イノベーション・マネジメント
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論文
ブランド・コミュニティ研究へのマルチレベル分析の適用可能性
―Facebookページへのリレーションシップがロイヤルティに及ぼす影響の検討―
竹内 淑恵
著者情報
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2019 年 16 巻 p. 53-78

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要旨

多くの企業が、Facebookページ(以下、FBページ)を統合マーケティング・コミュニケーション戦略の一環として活用している。これまでの研究では、FBページを展開している企業が多数存在するにもかかわらず、少数のFBページに限定して調査する、あるいは、多数のFBページのデータを収集した後、集計して分析するというアプローチが採られてきた。そこで本研究では、38ブランドのFBページに対する消費者反応データを用いて、階層線形モデルの適用可能性を検討した。階層線形モデルは、個人レベル(消費者)と集団レベル(FBページ)という階層的なデータを適切に分析するための手法である。分析の結果、集団レベルの誤差を固定効果としたモデルよりも、変量効果としたモデルのほうが適合度が有意に高いこと、個人レベルの効果に関して、FBページ間の異質性を仮定したモデルのほうが、独立変数(信頼、相互作用、コミットメント)による従属変数(推奨意図)に対する説明力が高いことが明らかになった。また、集団レベルの変数である、年齢、男女比率、人気ランキングには有意な効果が認められなかった。一方、満足度、快楽的動機においては、個人レベルの効果のみならず、集団レベルの効果を扱うことにより、モデルの説明力が高まることが見出された。

1.  はじめに

Facebook(以下、FBと略す)のホームページ1によると、「2018年7月のデイリーアクティブ利用者は14億7000万人、2018年7月30日時点での月間アクティブ利用者数は22億3000万人」にものぼる。FBのみならず、Twitter、Instagram、LINE等のソーシャルネットワークサービス(以下、SNSと略す)には膨大な数のユーザーが存在し、しかも、これらのネットワークは漸進的に成長している。そのため、企業のマーケティング担当者はSNSを利用している消費者とのコミュニケーションの可能性を認識せざるを得なくなっている。今や、企業が統合マーケティング・コミュニケーション戦略の一環としてソーシャルメディアを組み込むことは驚くべきことではなく、SNSを自社のコミュニケーション活動のための新しい手段として活用している。そして、SNS上のブランドページを成功させるためには、たとえばFBページであれば、「いいね!」をクリックする、あるいは、Twitterであれば、「フォロー」をクリックして、消費者にそのページのメンバーやフォロワーになってもらう必要がある。

ブランドページは特定のブランドに対して興味を持つ消費者が集まるネットワーク上のブランド・コミュニティであるが、他のタイプの、たとえば企業のホームページ内にあるブランド・コミュニティやオフラインのブランド・コミュニティとは異なる面もあり、ブランドページ特有の特徴がある(Sicilia, Palazón, & López, 2016)。そのため、消費者のブランドページへの参加動機も異なるであろうし、SNS上に数多く存在するブランドページ自体も、それぞれ異なる目的をもって、展開されている。しかしながら、これまでのブランドページに関する研究では、少数の製品カテゴリーのブランドを対象にする、あるいは、それぞれのブランドページへの反応を集計して分析するというアプローチで行われている。また、FBページを対象とした研究は、海外では比較的多く実施されているのに対して、日本国内での研究は十分に行われているとは言えない状況にもある。そこで本研究では、特定のブランドページを分析対象にするのではなく、また、多くのブランドページへの反応を集計して分析するのでもなく、マルチレベル分析の1つである階層線形モデルを適用し、多数のFBページに対するリレーションシップがロイヤルティにどのような影響を及ぼすのかを検討する。また本分析を行うことにより、ブランド・コミュニティ研究においてマルチレベル分析を適用できるかどうか、その可能性についても検討する。

2.  マルチレベルモデルについて

マルチレベルモデルとは、階層的なデータを適切に分析するための手法であり、マルチレベルは、データの多層性のことを意味している(清水, 2014)。そして、マルチレベルモデルの中で利用されることが多いのが、階層線形モデルである。データが階層的になっている例として、清水(2014)は、複数の国の人から集めたデータ、学級ごとに生徒をサンプリングしたデータ、家族単位で調査票を配布し、家族成員それぞれに回答を求めたデータ等の事例を挙げている。また、Kreft and De Leeuw(1998)は、企業における労働者の収入の差異、高校生を対象とした薬物防止プログラムの効果、学校の組織構造が生徒の成績に与える影響等を挙げ、さまざまな分野でデータが構造的にネストされた事例があると指摘している。これらの事例は、主に教育学、心理学、社会学、政治学、経済学等の研究領域を対象にしており、集団を学校、チーム、企業、地域、国等のレベルで捉えている。このような捉え方を、経営学の分野、とくにマーケティングに当てはめると、企業を集団として捉えるのみならず、さらに下位のレベルとして、ブランドという集団に適用することもできる。個人としての消費者と、集団としてのブランドというレベルで階層的にデータ捉えることにより、ブランド間の異質性を明示的に取り込むことが可能になる。

マルチレベルモデルを使うメリットとして、清水(2014)は、集団単位と個人単位の両方の情報を持つ階層的データを適切に捉える点を指摘している。たとえば、重回帰分析や構造方程式モデルでは、2グループ、あるいは多くても3グループ間の差異は検討できたとしても、より多くのグループで構成される集団の分析を適切に扱うことは困難である。また、分散分析であれば多重比較によって複数グループ間の検定を行うことができるが、変数間の因果関係の解明はできない。しかしながら、本研究で分析対象としているFBページは国内外を問わず多くのページが存在し、消費者は個人の興味・関心に基づいて、FBページに参加しており、また、1人で複数のFBページを利用することも多い。そのような状況を考えると従来の研究手法で分析するだけで、実態を把握できるのかという疑問が生じる。調査に際しては、特定のFBページを指定して、閲覧させて評価データを得る、あるいは、いつも見ているFBページへの評価を回答してもらい、FBページの異質性を考慮せずに分析することになる。

竹内(2018)では、FBページにおけるリレーションシップ形成をテーマとし、競合関係にある航空会社の2つのブランド間で差異の検証を行ったが、有意な違いを見出すことはできなかった。これは、ライバルを意識して、互いに似たようなコミュニケーション活動を展開していることが原因になっているためではないのかと推測される。共感について検討した竹内(2015)では、食品分野の2つの競合ブランドを対象とし、FBページ閲覧による共感の発生について実証分析を行うとともに、企業イメージの向上を比較した。その後、竹内(2016)では、人気度は高いが、競合関係にない2つのサービス財の差異を検証したが、一般化には至っていない。そもそもサービス財と有形財を比較しても、企業の戦略やFBページで目指している目的が異なっていれば、求める効果に違いが出ても当然だという結論になってしまうのではないかという疑問も出てくる。

調査リクルートの段階で一定の興味関心度のある対象者を絞り、本調査時点で閲覧するFBページを指定する方法では、いつも閲覧しているFBページであるとは限らず、リレーションシップの形成を検討するデータとして適切であるのかという点で調査手法の限界がある。また、どのFBページを想起して回答しているのか不明なまま評価を取り、分析に供するという場合も、それはそれで問題がある。階層線形モデルは教育学や心理学等のみならず、近年では経営学や人的資源管理(HRM)の領域における組織分析にも適用されている(竹内・竹内・外島, 2007)。そこで本研究でも、FBページへのリレーションシップがロイヤルティ形成に及ぼす影響を階層線形モデルの観点から検討する。世の中には数多くの企業やブランドが存在しており、このようなアプローチで分析を行うことは、マーケティングの研究分野、とくにブランド・コミュニティの研究分野として一定の意義があると考える。

