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論文
最低法人税率の全世界的導入
―BEPSに関するOECD/G20包摂的枠組の成果―
菊谷 正人
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2022 年 19 巻 p. 1-22

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要旨

国際課税の主要な課題が国際的二重課税と国際的租税回避から国際的二重非課税にシフトした結果として、現在、「税源浸食と利益移転」(BEPS)が世界的に大きな政治・社会問題となっている。OECDは、多国籍企業のグローバル化と経済の電子化による国際的二重非課税に起因するBEPSに対処するために2015年10月に「BEPS最終報告書」を公表し、11月のG20財務大臣会議で採択されている。その後、OECDは経済のデジタル化から生じる税制上の課題に対処するために、「BEPSに関するOECD/G20包摂的枠組」(「BEPS包摂的枠組」)を2016年に設置し、BEPSに対する解決策の基礎を形成する可能性のある2つの柱の青写真に関する報告書を2020年10月に公表した。「第1の柱」は、すべての管轄地域間で公平な競争条件を確保し、課税権のより公平かつ効率的な配分を実現するために、事業利益に適用される課税根拠と利益配分に焦点を当てる。「第2の柱」では、国際的に営業している大規模事業者が少なくとも最低レベルの税金を支払うことを保証するために、最低法人税率の全世界的導入が提案されている。

本稿では、「BEPS包摂的枠組」によって2020年10月に承認されたBEPSに関する2つの柱の青写真に関する報告書(「第1の柱」と「第2の柱」)のうち、「第2の柱」の内容・特徴および2021年10月のG20最終合意を解析した上で、国際課税の課題(BEPS)が理論的に探究される。

Abstract

The main issues regarding international taxation shifted from the international double taxation and intetnational tax avoidance to the intetnational double non-taxation, with the result that “base erosion and profit shifting” (BEPS) is now a serious worldwide political and social problem. The OECD published BEPS Final Report in October 2015 in response to BEPS arising from the the intetnational double non-taxation by the globalisation of multinational enterprises and the digitalisation of economy. The report was adopted by the G20 Finance Ministers meeting in Novenber 2015. The OECD then established the OECD/G20 Inclusive Framework on BEPS (“BEPS Inclusive Framework”) in 2016 in order to address the tax challenges arising from the digitalisation of economy and in October 2020, it published reports on the Pillar One and Pillar Two Blueprints as a possible basis for a consensus solution to the issues on BEPS. “Pillar One” focused on nexus and profit allocation applicable to business profits in order to ensure a level playing field among all jurisdictions and realise a fairer and more efficient allocation of taxing rights. In “Pillar Two”, the global introduction of a minimum corporate tax rate was proposed in order to ensure that all large internationally operating businesses pay at least a minimum level of tax.

In this article, the contents and the characteristics of “Pillar Two” in the reports on the pillar blueprints endorsed in October 2020 by the BEPS Inclusive Framework, as well as the final agreement by G20 in October 2021 are analysed, and the international taxation issues (BEPS) are explored theoretically.

1.  はじめに

情報通信技術(information and communication technology:以下、ICTと略す)の発達に伴う経済の電子化(digitalisation of the economy)が進展する過程で、企業のデジタル・トランスメーション(digital transformation:DXと通称されている)も促進されている1。デジタル・トランスメーション(DX)とは、顧客や社会のニーズに基づいて、データとデジタル技術を利用しながら製品・サービス、ビジネスモデルを変革するとともに、企業組織、企業文化・風土を変革することをいう。DXは、デジタル技術を取り入れて業務の効率化を図り、顧客・社会のニーズに基づいて新しいビジネスモデルを導入すると同時に、サービスを向上させることによって競争上の優位性を確立することを目指す。電子商取引を主としたデジタル経済の下で経営効率を高め、顧客・社会のニーズのためにサービス向上を実現することによって、企業の持続可能な成長(sustainable growth)を促進するためには、DXは必要不可欠な経営システムの一つである。

しかしながら、国際課税の観点からは、国境を越えた経済のデジタル化、それに伴う企業のDXによって、電子商取引を通じた市場国における経済活動に対する課税管轄が不明確・決定困難になっている。とりわけ、多国籍企業(multinational enterprises:MTE)では遠隔地との迅速な取引が可能となり、国境をまたぐサプライチェーンの構築が進み、電子商取引を通じた大規模データの収集・分析・利用が可能であるので、市場国・ユーザー国における経済活動の物的拠点の低下、無形資産への大きな依存、ネットワーク効果等により、多国籍企業による価値創造に対する課税管轄の決定を困難にしている(鈴木(2018)147–148頁)。

2000年代後半以降、欧米の多国籍企業が国際的な税制の隙間・抜け穴を巧みに利用することによって、居住地国(country of residence)でも源泉地国(source country)でも課税されない「国際的二重非課税」(international double non-taxation)あるいは「国際的租税回避行為」(international tax avoidance)が世界的に大きな政治・社会問題となっていた。軽課税国等のタックス・ヘイブン(tax haven)にペーパー・カンパニーとして子会社等(販売子会社、無形資産保有子会社、サービス提供子会社、投資子会社等)を配置し、多国籍企業グループ全体の所得をタックス・ヘイブンの子会社等にシフトすれば、当該子会社等の所得は無税または低率課税のままに放置されるので、多国籍企業グループ全体で合法的に国際的租税回避が可能となる。多国籍企業の営業活動規模・実態に比べて極めて低い法人税しか納税しない「課税逃れ」が横行していた。このような多国籍企業の国際的租税回避(または意図的な課税逃れ)に対して、国際取引に係る課税ルールの抜本的な見直しの必要性が世界的に注目されていた。

経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:以下、OECDと略す)は、過度な国際的租税回避の対抗策を検討するために「税源浸食と利益移転」(Base Erosion and Profit Shifting:以下、BEPSと略す)のプロジェクトを2012年6月に設置し、G20と連携して国際課税の新ルール作りに着手することになった。2013年6月に英国・ロックアーンで開催されたG8首脳会議(G8サミット)において、「BEPSプロジェクト」は3つの主要課題のうちの一つに取り上げられ、政治的なサポートを得た。

