イノベーション・マネジメント
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Print ISSN : 1349-2233
論文
ファンコミュニティ・アイデンティフィケーション
―プロスポーツにおける因子構造、先行要因、結果要因の検証―
吉田 政幸井上 尊寛伊藤 真紀
著者情報
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2021 年 18 巻 p. 161-186

詳細
要旨

映画、音楽、スポーツなどの娯楽産業には多くのファンコミュニティが存在する。本研究は人々の間でアイデンティティの共有が生じやすいプロスポーツチームのファンコミュニティに着目し、ファンコミュニティ・アイデンティフィケーションの因子構造を多次元的に明らかにするとともに、その先行要因と結果要因を理論的に説明することを目的とした。調査はプロ野球(研究1)とプロサッカー(研究2)のホームゲームにおいて実施し、収集したデータを用いて因子分析と構造方程式モデリングを検証した。研究1ではファンコミュニティ・アイデンティフィケーションを構成する要因として6因子を特定し、さらにこれらをファンコミュニティ・アイデンティフィケーションの一次因子とした高次因子モデルを推定した。その結果、モデルはデータに適合し、多次元的尺度の構成概念妥当性を支持する証左を得た。研究2においても尺度モデルの概念的妥当性が示され、さらに仮説を検証したところ、(1)ステレオタイプ的なイメージに基づく関係性(ファンコミュニティの独自性→行動的ロイヤルティ)と(2)人と集団の価値観の一致に基づく関係性(ファンコミュニティとの類似性→ファンコミュニティ・アイデンティフィケーション→行動的ロイヤルティ)という二種類の関係性の存在を明らかにした。本研究結果とその理論的説明は集団的な消費者心理や行動に関する研究の発展に寄与するものである。

Abstract

Many fan communities exist in the entertainment industry from movies and music to sports. This study sheds light on fan communities of professional sports teams, which readily generate shared identification among people. It examines the structure of factors across multiple dimensions, and aims to logically set out the antecedents and consequences of fan community identification. Collecting data from attendees of professional baseball (Study 1) and soccer (Study 2) home games, a confirmatory factor analysis and structural equation modeling were performed. In Study 1, we conceptualized fan community identification as a second-order latent construct, consisting of six first-order dimensions. It was found that this higher-order factor model had an acceptable fit to the data, proving evidence for construct validity. In Study 2, the results showed further evidence for the construct validity of the measurement model and highlighted the importance of two types of relationships between (1) stereotyped image-relevant factors (fan community distinctiveness→behavioral loyalty) and (2) value congruence-relevant factors (fan community similarity→fan community identification→behavioral loyalty). The proposed multidimensional scale will contribute to future research on group consumer psychology and behavior.

1.  はじめに

映画、音楽、スポーツなどの娯楽産業の収入はファンによって支えられている。ファンの語源は熱狂を意味するファナティック(fanatic)であり(原田, 2015)、このような人々は好意を抱く俳優、歌手、アスリートを熱心に支援する(Underwood et al., 2001)。レジャー白書2019(日本生産性本部, 2019)によると、わが国の2018年の鑑賞レジャー産業(映画、演劇、演芸、音楽会、美術鑑賞など)の市場規模は8,130億円であり、これは10年前の2008年(6,410億円)と比べると27%の増加である。また、スポーツ観戦市場も過去10年で成長を続けており、2008年に1,350億円だった市場規模は2018年に1,640億円まで拡大した(増加率21%)。バブル経済崩壊後、余暇市場は全体的に縮小傾向だが、鑑賞レジャーやスポーツ観戦のような娯楽産業は成長を続けており、今後も拡大が見込まれている(日本生産性本部, 2019)。

鑑賞レジャーやスポーツ観戦などの娯楽を消費するファンたちには独特の集団心理がある(Bhattacharya et al., 1995Garbarino & Johnson 1999Oliver, 1999)。たとえば、ファンと呼ばれる人々は自分と同じ娯楽を消費する他のファンたちと自己を重ね合わせたり、そのような人々の集まりであるファンコミュニティに自分の居場所を見出したりする。このような連帯感や帰属意識は社会的アイデンティティ理論における自己同一視(identification)や集団成員性(group membership)に該当し(Tajfel & Turner, 1986)、これらの反応はファンの間で顕著に表れることが報告されている(Mael & Ashforth, 2001Oliver, 1999Underwood et al., 2001)。これまでのマーケティング研究において、こうした心理的反応は消費者と企業の間のアイデンティフィケーション(consumer-company identification)や消費者とブランドの間のアイデンティフィケーション(consumer-brand identification)として概念化され(Bhattacharya & Sen, 2003Stokburger-sauer, Ratneshwar, & Sen, 2014)、多くの研究者が鑑賞レジャーやスポーツ観戦の文脈でそれらを検証してきた(Bhattacharya et al., 1995Fisher & Wakefield, 1998Mazodier et al., 2018)。

消費者が企業やブランドに対して形成するアイデンティフィケーションは縦のつながり(vertical tie)であるが、一方で消費者同士の横のつながり(horizontal tie)も存在する(Muniz & O’Guinn, 2001)。同じブランドを慕う消費者間の横のつながりはブランドコミュニティ・アイデンティフィケーション(以下ブランドコミュニティIDと略す)やブランドとの集団的結びつき(communal brand connection)と呼ばれており(Algesheimer et al., 2005Bagozzi & Dholakia, 2006Keller, 2003Rindfleisch et al., 2009)、ブランドユーザー間で共有される仲間意識(shared consciousness)の感覚がその起源となっている(Muniz & O’Guinn, 2001)。したがって、ブランドとそれを消費する人々の関係性を考える場合、(1)ブランドと消費者の縦の関係性と(2)同じブランドを消費する者同士の横の関係性の二種類が存在する。しかしながら、特に後者(横の関係性)を検証してきたブランドコミュニティ研究は次に示す点が未だ未解明の問題として残されているようである。

一つ目はブランドコミュニティID尺度の多次元性の検証が不十分な点である(表1)。先行研究の多くがブランドコミュニティとブランドユーザーの関係性を捉えるため、Mael and Ashforth(1992)の組織的アイデンティフィケーション尺度を応用し、認知的な側面から一次元的に測定している(Algesheimer et al., 2005Chang et al., 2020Füller et al., 2008Zhou et al., 2012)。いくつかの研究は認知的要因だけでなく、感情的(affective)要因と評価的(evaluative)要因を加え、三次元尺度の構成概念妥当性を確認している(Bagozzi & Dholakia, 2006Dholakia et al., 2004Marzocchi, Morandin, & Bergami, 2013)。しかしながら、ブランドコミュニティIDのような社会的アイデンティフィケーションには自己を集団にあてはめる自己カテゴリー化と呼ばれる反応に基づく個人的な認知、感情、評価だけでなく、他者評価(public evaluation)、行動的関与(behavioral involvement)、そして個人と集団の間の依存関係(interdependence)なども含まれる(Ashmore et al., 2004Stryker & Burke, 2000Tajfel & Turner, 1986)。したがって、より包括的な形で多次元的尺度の妥当性を示す必要がある。

