イノベーション・マネジメント
Online ISSN : 2433-6971
Print ISSN : 1349-2233
査読付き研究ノート
テレワーク制度の適用有無がテレワーカーにどのような影響を及ぼしているのか
千野 翔平
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 18 巻 p. 265-279

詳細
要旨

本稿の目的は、テレワークが従業員にどのような影響を及ぼしているのかについて、パネルデータを用いて、テレワーカーの変化をもとに検証することである。特に、テレワーク制度の適用者であるか否かに着目して、テレワークを実施した人の幸福度、生活満足度、週当たりの労働時間に関して分析を行った。

その結果、テレワークが制度適用されていない人、つまり職場外に仕事を持ち出し残業している可能性のある人によるテレワークは、幸福度を下げる、生活満足度を下げる、週当たりの労働時間を増加させる可能性があることが明らかになった。一方で、テレワークが制度適用されている人の場合は、これらに正の影響を与えることがわかった。テレワークが従業員の労働環境にプラスに働くためには、テレワークが制度として整備され、それが適用されていることが重要であると示唆された。

Abstract

The purpose of this paper is to examine the impact of telework on employees using panel data, based on changes in teleworkers. In particular, we analyzed the happiness, life satisfaction, and weekly working hours of those working remotely, focusing on whether or not they were covered by a telework system.

It was found that telecommuting by those not covered by a system, i.e., those simply taking their work out of the workplace and potentially working overtime, may reduce well-being and, life satisfaction, and increase the number of hours worked per week. On the other hand, in the case of those telecommuting under a system, the impact was positive. This implies that in order for telework to have a positive effect on employees’ working environment, it is important that telework is in place and applied as a system.

1.  はじめに

2020年、COVID-19によって大きな変革が迫られている。なかでも、柔軟な働き方を実現するための人事施策として、テレワークが注目されている。テレワークは、勤務場所や時間にとらわれないで働く方法として、期待されている人事施策の一つである。しかし、リクルートワークス研究所の「Works人材マネジメント調査2017」によれば、「在宅勤務制度(テレワーク制度)を導入し、今後も継続する予定である」と回答した企業は全体の36.5%と約3分の1にとどまる。テレワークが広く浸透しない要因はどこにあるのだろうか。また、テレワークが浸透するにはどのようなことに取り組んでいく必要があるのだろうか。今日、COVID-19が収まった後の働き方について、テレワークの継続か、それとも従来のようなオフィスへの出社に戻るのか、といった生産性の高いワークスタイルについて議論されている。こういったなか、テレワークについて知ることは意味がある。

そこで、本稿では、テレワークが従業員に与える影響について分析することで、上記の課題に対する解を探索する。具体的には、パネルデータを利用して、テレワーク制度の適用者であるか否かに着目しながら、テレワークを実施している従業員(以下、テレワーカー)における幸福度、生活満足度、週当たりの労働時間の変化について分析する。つまり、テレワークを始めたり、逆にやめたりした人たちの変化から、テレワーク制度の有効性について検証する。なお、本稿におけるテレワークの定義は、(社)日本テレワーク協会が提唱する「情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」に準ずる。

本稿の構成は以下のとおりである。第2節では先行研究を整理し、第3節ではリクルートワークス研究所による「全国就業実態パネル調査2018」(以下、パネル2018)と「全国就業実態パネル調査2019」(以下、パネル2019)から、今回の分析で利用するデータについて説明する。第4節ではテレワークの実施が、従業員に対してどのような影響を与えたのかを分析する。第5節では分析結果を踏まえた考察を展開し、最後に残された課題について整理する。

2.  先行研究

テレワークに関する研究は、国内外で既に多くの積み重ねがある。たとえば、Kurland and Baily(1999)によれば、テレワークを実施するとワーク・ライフ・バランスの向上、ストレスの低下などが得られるという。また、Bloom et al.(2015)は、中国の旅行会社で働くコールセンターの従業員に9カ月間、ランダムに在宅勤務とオフィス勤務を割り当て、通話量を定量分析した。その結果、在宅勤務の従業員は、休憩時間の短縮による労働時間の増加などにより、パフォーマンスが向上していることを確認している1