2013年7月には、多国籍企業の国際的租税回避を抑制するための15の行動計画から成る「BEPS行動計画」(Action Plan on BEPS)が公表され、OECD非加盟のG20メンバー8か国(アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、インドネシア、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ)も議論に参加していた。健全な国際経済の実現を標榜し、公平かつ新たな国際課税ルールの構築を目指す「BEPS行動計画」は、2013年9月のG20サミットで全面的に支持されている。15のBEPS行動計画の「第1弾報告書」が2014年9月に公表され、2015年10月には「2015年BEPS最終報告書」(BEPS 2015 Final Report:以下、「BEPS最終報告書」という)が公表された2。「BEPS最終報告書」は、2015年10月にペルー・リマで開催されたG20財務大臣会議で承認を受け、11月にトルコ・アンタルヤで開催されたG20サミットにおいて、各国首脳により最終的な承認を受けた(浅川(2016)26–27頁)。これを受けてOECD加盟国は、多国籍企業の国際的租税回避防止・国際課税の強化を実現するために、国内租税法の改正を進めている。

たとえば、わが国では、「行動計画1 電子経済の課税上の課題への対応」(Action Plan 1 Addressing the Tax Challenges of the Digital Economy)に関する消費税の改正として、平成27年度(2015年度)税制改正の際に、国境を越えた消費者(事業者)向けの取引に関して、消費者の所在地国で消費税(付加価値税)を徴収できるようにするためのルールと執行のメカニズム(リバースチャージ方式)が設定された。これらの措置では、国内外の事業者間の競争状況を平準化させるとともに、当該取引に係る消費税(付加価値税)の効率的徴収の促進が意図されている。ちなみに「リバースチャージ方式」とは、国外事業者から国内事業者向けの「電気通信利用役務の提供」(インターネット等の電気通信回線を介して行われる電子書籍・音楽、ソフトウェア(ゲーム等の様々なアプリケーションを含む)の提供およびネット広告の配信等の役務の提供)を受けた場合、サービスの受け手である国内事業者に消費税を課す方式である(消法2①八の三)。

「行動計画13 移転価格設定の文書化と国別報告」(Action Plan 13 Transfer Pricing Documentation and Country-by-Country Reporting)に関する移転価格に係る文書化は、特に経済界等の最も関心の高い分野であったが、平成28年度(2016年度)税制改正において、多国籍企業の活動実態を報告する重要な文書として「国別報告書」の提出が義務付けられた。直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円以上である多国籍企業グループ(以下、「特定多国籍企業グループ」という)の構成会社等である内国法人および恒久的施設(permanent establishment:以下、PEと略す)を有する外国法人は、「特定多国籍企業グループ」の国別報告事項(構成会社等の事業が行われる国または地域ごとの収入金額、税引前当期利益の額、納付税額、発生税額、資本金、利益剰余金、従業員数、有形資産の一定の事項)および事業概況報告事項(組織構造、事業の概要、財務状況その他一定の事項)について特定電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により、各最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に国税当局に提供しなければならない(措法66の4の4、66の4の5)。

なお、「行動計画1 電子経済の課税上の課題への対応」の対象となっている「デジタル経済下における法人税の国際的租税回避対応策」は、2015年10月の「BEPS最終報告書」では結論を持ち越されていたので、その検討のために「BEPSに関するOECD/G20包摂的枠組(包括的枠組)」(OECD/G20 Inclusive Framework on BEPS(Inclusive Framework):以下、「BEPS包摂的枠組」と略す)が2016年に設置され、OECD財政問題委員会とその補助機関と対等な立場で関連諸国・地域とともに論議が進められた。2020年7月にG20は、10月のG20財務大臣会議までに「2つの柱によるデジタル課税の青写真に関する報告書」を作成するように「BEPS包括的枠組」に要請した。『デジタル化に起因する税制上の挑戦―第1の柱の青写真に関する報告書』(Tax Challenges Arising from Digitalisation—Report on the Pillar One Blueprint:以下、「第1の柱」という)および『デジタル化に起因する税制上の挑戦―第2の柱の青写真に関する報告書』(Tax Challenges Arising from Digitalisation—Report on the Pillar Two Blueprint:以下、「第2の柱」という)が2020年10月8日から9日にかけて「BEPS包摂的枠組」によって討議・承認され、OECD事務局から公表された(「第1の柱」Foreword)。

「第1の柱」では、デジタル経済ではユーザーが個人データを提供し、企業の価値創造に貢献しているので、物理的拠点(PE)のない市場国・ユーザー国に課税権の一部を与える「新課税権の創設」が提案されている(「第1の柱」paras.6 and 10)。「第2の柱」では、各国における「法人税率の引下げ競争」に歯止めをかけるために、世界共通の「最低法人税率」の導入が提案されている(「第2の柱」para.8)。

本稿では、タックス・ヘイブンを利用したBEPSに対抗するために、「BEPS包摂的枠組」が2020年10月にまとめた国際課税問題に関する歴史的・画期的な変革案(「第1の柱」と「第2の柱」)のうち、「第2の柱」に限定して、その具体的内容・修正経緯と特徴を解析する。そのためには、BEPSの主な原因となっているタックス・ヘイブン利用による国際的租税回避行為も解明した上で、「第2の柱」の論点について考察を加える。最後に、「第2の柱」の提案に基づいてG20首脳会議が2021年10月に発出した「G20最終合意書」の具体的内容を批判的に検討する。

2.  タックス・ヘイブンを利用する国際的租税回避と法人税率の引下げ競争

タックス・ヘイブン(軽課税国等)とは、所得・財産・消費等に対する課税が存在しないか、または極めて低い税率の課税しか行わない軽課税国または軽課税地域(植民地)をいい、(a)特定の課税物件(課税の対象となる物、行為または事実)を非居住者(nonresidents)に対しても非課税とする「タックス・パラダイス」(tax paradise)、(b)国外源泉所得(foreign source income)には課税しない「タックス・シェルター」(tax shelter)、(c)特定の事業(たとえば、スイス、リベリア等のように金融業、海運業等)に対して税務上の特典(special privileges)を与える「タックス・リゾート」(tax resort)および(d)アイルランド等のように、外国法人には租税的に優遇する「タックス・ホリデイ」(tax holiday)に分類できる(Barber(1993)p.4, 菊谷(1997)292–293頁)。