表1 ブランドコミュニティ・アイデンティフィケーションに関する先行研究
著者 要因 定義 測定尺度 次元性
Keller(2003) コミュニティの感覚 ブランドと関連づく他の人々との共同体意識 ブランドコミュニティとの心理的つながりを測定する4項目尺度 一次元
Dholakia et al.(2004) 社会的アイデンティティ バーチャルコミュニティの一員として自己を認識する自己同一視の感覚 アイデンティフィケーションの認知的(2項目)、感情的(2項目)、評価的(2項目)側面を多次元的に捉えた三次元尺度 三次元
Algesheimer et al.(2005) ブランドコミュニティID ブランドコミュニティとの心理的な関係性の強さ Mael and Ashforth(1992)を参考に、ブランドコミュニティとの心理的アイデンティフィケーションの感覚を測定した5項目尺度 一次元
Bagozzi and Dholakia(2006) 社会的アイデンティティ 自己をブランドコミュニティの一員として認識する認知的自覚であり、この自覚に感情的愛着と重要性の評価をさらに加えた感覚 Dholakia et al.(2004)の尺度をブランドコミュニティに応用した三次元尺度 三次元
Füller et al.(2008) ブランドコミュニティID ブランドコミュニティへの所属の感覚 Algesheimer et al.(2005)の5項目尺度 一次元
Rindfleisch et al.(2008) ブランドとの集団的結合 他のブランドユーザーたちと自己を心理的に重ね合わせる自己同一視の感覚 Keller(2003)の4項目尺度 一次元
Zhou et al.(2012) ブランドコミュニティID ブランドコミュニティへの所属によって自己を定義づける際に用いる社会的アイデンティフィケーションの感覚 Algesheimer et al.(2005)の5項目尺度 一次元
Marzocchi et al.(2013) ブランドコミュニティID 消費者がブランドコミュニティへの所属の感覚を認知、感情、評価の側面から感じること Bagozzi and Dholakia(2006)の多次元的ブランドコミュニティ尺度(認知、感情、評価的側面) 三次元
Yoshida et al.(2015) ファンコミュニティID ファンコミュニティのメンバーが互いに感じる心理的つながり Keller(2003)のコミュニティの感覚尺度を参考に作成した3項目尺度 一次元
Chang et al.(2020) ブランドコミュニティID 消費者が自分をブランドコミュニティの一員としてあてはめること Algesheimer et al.(2005)を参考に作成した3項目尺度 一次元

(注)ブランドコミュニティID=ブランドコミュニティ・アイデンティフィケーション、ファンコミュニティID=ファンコミュニティ・アイデンティフィケーション

(出所)筆者作成。

先行研究の問題点の二つ目は理論的検証の不足である。Muniz and O’Guinn(2001)のブランドコミュニティ研究は探索的な質的研究であり、社会的アイデンティティ理論に基づいていない。その後のブランドコミュニティ研究は社会的アイデンティティ(Bagozzi & Dholakia, 2006Dholakia et al., 2004)やそれから派生した組織的アイデンティフィケーション(Algesheimer et al., 2005Füller et al., 2008Zhou et al., 2012)などの視点からブランドコミュニティIDを測定しており、尺度自体はこれらの理論と整合している。しかしながら、ブランドコミュニティIDの先行要因と結果要因の検証は、社会的アイデンティティ関連の理論に依らないものを多く含んでおり、理論的に重要と考えられている独自性(distinctiveness)や類似性(similarity)などの要因との関係性が十分に検証されていない(Algesheimer et al., 2005Bagozzi & Dholakia, 2006Dholakia et al., 2004Füller et al., 2008Zhou et al., 2012)。ブランドコミュニティIDを一種の社会的アイデンティティとして測定するのであれば、その先行要因と結果要因の分析も社会的アイデンティティ関連の理論に基づいた仮説検証とすべきである。

以上を踏まえ、本研究は人々の間でアイデンティティの共有が生じやすい娯楽産業のファンコミュニティに着目し(Oliver, 1999Underwood et al., 2001)、ブランドコミュニティ研究への学術的貢献を意図して取り組むものである。ファンコミュニティ研究を通じてブランドコミュニティ研究への学術的貢献を果たすため、本研究はその目的を、(1)ファンコミュニティ・アイデンティフィケーション(以下ファンコミュニティIDと略す)の因子構造を多次元的に明らかにすること、(2)その先行要因と結果要因を含む要因間との関係性を社会的アイデンティティ関連の理論にあてはめ、説明することとする。これら二つの目的との対応において、本研究はスポーツ観戦市場のファンを対象に次の二つの研究を実施する。一つ目はファンコミュニティIDの多次元的な因子構造の検証であり、プロスポーツチームのホームゲームの来場者からデータを収集する。二つ目の研究は仮説検証であり、別のプロスポーツのコンテクストからデータを収集し、社会的アイデンティティ関連の理論を分析の視座として要因間の関係性を明らかにする。研究環境やサンプリングの詳細は方法において詳述する。

2.  研究1

研究1の目的はファンコミュニティIDの多次元的尺度の因子構造を明らかにすることである。以下ではまず研究1において扱う主な概念の定義を明確にする。次に、概念規定を踏まえて尺度を設定し、その構成概念妥当性を検証する。

2.1.  概念的枠組み

ここでは、ブランドコミュニティ、ファンコミュニティ、ファンコミュニティIDの概念を定義する。

(1)  ブランドコミュニティとファンコミュニティ

ファンコミュニティはブランドコミュニティの一種である。まずブランドコミュニティとは特定のブランドを慕う者同士の消費者コミュニティであり、ブランドに特化しているものの、居住地などの地理的な区分によって作られたコミュニティではない。ブランドコミュニティは、同じブランドの愛好家同士が共同体意識を持ち、集うことで形成されるコミュニティである(e.g., 催し物や展示会などのイベント、インターネット上のオンラインコミュニティなど;Algesheimer et al., 2005McAlexander et al., 2002Muñiz & O’Guinn, 2001)。この説明をスポーツのファンコミュニティに応用すると、それはあるスポーツ関連の対象(種目、チーム、アスリートなど)を支援するファン同士の共同体意識によって形成されるファンの集合体と定義できる。本研究はスポーツチームを支援するファンの集合体としてのファンコミュニティに焦点を当てる。

(2)  ブランドコミュニティIDとファンコミュニティID

ファンコミュニティIDはブランドコミュニティIDを娯楽産業のファンに応用した概念であり、人が自分と同じ娯楽ブランドを応援するファン集団の中に自己をあてはめ、そのコミュニティの一員として自分のことを認識する集団成員性の感覚である(仲澤・吉田, 2015)。本研究はスポーツチーム(e.g., プロ野球チーム、プロサッカークラブ)のファンを対象とすることから、ファンコミュニティIDを「人が自分と同じスポーツチームを応援するファンたちの中に自己をあてはめ、そのファンコミュニティの一員として自分のことを認識する集団成員性」と定義する。

先行研究の多くはブランドコミュニティIDやファンコミュニティIDを認知的に測定している(Algesheimer et al., 2005Füller et al., 2008Yoshida et al., 2015Zhou et al., 2012)。たとえば、ブランドコミュニティIDを認知的要因として検証した研究(Algesheimer et al., 2005Füller et al., 2008Zhou et al., 2012)はMael and Ashforth(1992)の組織的アイデンティフィケーション尺度を応用し、ブランドコミュニティに所属する人々の集団成員性の感覚を測定している。また、スポーツ観戦者のファンコミュニティIDに関する先行研究(出口他, 2017仲澤・吉田, 2015Yoshida et al., 2015)は、ブランドとの集団的結合尺度(communal brand connection scale:Keller, 2003Rindfleisch et al., 2008)をファンコミュニティにあてはめ、認知的に測定している。これらの研究ではどれも、人がブランドコミュニティやファンコミュニティに自己をあてはめる自己カテゴリー化(self-categorization)とそれに伴う集団成員性の感覚を合成し、認知的な側面から一要因として捉えている。

一方で、いくつかの先行研究はブランドコミュニティとのアイデンティフィケーションを認知だけでなく、感情や評価などの側面からも分析し、多次元的な因子構造を明らかにしている(Bagozzi & Dholakia, 2006Dholakia et al., 2004)。ここでいう認知とは自己カテゴリー化に基づく集団成員性であり、組織的アイデンティフィケーション研究(Mael & Ashforth, 1992)と共通しているが、新たに加えられた感情はブランドコミュニティへの所属に伴って感じる愛着の強さを示している。また、評価とはブランドコミュニティに所属することがその人にとって重要であったり、有益であったりするかどうかの程度である。感情と評価の因子は組織行動研究(Bergami & Bagozzi, 2000)における感情的コミットメント(affective commitment)と組織に基づいた自尊感情(organization-based self-esteem)をブランドコミュニティへと拡張したものである。