業務内容の観点からテレワークの効果を研究したのが、Dutcher(2012)である。Dutcherは、テレワークをすると、単調な仕事ではオフィスで就業するのと比べて生産性が6~10%低下するが、創造性を要する仕事では11~20%増加すると指摘した2

また、国内においても研究が進められている(古川, 2007佐藤, 2008亀井・大澤, 2017田澤, 2015など)。たとえば、古川(2017)は、個人の生産性に着目し、業務内容とテレワークの関係について研究した。テレワーカーに対するアンケート調査をもとに、テレワークによって業務に集中できる時間や機会が増えること、定型的業務か創造的業務かにかかわらず生産性が向上することを見出している。また、テレワークをすることにより、テレワークで取り組む業務と、オフィスで取り組む業務内容がそれぞれ明確になるため、双方の生産性が向上することも明らかにした。

テレワークによる懸念点も指摘されている。テレワークは業務内容を明確化する性質があるため、長時間労働解消の効果が見込まれる一方で、職場環境から疎外されるため、従業員によっては長時間労働を招く可能性がある。たとえば、前出のBloom et al.(2015)は、本来とるべき休憩時間などを業務にあてることによって、労働時間が増えていると指摘した。

テレワークは長時間労働を招くのか、という点に対する研究として萩原・久米(2017)がある。萩原・久米は、テレワーカーとそれ以外の人との労働時間について、同一時点における母集団平均との差を分析した結果、両者の間には有意な差がないことを確認した。萩原・久米は、もう一つ重要な指摘をしている。それは、現状のテレワーカーには、テレワーク制度が適用されていない人の割合が高いことである。つまり、職場の制度に関係なく実施しているテレワークには、いわゆる持ち帰り残業といった性質のものが含まれている可能性がある。また、国土交通省(2020)によれば、テレワーク制度適用ありのテレワーカーのうち「全体的にプラス効果があった」と回答した割合は70.5%だが、制度適用なしのテレワーカーは24.3%と少ない。制度適用なしのテレワーカーの71.6%は「特に効果はなかった」と回答している3。このことから、テレワークにおいては、制度の有無が重要な意味を持つことがわかる。

テレワークを行っている従業員が考えるテレワークのメリットはどのような点なのだろうか。労働政策研究・研修機構(2015)によると、「仕事の生産性・効率性が向上する」(54.4%)が最も高い。他には「ストレスが減り心のゆとりが持てる」(15.2%)、「家族とのコミュニケーションがとれる」(10%)、「家事の時間が増える」(7.9%)などが挙げられている。また、「メリットは特にない」(18.1%)のように、テレワークの意味を感じていない声も少なくない。一方で、テレワークのデメリットについては、「仕事と仕事以外の切り分けが難しい」(38.3%)、「長時間労働になりやすい」(21.1%)などが挙げられている(いずれも複数回答の結果)。また厚生労働省(2015)によれば、実際にテレワークを実施した人のうち、「利用してよかった」「継続して利用したい」との回答が約9割ある。

テレワークは、これまで多くの企業で当たり前とされてきた、オフィスに出勤をしたのち、同僚と職場で仕事に取り組むのではなく、職場内に限定されない新しい働き方である。上記を踏まえ、本稿では次の点を明らかにする。第1に、テレワークの制度が適用されていると幸福度が上昇する(仮説1)、第2に、テレワーク制度が適用されていると生活満足度が上昇することを明らかにする(仮説2)。テレワークは、運用に課題を残しつつも、柔軟な働き方を後押しするものであり、テレワーカーの日々の幸せや、生活満足を高めると考える。テレワーカーの幸福度や生活満足度の高さは、従業員にとって価値があるだけでなく、従業員の仕事へのモチベーションを高め、生産性を高めることにも影響を及ぼすと考えられる。第3に、テレワークの制度が適用されていると週当たり労働時間が減少する(仮説3)。仕事と仕事以外の切り分けが難しいことや、管理職や職場の同僚の目が行き届かないため、企業による労務管理が難しく、労働時間を増加させるといった指摘がある一方で、テレワークは、やるべきことが整理されて長時間労働の解消が見込まれる。

