イノベーション・マネジメント
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18 巻
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論文
  • 菊谷 正人
    原稿種別: 論文
    2021 年 18 巻 p. 1-24
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    会計における利益観が収益費用利益観から資産負債利益観にシフトした結果として、財務業績の指標値として当期純利益とともに包括利益が重要な地位を占めてきた。包括利益とは、取引およびその他の経済的事象(資本取引を除く)から生じる一定期間における事業体の純資産の変動額である。一定期間の包括利益には、当期損益にプラスされて当該期間に認識された「その他の包括利益」(OCI)も含まれる。わが国では、「その他の包括利益」として「その他有価証券評価差額金」、「繰延ヘッジ損益」、「退職給付に係る調整額」、「為替換算調整勘定」が「損益及び包括利益計算書」または「包括利益計算書」において表示されている。これらの項目は、価格変動・金利変動・為替相場変動のように、経営者がコントロールできない外部的経済事象から生じている。

    本稿では、包括利益および「その他の包括利益」(OCI)の本質・特徴を解明した上で、「その他の包括利益累計額」の会計処理(とりわけ表示方法)を理論的に考察する。結論として、バッター資金会計論における持分概念(資産に対する拘束)に基づいて、「その他の包括利益累計額」は「企業体持分」(「資金持分」)として表示する。

  • ―テリトーリオに埋め込まれた農業活動による地域活性化―
    木村 純子
    原稿種別: 論文
    2021 年 18 巻 p. 25-54
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    本稿はイタリアのテリトーリオの関連主体が中心となりボトムアップ型活動によって農村資源を活用しながら経済、社会、環境のバランスを取り戻すプロセスを明らかにする。第1に、ヨーロッパ連合(EU)の農業政策、とくにLEADER事業の経緯を説明する。第2次世界大戦後、ヨーロッパは食料増産が必要であったことから工業的農業パラダイムのもと生産増大、集約化、専門化をベースとする効率的拡大志向の農業が推し進め、生産主義を貫く。1980年代になると農業収入の低下と農業ビジネスの不振からポスト生産主義が登場し、農業を生産から農村アメニティやサービス、景観、文化的要素といった農村開発政策に移行させていく。第2に、テリトーリオ・アプローチによってEUがいかにボトムアップ型地域活性化の取組みに取り組んでいるのかを説明する。テリトーリオは「地形・地質、水や緑の生態系などの自然条件の上に、人々の手になる農業の営みやそれが結実した景観があり、町や村の居住地に加え、農場、修道院が点在する。その総体(陣内, 2019, p.13)であり「都市、集落、田園を1つの共通の社会経済的・文化的アイデンティティをもつ地域(陣内他, 2019, p.2)」と定義される。EUはプロジェクトがより効果を生んでいる。その理由は関連主体がネットワーク関係を作りテリトーリオの特性やニーズに対応させた戦略をたてるからである。第3に、テリトーリオ・アプローチによる取組みの具体的な事例としてトスカーナ州アミアータ西麓を取り上げる。テリトーリオ・アプローチを指針として事業を実施する活動単位であるテリトーリオの人々が中心となり内発的発展を実践し期待された成果を生んでいる。

  • 竹内 淑恵
    原稿種別: 論文
    2021 年 18 巻 p. 55-88
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    本研究は、2,269人のFacebookユーザーを対象としたアンケート調査を通じて、Facebookページへの参加による便益(快楽的便益、情報探索的便益、社会的便益、経済的便益)がネガティブ効果を抑制するのか、あるいは、促進するのか、また、ネガティブ効果はリレーションシップ(信頼)やロイヤルティ(推奨)に対してどのように影響するのかを検討する。ネガティブ効果は、Facebookページに対する情報過負荷、苛立ち、プライバシーへの懸念、後悔で測定した。分析の結果、次の知見が得られた。