タックス・ヘイブンの有名な地域としては英領ケイマン諸島(所得税・相続税・キャピタルゲイン税の非課税)、英領ヴァージン諸島(所得税・キャピタルゲイン税等の非課税)、英領バミューダ諸島(法人税・所得税・相続税・キャピタルゲイン税の非課税)、シンガポール(相続税・贈与税等の非課税、法人税率17%・所得税率15%)、アイルランドやリヒテンシュタイン(法人税率12.5%)等があり、英国の海外領または旧植民地が圧倒的に多い(菊谷(2016b)155頁)。報道によれば、2020年における租税回避額は4,270憶ドル(おおよそ46兆9,700億円)であり、租税回避地の順位は英領ヴァージン諸島、英領ケイマン諸島、英領バミューダ諸島と続き、オランダ、スイス、ルクセンブルク、香港となっている。そのうち、企業の租税回避額は2,450憶ドル(おおよそ26兆9,500億円)であった(日本経済新聞、2021年10月20日)。

タックス・ヘイブンに配置した販売子会社(ペーパー・カンパニー)に海外からの注文を集中させ、商品は本国の親会社から直接に引き渡すが、代金は当該販売子会社が回収するとともに、親会社には原価に基づく振替価格等で支払うことによって、タックス・ヘイブンにおける販売子会社に利益をプールさせ、多国籍企業全体の課税所得を圧縮することができる。また、タックス・ヘイブンに特許権保有子会社、サービス提供子会社、金融子会社、保険子会社等を設置すれば、親会社(または関連会社)が支払った特許料、支払手数料、支払利子、支払保険料等は損金算入でき、タックス・ヘイブンの子会社が受け取った受取特許料、受取手数料、受取利子、受取保険料等は非課税または低率課税のままに止まり、合法的に国際的租税回避を行うことができる。

図1では、タックス・ヘイブンに子会社を配置して多国籍企業全体の課税所得を圧縮する国際的租税回避行為が示されている。

図1 タックス・ヘイブン利用による国際的租税回避例

各国ではタックス・ヘイブン対策税制が講じられ、OECDも1998年に『有害な租税競争:グローバル緊急課題』(Harmful Tax Competition: An Emergency Global Issue)を公表し、「無税または名目的な軽課税」を有害な税の競争とみなし、タックス・ヘイブン識別基準と加盟国の有害税制の識別基準を検討することによって、タックス・ヘイブンを間接的に批判した。ただし、各国の主権に基づく課税権の行使(税率の決定を含む)には他国や国際機関が干渉すべきでないという米国ブッシュ政権の主張により、「有害な租税競争プロジェクト」では、(i)銀行秘密など透明性の欠如の是正、(ii)租税情報交換の改善を目指す方向に転換されることになった(本庄・田井・関口(2012)381頁)。

前述したように、2000年代後半以降、タックス・ヘイブンを利用した逃税スキームが濫用され、多国籍企業の「国際的二重非課税」が国際的に政治問題化した。とりわけ、米国のグーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)およびアマゾン(Amazon)(以下、GAFAと総称する)等のICT関連企業(以下、IT企業という)が、アイルランドに2つの子会社を設立し、かつ、アイルランドと租税条約(tax treaty)を締結しているオランダの子会社を「導管会社」(conduit company:トンネル会社と通称されている)として介在させることによって、過度に法人税の逃避を図る「ダブルアイリッシュ・ウィズ・ダッチサンドウィッチ」(Double Irish with a Dutch Sandwich)と呼ばれる逃税スキームを活用していた。

たとえば、グーグル社(Google Inc.)は、アイルランド子会社A(Google Ireland Holdings)を統括会社として設立し、ライセンス契約を締結するが、アイルランド子会社Aをタックス・ヘイブンの英領バミューダ諸島の管理会社に支配させたために、アイルランドでは非居住法人となり、別の事業会社であるアイルランド子会社B(Google Ireland Ltd)がバミューダの管理会社にライセンス使用料を間接的に支払うこと等により利益を減少させていた。それとともに、アイルランド子会社Bの支払使用料に対するアイルランド源泉徴収税を回避するために、オランダの子会社(Google Netherland Holdings BV)を経由して支払われたので、オランダの子会社は、アイルランド子会社Bから無税で受け取る5.4億ドル(約590億円)の使用料の99.8%を英領バミューダ諸島の管理会社に支払うことによって、グーグル社全体で課税逃れを図っている。つまり、2007年~2009年の間に米国外事業収益のほとんどを2つのアイルランド子会社にオランダの子会社をサンドウィッチすることによって、最終的にタックス・ヘイブンの管理会社に利益を移転・集中させる逃税が行われていたのである(本庄(2011)38頁、居波(2014)273–275頁)。

「ダブルアイリッシュ・ウィズ・ダッチサンドウィッチ」のような巧妙な逃税スキームを活用した国際的租税回避、それに伴う国際的二重非課税手法は合法的なスキームであるが、このスキームを利用できない一般国内企業にとっては経済活動の「公正な競争条件」(level playing field)が損なわれ、多国籍企業により租税回避された税収分には他の納税者が負担することになる。本来、多国籍企業に課されるべき所得・財産等が軽課税国等に移転されているので、日・英・米等の先進諸国における歳入の喪失(loss of revenue)は深刻化し、その結果、軽課税国等を利用できない中小法人・中間所得層等に対する増税が行われている。このように、軽課税国等を濫用した国際的租税回避、つまり課税逃れ・資産隠匿等によって、国家歳入の悪化とともに「租税負担の垂直的公平」(vertical equity of tax burden)は崩壊している(菊谷(2016b)155頁、菊谷・酒井(2020)39頁)。

タックス・ヘイブンの低率課税に対抗し、少しでも歳入を確保するために、各国における法人税率の引下げ競争が1990年代から約30年間にわたり新自由主義的な考え方に基づいて加熱した。たとえば、英国では、基本税率(main rate)が1982年度には52%、1983年度には50%であったが、1984年度に45%、1985年度に40%、1986年度に35%と引き下げられ、経済のリバランス・競争力の向上やタックス・ヘイブンであるアイルランドの低い法人税率を意識して、2009年度に28%、2011年度に26%、2012年度に24%、2013年度には23%、2015年度には20%に引き下げられていった(Taylor(1986)p.6, Tiley(1986)p.653, Pritchard(1987)p.108, Pritchard(1989)p.116, Jones(2011)p.89, Melville(2013)p.viii, Melville(2014)p.viii)。