これらの点について、既存の研究の多くは、テレワーカーによる1時点の回答をベースにしており、テレワーカーの継続的な変化に関する研究は少ない。そこで、本稿では、パネルデータを用いた2時点分析を実施することによって、テレワークによって従業員にはどのような変化があるのかに着目した分析を行う。

3.  分析

3.1  利用データ

本稿で分析に用いたデータは、リクルートワークス研究所のパネル2018とパネル2019である。

利用した設問は以下のものである。まず「1週間にどれくらいテレワークを行っていましたか」という実施頻度を問う設問で、回答者によって回答が実数(1、2、3など)で入力されたものである。次に、「職場(自社および客先)以外で仕事をしたことがある場所をすべてお答えください」という仕事を行った場所を問う設問で、自宅、サテライトオフィス、カフェ・ファミリーレストラン、図書館、移動中、通勤中などから複数回答できる。また、「あなたの職場ではテレワークの制度が導入されていましたか。また、あなたは、その制度の対象者として適用されていましたか。あてはまるものを1つお答えください」というテレワークの制度適用者かどうかを問う設問で、制度として導入されていて自分自身に適用されていた、制度として導入されていたが自分自身には適用されていなかった、制度として導入されていなかった、わからないといった4肢から回答を得ている。

またこれらを説明変数としたときの目的変数として、以下の3項目を用いた。1つ目は「幸福度」を問う設問で、具体的には「あなたはどの程度幸せでしたか」という問いに対して、「5:とても幸せ」から「1:とても不幸」の5件法で回答を得ている。2つ目は「生活満足度」を問う設問で、具体的には「あなたの生活全般について、どの程度満足していましたか」という問いに対して、「5:満足していた」から「1:不満であった」の5件法で回答を得ている。3つ目は「週当たり労働時間」を問う設問で、具体的には「平均的な1週間の総労働時間はどれくらいでしたか」という問いに対して、回答者が回答を実数で入力したものである。

3.2  分析対象者のデータ

分析にあたり、パネル2018とパネル2019の共通回答者から、雇用形態「正社員」、年齢「60歳未満」、1週間の労働時間「35時間以上」の条件に合致する12404名の回答データを利用した。

具体的な回答者のパネル2019回答時点での属性の分布については、次のとおりである。男女比は、男性69.4%、女性30.6%である。年齢をみてみると、20~29歳10.6%、30~39歳28.9%、40~49歳34.2%、50~59歳26.3%などである。配偶者の有無については、配偶者あり57.9%、配偶者なし42.1%である。子どもの有無については、子どもあり50.6%、子どもなし49.4%である。回答者の業種については、サービス35.7%、製造業24.0%、流通・小売8.1%、情報7.2%、素材関連業7.2%、金融3.8%、その他14.0%である。職種については、事務系職種33.0%、専門・技術職29.2%、生産工程・労務関連17.6%、営業販売職9.2%、サービス職5.7%、その他5.3%である。なお、パネル2018回答時点での属性の分布についてもほぼ同様であった(表1)。

表1 パネル2018とパネル2019の基本属性
属性 項目 パネル2018 パネル2019
N数 割合 N数 割合
性別 男性 8613 69.4% 8613 69.4%
女性 3791 30.6% 3791 30.6%
年齢 15~19 25 0.2% 3 0.02%
20~29 1528 12.3% 1317 10.6%
30~39 3644 29.4% 3579 28.9%
40~49 4278 34.5% 4238 34.2%
50~59 2929 23.6% 3267 26.3%
配偶者 あり 6999 56.4% 7178 57.9%
なし 5405 43.6% 5226 42.1%
子ども あり 6099 49.2% 6278 50.6%
なし 6305 50.8% 6126 49.4%
業種 サービス 4435 35.8% 4424 35.7%
製造業 3016 24.3% 2974 24.0%
流通・小売 1002 8.1% 1005 8.1%
情報 895 7.2% 890 7.2%
素材関連業 906 7.3% 899 7.2%
金融 479 3.9% 472 3.8%
その他 1671 13.5% 1740 14.0%
職種 事務系職種 4041 32.6% 4094 33.0%
専門・技術職 3617 29.2% 3620 29.2%
生産工程・労務関連 2221 17.9% 2186 17.6%
営業販売職 1162 9.4% 1136 9.2%
サービス職 704 5.7% 713 5.7%
その他 659 5.3% 655 5.3%