(3)  ファンコミュニティIDの概念的拡張

先行研究によると、ブランドコミュニティIDの測定方法は(1)自己カテゴリー化に基づく認知的なアプローチ(Algesheimer et al., 2005Füller et al., 2008)と(2)認知、感情、評価などの要素を含む多次的なアプローチが存在する(Bagozzi & Dholakia, 2006Dholakia et al., 2004)。多次元的尺度は認知、感情、評価という3要因によって構成されるが、社会心理学領域の理論的研究(Ashmore et al., 2004Tajfel & Turner, 1986)やそれらを基に尺度開発を試みた先行研究(Dimmock et al., 2005Heere & James, 2007Heere, Walker et al., 2011)は、ブランドコミュニティIDやファンコミュニティIDのような社会的アイデンティフィケーションの中には、社会的評価、役割行動、メンバーとコミュニティが互いに影響し合う相互関係なども含まれることを明らかにしている。たとえば、Ashmore et al.(2004)は社会的アイデンティティ理論(Tajfel & Turner, 1986)における自己カテゴリー化と社会的承認の感覚だけでなく、民族アイデンティティモデル(Cross, 1991)の相互依存や誇りの感覚を加え、さらにアイデンティティ理論(Stryker & Burke, 2000)のアイデンティティの重要性、アイデンティティの定着、アイデンティティに基づく役割行動なども包括的に統合し、次の7要因を社会的アイデンティフィケーションの要素として特定している:すなわち、(1)自己カテゴリー化、(2)個人的評価と社会的評価、(3)重要性、(4)愛着と相互依存の感覚、(5)社会的埋め込み、(6)行動的関与、(7)内容と意味である。

Heere and James(2007)Ashmore et al.(2004)の概念的研究をスポーツに応用し、スポーツファンとスポーツチームの間の社会的アイデンティフィケーションを多次元的に測定する尺度の開発を行った。その結果、(1)個人的評価(private evaluation)、(2)社会的評価(public evaluation)、(3)相互依存の感覚(sense of interdependence)、(4)自己概念とのつながり(interconnection to self-concept)、(5)行動的関与(behavioral involvement)、(6)知識形成(knowledge construction)という6要因から成る集団的アイデンティフィケーション尺度の開発に至っている。その後の研究(Heere, Walker et al., 2011)において、Heere and James(2007)の6要因尺度は別の研究環境(フロリダ大学、フロリダ州立大学、マイアミ大学のカレッジフットボールファンから収集した3大学の標本の分析)においても尺度の構成概念妥当性が示され、その因子構造はスポーツチームとの自己同一視だけでなく、これらのチームが関係する大学(フロリダ大学、フロリダ州立大学、マイアミ大学)とホームタウン(ゲインズビル、タラハシー、マイアミ)との社会的アイデンティフィケーションを捉える多次元的尺度としても妥当であることが確認されている。

Heereが開発した尺度(Heere & James, 2007Heere, James et al., 2011Heere, Walker et al., 2011)はスポーツファンとスポーツチームの縦のつながり(ファン→チーム)を反映したものであるが、ファン同士の横のつながり(ファン→他のファン)への応用は十分に進んでいない。本研究はこの溝を埋めるものであり、Heereの多次元的アプローチによってファン同士の集団的結合であるファンコミュニティIDを検証する。表2はそれぞれの要因の定義である。研究1ではHeereの多次元的尺度をファンコミュニティIDに応用し、その構成概念妥当性を検討する。

表2 ファンコミュニティIDを構成する6要因の定義
要因 定義
個人的評価 ファンコミュニティに関する個人的評価(Ashmore et al., 2004Heere & James, 2007
社会的評価 ファンコミュニティが人々から一般的にどのように考えられているかという社会的評価に関する認識(Ashmore et al., 2004Heere & James, 2007
相互依存の感覚 ファンコミュニティに所属する他のファンと運命をともに共有しているという感覚(Ashmore et al., 2004Heere & James, 2007
自己概念とのつながり 自分は何者かという認識とファンコミュニティの特徴を重ね合わせる自己同一視の感覚(Ashmore et al., 2004Heere & James, 2007
行動的関与 ファンコミュニティの一員であることを表す行動への積極的関与(Ashmore et al., 2004Heere & James, 2007
知識形成 ファンコミュニティのメンバーの中で共有され、その一員であることを決定づけるような意味のある知識の保有(Ashmore et al., 2004Heere & James, 2007

(出所)筆者作成。

2.2.  方法

(1)  研究環境

研究1は関東に本拠地を置くプロ野球球団のホームゲームに来場した観戦者からデータを収集した。チームのファンは熱狂的な応援パフォーマンスで知られており、特にライトスタンドのファンによる巨大横断幕や得点機会のジャンプ応援が有名である。他にも、観戦スタイル、球団の歴史、過去の栄光、名場面などが多くのファンの間で共有され、ファンコミュニティが十分に育っていることから、本研究の研究環境として適切と判断した。

(2)  データ収集

調査はプロ野球チームのホームゲームの試合開始3時間前から試合開始直前までの時間帯にスタジアム周辺で行った。サンプリングは便宜的抽出であったが、可能な限り母集団を反映させるため、いつ、どこで、何人くらいの観戦者が滞留しているかを事前に調べた。調査当日は把握した情報に基づいて担当場所を決め、11名の調査員が調査票を来場者に手渡し、その場で回答してもらった。試合開始前は球場外周のテラス席(120票)、ミュージアム周辺(90票)、記念モニュメント周辺(60票)、駐車場周辺(60票)でそれぞれデータを収集した。調査員は合計で330票を配布し、327票を回収した(回収率=99.1%)。次に、空欄の多かった21票を除外した結果、306票の有効回答を得た(有効回答率=92.7%)。標本の基本属性は次のとおりである。61.1%が男性であり、球団のホームタウンからの来場者は69.2%であった。年齢構成は40代(27.1%)が最も多く、以下20代(21.4%)、30代(19.1%)、50代(19.1%)、60歳以上(10.0%)、10代(3.3%)の順であった(平均年齢=41.50、標準偏差=13.44)。

(3)  尺度

質問紙では対象者の基本的属性(性別、年齢、居住地など)に加え、先行研究(Heere & James, 2007Heere, James et al., 2011Heere, Walker et al., 2011)を基にファンコミュニティIDを測定するための心理的尺度を設定した(表3)。心理的尺度は18項目から成り、すべて「まったくあてはまらない(1)」から「大いにあてはまる(7)」までの7段階尺度によって測定した。

表3 確認的因子分析によるファンコミュニティID尺度の検証(研究1:n=306)
要因 項目 λ CR AVE
個人的評価 .97 .92
1. あなたは(チーム名)のファンたちの一員であることを嬉しく思う .97
2. (チーム名)のファンたちの一員であることは、あなたを前向きな気分にする .96
3. あなたは自分が(チーム名)のファンの一員であることを誇りに思う .96
社会的評価 .91 .76
1. (チーム名)のファンたちは他者からポジティブ(肯定的)に見られている .85
2. 人々は(チーム名)のファンたちを尊重している .92
3. 人々は(チーム名)のファンたちについて好意的な意見を持っている .85
相互依存の感覚 .96 .89
1. (チーム名)のファンたちに起きる出来事は、あなたの生活に影響を与える .96
2. (チーム名)のファンたちに影響を及ぼすような変化は、あなたの生活に影響がある .97
3. あなたの生活は(チーム名)のファンたちに起きる出来事によって影響を受ける .90
自己概念とのつながり .92 .79
1. 誰かが(チーム名)のファンたちを批判すると、それは個人的な侮辱のように感じられる .85
2. (チーム名)のファンたちと関連づくことは、あなた自身のイメージの形成において重要である .94
3. 誰かが(チーム名)のファンたちを賞賛すると、それは個人的な賞賛のように感じられる .87
行動的関与 .95 .87
1. あなたは(チーム名)のファンたちと一緒に様々な活動に参加している .92
2. あなたは(チーム名)のファンたちを支援するための活動に参加している .96
3. あなたは(チーム名)のファンたちと関係した活動に積極的に関わっている .92
知識形成 .90 .74
1. あなたは(チーム名)のファンたちの伝統や歴史を知っている .82
2. あなたは(チーム名)のファンたちの一部始終を知っている .90
3. あなたは(チーム名)のファンたちの間で共有されている文化や価値観を知っている .87