3.  先行研究の整理と仮説設定

以下では、FBページにおけるリレーションシップがロイヤルティ形成にどのような影響を及ぼすのかを検証するために、階層線形モデルを用いることを前提に先行研究を概観する。その上で、本研究の仮説を記述する。

3.1  ネットワーク上のブランド・コミュニティの新しい形としてのブランドページ

ブランド・コミュニティとは「ブランドのユーザー間で構造化された社会的関係に基づく、地理的に特化していない特殊なコミュニティ」と定義されている(Muniz & O’Guinn, 2001)。ブランド・コミュニティはまずオフラインで開発され、参加メンバーは会議、社会的活動、ブランドによって開催されるイベントにおいて、対面で会話するという形で展開された(Sicilia et al., 2016)。その後、インターネットの発展とともに、ネットワーク上にブランド・コミュニティが創出され、このプラットフォームを通じてメンバー同士の交流が容易になった(Algesheimer, Dholakia, & Herrmann, 2005)。ネットワーク上のブランド・コミュニティは、ブランドに対して共通の興味を持つ個人が相互に電子的にコミュニケーションするグループとして概念化され(Sicilia & Palazón, 2008)、ブランドページは、SNSに埋め込まれた新しいネットワーク上のブランド・コミュニティの一形態となった(Habibi, Laroche, & Richard, 2014)。2013年時点で、80%以上の欧州企業が既にブランドページを展開している(Sicilia et al., 2016)。また、トライバルメディアハウスとクロス・マーケティング(2012)の調査報告によると、日本においても上級活用企業の91.7%がTwitterを、86.1%がFBを利用している。しかしながら、ブランドページのコミュニケーション効果や効果測定に関する学術的な検証は十分とは言えない。

コミュニケーション手段としてのブランドページの現状と研究課題について検討したSicilia et al.(2016)は、ブランドページと他のネットワーク上のブランド・コミュニティについて整理し、ブランドページの特徴として次の3点を挙げている。①オープンアクセスである。簡単にブランドページに参加したり、離れることができ、労力も、ブランドへの高い関与も、コミュニティへの義務感なども必要がない。また、②幅広い視聴者という特徴もある。FBやTwitterなどのネットワーク上のブランドページでは、企業のホームページに設置されたブランドページでは抱えられないほど多くのファンを獲得することができる。情報拡散という点でも秀でた特徴を持っている。FBで「いいね!」を押す、コメントを投稿すると、その情報がネットワーク全体に配信されることになる。③相互作用性も他のブランド・コミュニティとは異なっている。チャットルームやフォーラムなどのブランド・コミュニティでは仮名で参加することも多いが、FBでは基本的に実名での登録である。そのため、ブランドページでのe-クチコミの信頼性にもプラスの効果がもたらされる。このような特徴を踏まえた上で、リレーションシップやロイヤルティ形成という観点からコミュニケーション効果について検討する必要がある。

3.2  ブランドページに参加する動機・目的について

Sicilia et al.(2016)が指摘するように、ブランドページを成功させるためには、新しいメンバーを参加させる必要がある。そこで重要なのが、消費者がブランドページに参加しようと思う意思に影響する要因、すなわち、参加動機や目的に対する理解である。Pentina, Prybutok, and Zhang(2008)は、社会との一体化、エンターテインメント、情報探索、ステイタスの強化、取引目的といった参加動機を挙げている。また、動機について包括的に文献レビューを行ったPark and Kim(2014)は、社会的便益(他者との社会的交流)、情報的便益(情報取得)、快楽的便益(楽しみ)、経済的便益(プロモーション取引)の4つの便益を特定している。しかしながら、実証分析において、Park and Kim(2014)は経験的便益と機能的便益を取り上げて、リレーションシップの質やクチコミ等のロイヤルティ行動に影響を及ぼすことを検証し、FBページは企業と消費者との関係性を構築する上で重要なメディア戦略であると主張している。社会的便益と情報的便益に焦点を当てているのは、Jung, Kim, and Kim(2014)である。分析の結果、FBページへの再訪問意図、ブランドへの信頼に対してプラスの影響があることを明らかにした。Kang, Tang, and Fiore(2014)では、機能的、社会・心理的、快楽的、金銭的便益の4次元に分類している。コミュニティへの参加度に対して、社会・心理的、快楽的便益はプラスの影響を及ぼすが、機能的、金銭的便益の影響はないことを見出している。Sung, Kim, Kwon, and Moon(2010)は、エンターテインメント、情報、インセンティブ、利便性の4つを探索動機とし、Kuo and Feng(2013)は、知覚便益として学習的便益、社会的便益、自己評価的便益、快楽的便益の4つを用いている。

上記の通り、便益に関してもいろいろな次元が提案され、諸説あることが判明した。本研究は、FBページを販売促進のためのプロモーションの場としてではなく、メンバー同士、あるいは、メンバーと企業間のコミュニケーションの場であり、長期的なリレーションシップを形成するプラットフォームとして位置づけて活用すべきであるという立場を取っている。そこで、参加動機については、経済的な便益を除き、社会的動機、情報探索動機、快楽的動機の3次元で捉え、FBページという集団レベルを評価するための変数とする。

満足度は、先行研究でも広く扱われ、その定義はさまざまで複雑な概念であるが、本研究ではリレーションシップの観点から満足度を捉えた先行研究の知見を確認する。Crosby, Evans, and Cowles(1990)は、満足度をリレーションシップの質の要素の1つと捉え、Severt(2002)はリレーションシップを構成するすべての側面の全体的な評価から生じる感情的状態と定義している。実証分析において、たとえば、Sung et al.(2010)De Almeida, Dholakia, Hernandez, and Mazzon(2014)では、FBページへの全体的満足として、Steinmann, Mau, and Schramm-Klein(2015)は提供される情報への満足度として、Casaló, Flavián, and Guinalíub(2010)は参加による便益に対する全体的満足という視点で捕捉している。そこで本研究では、全体的満足、情報への満足、参加による便益という観点から、FBページという集団レベルの評価変数として、満足度を取り上げる。

3.3  ブランドページに対するリレーションシップについて

リレーションシップという概念は、Berry(1983)が導入したと多くの研究で認められ(竹内, 2014)、マーケティング分野においてパラダイムのシフトを起こした。その後、国内外を問わずさまざまな角度から研究が進められているが、以下ではブランドページに対するリレーションシップに焦点を絞り、信頼、相互作用、コミットメントの観点から先行研究の成果と知見を確認する。

まず信頼に関する先行研究を概観する。信頼は対人交流の基本原則であり、繰り返される相互作用を通して徐々に発現する(Gefen, 2000)。また、ブランドへの信頼とは、ブランドが消費時に期待どおりに機能するという消費者の信念と定義されている(Ha & Perks, 2005)。ブランドページへの信頼が再購買意図、クチコミといったロイヤルティにいかなる影響を及ぼしているのかを検討したHur, Ahn, and Kim(2011)は、コミットメントが媒介変数となり、クチコミへ大きな影響を与えていることを明らかにした。Lin and Lu(2011)は、信頼のみならず、社会的な相互作用、価値の共有を説明変数とし、FBページの継続的な使用意思に重要な役割を果たしていることを見出している。信頼とコミットメント、態度的ロイヤルティの関係をモデル化し、実証したAurier and Lanauze(2012)は、信頼とコミットメントは態度的ロイヤルティに直接影響を及ぼすとともに、信頼はコミットメントにも影響していることを明らかにしている。エンゲージメントを媒介変数として、ブランドへの信頼とロイヤルティについて検討したLaroche, Habibi, Richard, and Sankaranarayanan(2012)では、有意な関係を見出せなかったが、その後、Habibi et al.(2014)は、エンゲージメントの高低で消費者を分類し、信頼への影響を検討した。その結果、ブランドとの関係性、他の顧客との関係性は、信頼にプラスの影響を及ぼすことを明確化している。Kang et al.(2014)Kang, Tang, and Fiore(2015)においては、信頼のみならずコミットメントも変数として組み込み、レストランのFBページへの参加度と信頼、コミットメントに対する価格プロモーションの影響を検討した。その結果、参加度がコミットメントに直接影響すること、信頼が媒介変数となってコミットメントが高まることを見出している。これらの先行研究を見てわかる通り、信頼はリレーションシップ形成において重要な変数になっている。