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

表2は、パネル2018時点とパネル2019時点でのテレワークの実施の有無に基づいたクロス集計表である。パネル2018時点でテレワークを実施した人は1575人だが、そのうち、パネル2019時点ではテレワーク実施をやめた人が921名(58.5%)と過半数であった。この回答データに、テレワーク制度の適用の有無の分類を追加したのが表3である。

表2 テレワーク利用有無別人数の分布
N数 パネル2019
テレワーク 実施 テレワーク 非実施
度数 割合 度数 割合
パネル2018 テレワーク
実施
1575 654 41.5% 921 58.5%
テレワーク
非実施
10829 543 5.0% 10286 95.0%
12404 1197 11207

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

表3 テレワーク利用有無別・制度適用の有無別人数の分布
N数 パネル2019
テレワーク 実施 テレワーク 非実施
制度適用あり 制度適用なし 制度適用あり 制度適用なし
度数 割合 度数 割合 度数 割合 度数 割合
パネル2018 テレワーク
実施
制度適用あり 263 130 49.4% 42 16.0% 25 9.5% 66 25.1%
制度適用なし 1312 33 2.5% 449 34.2% 18 1.4% 812 61.9%
テレワーク
非実施
制度適用あり 191 27 14.1% 10 5.2% 59 30.9% 95 49.7%
制度適用なし 10638 86 0.8% 420 3.9% 145 1.4% 9987 93.9%
12404 276 921 247 10960

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

表4によると、パネル2018時点でのテレワークの週当たり実施時間は1~10時間未満66.3%、10~20時間未満13.7%などとなっている。これに対して、パネル2019時点でのテレワークの週当たり実施時間をみると、1~10時間未満の割合が14.3%ポイント高くなっており、全体的にテレワークの実施時間が短くなる傾向が確認された。

表4 テレワークを実施している時間(週当たり)
パネル2018 パネル2019
N数 割合 N数 割合
1~10時間未満 1044 66.3% 965 80.6%
10~20時間未満 215 13.7% 127 10.6%
20~30時間未満 62 3.9% 34 2.8%
30~35時間未満 32 2.0% 15 1.3%
35~40時間未満 18 1.1% 4 0.3%
40~45時間未満 144 9.1% 33 2.8%
50~55時間未満 20 1.3% 6 0.5%
55~60時間未満 22 1.4% 10 0.8%
55~60時間未満 1 0.1% 0 0.0%
60~70時間未満 3 0.2% 2 0.2%
70時間以上 14 0.9% 1 0.1%
1575 100% 1197 100%

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

また、職場(自社および客先)以外で仕事をしたことがある場所については、パネル2018では自宅が48.0%、移動中22.4%、通勤中10.2%など、パネル2019は自宅48.4%、移動中22.3%、通勤中9.8%などで、主に自宅でテレワークを実施している比率が高い(表5)。

表5 職場以外で働いたことのある場所(MA)
パネル2018 パネル2019
N数 割合 N数 割合
自宅 1523 48.0% 1798 48.4%
サテライトオフィス 151 4.8% 195 5.2%
カフェ、ファミリーレストラン 269 8.5% 353 9.5%
図書館 68 2.1% 71 1.9%
移動中 711 22.4% 828 22.3%
通勤中 325 10.2% 364 9.8%
その他 125 3.9% 107 2.9%
3172 100% 3716 100%