ちなみに税率(tax rate)とは、税額を算出するために課税標準(課税物件の価額または数量)に対して適用される比率である。税率には、(a)課税標準について単位当たり一定額を決めている「定額税率」(fixed tax rate)、(b)課税標準の大小に関係なく一定割合を適用する「比例税率」(flat tax rate)、(c)課税標準の大小に応じて累進的に(課税標準が大きくなれば税率を高くして)税率を決める「累進税率」(progressive tax rate)、(d)課税標準の大小に応じて後退的に(課税標準が大きくなれば税率を低くして)税率を定めている「後退税率」(degressive tax rate)がある。さらに、(c)「累進税率」または(d)「後退税率」には、(イ)単純に所得金額に見合った税率を適用する「単純累進税率」または「単純後退税率」、(ロ)課税標準を多数の段階に区分し、より高くなる段階の所得金額の超過額により高い税率を適用する「超過累進税率」またはより低い税率を適用する「超過後退税率」に分けられる(菊谷(2018)29–30頁)。

わが国の法人税率は比例税率を採用している(ただし、標準税率のほかに、中小法人等には軽減税率を適用できる)が、英国では、法人税の基本税率のほかに、より低い少額利益税率(small profits rate)とより高い限界税率(marginal rate)を組み合わせた三段階税率が適用されている。英国の法人税率は、課税標準を複数の段階に区分し、より高くなる段階の所得金額の超過額により高い税率を適用する「超過累進税率」だけではなく、より低い税率を適用する「超過後退税率」も併用する独特の税率構造となっている(菊谷(2013)7–10頁)。なお、現行の基本税率は19%であるが、財政再建のために国債発行とともに25%に引き上げる予定である。同様に、米国も国債発行と法人税率の21%から26.5%への引上げを目指している。

わが国では、英国がタックス・ヘイブン対策税制対象(外国子会社所得合算課税対象)の「低税率国」(税率20%以下の軽課税国等)になると予測されていたために、平成23年度(2011年度)の税制改正では、国際競争力等の向上を図り、国内の投資拡大と雇用創出を促進するために、課税ベースを拡大する一方で、法人税率30%が平成24年(2012年)4月1日から25.5%に引き下げられた。さらに、法人課税を成長志向型の構造に変えるために課税ベースを拡大しながら、法人税率は平成27年(2015年)には23.9%、平成28年(2016年)には23.4%、平成30年(2018年)には23.2%に引き下げられている(菊谷(2018)67頁)。

しかしながら、法人に対する法人税率の引下げの結果、「歳入中立性の原則」(principle of revenue-neutrality)の観点から、個人の所得税・消費税・相続税等に対する租税負担が増加し、経済的格差が助長され、租税法・租税制度に対する信頼性は損傷したと言わざるを得ない。たとえば、わが国では、相続税法(昭和25年法律第73号)の改正によって、平成27年(2015年)には「遺産に係る基礎控除額」の減額等によって相続税が重課され、平成31年(2019年)10月1日から消費税率が5%から8%に、令和元年(2019年)10月1日から軽減税率8%を残したまま標準税率が10%に引き上げられている。

近年のデジタル経済下では、2015年公表の「BEPS最終報告書」の想定を超えるビジネスモデルが展開され、前述したように、GAFAを中心とするIT企業の低税率国・地域(タックス・ヘイブン)の利用による所得移転が世界的規模で深刻な課題となっていた。

3.  OECDによるBEPS対策案―「第2の柱」の作成・公表経緯

2015年10月に公表された「BEPS最終報告書」では、多国籍企業に対する適正・公平な国際課税を標榜するために、(a)デジタル経済(digital economy)の急速な発展という現実経済社会を前提にして、(b)各国制度の国際的な一貫性(coherence)、(c)多国籍企業の経済活動の実態に即した課税を求める実質性(substance)および(d)多国籍企業の納税実態を把握できる透明性(transparency)を確保するとともに、(e)多数国間協定の開発が議論された(菊谷・籏野(2016)46–47頁)。ただし、OECD/G20は引き続きデジタル経済の発展をモニタリングし、2016年以降、さらに入手可能となるデータについて分析・検討を継続していくことで合意していた。

このように、デジタル経済下における法人税の国際租税回避対応策は、2015年10月の「BEPS最終報告書」では結論を持ち越されていたので、2016年に「BEPS包摂的枠組」が設置され、OECD財政問題委員会とその補助機関と対等な立場で関連諸国・地域とともに論議が進められた。すでに135か国・地域で構成される「BEPS包摂的枠組」は、BEPS問題に対処するための基準設定に関する作業を完了するとともに、BEPSの最低基準の実施をモニタリング・相互レビューすることになっていた。その際、他の国際機関や税務機関が「BEPS包摂的枠組」の作業に関与しており、企業や市民社会への相談も行われている3

「経済のデジタル化に起因する税制上の挑戦」(tax challenges arising from the digitalization of the economy)は、2015年以来、OECDおよび「BEPS包摂的枠組」の最優先事項(a top priority)であり、G20の要請により「BEPS包摂的枠組」はこの問題に取り組み続け、2018年3月に中間報告書『デジタル化に起因する税制上の挑戦―2018年中間報告』(Tax Challenges Arising from Digitalisation—Interim Report 2018)を提出した。2019年1月にG20は、「経済のデジタル化から生じる税務上の課題」に対する解決策の基礎を形成する可能性のある2つの柱(検討テーマ)を提案・検討することに合意し、2020年10月のG20財務大臣会議に間に合うように2つの柱による「青写真に関する報告書」の作成を「BEPS包括的枠組」に要請した。前述したように、「第1の柱」と「第2の柱」が2020年10月9日にOECD事務局から公表されている4

「第1の柱」では、デジタル経済ではユーザーが個人データを提供し、企業の価値創造に貢献しているので、物理的拠点であるPEのない市場国・ユーザー国に課税権の一部を与える「新課税権の創設」が提案されている(「第1の柱」paras.6 and 10)。つまり、GAFA等のIT企業を含む巨大な多国籍企業の利益の一部が、その親会社のある国・地域(居住地国)から、実際に経済活動が行われ、価値が生み出される(economic activities take place and value is created)市場のある国・地域(源泉地国)に再配分される大胆な改革案である。「第1の柱」は、国際課税の課税根拠・関連性および利益配分(nexus and profit allocation)に焦点を当て、より公平な利益と課税権を各国間で配分・確保できる革命的な提案を開陳している5

「第2の柱」では、企業活動のグローバル化が進行する中で各国が新自由主義の観点から法人税率の引下げ競争を行った結果、個人所得・消費に対する租税負担が増加し、経済活動・課税に歪みが生じたことから、各国における法人税率の引下げ競争を防止するために、「最低法人税率」の世界的導入が提案されている(「第2の柱」para.8)。つまり、多国籍企業がどの国・地域に経済活動の拠点を設置するかにかかわらず、法人税率が企業の立地選択に影響しないように最低限の租税負担を行うことにより、「公平な競争条件」の確保を目的として世界共通の「最低法人税率」が国際的に採用されることになっている(森信(2021)8頁)。