次に、相互作用について検討している先行研究について確認する。相互作用とは「コミュニティのメンバー間およびメンバーとコミュニティの主催者間の情報交換」であり、情報交換や対人交流、質疑応答の速さ、主催者とメンバーとの交流によって測定される(Jang et al., 2008)。Algesheimer et al.(2005)は、コミュニティメンバーは他のメンバーと交流し、協力するといった本質的な動機づけを持っていると指摘している。従来型のマス媒体を通じた一方通行のコミュニケーションとは異なり、ブランドページでは、相互作用により双方向のコミュニケーションが成立する。具体的な実証研究の事例としては、前述のLin and Lu(2011)Kuo and Feng(2013)が挙げられる。Kuo and Feng(2013)では、「製品情報の共有」、「コミュニティの相互作用性」、「コミュニティへのエンゲージメント」を相互作用の変数と仮定し、コミットメント、ロイヤルティに対して影響を与えることを検証している。なお、Kim, Choi, Qualls, and Han(2008)Hur et al.(2011)では、他のメンバーとの情報・意見交換をコミットメントの1つの質問項目として取り上げているが、本研究ではJang et al.(2008)に依拠し、メンバー間の相互作用として扱うこととする。

最後にコミットメントについてまとめる。コミットメントとは、行為や活動の方向性を継続することへの意思であり、リレーションシップを維持したいという願望でもある(Hocutt, 1998)。コミットメントについては、前述のHur et al.(2011)Kim et al.(2008)Kuo and Feng(2013)Kang et al.(2014, 2015)をはじめ、多くの研究でリレーションシップ形成の重要な成功要因として扱われている。以下に重複しない範囲で研究事例を挙げておく。Liang, Ho, Li, and Turban(2011)では、リレーションシップ品質を信頼、満足、コミットメントの2次因子と仮定し、ソーシャル・コマースへの意図と継続意図を検討している。また、同一化、信頼、コミットメントを変数とし、Twitterのリツイートの有無によるe-クチコミの差異を検証したKim, Sung, and Kang(2014)や、FBページへの知覚コスト、知覚ベネフィットによるコミットメントとブランド・ロイヤルティへの影響を検討したZheng, Cheung, Lee, and Liang(2015)もある。Zhou, Zhang, Su, and Zhou(2012)では、コミュニティとブランドの両側面から、同一化とコミットメントへの影響について検討し、同一化とコミットメントの関係が支持された。後続の研究としてZhang, Zhou, Su, and Zhou(2013)が挙げられる。コミュニティへのコミットメントを継続的、感情的、規範的コミットメントの3要素に分類し、ブランドへの愛着を媒介変数として分析した結果、ブランド・コミットメントには感情的コミットメントが、また、ブランドへの愛着には3要素が影響するという知見を得ている。したがって、リレーションシップ形成を検討する際の重要な変数の1つとしてコミットメントを扱う必要がある。

3.4  ブランドページへのロイヤルティについて

ブランド・ロイヤルティとは、ブランドに対する消費者の忠誠心である。継続してそのブランドを購買するといった行動として、また、購買行動そのものだけではなく、継続的な購買意図という態度として現れる場合もある。しかしながら、ネットワーク上のブランドページにおいては、当該ページをたびたび閲覧したいといった再訪意図を持つ、あるいは、情報を拡散したり、好意的なクチコミを広げたいといった推奨意図の形成という形でロイヤルティが示されることもある。企業にとって継続的な購買行動や購買意図の形成のほうが、販売に直結するという意味でより望ましく、プロモーションを活用目的にする場合も多いだろう2が、FBページにおいては、販売促進やキャンペーン告知よりも、企業の担当者を含め、参加している人々が楽しくコミュニケーションできる、企業と消費者が対等に会話できる場の提供のほうがより重要なのではないかと考える。いろいろなメディアを通じて消費者とのコミュニケーションが可能になった現在、FBページに必要なのは長期的なファンづくりであり、企業はリレーションシップの形成を目指すべきである(竹内, 2018)。したがって、ロイヤルティの測定においても従来とは異なる視点が必要となる。従来は、継続的な購買、あるいは購買意図でロイヤルティを測定することが多かったが、FBページ上でのコミュニケーションの場合、参加者は能動的に情報を閲覧したり、ときには「いいね!」を押したり、コメントすることもできるため、そのような観点からロイヤルティを捕捉することが可能になり、また、必要にもなった。そこで本研究では、ブランドに対するロイヤルティではなく、FBページに対するロイヤルティとして測定する。先行研究としては、FBページ閲覧への継続意図を構成する1項目として友人への推奨を設定したLin and Lu(2011)、友人や親戚への推奨意図としてロイヤルティを捉えたAlgesheimer et al.(2005)を挙げることができる。また、Carroll and Ahuvia(2006)を参照したPark and Kim(2014)においても、友人や親戚へのクチコミ・推奨という観点から測定尺度を決定している。これらの先行研究を踏まえ、本研究では、FBページに対する他人への推奨意図を従属変数とする。

3.5  分析の枠組みと仮説

本研究では、FBページに対する消費者個人レベルの評価を、FBページという集団レベルの特徴、たとえば、男性・女性向け、ターゲット年齢といったデモグラフィック変数、人気ランキング、コメント数、参加動機や満足度等を加味せずに分析してよいのかという問題意識から検証することを目的とし、個人レベルと集団レベルの効果について同時に分析できるマルチレベル分析の適用可能性について検討するものである。そこで、本研究における分析枠組みを図1のように設定する。

図1 本研究における分析枠組み

(出所)筆者作成。

なお、個人レベルの信頼、相互作用、コミットメントと推奨意図の関係について、FBページにおける消費者とブランドとのリレーションシップ構築に関して検証した竹内(2018)では、

① コミットメントに対する影響は、相互作用のほうが信頼より大きい

② 継続・推奨意図は、相互作用、信頼、コミットメントからプラスの影響を受ける

ことを明らかにしている。しかしながら本研究では、階層線形モデルを適用するため、媒介効果を仮定せずに、②の結果のみを参照する。

集団レベルの変数のうち、先行研究のレビューにおいて言及しなかった点について整理しておく。前述の通り、ブランドページはオープンアクセスであり、幅広い視聴者が参加している。したがって、代表的なデモグラフィック変数として、男女比率、ターゲット年齢について検討する。また、竹内(2018)において、多母集団の同時分析を用いて男女間の差異を明らかにしているという点を踏まえ、組み込んでいる。Sicilia et al.(2016)によると、人気ランキングという視点も重要であるため、1つの変数として扱うこととする。

実証分析に際し、以下の仮説を設定する。

仮説1:個人レベルの効果に関して、FBページ間の異質性を考慮せずに分析を行うよりも、FBページ間の違いを加味したモデルのほうが、独立変数(信頼、相互作用、コミットメント)による従属変数(推奨意図)に対する説明力が高い。