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

ここからの分析では、テレワークを始めたり、逆にやめたりした人たちがどのような変化を体験したかを明らかにすることを主な目的とする。ただし、その際には、先に述べたような、会社におけるテレワーク制度の適用者ではないがテレワークをしている人、すなわちいわゆる持ち帰り残業をしている人を、制度の適用者であるテレワーカーと区別する必要があると考える。その理由は、制度適用ではないテレワーカーと制度適用されているテレワーカーとでは、テレワークをする理由が異なり(前者は通常の業務時間に終えられなかった仕事を終わらせるために、不本意ながらテレワークをしている可能性がある)、満足度などに異なる影響があると考えられるからである。

そこで、分析は2段階に分けて進める。第1段階として、全回答データを4タイプに分類した検討を行う。2時点のいずれでもテレワークを実施した人、2時点のいずれでもテレワークを実施しなかった人、パネル2018回答時点ではテレワークを実施していたがパネル2019回答時点ではやめた人、パネル2018回答時点ではテレワークを実施していなかったがパネル2019回答時点ではテレワークを新たに始めた人の4分類である。第2段階では、これらの4分類をさらに、所属企業のテレワークの制度適用の有無で16分類に細分化する。これによって、テレワーク制度が適用されているテレワーカーと適用されていないテレワーカーの間で、変化がどのように異なるかを検証することが可能になる。

4.  分析

本節では、テレワーク利用の有無および制度適用の有無がテレワーカーにどのような変化を与えるのかについて確認する。

表611は、パネル2018の回答値とパネル2019の回答値の平均値差をT検定によって分析した結果である。網掛けは統計的に有意がみられた値である(最も濃い網掛けが有意水準1%、次に濃い網掛けが5%、最も薄い網掛けが10%)。なお、平均値差は、パネル2019の平均値からパネル2018の平均値を引いたものである。

また、ここからの記述において、2018年のテレワークの実施状況と2019年のテレワークの実施状況を記号「→」でつないで説明する。たとえば、パネル2018時点ではテレワークを実施しておらず、パネル2019時点ではテレワークを実施している人は、「非実施→実施」と記述される。

4.1  幸福度とテレワークの関係(表6表7

幸福度とテレワークの関係を整理する。表6の示すとおり、「非実施→実施」の群は幸福度が下がっている(10%有意水準)。テレワークを実施していなかった人がテレワークを新たに始める場合には、なんらかの問題や課題が存在している可能性がある。一方で、「実施→実施」や「実施→非実施」の群は、幸福度が上昇している。

表6 幸福度とテレワークの関係(4分類)
パネル2019
テレワーク 実施 テレワーク 非実施
平均値差 T検定 平均値差 T検定
パネル2018 テレワーク
実施
1575 0.05 0.01
テレワーク
非実施
10829 −0.07 * 0.00
12404 1197 11207

注1)*p<0.10; **p<0.05; ***p<0.01

注2)網掛けは有意水準に基づいて3段階で区別している(p<0.10; p<0.05; p<0.01)

注3)平均値差は2019年の平均値から2018年の平均値を引いた値

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

次に、テレワーク制度の適用有無も加味した分析を確認する。表7のとおり、パネル2019でテレワークの制度適用がない状況下でテレワークを実施している場合に幸福度が低下する傾向にある。具体的には、「実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用なしになった群」「非実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用なしになった群」「非実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用なしになった群」の3群において、幸福度が下がっている(5%有意水準)。一方で、パネル2019でテレワークが制度適用されている状況下でテレワークを実施している場合には、幸福度が高い傾向にある。特に、「実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用ありになった群」は幸福度が上昇する(10%有意水準)。

表7 幸福度とテレワークの関係(16分類)
N数 パネル2019
テレワーク 実施 テレワーク 非実施
制度適用あり 制度適用なし 制度適用あり 制度適用なし
平均値差 T検定 平均値差 T検定 平均値差 T検定 平均値差 T検定
パネル2018 テレワーク
実施
制度適用あり 263 0.02 −0.33 ** −0.20 0.02
制度適用なし 1312 0.21 * 0.08 * 0.11 0.01
テレワーク
非実施
制度適用あり 191 0.04 −0.70 ** 0.17 −0.18 *
制度適用なし 10638 0.15 −0.10 ** −0.07 0.00
12404 276 921 247 10960