「BEPS包摂的枠組」は、現在の国際課税規制の欠陥がBEPSの機会を放置しているという共通認識の下で、多国籍企業の利益の一部を市場国に配分する「新課税権の創設」および「最低法人税率」の国際的導入を提案している。

4.  最低法人税率の全世界的導入―「第2の柱」の提案内容―

4.1  全世界的税源浸食対抗策における基本原則

(1)  全世界的税源浸食対抗策の構成規則

「第2の柱」は、各国における法人税率の引下げ競争に歯止めをかけるために、国際的に営業している大規模事業者(large internationally operating businesses)が、本社所在地または営業活動の課税管轄地に関係なく、最低レベルの税金(a minimum level of tax)を支払うように企画・設計されている。これは、下記事項を追求するルールを連動して達成される(「第2の柱」para.8)。

(i)二重課税または経済的利益がない場合には課税を回避するが、基本的に最小限の課税(minimum taxation)を確保する。

(ii)企業による異なる事業モデルと同様に、課税管轄地域による異なる租税制度(different tax system designs)に対処する。

(iii)透明性と公平な競争の場(transparency and a level playing field)を確保する。

(iv)行政コストと遵法コスト(administrative and compliance costs)を最小限に抑える。

この結果を達成するための主な手法は、その後ろ盾として機能する「所得合算規則」(the income inclusion rule:以下、IIRと略す)と「低課税負担規則」(the undertaxed payments rule:以下、UTPRと略す)である。「全世界的税源浸食の対抗策」(Global Anti-Base Erosion:以下、GloBEと略す)は、IIRとそれを補完するUTPRで構成されている。さらに、IIRを支える規則として「切り替え規則」(a switch-over rule:以下、SORと略す)、UTPRを支える規則として「課税対象規則」(subject to tax rule:以下、STTRと略す)が租税条約(tax treaty)によって補完される。図2では、GloBEを構成する規則の関連が示されている。

図2 全世界的税源浸食対抗策の構成規則

(出所)著者作成。

(2)  所得合算規則(llR)

所得合算規則(IIR)は、いくつかの点で、従来の被支配外国法人(controlled foreign corporation:以下、CFCと略す)対策税制の原則に基づいて運用されており、CFCの所得が実効最低税率(effective minimum tax rate)を下回る税率で課税されている場合には、株主レベルにおいて合算課税される(「第2の柱」para.9)。

CFCが稼得した特定の所得に限定して合算課税するCFC対策税制は、わが国では「タックス・ヘイブン対策税制」と呼ばれている。昭和53年(1978年)の税制改正に際し、「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号)に新設された「タックス・ヘイブン対策税制」では、租税特別措置法関係告示「タックス•ヘイブン」で指定された軽課税国等(全所得軽課税国等15、国内源泉所得軽課税国1、特定事業所得軽課税国1、合計27か国•地域)に所在する子会社(「特定外国子会社等」という)が留保した所得のうち、株主である内国法人の有する持分に対応する金額(「課税対象留保金額」という)は、当該法人の所得の金額とみなし、その内国法人の所得に合算して課税された。その後、軽課税国等の追加指定が行われ、軽課税国等の数は41か国•地域(全所得軽課税国等19、国外源泉所得軽課税国等5、特定事業所得軽課税国等17)になっていたが、平成4年(1992年)の税制改正において、制度創設以来採用されてきた「軽課税国等指定制度」は廃止され、当該国・地域における所得に対する租税負担割合が25%(現在、20%)以下であるか否かによって判定する「軽課税国等租税負担割合基準」が導入されている(川田(1997)163–165頁、菊谷(1997)299–300頁)6。タックス・ヘイブンにおける所得も合算して本国の課税所得の対象にするならば、本国と同じ税率で課税されるので、国際的租税回避は防止できる。

IIRでは、親会社がタックス・ヘイブン(軽課税国等)に配置した子会社等の所得に係る持分に応じた部分に対して、「合意された最低税率」(the agreed minimum rate)まで課税を行使できるルールである。最低税率に達しているか否かは各国・地域の実効税率(effective tax rate:以下、ETRと略す)により判定され、そのETRと最低税率との差額分が親会社に追加課税されることになる。

なお、特定の支店への適用にかかる条約障害を取り除き、租税条約が締約国に免税方法の使用を義務付けている場合には、SORが特典制限条項(Limitation of Benefit:LOB)としてIIRを補完する(「第2の柱」para.9)。国内法で対処できるIIRに加えて、最低法人税率で課税されていない場合には、租税条約の適用を制限する形で導入されるSORによって、国外所得免除方式を採用する国がタックス・ヘイブンにおけるCFCを合算するに際し、外国税額控除方式に切り替えられる措置を施し、IIRを補完することになる。

(3)  低課税負担規則(UTPR)

低課税負担規則(UTPR)は、構成している事業体がまだIIRの対象になっていない場合にのみ適用され、二次的な規則である。それにもかかわらず、UTPRはIIRへの安全装置として役立つため、規則セットの重要な部分であり、公平な競争条件を確保し、そうでなければ発生可能性のある正反対のリスクに対処する(「第2の柱」para.10)。たとえば、CFCへの支払いが最低法人税率未満で課税されている場合に、その支払いに対して所得控除の否認または源泉徴収課税を行い、課税公平を担保する。UTPRは、IIRが適用されない場合に、タックス・ヘイブン(軽課税国等)に所在する子会社等への控除可能支払いを行う関連納税者に持分比率に応じて、最低法人税率までの法人税が配分されるルールである。

さらに、国内法で対処できるUTPRを補完するために、租税条約の特典否認ルールとしてSTTRが設けられている。名目課税の対象とならない課税管轄地域または低い税率の対象となる課税管轄地域に対して行われる特定の控除可能なグループ内支払いに関する条約上の恩典(treaty benefits)を拒否することは、とりわけ、行政能力の低い源泉地国が課税標準を保護するのに役立つ。税の確実性を保証し、二重課税を回避するために、「第2の柱」は施行と効果的なルール調整の問題に取り組んでいる(「第2の柱」para.11)。