仮説2:個人レベルの効果のみならず、集団レベルの効果を扱うことにより、モデルの説明力はさらに高まる。

仮説2で扱う集団レベル、すなわち第2水準の変数である、参加者の平均年齢、男女比率、FBページの人気ランキング、満足度、参加動機に対する仮説は以下の通りである。

仮説3-1:参加者の平均年齢は有意な負の影響3を与える。

男女比率は有意な正の影響4を与える。

仮説3-2:FBページの人気ランキングは有意な正の影響を与える。

仮説3-3:満足度は有意な正の影響を与える。

仮説3-4:参加動機は有意な正の影響を与える。

4.  モデルの定式化

上記の仮説に基づいてモデルを定式化する。従属変数は推奨意図(以下、RECと略す)とする。レベル1、すなわち、個人レベルの独立変数としては、信頼(以下、TRU)、相互作用(以下、INT)、コミットメント(以下、COM)の3変数、レベル2の集団レベルの独立変数は、年齢(以下、AGE)、男女比率(以下、SEX)、人気ランキング(以下、RANK)、満足度(以下、SAT)、社会的動機(以下、SOC)、情報探索動機(以下、INF)、快楽的動機(以下、HED)とする。変数として扱うデータの詳細については後述する。Nullモデルは以下の通りである。

レベル1モデル:RECij=β0j+rij

レベル2モデル:β0j=γ00+u0j

上記2つのモデルを混合モデルの形式で表すと(1)式になる。

RECij=γ00+u0j+rij   (1)

(1)式において添え字のiは消費者個人を、jは集団レベルとしてのFBページを指す。β0jは独立変数を統制した際の全体の平均を示す切片であり、固定効果としてのγ00と変量効果であるu0jで構成される5rijは誤差項である。

3つの独立変数を固定効果としたモデル1は以下の通りである。ここでレベル1の変数は集団平均中心化して投入する。

レベル1モデル:RECij=β0j+β1j*(TRUij)+β2j*(INTij)+β3j*(COMij)+rij

レベル2モデル:β0j=γ00+u0j

β1j=γ10

β2j=γ20

β3j=γ30

混合モデル:RECij=γ00+γ10*TRUij+γ20*INTij+γ30*COMij+u0j+rij   (2)

(2)式においてβ1jβ2jβ3jは、それぞれ3つの独立変数、すなわち、信頼、相互作用、コミットメントの傾きを示すパラメータである。レベル2では、切片に変量効果(u0j)を仮定しているが、独立変数については仮定していない。γ10γ20γ30はそれぞれβ1jβ2jβ3jの固定効果を表すパラメータである。

独立変数の傾きにグループ間変動を指定したモデル2は(3)式の通りである。(2)式との違いは、3つの独立変数についても変量効果(u1ju2ju3j)を仮定している点である。

レベル1モデル:RECij=β0j+β1j*(TRUij)+β2j*(INTij)+β3j*(COMij)+rij

レベル2モデル:β0j=γ00+u0j

β1j=γ10+u1j

β2j=γ20+u2j

β3j=γ30+u3j

混合モデル:RECij=γ00+γ10*TRUij+γ20*INTij+γ30*COMij

+u0j+u1j*TRUij+u2j*INTij+u3j*COMij+rij   (3)

(3)式では、第2水準にグループ間の変動を説明する独立変数を組み込んでいないため、(4)式に示す通り、平均年齢、男女比率を追加したモデル3-1を設定する。ここでレベル2の変数は全体平均中心化して投入する。

レベル1モデル:RECij=β0j+β1j*(TRUij)+β2j*(INTij)+β3j*(COMij)+rij

レベル2モデル:β0j=γ00+γ01*(AGEj)+γ02*(SEXj)+u0j

β1j=γ10+γ11*(AGEj)+γ12*(SEXj)+u1j

β2j=γ20+γ21*(AGEj)+γ22*(SEXj)+u2j

β3j=γ30+γ31*(AGEj)+γ32*(SEXj)+u3j

混合モデル:RECij=γ00+γ01*AGEj+γ02*SEXj

+γ10*TRUij+γ11*AGEj*TRUij+γ12*SEXj*TRUij

+γ20*INTij+γ21*AGEj*INTij+γ22*SEXj*INTij

+γ30*COMij+γ31*AGEj*COMij+γ32*SEXj*COMij

+u0j+u1j*TRUij+u2j*INTij+u3j*COMij+rij   (4)

第2水準の変数として人気ランキングを追加したモデル3-2は(5)式の通りである。

レベル1モデル:RECij=β0j+β1j*(TRUij)+β2j*(INTij)+β3j*(COMij)+rij

レベル2モデル:β0j=γ00+γ01*(RANKj)+u0j

β1j=γ10+γ11*(RANKj)+u1j

β2j=γ20+γ21*(RANKj)+u2j

β3j=γ30+γ31*(RANKj)+u3j

混合モデル:RECij=γ00+γ01*RANKj

+γ10*TRUij+γ11*RANKj*TRUij

+γ20*INTij+γ21*RANKj*INTij

+γ30*COMij+γ31*RANKj*COMij

+u0j+u1j*TRUij+u2j*INTij+u3j*COMij+rij   (5)

同様に、満足度を第2水準として追加したモデル3-3は、(5)式のRANKをSATに置き換えるだけであるため、ここでは記載を省略する。

第2水準として、FBページ参加動機に関する3変数を取り込んだモデル3-46は(6)式の通りとなる。

レベル1モデル:RECij=β0j+β1j*(TRUij)+β2j*(INTij)+β3j*(COMij)+rij

レベル2モデル:β0j=γ00+γ01*(SOC_Mj)+γ02*(INF_Mj)+γ03*(HED_Mj)+u0j

β1j=γ10+γ11*(SOC_Mj)+γ12*(INF_Mj)+γ13*(HED_Mj)+u1j

β2j=γ20+γ21*(SOC_Mj)+γ22*(INF_Mj)+γ23*(HED_Mj)+u2j

β3j=γ30+γ31*(SOC_Mj)+γ32*(INF_Mj)+γ33*(HED_Mj)+u3j

混合モデル:

RECij=γ00+γ01*SOC_Mj+γ02*INF_Mj+γ03*HED_Mj

+γ10*TRUij+γ11*SOC_Mj*TRUij+γ12*INF_Mj*TRUij+γ13*HED_Mj*TRUij

+γ20*INTij+γ21*SOC_Mj*INTij+γ22*INF_Mj*INTij+γ23*HED_Mj*INTij

+γ30*COMij+γ31*SOC_Mj*COMij+γ32*INF_Mj*COMij+γ33*HED_Mj*COMij

+u0j+u1j*TRUij+u2j*INTij+u3j*COMij+rij   (6)

5.  調査概要

調査対象は男女20~59歳とし、マスコミ関係者は対象外とする。エリアは全国を対象に、県・ブロック別等の割付は行わない。調査回答者に対して、FB、Twitter、Instagram、LINE等のSNSを利用し、FBのアカウントを所有していることという条件を課している。また、スクリーニング段階において、企業あるいはブランドのFBページへのコメントや「いいね!」経験の有無を確認した上で、本調査の対象者としている。20代~50代の4グループに分け、男女別に各300サンプル計2,400サンプルのデータをwebアンケート調査にて収集した(回収した有効サンプルは各309、計2,472)。本調査では、指定された特定のFBページを閲覧した上で回答するのではなく、回答者が想起したFBページについて、閲覧頻度(4段階)、コメントや「いいね!」経験の有無(4段階)、当該FBページへの評価(7段階のリッカート尺度)等を回答するという方式を採っている。2017年12月7日(木)~2017年12月8日(金)に実査を行った。