注1)*p<0.10; **p<0.05; ***p<0.01

注2)網掛けは有意水準に基づいて3段階で区別している(p<0.10; p<0.05; p<0.01)

注3)平均値差は2019年の平均値から2018年の平均値を引いた値

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

ところで、「実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用なしになった群」においても幸福度の上昇がみられる(10%有意水準)。この理由は、分析からはわからないが、このテレワーカーは、いわゆる2年連続して持ち帰り残業をしている人であり、なんらかの理由で、制度適用されていない人であると考えられる。テレワークを実施していくことは労働環境にプラスに働く。しかし、同時に、盗難・紛失・情報漏洩などの情報セキュリティの問題が存在する。そのように考えると、制度適用されていないテレワーカーには、盗難・紛失、情報漏洩などのリスクの拡大が心配される。幸福度が上がっているので良さそうにみえるが、リスクを抑制するための対応が企業側に求められる。

4.2  生活満足度とテレワークの関係(表8表9

生活満足度とテレワークの関係を整理する。表8をみると、「非実施→実施」「非実施→非実施」の群では生活満足度が下がっている。一方で、「実施→実施」「実施→非実施」の群は、生活満足度が上昇している。

表8 生活満足度とテレワークの関係(4分類)
N数 パネル2019
テレワーク 実施 テレワーク 非実施
平均値差 T検定 平均値差 T検定
パネル2018 テレワーク
実施
1575 0.05 0.02
テレワーク
非実施
10829 −0.05 −0.01
12404 1197 11207

注1)平均値差は2019年の平均値から2018年の平均値を引いた値

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

さらに、テレワーク制度適用の有無も加えた結果(表9)を確認すると、パネル2019でテレワークが制度適用でない状況下でテレワークを実施している場合には、生活満足度は下がる傾向にある。具体的には、「実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用なしになった群」(5%有意水準)「非実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用なしになった群」(5%有意水準)において、生活満足度が下がっている。一方で、テレワークが制度適用されている状況下でテレワークを実施している場合には、生活満足度は上昇する傾向が確認された。具体的には、「実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用ありになった群」「非実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用ありになった群」では生活満足度が上昇している(5%有意水準)。

表9 生活満足度とテレワークの関係(16分類)
N数 パネル2019
テレワーク 実施 テレワーク 非実施
制度適用あり 制度適用なし 制度適用あり 制度適用なし
平均値差 T検定 平均値差 T検定 平均値差 T検定 平均値差 T検定
パネル2018 テレワーク
実施
制度適用あり 263 0.01 −0.31 ** 0.00 −0.05
制度適用なし 1312 0.27 ** 0.08 * 0.11 0.02
テレワーク
非実施
制度適用あり 191 0.00 −0.40 0.00 −0.20 **
制度適用なし 10638 0.24 ** −0.10 ** −0.05 0.00
12404 276 921 247 10960

注1)*p<0.10; **p<0.05; ***p<0.01

注2)網掛けは有意水準に基づいて3段階で区別している(p<0.10; p<0.05; p<0.01)

注3)平均値差は2019年の平均値から2018年の平均値を引いた値

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

4.3  週当たり労働時間とテレワークの関係(表10表11

週当たり労働時間とテレワークの関係を整理する。表10をみると、「実施→実施」「実施→非実施」「非実施→非実施」では労働時間が減少する傾向が確認された。なかでも、「実施→非実施」(5%有意水準)「非実施→非実施」(1%有意水準)において、労働時間は有意に低下している。

表10 週当たり労働時間とテレワークの関係(4分類)
N数 パネル2019
テレワーク 実施 テレワーク 非実施
平均値差 T検定 平均値差 T検定
パネル2018 テレワーク
実施
1575 −0.10 −0.69 **
テレワーク
非実施
10829 0.50 −0.19 ***
12404 1197 11207