(注)モデル適合度:χ2=234.32, df=120, χ2/df=1.95, CFI=.98, TLI=.97, RMSEA=.061, SRMR=.028

(出所)筆者作成。

ファンコミュニティID尺度は英語圏の先行研究に基づいているため、まず英語で質問項目を作成した。次にそれらを日本語に翻訳しても概念的に意味が変わらないようにするため、(1)スポーツマネジメントを専門とするバイリンガル研究者が質問項目を英語から日本語に翻訳し、(2)続いて別のバイリンガルのスポーツマネジメント研究者が日本語に翻訳した項目を英語に逆翻訳した。(3)最後に英語を母国語とするスポーツマネジメント研究者が元の英語の項目と逆翻訳された項目を比較した。比較において、元の項目と逆翻訳された項目の意味に違いがないと判断され、翻訳的妥当性が確認された。

2.3.  結果

(1)  構成概念妥当性の検証

設定した心理的尺度の構成概念妥当性は収束的妥当性と弁別的妥当性の二種類の妥当性の検討を必要とする(Fornell & Larcker, 1981)。これらを検証するため、Mplus version 7.31を用いて確認的因子分析を行った(表3)。まず収束的妥当性を確認するため、因子負荷量(λ)、合成信頼性(composite reliability:CR)、平均分散抽出(average variance extracted:AVE)を算出したところ、すべての要因においてこれらの統計値が基準値を上回った(λ≧.70, Hair et al., 2006;CR≧.60, Bagozzi & Yi, 1988;AVE≧.50, Fornell & Larcker, 1981)。よって、収束的妥当性が示された。次に弁別的妥当性については、各要因のAVEと因子間相関の二乗を比較したところ、すべての要因間でAVEの方が高かった。よって、弁別的妥当性を支持する結果を得た(表4)。尺度モデル(6因子モデル)のデータへの適合度に関しては、カイ二乗を自由度で除した値(χ2/df=1.95)が基準値(≦3.00)を下回り、comparative fit index(CFI≧.90)、Tucker-Lewis index(TLI≧.90)、root mean square error of approximation(RMSEA≦.80)、standardized root mean square residual(SRMR≦.80)のなどの指標もすべてが許容範囲内であった(表3、注釈)。よって、6因子モデルがデータに適合したことが確認された(Hu & Bentler, 1999)。

表4 平均、標準偏差、因子間相関(研究1:n=306)
要因 平均 標準偏差 因子間相関(ϕ)
1 2 3 4 5 6
1. 個人的評価 5.14 1.69 .92 .46 .30 .36 .12 .14
2. 社会的評価 4.35 1.36 .68 .76 .35 .36 .27 .25
3. 相互依存の感覚 3.86 1.76 .55 .59 .89 .67 .36 .25
4. 自己概念とのつながり 3.84 1.69 .60 .60 .82 .79 .40 .40
5. 行動的関与 3.04 1.72 .35 .52 .60 .63 .87 .53
6. 知識形成 3.59 1.59 .38 .50 .50 .63 .73 .74

(注1)平均および標準偏差はIBM SPSS Statistics 25.0によって算出した合成変数の値である。

(注2)平均分散抽出(AVE)を対角線に表示した(斜体、太字、下線)。

(注3)因子間相関はMplus version 7.31を用いて算出した。Φ行列を対角線から左下半分に表示し、因子間相関の二乗を対角線から右上半分に表示した。

(注4)すべての因子間相関が1%水準(p<.01)で有意であった。

(出所)筆者作成。

次に、先行研究(Bagozzi & Dholakia, 2006Bergami & Bagozzi, 2000Dholakia et al., 2004)と同様に、6因子を一次因子とし、さらにファンコミュニティIDをそれらの合成因子(二次因子)として推定した高次因子モデルを分析した(図1)。その結果、一次因子と二次因子の間のパス係数がすべて1%水準で有意であり、6要因中4要因は.70を超えた。さらに、モデルの適合度については、CFI(.96)とTLI(.95)が基準値(.90)以上であり、カイ二乗を自由度で除した値(χ2/df=2.87)とSRMR(.070)も基準値(χ2/df≦3.00; SRMR≦.080)を下回った。RMSEA(.082)は基準値(≦.080)を若干超えたものの、許容範囲内であった(.08–.10; Browne & Cudeck, 1993)。これらの結果を総合的に評価すると、本研究の高次因子モデルはデータに適合したものと考えられる。

図1 ファンコミュニティIDの高次因子モデルの検証(研究1:n=306)

(注)モデル適合度:χ2=352.83, df=129, χ2/df=2.87, CFI=.96, TLI=.95, RMSEA=.082, SRMR=.070

(出所)筆者作成。

2.4.  考察

研究1の目的は、ファンコミュニティIDの多次元的な因子構造を定量的に検証することであった。プロ野球ファンを対象に実施した定量的研究において確認的因子分析を実施したところ、尺度モデルはデータに適合し、収束的妥当性と弁別的妥当性を支持する証左が得られた(表3表4)。さらに、ファンコミュニティIDの6要因を一次因子とし、それらを統合したファンコミュニティIDを二次因子とした高次因子モデルを分析したところ、特に、自己概念とのつながり(γ=.92)、相互依存の感覚(γ=.85)、行動的関与(γ=.72)、社会的評価(γ=.71)のパス係数の値が高い結果となった。このことから、自己概念、相互依存、役割行動、社会的評判などの側面からファン同士のアイデンティティを自覚することがファンコミュニティIDの醸成につながるものと推察される。また、本研究で検証した6要因のうち、行動的関与(ファンであることを表す行動への積極的関与)は先行研究において十分に検証されてこなかった要因である。よって、本研究はファンコミュニティIDの形成においてファンとしての役割行動の重要性を新たに示したものと考えられる。

研究1はファンコミュニティID尺度の構成概念妥当性をプロ野球のファンコミュニティの研究環境で検証し、それを支持する結果を得た。研究2ではファンコミュニティIDの因子構造を別のプロスポーツ(プロサッカー)でも再現できるかどうか分析するとともに、ファンコミュニティIDの先行要因と結果要因を理論的に設定し、要因間の関係性を検証する。

3.  研究2

3.1.  仮説

図2は研究2の理論的枠組みと仮説である。組織的アイデンティフィケーション理論(Ashforth & Mael, 1989Mael & Ashforth, 1992)と消費者と企業のアイデンティフィケーションモデル(Bhattacharya & Sen, 2003)を基に、ファンコミュニティの独自性(distinctiveness)とファンコミュニティと自己の類似性(similarity)がファンコミュニティIDに影響を及ぼすものと仮定した。さらに、これらの理論によると、ファンコミュニティIDにはファンがチームを献身的に支える支援的行動を活性化させる働きがある。よって本研究は支援的行動の一種である行動的ロイヤルティをファンコミュニティIDの結果要因として設定する。

図2 ファンコミュニティIDの先行要因と結果要因(研究2)

(出所)筆者作成。

また、組織的アイデンティフィケーション理論によると、社会集団の名声(prestige)も集団とのアイデンティフィケーションに影響を与える。しかしながら、近年の研究はライバル関係にある他の社会集団と特徴が似ていたり、それと比べて特徴が劣っていたりする場合は名声の影響がなくなることを報告している(Jones & Volpe, 2011)。本研究が検証するファンコミュニティにはスポーツチームごとに特徴的な応援歌、振り付け、ファッション、儀式的習慣、歴史・伝統などが存在し、ファンたちは自分が所属するファンコミュニティの方が他のチームのファンコミュニティよりも特徴的で質的に優れていると認識する一種の内集団ひいきの心理が働いている(出口他, 2018Tajfel & Turner, 1986)。そのため、特定のファンコミュニティが他のファンコミュニティよりも社会的に優れていると認識されたり、称賛されたりすることは稀である。以上の理由から、本研究はファンコミュニティの名声を含めず、仮説検証を行うこととした。以下はそれぞれの仮説の導出根拠である。