    ・快楽的便益と情報探索的便益は、ネガティブ効果を抑制する。一方、社会的便益と経済的便益(10%有意水準)はネガティブ効果を促進する。

    ・満足は後悔に負の影響を及ぼす。

    ・ネガティブ効果の要因間には因果関係がある。

    ・プライバシーへの懸念は信頼に負の影響を及ぼす。しかしながら、後悔による信頼への影響、後悔による推奨への影響は有意ではなく、仮説は棄却された。

    そこで、男女や「いいね!」意図の高低などの2群間で差異を検証するために、多母集団の同時分析を行った。

    ・「いいね!」意図、コメント意図、シェア意図が低い場合、後悔は信頼に負の影響を及ぼす。

    ・コメント意図が低い場合、また、女性の場合、後悔は推奨に負の影響を及ぼす。

    これらの結果に基づいて、理論と実務に対するインプリケーションを述べる。

  • ―テキスタイル産業における欧米・新興国企業との取引を中心に―
    丹下 英明
    原稿種別: 論文
    2021 年 18 巻 p. 89-104
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    本稿の目的は、中小製造業者が、海外企業への販路開拓を実現した要因を明らかにすることである。そのために、中小テキスタイル企業の分析を行う。

    中小製造業の国際化が進むなか、中小製造業者は、海外において、日系だけでなく、欧米企業や新興国企業などの海外企業を販路開拓する必要に迫られている。だが、中小製造業による海外企業への販路開拓プロセスとその実現要因に焦点を当てた研究の蓄積は少ない。

    そこで、本稿では、海外企業との取引を実現した中小テキスタイル企業3社の事例研究を行った。その結果、海外企業との取引実現要因として以下の3点が明らかになった。

    第1に、企業家活動の変化である。経営者が率先して海外企業への販売先拡大に取り組むなど、企業家活動が国内から海外へと広がっている。

    第2に、マーケティング戦略の変化である。①機能よりも顧客の感性に訴えることを重視した製品を投入、②顧客に対して、経営者らが直接、自社製品の良さを伝える、③現地に精通した人材を活用する、④欧米から中国への販売先国シフト、などがみられた。

    第3に、生産・開発機能の変化である。事例企業は、製品競争力強化につながる生産体制を構築したり、企画機能を設置・強化したりしている。

    海外企業と取引するためには、先行研究で示された企業家活動の変化だけでなく、マーケティング戦略や生産・開発機能の変化も重要といえる。

  • ―アパレル業界におけるX社のCSR調達の事例から―
    森 翔人, 土肥 将敦
    原稿種別: 論文
    2021 年 18 巻 p. 105-123
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    本論文では、持続可能なサプライチェーンの推進に関する先行研究をサーベイし、それらを取締り型、能力開発型、労働者主体型の3つに分類し、各アプローチが有する特徴や課題について整理を行った。その上で、外国人技能実習生の受入れ等において、様々な課題が生じている日本のアパレル業界の事例としてX社を取り上げ、同社が能力開発型アプローチを採用しつつCSR調達に取り組んでいることを確認した。

    本研究から得られた知見は次の3点である。第1に、企業が採用し得る持続可能なサプライチェーン推進のための3つのアプローチに関して、企業側はサプライチェーンの構造やローカルな文脈等の状況に応じた継続的な見直しと改善とともに、それらの3つのアプローチの特徴や長短を把握した上での戦略的活用が求められること。第2に、日本のアパレル業界においては、外国人技能実習生の受入れに際して失踪問題等の課題が発生しているが、これらに対しては政府による制度的な見直しとともに、企業側には労働者主体型アプローチの導入等による新たな工夫・改善が求められること。第3に、サプライヤーとの対話を重視する能力開発型アプローチにおいては、サプライチェーン上に介在する商社等の中間組織のコミュニケーションのあり方が持続可能なサプライチェーンの推進において鍵を握ること、である。

  • 安士 昌一郎
    原稿種別: 論文
    2021 年 18 巻 p. 125-140
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    本稿は、道修町の薬業者の活動を通して1870年代~1910年代における大阪薬業界の変遷を考察する。業界発展の一要素として先進的な経営者の存在が挙げられる。そして道修町はその典型的な地域であったため、当該地域を考察対象とした。医薬品産業は研究開発型産業の代表であり、明治・大正期にその礎が築かれた。政府は医薬制度の基盤に西洋医療を採用し、それを普及させる為の施策を行った。使用される西洋薬品は高額でかつ輸入に頼らざるを得ず、供給の不安定さを抱えていた。大阪の薬業者も業態を変化させて環境への適応を試みた。その中で少数の業者が西洋薬品の輸入をいち早く手がけ、環境の変化に反応して製薬企業に成長し、業界の発展に貢献した。彼らの活動には教育機関の創立や、共同出資による企業設立も含まれている。また第一次世界大戦の勃発はドイツからの医薬品輸入を途絶させ、市場は大混乱に陥った。政府は輸出規制および製薬事業の保護助成政策を打ち出したが、この決定には大阪の薬業者の関与があった。社史、業界誌等の分析により、彼らが医薬品産業の発達に貢献した過程を明らかにしている。