注1)*p<0.10; **p<0.05; ***p<0.01

注2)網掛けは有意水準に基づいて3段階で区別している(p<0.10; p<0.05; p<0.01)

注3)平均値差は2019年の平均値から2018年の平均値を引いた値

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

さらに、テレワーク制度適用の有無も加えた結果(表11)を確認すると、「実施→非実施のうち、制度適用あり→制度適用なしになった群」「実施→非実施のうち、制度適用なし→制度適用なしになった群」(10%有意水準)「非実施→非実施のうち、制度適用なし→制度適用なしになった群」(1%有意水準)で労働時間が減少している傾向がわかる。

表11 週当たり労働時間とテレワークの関係(16分類)
N数 パネル2019
テレワーク 実施 テレワーク 非実施
制度適用あり 制度適用なし 制度適用あり 制度適用なし
平均値差 T検定 平均値差 T検定 平均値差 T検定 平均値差 T検定
パネル2018 テレワーク
実施
制度適用あり 263 0.64 1.69 0.28 −0.44
制度適用なし 1312 0.58 −0.53 1.72 −0.79 *
テレワーク
非実施
制度適用あり 191 −0.44 2.10 1.15 2.03
制度適用なし 10638 −0.01 0.62 0.61 −0.23 ***
12404 276 921 247 10960

注1)*p<0.10; **p<0.05; ***p<0.01

注2)網掛けは有意水準に基づいて3段階で区別している(p<0.10; p<0.05; p<0.01)

注3)平均値差は2019年の平均値から2018年の平均値を引いた値

(出所)パネル2018および2019より筆者作成。

なお、パネル2019でテレワークを実施している人の平均値差を丁寧にみていくと次の傾向を確認できる。まず、「実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用なしになった群」「非実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用なしになった群」「非実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用なしになった群」では労働時間は増加している。次に、「非実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用ありになった群」「非実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用ありになった群」は労働時間が減少している。そして「実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用ありになった群」「実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用ありになった群」の労働時間は増加している。

5.  まとめ

ここまで、幸福度、生活満足度、週当たり労働時間とテレワークの関係を検討してきた。パネル2018時点とパネル2019時点でのテレワークの利用実態を確認するとともに、テレワーク制度の適用者であるテレワーカーと持ち帰り残業をしている人の区別を行った。その結果、3つの重要な点が明らかにされたと考える。1つ目は、テレワークを実施していた人で翌年になるとテレワークをやめる人が多いという点である。具体的には、2018年時点で制度非適用にも関わらずテレワークを行っていた人のうち、2019年には、約60%がテレワークを行わなくなった。この要因とは、制度非適応でテレワークを行っていた人たちの企業において、種々の働き方改革の施策が検討されていたのだが、テレワーク導入が見送られてしまったことが想像される。2018年から2019年の企業の働き方改革への対応、動向について明らかする必要があると思われる。

2つ目は、「実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用なしになった群」は、自ら意図的に持ち帰り残業をしている可能性のある人たちである。そのようなテレワークを除けば、テレワーカーの日々の幸せや、生活満足度を高める可能性がある。ようするに、テレワークの制度が適用されているか否かが、テレワーカーの幸福度、生活満足度に影響を与えていることが示唆されている。表79で「実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用なしになった群」「非実施→実施のうち、制度適用あり→制度適用なしになった群」「非実施→実施のうち、制度適用なし→制度適用なしになった群」の人の幸福度、生活満足度を下げている共通点は、まさにテレワークの制度適用の重要さを指摘しているといえる。

テレワークの制度を誰に適用させるのかという判断は企業によってさまざまだ。(社)日本テレワーク協会(2016)によるテレワーク導入事例によれば、たとえば、育成期間が終了していること、一定等級以上であることなどといった日々の業務に支障がない従業員に制度適用の条件を設けている場合、その一方であえて全従業員を対象とすることで、テレワークを組織全体の働き方の見直す機会としている場合がある。つまり、企業がテレワークの制度を適用させるか否かという判断は、業務内容の向き不向きに関わらず、働く従業員のスキルや能力、さらには企業が目指す方向性などを含め、企業の思惑が含まれている重要な観点であると解釈される。