6.  収集データの概要

前述の通り、回答者が想起したFBページは自由記入式の回答である。そこで企業ブランド・製品ブランドとしてどのようなものが想起されているのかについて、全サンプルを見て確認した。まず業種を分類すべく、電通が毎年公開している「日本の広告費」における業種分類基準7に従って、全サンプルを分類した。その結果、表1に示す通り、第1想起のFBページとしてさまざまな業種の多様な企業が挙げられた。20業種にも及ぶ業種による分析を行うことにも一定の価値があるが、第1想起として具体的なFBページ名を挙げてもらっていることに着目し、データの整理をさらに行った(表2)。回答者総数は2,472名であるが、その中には企業ブランドや製品ブランド以外の回答8や、回答欄に記載された内容に基づいて検索を実施しても、判明できなかったもの、さらに「覚えていない」、「忘れた」等の回答もあり、それらを除き、また、個別グループとして分析可能であるように、回答人数が8名9以上の38ブランド966名のデータを抽出した。これら38ブランドには、表1に記載した100名以上回答のあった上位の業種がすべて網羅されている。そこで本研究では、個人レベルと集団レベルの効果の違いを同時に分析可能なマルチレベルモデル、具体的には階層線形モデルを用い、38ブランドのFBページに対する消費者のリレーションシップとロイヤルティ形成に対する効果を検証する。

表1 第1想起に挙げられたFBページの業種一覧
業種 人数 業種 人数
情報・通信 330 官公庁・団体 38
食品・飲料 324 教育・医療サービス・宗教 34
交通・レジャー 305 金融・保険 17
流通・小売業 299 不動産・住宅設備 15
自動車・関連品 211 家庭用品 14
ファッション・アクセサリー 125 エネルギー・素材・機械 13
外食・各種サービス 108 嗜好品 3
趣味・スポーツ用品 103 薬品・医療用品 3
化粧品・トイレタリー 101 その他 46
精密機器・事務用品 70 特定できないもの 90
出版 48 不明 132
家電・AV機器 43 合計 2,472

(注)「その他」は企業ブランドあるいは製品ブランド以外の個人名など、「特定できないもの」は回答欄に記載された内容に基づいて検索を実施したが、判明できなかったもの、「不明」は覚えていない、忘れた等の回答があったものである。

(出所)筆者作成。

表2 第1想起に挙げられたブランド名と人数
ブランド名 人数 ブランド名 人数 ブランド名 人数
サントリー 74 ホンダ 25 セブン・イレブン 10
コカ・コーラ 50 マツダ 12 ファミリーマート 8
キリン 37 スバル 12 イオン 8
アサヒ 30 ナイキ 18 楽天 44
スターバックス 23 アディダス 11 Amazon 34
マクドナルド 10 クラシル 25 Yahoo! 9
明治 8 デリッシュキッチン 17 ユニクロ 52
資生堂 22 クックパッド 8 無印良品 11
花王 10 C Channel 14 ディズニー 27
ソニー 30 au 32 ユニバーサル・スタジオ 8
パナソニック 30 ドコモ 28 ANA 46
トヨタ 70 ソフトバンク 24 JAL 37
日産 41 ローソン 11 合計 966

(出所)筆者作成。

次に、分析に用いる項目について記載する。表3表4は調査に用いた質問項目の一覧である。各項目とも7段階のリッカート尺度によって測定している。いずれの項目も竹内(2018)を基本的には踏襲しているが、それ以前に実施された先行研究名も併記している。

表3 レベル1で用いる変数名と質問内容の一覧
変数名 質問内容 出典
信頼 このFBページは信頼できる。 Aurier and Séré de Lanauze(2012)Habibi et al.(2014)Hur et al.(2011)Kang et al.(2014)Kang et al.(2015)竹内(2018)
このFBページは信頼できる情報を提供している。 Hung, Li, and Tse(2011)Kang et al.(2014)Kang et al.(2015)Lin and Lu(2011)竹内(2018)
このFBページは正直だ。 Habibi et al.(2014)Hur et al.(2011)竹内(2018)
このFBページは約束を守っている。 Kang et al.(2014)Kang et al.(2015)竹内(2018)
相互作用 他のメンバーと情報や意見を交換したい。 Hur et al.(2011)Kim et al.(2008)竹内(2018)
このFBページの他のメンバーを支援することができる。 Kuo and Feng(2013)竹内(2018)
このFBページの投稿にすぐに対応することができる。
コミットメント このFBページに置き換えることができるサイトを見つけるには長い時間がかかるだろう10 Zhou et al.(2012)Zhang et al.(2013)Zheng et al.(2015)竹内(2018)
このFBページが利用できなくなったら、損失を感じるだろう。
このFBページとの関係は重要だ。
自分の生活の一部として、このFBページを感じる。
推奨意図 これからも他の人にこのFBページをお勧めしたい。 Park and Kim(2014)竹内(2018)
これからもこのFBページについて良い評判を広げたい。
これからも友人にこのFBページのことを話したい。
友人や親戚がFBページを探していれば、このFBページをお勧めする。 Algesheimer et al.(2005)Lin and Lu(2011)竹内(2018)

(出所)筆者作成。

表4 レベル2で用いる変数名と質問内容の一覧
変数名 質問内容 出典
満足度11 このFBページで提供されている情報に満足している。 Steinmann et al.(2015)Casaló et al.(2010)竹内(2018)
このFBページに全体的に満足している。 Sung et al.(2010)Steinmann et al.(2015)De Almeida, et al.(2014)竹内(2018)
このFBページへの参加によっていくつかの利点を得られる。
社会的動機 友達を見つけることができる。 Park and Kim(2014)Jung, Kim and Kim(2014)竹内(2018)
他のメンバーとの関係を強化するのに役立つ。 Park and Kim(2014)Kuo and Feng(2013)竹内(2018)
このFBページへの参加を通してソーシャルネットワークを広げることができる。
情報探索動機 適切で詳細なレベルの情報を提供してくれる。 Park and Kim(2014)竹内(2018)
特定のサービスやサービスの利用に関する知識を向上することができる。
サービスの利用に関連する問題を解決したり、理解を高めるのに役立つ。
提供される情報は新しくて、役に立つ。 Park and Kim(2014)Jung, Kim and Kim(2014)竹内(2018)
快楽的動機 このFBページは内容が楽しい。 Sung, Kim, Kwon, and Moon(2010)Kuo and Feng(2013)竹内(2015)竹内(2016)竹内(2018)
このFBページを読むとリラックスできる。
このFBページは退屈なときに時間を過ごすことができる。

(出所)筆者作成。

7.  分析方法と結果

各独立変数と従属変数は、それぞれ複数項目から構成されるため、まず因子分析を行い、尺度の信頼性について検討して妥当性を確認した上で、尺度得点化している。因子数の抽出に際しては、設定した仮説と近い因子構造を抽出するため、ガットマン基準(Guttman, 1954)のみならず、堀(2005)によるMAPと対角SMC平行分析の挟み込み法も併用して、因子数を精査している。なお、結果の詳細は紙幅の関係で省略する。

レベル2で用いる平均年齢は、38グループそれぞれのFBページを回答した人の平均値を用いている。男女比率については男性0、女性1として算出した。人気ランキングは、企業ソーシャル・パワーランキング12に基づいて、1位~100位までを得点化(100点~1点)し、100位以下を0点とした。表5は記述統計量である。階層線形モデルでは、レベル1の変数に対して集団平均中心化を行うことが推奨されている(清水, 2014)ので、集団平均中心化を、また、レベル2の変数は全体平均で中心化をして投入した。分析にはSPSS PASW Statistics18.0、Scientific Software International社のHLM7.0(以下、HLM)を使用した。