STTR(課税対象規則)は、他の契約管轄区域(つまり、受取人の管轄区域)の低い名目税率を利用するグループ内支払い(intragroup payments)に関連するBEPS構造によってもたらされる源泉地国のリスクを特に対象とする条約ベースの規則である。これによって、「合意された最低税率」まで特定の対象となる支払いに追加の税金を源泉地国は課すことができることになる。STTRに基づいて課せられる追加税は、IIR(所得合算規則)とUTPR(低課税負担規則)の目的のためにETR(実効税率)を算定する際に考慮される(「第2の柱」para.20)。

つまり、STTRは、関連当事者間の支払い(利子・使用料等の控除可能支払い)が受取人の管轄区域において最低税率未満で課税されている場合、源泉地国における最低税率までの課税が認められるルールである。特定のグループ内支払いが最低税率で課税されていない場合には、一定の所得項目に対して条約特典を調整することによってUTPRを補完することになる。

4.2  課税標準の算定

(1)  最低法人税率とその対象企業の境界値

IIRとUTPRは同じルールを用いて有効な課税の対象域内範囲とレベルを決定するが、連結グループ内の多国籍企業グループおよびその構成事業体に適用し、該当する財務会計基準に基づいて算定される。これらは、年間総収益の境界値である7億5,000万ユーロ(おおよそ1,000億円)以上の事業者にのみ適用される(「第2の柱」para.12)。

ただし、投資および年金基金を含む特定の親会社、政府資産ファンド等の政府機関、国内税法に基づく非課税または免税の恩恵を受ける国際団体・非営利団体は、このルールの対象外である(「第2の柱」para.13)。

IIRもUTPRも共通の課税標準を使用するが、課税標準の算定は、多国籍企業グループの親会社(the parent of the MNE Group)が連結財務諸表(consolidated financial statements)を作成するために利用した会計基準に基づいて作成される財務諸表(financial accounts)から始める(「第2の柱」para.14)。信頼可能かつ承認可能な財務会計基準(a reliable and acceptable financial accounting standard)としては、「第1の柱」と同様に、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:以下、IFRSと略す)またはIFRSに基づいて作成された連結財務諸表と同等の結果をもたらす「一般に認められた会計原則」(generally accepted accounting principles:GAAP)(以下、「適格GAAP」という)が採用される。「適格GAAP」とは、オーストラリア、カナダ、香港(中国)、日本、ニュージーランド、中華人民共和国、インド共和国、大韓民国、シンガポール、米国等のGAAPである(「第2の柱」paras.166–172)。

なお、「適格GAAP」として、英国、ドイツ、フランス等のEU加盟国の会計基準が含まれていないが、EUでは、2005年からEU域内の上場企業に対してIFRSによる連結財務諸表の作成が強制されていたので、EUにおける連結財務諸表作成のGAAPとして既にIFRSが利用されている(菊谷(2016a)16–17頁)。

要するに、課税標準は、対象となる多国籍企業グループの連結財務諸表から導き出される税引前利益(profit before tax:以下、PBTと略す)を調整して数量化される。共通基盤としての財務諸表の利用は、課税管轄地域と多国籍企業の両方にとって「公平な競争競争」を確保し、透明性を促進し、現行制度を梃入れして、遵法コストを最小限に抑えることができる。その場合、グループ内配当、特定費用の損金算入、税控除の対象となる株式に基づく報酬などのように、特定の所得項目(specific items of income)を課税標準から除外するために、当該財務諸表に一定の税務調整が施される(「第2の柱」para.14)。

ETR(実効税率)は、課税管轄地域ベースで「課税標準」および企業収益・利益に実質的に税金を課す「補償税」(covered taxes)を適用することによって計算される。これは、多国籍企業が営業し、税金を負担する課税管轄地域間で所得と税金を配分する必要性による(「第2の柱」para.16)。

たとえば、わが国ではETRは、利益を課税標準とする国税の法人税のほかに、利益を課税標準とする地方税(法人住民税と法人事業税)を合計した租税負担割合として計算されるので、法人税の名目税率を23.2%とした場合、利益を課税標準とする「法人実効税率」は29.377%(おおよそ30%)と算定される(菊谷(2018)67頁)。

法人実効税率={法人税率×(1+住民税率)+事業税率}÷(1+事業税率)

(注)外形標準課税適用法人(たとえば、資本金1億円を超える大法人)には、事業税は外形標準課税に含められているので、法人実効税率の算定には含めない。

英国の場合には、固定資産税と住民税の性格を併せ持つ「カウンシル・タックス」(council tax)のみが唯一の地方税として課されているので、「法人実効税率」は法人税の名目税率に等しい。このように、ETRの算定は各国ごとの租税制度の相違によって異なっている。

表1では、2017年度の実質GDP上位20位の国における2019年度の実効税率が示されている。

表1 主要国における実効税率(2019年度)
順位 国名 実効税率 順位 国名 実効税率
1 ブラジル 34% 10 スペイン 25%
2 フランス 31% 10 韓国 25%
3 日本 30.62% 10 インドネシア 25%
4 ドイツ 30% 10 オランダ 25%
4 インド 30% 15 イタリア 24%
4 オーストラリア 30% 16 トルコ 22%
4 メキシコ 30% 17 ロシア 20%
8 米国 27% 17 サウジアラビア 20%
9 カナダ 26.5% 19 英国 19%
10 中国 25% 20 スイス 18%

(注)日本の実効税率30.62%は、資本金1憶円を超える大法人に適用される「外形標準課税」(東京都)に徴収される税率である。フランスの実効税率は2020年度には25%に変更されたので、日本の実効税率は上位2位になる。

(出所)KPMG(2020)コンサルティング社,Corporate tax rates tables。

さらに、GloBE規則の税計算には、2つの重要な追加的な税務調整も含まれている。つまり、ある期間から次の期間への「ETRにおける一過性の影響」(the impact of volatility in the ETR)を軽減する仕組と「公式内容の切り放し」(a formulaic substance carve-out)である(「第2の柱」para.16)。

「一過性」に対処する仕組は、低いETRが単に損益認識または租税賦課の期間差異(timing differences in the recognition of income or the imposition of taxes)の結果である場合には、税金を課すべきではないという原則に基づいている。したがって、GloBE規則では、多国籍企業がそのような期間差異から生じる潜在的な一過性を平準化するために、前期に発生した損失または支払われた超過税を次期に繰り越すことができる(「第2の柱」para.17)。受取配当金の益金不算入額、交際費等の損金不算入額等のように、企業会計上と課税所得計算上、永久に解消されることのない「永久差異」(permanent differences)とは異なり、収益・費用と益金・損金の帰属年度が相違するために、一時的に差額が生じる「期間差異」は将来の課税年度に解消される。