(1)  ファンコミュニティの独自性の影響

組織的アイデンティフィケーション理論によると、ファンコミュニティの独自性によってファンコミュニティIDは高まる(Ashforth & Mael, 1989Mael & Ashforth, 1992)。ファンコミュニティの独自性とは、ファンコミュニティの文化や性質を象徴するような特徴のことであり、この中には名前、スローガン、ロゴマーク、カラー、デザイン、音楽、活動場所などに関する記号的特徴が含まれる(Ashforth & Mael, 1989)。人は特徴が曖昧な集団よりも明確な集団の方が自己を重ね合わせ易いため、独自性のある集団は人々にとって自己同一視の対象となる(Ashforth & Mael, 1989)。ファンコミュニティも同様であり、ファンたちの特徴が分かりやすく、その文化や行動様式を容易に想像できるファンコミュニティほど、人々は自己を結びつけ易い。つまり、ファンコミュニティの独自性にはファンコミュニティIDの形成を促す働きがある。よって、以下の仮説を導出した:

H1a:ファンコミュニティの独自性はファンコミュニティIDに正の影響を与える。

また、本研究はファンコミュニティの独自性が行動的ロイヤルティに直接的な影響を与えるものと予想した。ブランドエクイティ研究によると、特徴的で独自性のあるブランドイメージはブランドロイヤルティに対して正の影響がある(Andreassen & Lindestad, 1998Lai et al., 2009)。特にこの関係性は無形製品のサービス財の場合において顕著である。有形の製品と異なり、無形のサービス製品は客観的に捉えることが難しいため、その評価において人はブランドイメージのような記号的特徴に頼らざるを得ない(Andreassen & Lindestad, 1998)。本研究のファンコミュニティは観戦者の応援、儀式、交流などの、形のない行動様式を多く含んでおり、さらにファンたちが消費するスポーツイベント自体も無形の経験的なプロダクトである。ファンが消費する試合、選手のパフォーマンス、会場の演出、アトラクションなどは一時的な経験であり、その臨場感や感覚を客観的に評価したり、完全に記憶したりすることは難しい。ファンは応援するチームや自分が所属するファンコミュニティのイメージを頼りに、自分の観戦行動を習慣化させている(Bauer et al., 2008)。さらに最近の研究はファンコミュニティの独特のイメージがファンの行動様式に影響し、行動的ロイヤルティの向上につながることを明らかにしている(吉田ら, 2017)。以上の説明はファンコミュニティの独自性が行動的ロイヤルティに直接的に影響することを示唆する。よって、以下の仮説を設定した:

H1b:ファンコミュニティの独自性は行動的ロイヤルティに正の影響を与える。

(2)  ファンコミュニティとの類似性の影響

人々の自己概念がファンコミュニティの特徴とどれくらい似ているかという類似性もファンコミュニティIDと関係している(Bhattacharya & Sen, 2003Stokburger-sauer et al., 2014)。たとえば、ある人の自己概念(性別、年齢、居住地など)とあるスポーツチームのファンコミュニティの特徴(観戦方法、ファッション、地域性など)に共通点が見出されると、そのファンコミュニティは社会的アイデンティフィケーションの対象として魅力的に映る。広島カープを応援するカープ女子は昔ながらのプロ野球ファンのイメージと異なり、球場で女性らしいグッズに身を包み、スイーツを食べ、可愛らしくプロ野球を観戦する女性ファンである。彼らの中には野球のルールや広島カープの歴史をよく知らない者が少なくないが、それよりもカープ女子のイメージや特徴が自分に合っていることの方がカープ女子になるためには重要である。つまり、自己とファンコミュニティの類似性がファンコミュニティIDの形成に影響しているものと考えられる。以上の説明から、以下の仮説を導出した:

H2a:ファンコミュニティとの類似性はファンコミュニティIDに正の影響を与える。

本研究はファンコミュニティの類似性と行動的ロイヤルティの直接的な関係性に関する仮説も導出する。リレーションシップマーケティングにおけるコミットメント・信頼理論(Morgan & Hunt, 1994)によると、共通の価値観は人々の間の信頼関係を強める。人々の間で価値観の類似性に基づいた信頼関係が形成されると、次に人々は自分たちの繁栄のため、互いに便宜を図ったり、協力したりするようになる。この説明を本研究に応用すると、人は信用できるファンコミュニティのためなら、自分の時間、労力、知識、能力などを快く差し出し、関係する人々を支援するということになる。さらに、ソーシャルキャピタル理論によると、人々の間で類似した考え方や目標には、社会的関係性に調和をもたらし、人と集団の間の信頼関係を強め、支援的行動を促す働きがある(Tsai & Ghoshal, 1998)。これらの理論的説明を踏まえると、人は自分とファンコミュニティとの間に類似性を見出すと、社会的信用の感覚が芽生え、自分が所属するファンコミュニティや応援するスポーツチームのために献身的に活動することが予想される。本研究ではファンの献身的な行動として行動的ロイヤルティを設定することから、以下の仮説を導出した:

H2b:ファンコミュニティとの類似性は行動的ロイヤルティに正の影響を与える。

(3)  ファンコミュニティIDの影響

図2に示すように、ファンコミュニティIDにはファンコミュニティの独自性と類似性が行動的ロイヤルティに与える影響を仲介する役割がある。組織的アイデンティフィケーション理論(Ashforth & Mael, 1989Mael & Ashforth, 1992)とそれから派生した消費者と企業のアイデンティフィケーションモデル(Bhattacharya & Sen, 2003)によると、人はファンコミュニティの独自性や自分との類似性だけを理由に、特定のチームの試合観戦を継続する訳ではない。人は自己とファンコミュニティを心理的に重ね合わせ、帰属意識を感じることで、より一層、他のファンの考え方や行動様式を取り入れ、彼らと同じように活動するようになる(仲澤・吉田, 2015吉田ら, 2017)。この説明は、ファンコミュニティの独自性と類似性がファンコミュニティIDを介して行動的ロイヤルティに間接的に影響することを意味する。よって、ファンコミュニティIDの直接効果と間接効果に関する以下の仮説を設定した:

H3:ファンコミュニティIDは行動的ロイヤルティに正の影響を与える。

H4a:ファンコミュニティの独自性はファンコミュニティIDを介して行動的ロイヤルティに間接的に影響する。

H4b:ファンコミュニティとの類似性はファンコミュニティIDを介して行動的ロイヤルティに間接的に影響する。

(4)  操作変数の影響

本研究は仮説検証に必要な要因に加え、いくつかの操作変数を含め、分析を行う。たとえば、先行研究は、ファンの行動的ロイヤルティに強い影響を与える要因としてチームへの愛着(team attachment)を特定している(Funk & James, 2006Kwon et al., 2005Mahony et al., 2002)。また、計画的行動理論(Ajzen, 1991)によると、人々は労力や時間を節約するため、新たな行動よりも習慣化された行動を好む傾向がある。よって、慣れ親しんだ過去の試合経験が行動的ロイヤルティに関係していることが予想される。以上の理由から、本研究はチームへの愛着と試合観戦の習慣化を表すシーズン毎の観戦頻度(Yoshida & James, 2010Yoshida et al., 2015)の影響を含め、仮説検証を行う。

3.2.  方法

(1)  研究環境

研究2では日本プロサッカーリーグ(以下Jリーグと略す)のスタジアム観戦者調査2018の調査機会を利用してデータを収集した。対象となったクラブはJリーグ・ディビジョン2に所属する関東のプロサッカークラブであった。このクラブは1999年に創設され、2001年にJリーグに加盟して以降、首都圏にあるサッカー専用スタジアムをホームグラウンドとして活動している。クラブには2005年から元サッカー日本代表で1993年にアジア年間最優秀選手賞を受賞した選手が所属しており、彼を中心として独特のクラブ文化が育っている。

(2)  データ収集

2018年8月に開催されたホームゲームにおいて、17名の調査員が開場から試合開始までの約2時間に渡ってスタンド内で質問紙を配布し、その場で回収した。サンプリングでは便宜的抽出に層化抽出の要素を取り入れ、各調査員が担当したエリアに来場した観戦者の性別(男性、女性)と年齢(10代~20代、30代~40代、50歳以上)に基づく6つのカテゴリーの割合を計算し、その比率に応じて標本を抽出した。調査員は合計で451票を配布し、446票を回収した(回収率=98.9%)。研究1と同様に空欄の多い回答者(28名)を除外したところ、418票の有効回答を得た(有効回答率=92.7%)。標本の基本属性については、72.5%%が男性で、ホームタウンエリアからの来場者は63.1%であった。年齢構成は40代(36.0%)が最も多く、以下50代(19.8%)、30代(17.9%)、60歳以上(10.9%)、20代(8.9%)、10代(6.5%)の順であった(平均年齢=43.2、標準偏差=13.1)。

