されるアウトサイド・インアプローチのようにサステナブル目標設定についてよりコンセンサス志向や科学的志向が求められるとともに、Journal of Cleaner Productionでの工学的な分析や技術開発は進められている。今後の展望として目標設定の規定要因についても分析を展開していく必要がある。

付記

本論文の成果の一部は、科学研究費補助金(課題番号 18H03824、16H03679、17K04088、18K12902)の支援を受けたものである。また本稿は第31回社会関連会計学会全国大会においてワーキンググループ(環境経営のためのマネジメント・コントロール・システム)として報告された原稿を加筆修正したものである。

1  2018年8月にデータ収集を実施しているため2018年の報告書は未発行の企業も多く参考情報として提示している。

参考文献
 
© 2019 法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
feedback
Top