「公式内容の切り放し」は、GloBE規則の範囲から課税管轄地域内の実質的な活動の固定的売上を除外することである。実質的な活動から固定的売上を除外することは、BEPSの課題の影響を最も受けやすい無形資産関連所得のような「超過所得」(excess income)にGloBEが焦点を合わせることとなる(「第2の柱」para.18)。

(2)  最低法人税率と超過利益

多国籍企業の課税管轄地域におけるETRが「合意された最低税率」を下回っている場合、超過利益(excess profits)に対する税額を最低税率まで引き上げるのに十分な追加的税額が多国籍企業によって支払われなければならい。したがって、多国籍企業が営業している各課税管轄地域で最低レベルの税金を支払う一方で、営業活動の拠点場所に関係なく、共通ベースで同じレベルの追加税制度が保証されるため、「公平な競争条件」が確保されることとなる(「第2の柱」para.19)。

「第2の柱」は、全世界的に共通する「最低法人税率」(minimum corporate tax rate)の導入を提案するが、多国籍企業が経済活動の拠点をどの国・地域に配置するのかにかかわらず、最低限の租税を負担することにより、「公平な競争条件」の確保を目的としている。そのためには、GloBE規則としてIIRとそれを補完するUTPRが適用される。適用対象企業は、年間総収益金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業であり、国別に計算されたETRが「合意された最低税率」よりも低い場合には、差額分が追加的に課税される。

OECDの見解によれば、多国籍企業が一定の最低税率を下回る課税によって有害な恩恵を受けている場合には、本社(headquarters)の所在場所に関係なく、最低税率または国内税率のうち、高い方の税率(適切な税率)を適用し、有害的な低税率と適切な税率との差は補足的に課税されるべきである。各国の課税権(法人所得税の有無、低税率の採用等)については、他国が介入することなく、自由が認められるべきであるが、軽課税国等(タックス・ヘイブン)において低税率が適用される場合には、共通ルールを国際的に適用し、当該多国籍企業の全世界所得(global income)に対して世界共通の「最低法人税率」までは課税する必要がある(OECD(2019)p.30)。

各国・地域の租税基盤を守るために用いることができる「最低法人税率」の全世界的導入によって、「法人税率の引下げ競争」を生じさせない国際課税環境が整備され、各国における「法人税率の引下げ競争」の鎮静化が期待されている。

5.  OECD「BEPS包摂的枠組」の最終結論とG20の最終合意

2020年10月に「BEPS包摂的枠組」によって承認された「デジタル化に起因する税制上の挑戦のための青写真に関する報告」を審議・討論するために、2021年6月4・5日にロンドンで開催されたG7財務大臣会議の共同声明では、主として次のような合意が発表された(日本経済新聞、2021年6月6日)。

(1)新型コロナ禍からの回復に向けて、必要な限り政策支援を持続する。

(2)気候変動に関する義務的な企業情報開示に向けた動きを支持する。

(3)新型コロナ禍に苦しむ最貧国等への支援を継続し、債務削減への動きを歓迎する。

(4)「少なくとも15%」とする法人税率の最低税率にコミットする。

(5)大規模な多国籍企業の利益率10%を超える利益部分に少なくとも20%の課税権を市場国に与える。

(6)透明性や法の支配など、中央銀行デジタル通貨の共通原則を2021年後半に公表する。

上記(4)における「最低法人税率」に対しては、2021年5月にイエレン米財務長官が「法人税の底辺競争」を止めるために「15%を下限とする」とする案を示していた。(5)の新課税権の新設は、OECD・「BEPS包摂的枠組」によって提案されている。G7財務大臣・中央銀行総裁会議の共同声明では、法人税の全世界的な最低税率について「少なくとも15%とする」米国案を支持することで一致した。全世界的に導入する法人税率の最低税率が具体的に15%と示され、翌7月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、国際合意に向けて働き掛けを行うことになった(日本経済新聞、2021年6月6日)。市場国の新課税権の比率が具体的に20%と示され、約30年間にわたり続いた国際的な「法人税の引下げ競争」は最低税率15%の全世界的導入によって大きな転換を迎えることになる。

G20財務大臣会議に先駆けてOECDは2021年7月1日に、139か国・地域(2021年7月現在)をメンバーとする「BEPS包摂的枠組」の議論を経て、「経済のデジタル化に起因する税制上の課題に対処するための2本柱の解決策に関する声明」(Statement on a Two-Pillar Solution to Address the Tax Challenges Arising from the Digitalisation of the Economy)として『経済のデジタル化に起因する税制上の課題への対処』(Addressing the tax challenges arising from the digitalization of the economy)を公表した。139か国・地域のうち、法人税率9%のハンガリー、12.5%のアイルランド等の7か国・地域(バルバドス、エストニア、ハンガリー、アイルランド、ケニア、ナイジェリア、スリラン力)は態度を留保したが、2つの柱の「青写真に関する報告書」(デジタル化に起因する税制上の挑戦)に大枠で合意した7。なお、OECDの「BEPS包摂的枠組」の加盟139か国・地域のうち132か国・地域のGDPは、世界全体の90%を超える(K.T(2021)116頁)。

2021年7月1日のOECDの声明では、IIRとUTPR共通の最低法人税率について、2021年6月5日のG7財務大臣の共同声明を受けて、15%以上とすることが明記された。なお、投資基金・年金基金を含む特定の親会社、政府機関、非営利団体等がこのルールの対象外であることは従来どおりであるが、国際海運業も対象外となることが明らかとなった(K. T(2021)117頁)。

2021年6月5日のG7財務大臣会議で15%以上の最低法人税率の国際的導入が判明したので、この具体的な提示に基づいて「BEPS包摂的枠組」は議論を重ねたが、「全世界的税源浸食の対抗策」(GloBE)と「租税条約の特典否認ルール」(STTR)により構成される従来の議論の枠組は維持されている。GloBE規則は、「所得合算規則」(IIR)とそれを補完する「所得合算規則」(UTPR)により構成されるが、IIRでは、タックス・ヘイブン(軽課税国等)に所在する子会社等の所得に係る親会社の持分に最低法人税率(15%)まで課税される。前述のように、最低法人税率に達しているか否かは各国・地域ごとのETRで判定され、その最低税率とETRとの差額分が親会社において追加課税されることになる。