表5 記述統計量
最小値 最大値 平均値 標準偏差 N
信頼 1 7 5.05 1.02 966
相互作用 1 7 4.12 1.31 966
コミットメント 1 7 4.05 1.49 966
推奨意図 1 7 4.36 1.30 966
平均年齢 28.29 46.65 39.46 4.75 38
男女比率 0.03 1.00 0.47 0.27 38
ランキング 0 96 23.74 25.9 38
満足度 4.63 6.04 5.09 0.31 38
社会的動機 3.33 4.92 4.04 0.42 38
情報探索動機 4.36 6.13 5.03 0.36 38
快楽的動機 4.38 5.88 5.02 0.35 38

(出所)筆者作成。

まずデータの階層性の有無について判断を行う。清水(2014)によると、明確な基準はないが、いくつかの説があり、①級内相関係数(ICC)13が有意、②ICCが0.1(0.05という主張もある)以上、③デザインエフェクト(DE)14が2以上の場合等が基準とされる。NullモデルのICCを見ると、0.033と低く(表8)、DEも1.856と2以上となっていないため、積極的にデータに階層性があるとは断言できない。したがって、本分析データの場合、グループ数が少数の集団であればマルチレベルモデルではなく、多母集団分析等を用いるほうが適切であるが、本データは前述の通り、38グループという多数の集団から構成されている。また、マルチレベルモデルがマーケティング分野の研究にも適用できるかどうかを試みるという目的を持っているため、階層線形モデルに当てはめて分析を進めることとする。結果は表6に示す通りである。

表6 分析結果
Null モデル1:固定効果のみ モデル2:変動効果あり モデル3-1:年齢・男女比率 モデル3-2:ランキング モデル3-3:満足度 モデル3-4-1:動機3変数 (参考)モデル3-4-2:動機3変数切片モデル
レベル1(個人レベル)
切片(γ00 4.378*** 4.403*** 4.409*** 4.409*** 4.407*** 4.419*** 4.414*** 4.417***
信頼(γ10 0.299*** 0.328*** 0.328*** 0.327*** 0.326*** 0.317*** 0.316***
相互作用(γ20 0.326*** 0.302*** 0.302*** 0.306*** 0.299*** 0.299*** 0.306***
コミットメント(γ30 0.337*** 0.332*** 0.332*** 0.335*** 0.334*** 0.342*** 0.340***
レベル2(集団レベル)
切片 AGE(γ01 −0.024†
SEX(γ02 0.123
信頼 AGE(γ11 −0.004
SEX(γ12 0.219
相互作用 AGE(γ21 0.006
SEX(γ22 −0.042
コミットメント AGE(γ31 0.003
SEX(γ32 −0.087
切片 RANK(γ01 0.000
信頼 RANK(γ11 0.001
相互作用 RANK(γ21 −0.003*
コミットメント RANK(γ31 0.003*
切片 SAT(γ01 1.114***
信頼 SAT(γ11 0.344***
相互作用 SAT(γ21 −0.257***
コミットメント SAT(γ31 −0.082
切片 SOC(γ01 0.277*** 0.298***
INF(γ02 0.481*** 0.522***
HED(γ03 0.407*** 0.239***
信頼 SOC(γ11 0.068
INF(γ12 −0.174
HED(γ13 0.433***
相互作用 SOC(γ21 0.039
INF(γ22 −0.203†
HED(γ23 −0.098
コミットメント SOC(γ31 0.075
INF(γ32 0.154
HED(γ33 −0.216*
ICC 0.033
逸脱度 3236.14 2108.50 2077.97 2070.39 2070.36 2030.96 1999.04 2019.81
χ2 1127.64*** 30.53*** 7.58 7.60 47.01*** 20.77*** 58.16***
決定係数 0.013 0.705 0.718 0.719 0.720 0.724 0.728 0.722
自由度修正済み決定係数 0.010 0.703 0.713 0.712 0.714 0.719 0.720 0.716

(注)***は0.1%水準、**は1%水準、*は5%水準、†は10%水準を意味している。また、モデル3-1~3-3、3-4-2はモデル2と、モデル3-4-1はモデル3-4-2とχ2検定を行った。

(出所)筆者作成。

Kreft and De Leeuw(1998)によると、HLMで推定した結果は通常の推定結果と、頑健な標準誤差に基づく推定結果の2種類が出力されるが、マルチレベルモデルの前提(グループごとの分散の等質性等)が満たされない場合にも、頑健な標準誤差を出すという点で後者を参照するとよいと言われている。そこで本研究でも、すべてその数値で記載している。またHLMでは、推定方法として制限つきの最尤法と最尤法の2種類が用意されているが、制限つき最尤法では尤度を用いて推定できるのは変量効果の分散成分のみであり、固定効果について尤度比検定を行うことはできないこと、また、モデル選択において最尤法のほうがより柔軟である(清水, 2014)ため、本分析では最尤法で推定している。

モデル1では、信頼(0.299)、相互作用(0.326)、コミットメント(0.337)の3変数とも有意(0.1%水準)であった。Nullモデルと比較すると、逸脱度は1127.64と大幅に減少し、尤度比検定を行った結果、有意にモデルが改善されている。ただし、モデル1では、切片のみに変量効果(u0j)を仮定し、信頼、相互作用、コミットメントについては仮定していない。FBページという集団レベルの影響の有無について検討するためには、これら3つの独立変数についても変量効果を仮定したモデル2と比較する必要がある。表6に記載した通り、モデル2はモデル1よりも逸脱度が有意に減少した(χ2=30.53、0.1%水準で有意)。そこで、より適合度の高いモデル2を、以降の第2水準の変数を追加したモデルと比較する基準モデルとする。

信頼(β1)の切片(γ10)の標準誤差において、モデル1では、通常の推定結果と頑健な標準誤差に基づく推定結果との間に乖離が見られたが、モデル2では、その違いがほぼ消失していた。この違いは、集団レベル、すなわち、レベル2の誤差を固定効果とするか、変動効果を仮定するかによって生起したと言える。また、上述の通り、モデル2はモデル1より有意に改善されている。したがって、集団レベルの変動を加味したほうが説明力の高いモデルになると結論づけることができ、仮説1「個人レベルの効果に関して、FBページ間の異質性を考慮せずに分析を行うよりも、FBページ間の違いを加味したモデルのほうが、独立変数(信頼、相互作用、コミットメント)による従属変数(推奨意図)に対する説明力が高い」は支持された。

次に、第2水準の変数を追加したモデルについて言及する。モデル3-1は、デモグラフィック変数という観点から年齢と性別に着目し、モデル3-2はFBページの人気ランキングを変数として投入したモデルである。モデル3-1もモデル3-2も逸脱度を見ると、モデル2よりも若干当てはまりの悪いモデルとなり、尤度比検定の結果、有意差がないことが明らかになった。したがって、第2水準の変数として、年齢や男女比率、人気ランキングを用いることは適切とは言えず、仮説3-1、仮説3-2は棄却された。また、これらの変数を第2水準の変数として組み込むというケースについては、仮説2「個人レベルの効果のみならず、集団レベルの効果を扱うことにより、モデルの説明力はさらに高まる」も棄却されることになる。