  • 山嵜 輝, 吉川 大介
    原稿種別: 論文
    2021 年 18 巻 p. 141-159
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    本稿は、取引コストを伴う最適消費・投資問題に関する総説論文である。この問題は、1970年代に提起されてから現在に至るまで、多くの研究者の高い関心を集めてきた。長年の試行錯誤と研究の進展のなかで、数多の関連論文が存在するが、本稿では、問題解決に多大な貢献をした主要論文を歴史の順を追って解説する。問題の定式化について詳述した上で、特に、問題解法のアイデアと最適消費・投資行動の経済学的解釈に焦点を当てた概説を行う。

  • ―プロスポーツにおける因子構造、先行要因、結果要因の検証―
    吉田 政幸, 井上 尊寛, 伊藤 真紀
    原稿種別: 論文
    2021 年 18 巻 p. 161-186
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    映画、音楽、スポーツなどの娯楽産業には多くのファンコミュニティが存在する。本研究は人々の間でアイデンティティの共有が生じやすいプロスポーツチームのファンコミュニティに着目し、ファンコミュニティ・アイデンティフィケーションの因子構造を多次元的に明らかにするとともに、その先行要因と結果要因を理論的に説明することを目的とした。調査はプロ野球(研究1)とプロサッカー(研究2)のホームゲームにおいて実施し、収集したデータを用いて因子分析と構造方程式モデリングを検証した。研究1ではファンコミュニティ・アイデンティフィケーションを構成する要因として6因子を特定し、さらにこれらをファンコミュニティ・アイデンティフィケーションの一次因子とした高次因子モデルを推定した。その結果、モデルはデータに適合し、多次元的尺度の構成概念妥当性を支持する証左を得た。研究2においても尺度モデルの概念的妥当性が示され、さらに仮説を検証したところ、(1)ステレオタイプ的なイメージに基づく関係性(ファンコミュニティの独自性→行動的ロイヤルティ)と(2)人と集団の価値観の一致に基づく関係性(ファンコミュニティとの類似性→ファンコミュニティ・アイデンティフィケーション→行動的ロイヤルティ)という二種類の関係性の存在を明らかにした。本研究結果とその理論的説明は集団的な消費者心理や行動に関する研究の発展に寄与するものである。

査読付き投稿論文
  • 前田 篤志, 立本 博文
    原稿種別: 査読付き投稿論文
    2021 年 18 巻 p. 187-206
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    アーキテクチャ理論では、複雑な開発プロセスを時系列で見た場合、アーキテクチャルな知識とコンポーネントの知識という二分化現象が現れるとして、経営学領域では理論化されているが、実際、この様な現象の実証例は少ない。本稿は、二分化現象の実証を目的として、無線通信技術の技術世代が変化する際の製品アーキテクチャの動静について、プロセッサ、積層セラミックコンデンサの特許出願数と、携帯電話の特許出願数について統計分析を行った。その結果、技術世代が変化する過程において、モジュール内分野の技術開発が重点的に行われる期間と、モジュール間分野の技術開発が重点的に行われる期間に二分されるという特徴が観測された。

研究ノート
  • ―GUESSS2018調査結果における日本のサンプル分析―
    玉井 由樹, 田路 則子, 鹿住 倫世, 藤村 まこと, 山田 裕美, 五十嵐 伸吾
    原稿種別: 研究ノート
    2021 年 18 巻 p. 207-229
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    GUESSS 2018は、世界54カ国、3,191大学が参加して行われた、大学生の起業意識調査である。全体で208,636件の有効回答を集めている。日本では49大学・大学院が参加し、4,150件の有効回答を得た。