(3)  尺度

調査項目は基本属性(性別、年齢、居住地、シーズン毎の観戦頻度など)を尋ねる質問と心理的要因を測定する尺度(ファンコミュニティID、ファンコミュニティの独自性、ファンコミュニティとの類似性、行動的ロイヤルティ、チームへの愛着)の質問であった。ファンコミュニティIDについては、研究1と同様の尺度を使用し、プロサッカーの研究環境に合うように表現方法を修正した(表5)。研究2では、先行研究を基にファンコミュニティの独自性(Carlson, Donavan, & Cumiskey, 2009;Jones & Volpe, 2010)、ファンコミュニティとの類似性(Hall-Phillips et al., 2016)、行動的ロイヤルティ(出口・辻・吉田, 2018Garnefeld et al., 2013Zeithaml et al., 1996)を加え、7段階のリッカート尺度(まったくあてはまらない[1]から大いにあてはまる[7])で測定した(表5)。操作変数のチームへの愛着については、「好きなクラブを応援したいから来場した」という質問に対して「まったくあてはまらない(1)から大いにあてはまる(5)」までの5段階尺度(1項目尺度)で測定した。シーズン毎の観戦頻度に関しては、「毎シーズン、このスタジアムで約何試合を観戦するか」という質問に対して該当する数字(ゼロ試合を含む)を記入してもらった。

表5 ファンコミュニティID、先行要因、結果要因の確認的因子分析(研究2:n=418)
要因 項目 λ CR AVE
ファンコミュニティの独自性 .96 .88
1. 他のプロサッカークラブのファンたちに比べ、(チーム名)のファンたちには独特の性質がある .92
2. (チーム名)のファンたちは、他のどんなチームのファンたちとも違うと感じる .95
3. 他のプロサッカークラブのファンたちに比べ、(チーム名)のファンたちには独自性があると思う .94
ファンコミュニティとの類似性 .93 .82
1. あなたと(チーム名)のファンたちには共通点が多くある .90
2. (チーム名)のファンたちのイメージはあなた自身のイメージと多くの点で似ている .92
3. あなたの個人的な価値観は(チーム名)のファンたちとよく合っていると感じる .89
個人的評価 .97 .92
1. あなたは(チーム名)のファンたちの一員であることを嬉しく思う .97
2. (チーム名)のファンたちの一員であることは、あなたを前向きな気分にする .96
3. あなたは自分が(チーム名)のファンの一員であることを誇りに思う .95
社会的評価 .94 .84
1. (チーム名)のファンたちは他者からポジティブ(肯定的)に見られている .84
2. 人々は(チーム名)のファンたちを尊重している .95
3. 人々は(チーム名)のファンたちについて好意的な意見を持っている .96
相互依存の感覚 .97 .92
1. (チーム名)のファンたちに起きる出来事は、あなたの生活に影響を与える .94
2. (チーム名)のファンたちに影響を及ぼすような変化は、あなたの生活に影響がある .98
3. あなたの生活は(チーム名)のファンたちに起きる出来事によって影響を受ける .96
自己概念とのつながり .93 .81
1. 誰かが(チーム名)のファンたちを批判すると、それは個人的な侮辱のように感じられる .87
2. (チーム名)のファンたちと関連づくことは、あなた自身のイメージの形成において重要である .93
3. 誰かが(チーム名)のファンたちを賞賛すると、それは個人的な賞賛のように感じられる .90
行動的関与 .97 .91
1. あなたは(チーム名)のファンたちと一緒に様々な活動に参加している .93
2. あなたは(チーム名)のファンたちを支援するための活動に参加している .97
3. あなたは(チーム名)のファンたちと関係した活動に積極的に関わっている .97
知識形成 .92 .78
1. あなたは(チーム名)のファンたちの伝統や歴史を知っている .78
2. あなたは(チーム名)のファンたちの一部始終を知っている .91
3. あなたは(チーム名)のファンたちの間で共有されている文化や価値観を知っている .96
行動的ロイヤルティ .84 .65
1. 今後数年間、あなたは(チーム名)のロゴが表示されたアパレル製品をさらに多く購入する .70
2. もしチケット価格が値上がりしたとしても、あなたは(チーム名)の試合観戦を続けるだろう .86
3. もし(チーム名)のシーズンの成績が振るわなかったとしても、あなたは(チーム名)の試合をスタジアムで観戦し続けるだろう .85

(注)モデル適合度:χ2=661.25, df=288, χ2/df=2.30, CFI=.97, TLI=.97, RMSEA=.056, SRMR=.043

(出所)筆者作成。

3.3.  結果

(1)  尺度モデルの検証

表5は確認的因子分析の結果である。因子負荷量(λ≧.70, Hair et al., 2006)、合成信頼性(CR≧.60, Bagozzi & Yi, 1988)、平均分散抽出(AVE≧.50, Fornell & Larcker, 1981)のすべての統計値が基準値以上であった。よって、収束的妥当性を確認した。次に、各要因のAVEの平方根と因子間相関を比較したところ(表6)、すべてのケースにおいてAVEの平方根の方が因子間相関よりも高く、弁別的妥当性を支持する結果であった。また、尺度モデルの適合度(χ2/df=2.30, CFI=.97, TLI=.97, RMSEA=.056, SRMR=.043)については、すべての指標が許容範囲内であったことから、尺度モデルはデータに適合した(表5、注釈)。

表6 平均、標準偏差、因子間相関、調整済み相関係数、平均分散抽出の平方根(研究2)
要因 平均 標準偏差 因子間相関(ϕ)
1 2 3 4 5 6 7 8 9
1. ファンコミュニティの独自性 5.05 1.50 .94 .44** .44** .17** .41** .43** .31** .44** .54**
2. ファンコミュニティとの類似性 3.94 1.53 .49** .91 .69** .63** .62** .70** .60** .58** .57**
3. 個人的評価 4.90 1.84 .50** .74** .96 .47** .61** .69** .48** .53** .63**
4. 一般的評価 3.73 1.53 .23** .68** .52** .92 .52** .57** .51** .34** .32**
5. 相互依存の感覚 4.04 1.79 .46** .67** .66** .57** .96 .80** .64** .63** .54**
6. 自己概念とのつながり 4.00 1.68 .48** .75** .74** .62** .85** .90 .67** .63** .58**
7. 行動的関与 2.93 1.77 .36** .65** .53** .56** .69** .73** .95 .67** .54**
8. 知識形成 3.86 1.77 .49** .63** .59** .39** .68** .68** .73** .88 .56**
9. 行動的ロイヤルティ 4.83 1.58 .59** .63** .68** .37** .59** .63** .60** .61** .81
10. 年齢(マーカー変数) 43.18 13.11 .03 −.09 .05 −.14** −.04 −.01 −.15** −.04 −.17**

(注1)要因の平均および標準偏差はIBM SPSS Statistics 25.0によって算出した(マーカー変数以外は合成変数の平均および標準偏差を示している)。

(注2)共通方法バイアスの影響を調整した因子間相関を示すため、LISREL8.8を用いて相関係数を算出した。

(注3)対角線から左下半分にΦ行列を表示し、対角線から右上半分には調整済み相関係数を表示した。

(注4)研究2では対角線から右上半分に、因子間相関の二乗を示す代わりに調整済み相関係数を表示した。そのため、対角線には各要因の平均分散抽出(AVE)の平方根を表示し、弁別的妥当性を検討した(斜体、太字、下線)。

(注5)要因iと要因jの間の調整済み相関係数(rijA)は次の方法で計算した(Lindell & Whitney, 2001):rijA=rijU-rM1-rMrijUは要因iと要因jの間の調整前の相関係数であり、rMはマーカー変数と他の要因の相関関係の中で最も弱い正の相関係数を示している。また、標本数がn数の時、調整済み相関係数の棄却限界値は以下の計算式によって算出される。