モデル3-3は、FBページ間の満足度の変動に着目したモデルである。表6に示した通り、第2水準の変数である満足度との交互作用項の切片(γ01)1.114、信頼(γ11)0.344、相互作用(γ21)−0.257はいずれも有意(0.1%水準)であったが、コミットメントの推定値(γ31)は有意ではなかった。したがって、仮説3-3「満足度は有意な正の影響を与える」は、切片と信頼に関して支持された。また、尤度比検定の結果、モデル2と比べてモデル適合度は高く、仮説2は満足度に関しては支持された。ここで、満足度の調整効果15、すなわち、相互作用(γ21)がマイナスで有意である点について言及しておく。相互作用(独立変数)には、推奨意図(従属変数)に及ぼす影響の方向性・程度を変化させる調整効果が認められ、その調整を生む変数(モデレータ)である満足度がマイナス、つまり、相互作用は推奨意図を高めるが、FBページに対する満足度によりその影響が弱められることを意味している。他のメンバーとの情報・意見交換、他のメンバーへの支援、投稿への迅速な対応で構成される相互作用は、高関与の場合なら比較的容易であるが、そうでない場合、面倒に感じ、満足度が高いほど、相互作用を負担に感じると解釈することが可能である。FBページの特徴はオープンアクセスであり、ブランドページへの参加も離脱も自由で、労力もブランドへの高関与も、コミュニティへの義務感も必要がない。そうした意味で相互作用と満足度の交互作用はマイナスになったと考えられる。

モデル3-4-1では、参加動機を社会的動機、情報探索動機、快楽的動機の3要因に分類し、その影響を詳細に検討した。ここでは、第2水準の変数のうち、切片のみに変量効果を仮定した切片モデル(モデル3-4-2)とモデル間比較を行った。表6に示した通り、逸脱度は1999.04であり、χ2検定の結果、モデル3-4-1の適合度がより高いことが明らかになった。切片の変動に対して、社会的動機、情報探索動機、快楽的動機の3変数ともプラスの影響を及ぼしている。また、信頼と快楽的動機(プラスの影響)、コミットメントと快楽的動機には交互作用(マイナスの影響)が認められた。コミットメントは推奨意図を高めるが、FBページに対する快楽的動機によりその影響が弱まることを意味している。ここで、マイナスとなったコミットメントと快楽的動機の交互作用、つまり、調整効果については、モデル3-3の相互作用に対する満足度の影響と同様の解釈が可能である。楽しめて、リラックスでき、退屈なときに時間を過ごすといった快楽的動機は、FBページへの積極的な関わりを要求するコミットメントとは逆に作用するのであろう。

次に、モデル3-4-1を用いて、下位検定として単純効果を検討する。交互作用が有意で調整効果が認められた①信頼×快楽的動機、②コミットメント×快楽的動機に着目する。快楽的動機は2値の変数ではなく、連続量である。清水(2014)によると、連続量の場合、平均値から1SD高い点と低い点について、それぞれ回帰係数を推定するという単純効果の推定方法がよく使用されている。本研究においても、快楽的動機±1SDの2群に分け、Preacherが提供する単純効果分析用のプログラム16を用いて分析を行った(Preacher, Curran, & Bauer, 2006)。

分析の結果、信頼に対する快楽的動機の単純効果については、低群の切片4.272(SE=0.0488)、傾き0.165(同0.0661)、高群の切片4.557(同0.0519)、傾き0.469(同0.0682)であり、低群傾きは1%水準、それ以外は0.1%水準で有意であることが確認できた(図2)。したがって、信頼の単純傾斜は有意に0とは異なると言える。また、信頼帯17についてもあわせて検討した。図2右図では横軸に快楽的動機、縦軸に単純傾斜をとり、単純傾斜の信頼区間をプロットしている。信頼の推奨意図への影響は快楽的動機に依存するが、快楽的動機が上がると単純傾斜(信頼の影響)が正の値をとる。一方、コミットメントに対する単純効果は、低群の切片4.272(同0.0488)、傾き0.417(同0.0467)、高群の切片4.557(同0.0519)、傾き0.266(同0.0497)であり、0.1%水準で有意である(図3)。図3右図では、コミットメントの推奨意図への影響は快楽的動機に依存するが、信頼とは逆に、快楽的動機が上がると単純傾斜(コミットメントの影響)が負の値をとることがわかる。

図2 信頼に対する快楽的動機の下位検定の結果(単純傾斜分析と信頼帯)

(出所)筆者作成。

図3 コミットメントに対する快楽的動機の下位検定の結果(単純傾斜分析と信頼帯)

(出所)筆者作成。

仮説3-4では「参加動機は有意な正の影響を与える」と仮定した。上記の結果の通り、快楽的動機については正負含め有意な影響が認められたが、情報探索動機、社会的動機については有意な結果を見出せず、仮説3-4は一部支持された。また、尤度比検定の結果、第2水準の傾きに3変数を組み込まない切片モデル(モデル3-4-2)と比べてモデル適合度は高く、仮説2は支持された。表7は、仮説検証の結果の一覧である。

表7 仮説検証の結果一覧
仮説番号 仮説内容 検定結果
H1 個人レベルの効果に関して、ブランドページ間の異質性を考慮せずに分析を行うよりも、ブランドページ間の違いを加味したモデルのほうが、独立変数(信頼、相互作用、コミットメント)による従属変数(推奨意図)に対する説明力が高い。 支持
H2 個人レベルの効果のみならず、集団レベルの効果を扱うことにより、モデルの説明力はさらに高まる。 年齢・男女比率 棄却
人気ランキング 棄却
満足度 支持
参加動機 支持
第2水準の変数に関する仮説
H3-1 参加者の平均年齢は有意な負の影響を与える。 棄却
男女比率は有意な正の影響を与える。
H3-2 FBページの人気ランキングは有意な正の影響を与える。 棄却
H3-3 満足度は有意な正の影響を与える。 一部支持
H3-4 参加動機は有意な正の影響を与える。
参加動機①:社会的動機 棄却
参加動機②:情報取得動機 棄却
参加動機③:快楽的動機 一部支持

(出所)筆者作成。

8.  まとめと今後の課題

企業は、統合マーケティング・コミュニケーション戦略の一環としてSNSを活用し、FBページやTwitterのブランドページ等を自社のコミュニケーション活動のための新しい手段として用いている。FBページをはじめ、ブランドページは特定のブランドに対して興味を持つ消費者が集まるネットワーク上のブランド・コミュニティである。そこに参加するメンバー同士で、あるいは、メンバーと企業・ブランド間で双方向のコミュニケーションが可能な場であり、長期的なリレーションシップを形成するプラットフォームとなっている。こうした点に着目して、リレーションシップやロイヤルティ形成に関する研究が国内外で行われているが、これまでのブランドページに関する研究では、FBページを展開している企業が多数存在するにもかかわらず、少数のFBページを調査対象にする、あるいは、それぞれのFBページへの反応を集計して分析するというアプローチが採られてきた。そこで本研究では、可能な限り多くのFBページへの反応データをそのまま生かし、しかも、それらのデータを集計して分析するのではなく、マルチレベル分析の1つである階層線形モデルを用いて、FBページに対するリレーションシップによるロイヤルティ形成への影響について分析可能かどうか、その適用可能性を検討した。