    本調査レポートの目的は上記データを用いて、日本の大学生の起業意思の特徴を明らかにすることである。参加国全体と日本の集計結果を比較したところ、卒業直後および卒業5年後のキャリア選好においては、日本の学生は参加国全体よりも従業員となることを希望する傾向が強い。この傾向は日本の調査が開始された2011年から変わらぬ傾向となっている。専攻別にみると、工学、芸術学、商学・経営学で卒業5年後に創業者になるという起業意思を持つ学生の割合が高くなっており、男女別でみると男子学生の起業意思が高くなっている。家族との関係では、母親が自営業者の学生の起業意思が他の場合と比較して高くなっている。起業家活動に関する科目の履修率も調査を重ねるごとに高まっており、特に卒業直後に創業予定の学生において起業家教育科目を履修する割合が高くなっている。

    それらを踏まえ、専攻の違い、大学所在地の違い、親の職業の違いによって、起業意思等の変数に差が生じているかどうかについて検討を行ったところ、各変数に有意に差が生じていることが明らかとなった。

  • ―パンデミックによる外生的危機と国際経営―
    洞口 治夫
    原稿種別: 研究ノート
    2021 年 18 巻 p. 231-246
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    ディグローバリゼーションについての先行研究をサーベイすると、国際関係論における二分法であるリベラリズム(liberalism)と現実主義(realism)を対置させて多国籍企業行動への影響を議論している研究があることがわかる。2020年になると、こうした政治経済学的な要因に新型コロナウィルス(COVID-19)感染拡大が加わり、外生的な経済危機をもたらした。ディグローバリゼーションとして象徴的な役割を果たしていた米中貿易摩擦やブレクジットは、2020年初頭から顕在化した新型コロナウィルスによるパンデミックによって、全世界的、かつ、経済活動全般における具体的なディグローバリゼーション現象に塗り替えられた。ディグローバリゼーションの原因を論ずる際に、現実主義の見解に立つ場合、覇権安定が進むときにグローバリゼーションが深化し、覇権国によるパワーが揺らぐときにディグローバリゼーション現象が起こる、とする立論がある。米中間のパワーバランスが変化し、不可逆的な覇権の世界史的変化をもたらしている、とする見解もある。本稿では、新型コロナウィルス感染拡大への対応を誤った国が、大きな経済的損失を被り、国力を低下させ、覇権交代を引き起こす可能性があるという仮説を提起する。今後、貿易統計や直接投資統計データが公表されれば、この仮説を検証することが可能になる。

査読付き研究ノート
  • ―商法の形成過程に対する考察を中心に―
    高野 裕郎
    原稿種別: 査読付き研究ノート
    2021 年 18 巻 p. 247-263
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    本論文では、法制史の先行研究において明らかにされた複数の商法案およびその審議の議事録を手掛かりとして、明治23年商法公布に至るまでの経緯、商法案の規定内容の変遷および商法計算規定に関する審議の内容を分析することにより、明治23年商法計算規定の制定の背景について考察した。

    本稿による考察の結果、明治23年商法計算規定の決定要因は、第1に、フランス・ドイツの商法を参考として、ロエスレルが財産目録・貸借対照表の作成および財産の時価評価を求めたこと、第2に、政治的・外交的理由から、その時最も現実的であった「ロエスレル草案」を原案とした商法の制定を政府が選択したこと、第3に、財産目録の作成と財産の時価評価規定に関して懸念があったものの、仮に商法計算規定の実施上の問題が生じた場合には、商法を早急に改正することで対応する方針とされたことという複合的な要因であったと言うことができる。

  • 千野 翔平
    原稿種別: 査読付き研究ノート
    2021 年 18 巻 p. 265-279
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
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    本稿の目的は、テレワークが従業員にどのような影響を及ぼしているのかについて、パネルデータを用いて、テレワーカーの変化をもとに検証することである。特に、テレワーク制度の適用者であるか否かに着目して、テレワークを実施した人の幸福度、生活満足度、週当たりの労働時間に関して分析を行った。

    その結果、テレワークが制度適用されていない人、つまり職場外に仕事を持ち出し残業している可能性のある人によるテレワークは、幸福度を下げる、生活満足度を下げる、週当たりの労働時間を増加させる可能性があることが明らかになった。一方で、テレワークが制度適用されている人の場合は、これらに正の影響を与えることがわかった。テレワークが従業員の労働環境にプラスに働くためには、テレワークが制度として整備され、それが適用されていることが重要であると示唆された。

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