  

t/2,  n-3=rijA(1-rijA2)/(n-3)

** p<.01

(出所)筆者作成。

(2)  共通方法バイアス

研究2のすべての要因のデータは一回の調査で同一サンプルから収集したものである。このように原因と結果にあたる要因のすべてを一時点のデータによって測定してしまうと、共通方法バイアス(common method bias)の影響により、因果関係が実際の関係性よりも強くなってしまうことが報告されている(Podsakoff et al., 2003)。よって、本研究は仮説検証を行う前に、このバイアスの影響を統計的に検討した。分析ではLindell and Whitney(2001)に倣い、マーカー変数(marker variable)を用いて共通方法バイアスが因子間相関に与える影響を調整した。手順として、まず本研究で扱う要因と理論的に関係しないと思われる年齢をマーカー変数として選択した。次に、マーカー変数と他の要因の関係性の中で最も弱い正の関係性、すなわち年齢とブランドコミュニティの独自性の間の相関係数(r=.03)を共通方法バイアスに相当する影響として仮定した。続いて、Lindell and Whitney(2001)が定めた公式(表6、注釈)を使って共通方法バイアスの影響を取り除いた調整済み相関係数を算出した(Mplusは年齢のような1項目尺度と併せて潜在変数間の因子間相関を算出できないため、ここではLISREL8.8を用いた)。その結果、補正後も、すべての因子間相関が統計的に有意であり、関係性が変化しないことが明らかとなった。つまり、本研究では共通方法バイアスが原因で要因間の関係性が強められたケースはなく、このバイアスが脅威でないことが確認された。

(3)  仮説の検証

仮説の検証にはMplus version 7.31による構造方程式モデリングを用いた(図3)。まず適合度指標を評価したところ、仮説モデルはデータに適合した(χ2/df=2.97, CFI=.94, TLI=.94, RMSEA=.072, SRMR=.134)。次に要因間のパス係数を分析したところ、ファンコミュニティの独自性(γ=.18, p<.01)とファンコミュニティとの類似性(γ=.74, p<.01)がファンコミュニティIDに正の影響を及ぼした。また、行動的ロイヤルティに対して正の影響を与えた要因はファンコミュニティの独自性(β=.27, p<.01)とファンコミュニティID(β=.35, p<.01)であった。一方、ファンコミュニティとの類似性が行動的ロイヤルティに及ぼす影響は有意水準に達しなかった(β=.02, n.s.)。さらに、操作変数として設定したチームへの愛着(β=.24, p<.01)とシーズン毎の観戦頻度(β=.29, p<.01)が行動的ロイヤルティに及ぼす影響はともに有意であった。以上の結果から、ファンコミュニティの独自性とファンコミュニティIDが行動的ロイヤルティに与える影響は操作変数の影響に耐え得る強さであることが明らかとなった。仮説検証については、H1a、H1b、H2a、H3が支持された一方、H2bは棄却された。さらに、内生変数の決定係数(R2)を検証したところ、仮説モデルはファンコミュニティIDと行動的ロイヤルティの分散のうち、それぞれ70%と53%を説明した(図3)。

図3 仮説検証(研究2:n=418)

(注)モデル適合度:χ2=1080.05, df=364, χ2/df=2.97, CFI=.94, TLI=.94, RMSEA=.072, SRMR=.134

* p<.05, ** p<.01

(出所)筆者作成。

(4)  間接効果の検証

仮説は要因間の直接的な因果関係だけでなく、先行要因がファンコミュニティIDを介して行動的ロイヤルティに間接的な影響を与える因果関係も表している。そこで、本研究はファンコミュニティIDの間接効果を統計的に分析するため、ブートストラップ法による構造方程式モデリングを用いた(Preacher & Hayes, 2008)。統計ソフトはMplus version 7.31を用いた。分析ではブートストラップ法によって元のデータから標本の再抽出を5000回繰り返すことで間接効果の95%信頼区間を算出した(Preacher & Hayes, 2008表7)。その結果、(1)ファンコミュニティの独自性がファンコミュニティIDを介して行動的ロイヤルティに与える間接効果(indirect effect=.05, p<.05)と(2)ファンコミュニティとの類似性がファンコミュニティIDを介して行動的ロイヤルティに与える間接効果(indirect effect=.21, p<.05)の両方が統計的に有意であった。以上の結果から、H4aとH4bはともに支持された。

表7 ブートストラップ法による間接効果の推定
間接効果 ブートストラップ法による推定値 95%信頼区間
標準化係数 非標準化係数 下限 上限
H4a ファンコミュニティの独自性 ファンコミュニティID 行動的ロイヤルティ .06* .05* .02 .12
H4b ファンコミュニティとの類似性 ファンコミュニティID 行動的ロイヤルティ .21* .21* .07 .37

* p<.05

(出所)筆者作成。

3.4.  考察

研究2の目的はファンコミュニティIDの多次元的な因子構造を別のプロスポーツ(プロサッカー)の研究環境において再現するとともに、ファンコミュニティIDの先行要因と結果要因を明らかにすることであった。概念的妥当性については、研究1と同様に収束的妥当性と弁別的妥当性を支持する結果が得られた(表5表6)。さらに、構造方程式モデリングの検証では高次因子として設定したファンコミュニティIDと一次因子として設定した6要因の間の関係性が強く(γ=.66~.91、図3)、モデルの適合度指標も許容範囲内であった。このことから、本研究におけるファンコミュニティIDの多次元的尺度は、プロ野球ファンを対象とした研究1と同様に、プロサッカーファンを対象とした研究2においても概念的に妥当であることが示された。

次に、要因間の関係性に関して、ファンコミュニティの独自性がファンコミュニティIDに与える影響は弱かったが(γ=.18, p<.01)、行動的ロイヤルティに対してはやや強い影響を示した(β=.35, p<.01)。この結果は、ブランドの特徴的な(独自の)イメージとロイヤルティの因果関係を明らかにした先行研究と一致しており(Andreassen & Lindestad, 1998Bauer et al., 2008Lai et al., 2009)、本研究はこの関係性をファンコミュニティの文脈において裏付けることとなった。

さらに、本研究結果から、ファンコミュニティとの類似性はファンコミュニティIDを介して行動的ロイヤルティに間接的な影響(indirect effect=.21, p<.01)を及ぼしていることが明らかとなった。この関係性は、消費者と企業のアイデンティフィケーションモデル(Bhattacharya & Sen, 2003)を根拠としているが、このモデルは元々消費者とブランドの「縦の関係性」(Bhattacharya & Sen, 2003)を説明したものである。本研究はこの説明を消費者同士の「横の関係性」に応用し、有意な影響を確認した。このことから、本研究はファンコミュニティの視点から、類似性と社会的アイデンティフィケーションの関係性に関する理論的説明をさらに拡張させたものと考えられる。

4.  全体的考察

Bhattacharya et al.(1995)が社会的アイデンティティ理論(Tajfel & Turner, 1986)と組織的アイデンティフィケーション理論(Ashforth & Mael, 1989)を消費者行動に応用してから約25年が経過したが、マーケティング研究者は現在も消費者間の関係性がどのような社会心理的反応によって捉えられるのか検証し続けている。本研究はこの研究課題に取り組むため、プロスポーツ(野球およびサッカー)のファンコミュニティを対象とし、人々がファンコミュニティの一員として自己を認識する集団成員性の感覚を多次元的に分析した。以下は本研究の全体的な考察であり、まず学術的貢献を説明し、続いて実践的貢献について述べる。