3つ目は、テレワークは労働時間の増加を招く可能性があるという点である。そのため、テレワーカーは自律的に労働時間を管理する必要がある。つまり、2018年から2019年に限っていえばオフィスなど職場で仕事をするほうが労働時間は減少している。職場で「働き方改革」の名のもと長時間労働の是正が意識されている昨今では、職場にいるほうが労働時間を縮減しようと意識し、実行している可能性がある。逆にいえば、テレワーカーほど、自律的に労働時間が長くならないように意識をする必要がある。表10で「非実施→実施」の人に労働時間増加がみられるのは、テレワークをしながら労働時間をコントロールするのが難しいということを示唆している可能性がある。テレワークは制度適用がされているかが重要ではあるものの、単に制度適用すれば良いというわけではなく、その後のテレワーカーによる自律的な労働時間の管理が必要不可欠となる。

6.  今後の課題

残された課題について述べる。本稿では、テレワークが誰にとって、どのような点が最も有効な人事施策なのかというところまで検討できていない。たとえば、テレワークの有効性について、森川(2018)によれば、仕事時間より通勤時間が長くなることへの忌避感が強く、特に女性・非正規雇用者においては顕著である。また女性、若年層、既婚者、就学前児童を持つ人はテレワークを積極的に評価する傾向があるなどの指摘がある4。この他にも、志村・牛尾(2012)は制約を抱える女性の活躍のためにテレワークが有効であるという。テレワークを必要としている多様な人材とはどういった人なのかという点まで考慮し、その結果として幸福度や満足度が上昇するか否か、長時間労働を引き起こすのか否かという問いに対しても今後明らかにしていく必要がある。また、テレワークの制度はあるけれど実際は利用できないといったケースに対して、何がそうさせているのかといった組織の阻害要因などにも踏み込み今後検討をしていく。

2020年4月、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づき、緊急事態宣言が発令された。外出自粛要請がなされるなかで、テレワークが出勤の代替手段として実施され、実際に多くの企業でテレワークが推進された。テレワーク推進企業のなかには、労務管理や情報漏洩などの観点からできない理由を挙げていた企業がある。また、いままでテレワーク制度が適用されていなかった従業員が急にテレワークが適用されるなど、必ずしもできない理由が解決されている訳ではない。思いもよらない形で急速にテレワークの普及が進むなか、従来の課題が未解決のまま広がりをみせていることを受け、テレワークが従業員に与える影響のメカニズムの解明について、さらなる継続的な検証の蓄積が求められる。

謝辞

本稿の執筆に当たって、中央大学大学院の佐藤博樹教授、神戸大学大学院の鈴木竜太教授から多大なご指導をいただきました。また、有益なご指摘をいただいた2名の匿名レフェリーの先生方に、心から感謝申し上げます。

1  在宅勤務の従業員はパフォーマンスが13%上昇していることが確認されたが、このパフォーマンス上昇分の9%は休憩時間を減らすなどによる労働時間の増加が起因している(pp.169を参照)。

2  Dutcher(2012)、pp.360, 362を参照。

3  本調査では、テレワーク及びテレワーカーを次のように定義して利用している。テレワークとは、ICT(情報通信技術)等を活用し、普段仕事を行う事業所・仕事場とは違う場所で仕事をすること。また、テレワーカーとは、これまで、ICT等を活用し、普段仕事を行う事業所・仕事場とは違う場所で仕事をしたことがあると回答した人。

4  森川(2018)は通勤時間とテレワークについても触れている。いままで通勤時間は勤務場所だけでなく、居住地の選択という個人の意思決定にも依存しているため焦点が当てられてこなかったことを指摘した上で、通勤時間が女性の就労形態の選択に大きく影響していることを示唆している(pp.122–125を参照)。

参考文献
 
© 2021 法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
feedback
Top