調査・分析の結果、得られた知見は以下の通りである。

(1) 調査の結果として得られた知見

男女・年代別に収集した計2,472名分のデータを、電通の「日本の広告費」に記載されている業種分類基準に従って業種別に分類したところ、情報・通信(330名)、食品・飲料(324名)、交通・レジャー(305名)、流通・小売業(299名)、自動車・関連品(211名)、ファッション・アクセサリー(125名)、外食・各種サービス(108名)、趣味・スポーツ用品(103名)、化粧品・トイレタリー(101名)(以上9業種)のほか、20業種にわたり、さまざまな企業のFBページへの閲覧・参加状況を確認できた。回答人数が8名以上という基準で、階層線形モデルの分析に供するための企業を絞り込んだところ、38ブランド966名のデータが抽出された。これら38ブランドには、100名以上回答のあった9業種がすべて網羅されている。消費者の第1想起によるデータを収集すると、日ごろ閲覧・参加しているFBページの評価を得ることができるが、その内容は多岐にわたることが判明した。したがって、これらを集計済データとして扱うよりも、集団レベルの特徴を明確化できる分析手法を用いる必要があると言える。

(2) 階層線形モデルによる分析の結果として得られた知見

・データの階層性の有無に対する明確な基準はないとも言われているが、まず階層性を確認した。その結果、ICC(級内相関係数)、DE(デザインエフェクト)ともに低く、積極的にデータに階層性があるとは断言できなかった。しかしながら、先行研究の実証分析ではこうした場合も分析を実施しているため、本研究でも仮説通り分析を進めた。

・集団レベルの誤差を固定効果としたモデル1と、変量効果としたモデル2を比較した結果、モデル2の適合度が有意に高く、「個人レベルの効果に関して、ブランドページ間の異質性を考慮せずに分析を行うよりも、ブランドページ間の違いを加味したモデルのほうが、独立変数(信頼、相互作用、コミットメント)による従属変数(推奨意図)に対する説明力が高い」という仮説1は支持された。

・レベル2、すなわち、集団レベルの効果を検討する変数として、年齢・男女比率、人気ランキング、満足度、参加動機(社会的動機、情報探索動機、快楽的動機)を用いて分析した。その結果、年齢・男女比率、人気ランキングについては有意な効果が認められず、仮説2「個人レベルの効果のみならず、集団レベルの効果を扱うことにより、モデルの説明力はさらに高まる」は支持されなかった。しかしながら、満足度においては、切片と信頼との交互作用があり、プラス効果があることが明らかになった。一方、相互作用に対して満足度はマイナス効果、つまり、調整効果をもたらしていることが判明した。よって、満足度については仮説2は支持された。参加動機においては、切片の変動に対して、社会的動機、情報探索動機、快楽的動機の3変数ともプラスの影響を及ぼしている。また、信頼と快楽的動機(プラスの影響)、コミットメントと快楽的動機(マイナスの影響)には交互作用が認められた。よって、参加動機については仮説2は支持された。第2水準の変数に関する仮説(H3-1~H3-4)については、棄却、一部支持という結果になり、第2水準の変数として取り上げる項目について、今後さらに検討する必要がある。

本研究は、消費者が実にさまざまなFBページを見て、情報を取得したり、交流を楽しんだりしているという実態を捉え、特定のFBページに限定せずに分析する手法を探索したいという問題意識から、一つの試みとして階層線形モデルによる分析を行った。しかしながら、分析を行う中でいくつかの問題点や課題を発見することができた。そこで最後に、今後の課題について言及したい。

1点目は、集団レベルの特徴を明確に表す変数についてである。本分析では、デモグラフィック変数として年齢や男女比率を取り上げたが、2変数とも有意な結果を得られなかった。たとえば、自動車のFBページでは男性比率が高く、料理やレシピ、美容関係のFBページでは圧倒的に女性比率が高いが、本分析ではその違いを見出せなかった。変数の扱いの更なる工夫が必要なのか、あるいは、他の変数によって差異が説明できるのか等、検討の余地が残されている。外部データである人気ランキングについても同様である。また、満足度や参加動機については仮説を支持する結果も得られたが、必ずしもリレーションシップとロイヤルティ形成への影響を十分に説明できる結果とは言い難い。したがって、集団レベルの変数について、今後の課題として精査する必要がある。

2点目の課題は、1つ目の課題と関連する。調査時点で、回答者が想起するFBページを自由に回答するという形式を採用した。その結果、1名しか回答のないFBページや、回答内容が不正確なものも散見された。本研究では、一つの試みとしてこのようなデータ収集を行うことによって、FBページを活用している消費者の実態をある程度垣間見ることができた。しかしながら、研究という視点に立つと、対象とするFBページを何らかの基準で絞り、また、集団レベルの違いを的確に表す変数をあらかじめ想定した上で効果測定することも今後の課題として挙げられる。

オープンアクセスという特徴のために、複数のFBページに参加している人も多く存在する。本調査においても、最大10個のFBページまで回答を得ている。3つ目の課題として、複数参加の場合についての検討が挙げられる。これに関連するのが4つ目の課題である。多数のFBページに参加しているとタイムラインで送信されるメッセージやコンテンツに対して苛立ちといったネガティブな感情も生まれると考えられる。楽しいから、あるいは、もっと軽い気持ちで気晴らし等を動機として参加している場合、高頻度に送られる企業からの発信はときにネガティブな効果をもたらす。したがって、ポジティブ効果のみならず、ネガティブ効果についても検討する必要があると考える。

付記

本研究は科学研究費補助金(課題番号16K03949)の助成を受けたものである。

1  https://ja.newsroom.fb.com/company-info/(アクセス日:2018年9月4日)。

2  『ソーシャルメディア白書2012』によると、企業のソーシャルメディアの活用目的として、プロモーション/キャンペーンと回答している企業が、上級活用企業の場合71.4%、活用中期企業では79.0%と第1位にランキングされている。

3  負の影響とは、若いほうが年齢の高い人より評価が高いということを意味する。

4  正の影響とは、女性のほうが男性より評価が高いということを意味する。

5  清水(2014, p.29)によると、u0jを設定するということは、従属変数の級内相関係数が0ではない、すなわち、階層的データであると仮定していることを意味する。階層的線形モデルでは切片の変量効果を仮定するのが一般的である。グループ間の変動を仮定しない場合は、通常の回帰分析を用いればよい。

6  (6)式ではβ1jβ2jβ3j、すなわち、傾きに変量効果を仮定しているが、実証分析においてはこのモデルをモデル3-4-1とし、切片(β0j)のみに変量効果を仮定した切片モデル(モデル3-4-2)もあわせて検討する。

7  http://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/2017/about.html(アクセス日:2018年8月20日)。

8  たとえば、アーティストや芸能人など、本研究の目的には適さないと判断した内容のものを指す。

9  1グループ当たり5人以上という研究事例(竹内・竹内・外島, 2007)もあるが、本研究では暫定的に8名とした。

10  本質問項目は先行研究に基づき、コミットメントの項目として設定したが、因子分析の結果、相互作用の質問項目との関連性が強いことが判明した。

11  満足度と参加動機3変数については、分析には個人レベルのデータではなく、グループとしての平均値を用いている。

12  https://digital-dashboard.work/(アクセス日:2018年5月4日)。

13  ICC=(MSB−MSW)/(MSB+(k*−1)MSW)で算出できる。ここでMSBは集団間の分散、MSWは集団内の分散、k*は集団内の平均的な人数を表している(清水, 2014)。

14  DE=1+(k*−1)ICCで計算できる。DEは集団内の平均的な人数と級内相関係数の両方を考慮した基準である(清水, 2014)。

15  調整効果の解釈については、Whisman and McClelland(2005)に詳細説明がある。

16  http://www.quantpsy.org/interact/hlm2.htm(アクセス日:2018年9月12日)。

17  信頼帯とは単純傾斜の信頼区間をプロットする方法である(Rogosa, 1980)。信頼区間を算出し(Cohen, Cohen, West, & Aiken, 2003)、X(本研究の場合、信頼)が有意になる値と誤差の両方を把握できる。

参考文献
 
© 2019 法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
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