4.1.  学術的貢献

マーケティング領域の先行研究の多くが消費者とブランドコミュニティの間の自己同一視の感覚(アイデンティフィケーション)を全体的な認知的尺度(Algesheimer et al., 2005)と認知、感情、評価の側面から捉えた三次元尺度(Dholakia et al., 2004)を用いて検証してきた(表1)。本研究は人々がファンコミュニティに対して形成する集団成員性の感覚をより包括的に捉えるため、個人的評価、社会的評価、相互依存の感覚、自己概念とのつながり、行動的関与、知識形成という6要因を設定した(Ashmore et al., 2004Heere & James, 2007)。これら6要因を一次因子とし、その上位概念(二次因子)にファンコミュニティIDを位置づけた確認的因子分析の結果によると、この高次因子モデルは研究1(プロ野球)と研究2(プロサッカー)の両方においてデータに適合し、各要因の収束的妥当性と弁別的妥当性はともに確認された。本研究で扱う6要因はその程度に若干の差はあっても、プロ野球とプロサッカーのファンの間で共通しており、特に相互依存の感覚、自己概念とのつながり、行動的関与の3要因は両コンテクストにおいてファンコミュニティIDとの間に強い関係性を示した。さらに、本研究は新たに行動(行動的関与)と知識(知識形成)に関する反応をファンコミュニティIDの中に含め、尺度の妥当性を確認した。以上は先行研究にはない本研究の独創的な結果であり、学術的貢献を果たすものと考えられる。

仮説検証(研究2)では社会的アイデンティティ関連の理論を基に、ファンコミュニティIDの先行要因と結果要因を分析した。ファンコミュニティの独自性とファンコミュニティとの類似性がファンコミュニティIDに与える影響はともに有意であり、特にファンコミュニティとの類似性の影響は強かった(図3)。この要因は人の自己概念とファンコミュニティの類似性を捉えたものである(Bhattacharya & Sen, 2003Stokburger-sauer et al., 2014)。本研究は特徴が明確なファンコミュニティほど人は自己を重ね合わせ易いと予想したが、このような独自性の影響よりも、自分とファンコミュニティの特徴に共通点があることの方がファンコミュニティIDと密接に関係していることが明らかとなった。組織行動論の分野において、人と集団の価値観の一致はその集団と自己を重ね合わせるアイデンティフィケーションの感覚(Cable & Derue, 2002)や集団凝集性(Kristof-Brown et al., 2014)に正の影響があると報告されており、本研究はこれらの研究と軌を一にするものである。ファンコミュニティは人々の集まりであり、そこには多様な文化、価値観、行動様式が存在する(Wann & James, 2018Yoshida et al., 2015)。このような集団と運命共同体となり、活動をともにするためには、単に集団の独自性を評価するだけでなく、集団と自己の間に意味のある類似性を見出すことが消費者にとって重要である。

さらに、ブートストラップ法による間接効果の分析の結果、ファンコミュニティとの類似性はファンコミュニティIDを介して行動的ロイヤルティに間接的に影響する完全媒介の関係性であることが明らかとなった。この結果は、ファンの行動的ロイヤルティを高める際、自分と他のファンたちがどこか似ているという感覚だけでは不十分であり、自己と他のファンたちの運命を重ね合わせるほどの強い共同体意識が必要であることを意味している。一方、ファンコミュニティの独自性と行動的ロイヤルティの関係性は、ファンコミュニティIDを通じた間接的な影響に加え、直接的な影響を示す部分的媒介の結果であった。これはファンコミュニティの独特のイメージがファン特有のステレオタイプ的行動(ファンらしい献身的な応援、観戦、グッズ購入、クチコミなど)を形作り(Tajfel & Turner, 1986)、行動的ロイヤルティを直接的に高めることにつながっているものと考えられる。以上の考察から、本研究は(1)ステレオタイプ的なイメージに基づく関係性(独自性→ロイヤルティ)と(2)人と集団の特性の一致に基づく関係性(類似性→ID→ロイヤルティ)という二種類の関係性を明らかにした。

4.2.  実践的貢献

本研究はチームへの愛着とシーズン毎の観戦頻度を操作変数として含めて仮説検証を行った。その結果、ファンコミュニティIDとファンコミュニティの独自性が行動的ロイヤルティに与える影響はこれらの操作変数と同程度の強さであった(図3)。このことは、イベントの集客において、ファンの間でチームへの愛着を強める要因(高い競技パフォーマンスやスター選手の獲得)や再観戦を促進させる要因(ファンクラブのような顧客関係管理プログラム)だけでなく、ファンコミュニティを活用した経験価値マーケティングやソーシャルネットワーキングが有効であることを示唆しているものと考えられる。

たとえば、経験価値マーケティングは五感(sense)、感情(feel)、想像力(think)、行動様式(act)、そして社会的アイデンティティ(relate)を駆使して魅力的な経験を作り出し、記憶に残る形でブランドの価値を感じてもらうマーケティング手法である(Schmitt, 1999)。娯楽イベントでは、ファンコミュニティにおける人々の商業的、社会的、文化的活動にこれらの要素が凝縮している。たとえばスポーツイベントの場合、視覚的に楽しませてくれるファンたちのファッションや容姿、熱狂的なファンを中心とした応援パフォーマンス、会場全体が一体となって行う巨大フラッグやジェット風船などの演出、試合の前後や合間に交わされるファン同士の交流・会話などはライブ観戦の醍醐味であり、どれもファンコミュニティと密接に関係した活動である。巨大なファンコミュニティを持つプロ野球チームやプロサッカークラブはチームとファンたちが協力し、魅力的な経験価値をファンコミュニティの中で創造することに成功している。さらに、これらのチームはスタジアムでファンが楽しむ様子をソーシャルメディアで積極的に発信しており、ファンを介したプロモーション活動をインターネット上で展開している。本研究結果を踏まえると、このようなリアル(イベント会場)とバーチャル(ソーシャルメディア)の世界の経験価値に独自性が備わっているだけでなく、多くの人々から共感される類似性があることにより、ファン同士の共同体意識はさらに強まり、結果的にブランドロイヤルティの向上へとつながるものと考えられる。ソーシャルメディアの登場により、異質な人々を結び付ける橋渡し型ソーシャルキャピタル(bridging social capital)の重要性が増している(Ellison et al., 2007)。多様な人々が存在するファンコミュニティの中に類似性を見出すためには、ソーシャルメディアを活用した橋渡し型のプロモーション活動が有効である。

4.3.  研究の限界と今後の展望

本研究はファンコミュニティIDの多次元的尺度の妥当性を確認したが、一方でいくつかの限界もある。最初の限界はスポーツファンのみを対象としたことである。スポーツ以外の音楽、映画、演劇などのファンが集団化する際のファンコミュニティIDについては検証しなかった。今後の研究では本研究と同様の因子構造が他の娯楽産業のファンコミュニティにおいても抽出されるのかどうか検証する必要がある。

研究の限界の二つ目は結果要因に非商業的な消費者行動を含めなかったことである。スポーツファンのエンゲージメント行動を扱った先行研究(Yoshida et al., 2014)は、ファンの利他的かつ非商業的な反応としてイベント運営への協力、成績不振に対する寛容な姿勢、ファン同士の向社会的行動などのエンゲージメント行動の重要性を指摘している。今後はファンコミュニティIDがこれらのエンゲージメント行動とどのように関係しているか分析すべきである。

三つ目の限界は本研究がスタジアム来場者のみを対象としたことである。イベントに来場せず、ソーシャルメディア上で情報を共有するインターネットユーザーのファンコミュニティを検証するとともに、ファンコミュニティIDが対面環境とオンライン環境の要因をどのように結び付けているのかという疑問にも答えていかなければならない。

最後に、本研究はスポーツファンから収集した一時点のデータを用いて仮説検証を行った(研究2)。分析では統計的に共通方法バイアスを推定し、このバイアスが結果に対して脅威でないことを示したが、今後は独立変数と従属変数に関するデータを収集する時期を分けるなど、縦断的研究を実施して因果関係をより厳密に明らかにする必要がある。

5.  結論

結論として、本研究はファンコミュニティIDの多次元的尺度の構成概念妥当性を確認するとともに、ファンコミュニティIDの先行要因と結果要因を明らかにした。特に、これまで認知的尺度と三次元尺度(認知、感情、評価)による測定が中心だった先行研究に対して、本研究は行動と知識に関する要因を新たに加え、概念的拡張を果たした。本研究のファンコミュニティID尺度とその理論的説明、さらに最後に示した今後の展望は、集団的な消費者心理と行動に関する研究の更なる発展に寄与するものである。

参考文献
 
© 2021 法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
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