IIRが適用されない場合には、UTPRによって、タックス・ヘイブン(軽課税国等)に所在する子会社等への控除可能支払いを行う納税者にその持分比率に応じて最低法人税率(15%)までの法人税を配分するが、GloBE規則(IIR, UTPR, SORとSTTR)の適用に際して利用するETRは次のように計算される。

実効税率=税務調整後税額÷税引前利益

なお、ETRを算定する場合には、分母となる所得(税引前利益)に関しては、有形資産(簿価)と支払給与との合計額の5%以上(当初5年間は7.5%以上)相当額を控除することができる(K.T(2021)117頁)。ETRを算定する際に有形資産と支払給与の5%以上を課税対象から控除する規定は、租税優遇措置で製造業などを企業誘致してきた新興国から、実際に経済活動を行って雇用があれば最低税率の対象にしないよう求める意見があったのに配慮したものである(日本経済新聞、2021年7月11日)。つまり、実効税率(ETR)の算定式は次のように変更できる。

実効税率=税務調整後税額÷{税引前利益-(有形資産+支払給与)×5%}

「BEPS包摂的枠組」の議論を経て合意した結論内容は、2021年7月10日にイタリア・ベネチアで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議により基本的に承認された。欧米日の主要国G7以外のG20の参加による政治レベルで賛同を取り付けたことに意義があり、「より安定、公平な国際的な税の仕組みについての歴史的な合意」が得られた。経済のグローバル化・デジタル化に対応できる国際課税制度を構築する目的のほかに、新型コロナウイルス禍による各国の急速な財政悪化による財源確保のニーズも国際合意への気運を高めた(日本経済新聞、2021年7月11日)。

近年、過度なグローバル化や急速なデジタル化および経済の新自由主義に対する懐疑が生じる最中に、新型コロナウイルスによるパンデミックが世界的に広がり、各国に経済的・財政的悪化が進んだために、米国のトランプ政権の米国第一主義から2021年2月に発足したバイデン政権が多国間協調主義に切り替えたことも相まって、2つの合意(新課税権の導入と法人税率の引下げ競争中止)に達したものと言える。

OECDは2021年10月8日に「経済のデジタル化に起因する税制上の課題に対処するための2本柱の解決策に関する声明」を再び公表したが、この声明に参加した「BEPS包摂的枠組」メンバーは、140か国・地域(2021年10月現在)のうち、2021年7月10日に開催されたG20財務相会議では態度を留保していたエストニア、アイルランド、ハンガリーを含めて136か国・地域であり、全参加メンバーにより合意された。なお、ケニア、ナイジェリア、スリラン力とパキスタンの4か国は、この声明に参加していない(OECD(2021b)p.1)。

「BEPS包摂的枠組」は、2本柱から成る「デジタル経済下における法人税の国際租税回避対応策」の最終結論として「国際社会がデジタル時代のために新規開拓的な租税協定を批准する」(International community strikes a ground-breaking tax deal for the digital age)を2021年10月8日に公表した。この最終結論における「第2の柱」では、15%に設定された世界的な最低法人税率(a global minimum corporate tax rate set at 15%)が導入され、7憶5,000万ユーロ(おおよそ1,000億円)を超える収益の会社に適用される。この新しい法人税率によって、世界全体で年間約1,500億米ドル(おおよそ16兆5,000億円)の追加税収が生じると推定されている。このような国際課税制度の安定化および納税者と税務当局に対する税の確実性増加(the stabilization of the international tax system and the increased tax certainty for taxpayers and tax administrations)によって、さらなる便益が生まれるであろう(OECD(2021b)p.1)。

G20の最終合意に先立って2021年10月8日に開催された「BEPS包摂的枠組」における「第2の柱」の最終結論では、「最低法人税率」はG7提案の15%を追認したことになる。前述のように、合意に難色を示していたアイルランド、ハンガリーも15%以上の法人税率の導入に賛同している。

OECD・「BEPS包摂的枠組」の最終結論を審議するために2021年10月13日に開催されたG20の最終合意は、『OECD事務総長 G20財務大臣・中央銀行総裁による租税報告書』(OECD Secretary-General Tax Report G20 Finance Ministers and Central Bank Governors:以下、「G20最終合意書」という)にまとめられている。

「G20最終合意書」は、「IIRとUTPRの目的のために用いる最低税率を15%とする。」(OECD(2021d)p.13)と明記した。その場合、1,000万ユーロ(おおよそ13億4,000万円)以上の収益があり、100万ユーロ(おおよそ1億3,400万円)以上の利益がある多国籍企業に対して、GloBE規則は適用される。さらに、ETRを算定するに際しては、有形資産の帳簿価額と支払給与(the carrying value of tangible assets and payroll)の5%相当額を所得金額から控除することができる。ただし、当初10年間の移行期間(transition period)には、有形資産の帳簿価額の8%、支払給与の10%相当額を所得金額から控除できるが、前半5年間には毎年0.2%ずつ段階的に減じ、後半5年間には有形資産の帳簿価額に0.4%、支払給与に0.8%ずつ段階的に減じられる(OECD(2021d)p.13)。

したがって、移行期間の初年度における実効税率は下記のように算定され、表2は、移行期間における所得金額(税引前利益)から控除できる比率を示している。

実効税率=税務調整後税額÷{税引前利益-(有形資産×8%+支払給与×10%)}

表2 移行期間におけるETRのための利益控除率
年度 2023 2024 2025 2026 2027
利益控除率 有形資産 8% 7.8% 7.6% 7.4% 7.2%
支払給与 10% 9.8% 9.6% 9.4% 9.2%
年度 2028 2029 2030 2031 2032 2033
利益控除率 有形資産 7% 6.6% 6.2% 5.8% 5.4% 5%
支払給与 9% 8.2% 7.4% 6.6% 5.8% 5%

(出所)著者作成。

2021年10月13日にロンドンで開催されたG20財務大臣会議で承認された「BEPS包摂的枠組」の最終結論は、10月30日にローマで開催されたG20首脳会議(G20サミット)で最終合意された。日本の岸田文雄首相は、衆議院選挙のためにG20サミットにはオンラインで参加したが、多国籍企業の利益の一部を課す「デジタル課税」の導入を歓迎し、「歴史的成果の着実な実施に向けて迅速に取り組んでいく。」と述べた(日本経済新聞、2021年10月31日)。なお、「BEPS包摂的枠組」の最終結論を基本的に承認したG20サミット最終合意は、2022年に各国国内法により改正され、2023年に導入・施行させる予定である(OECD(2021a)pp.4–5)。

6.  むすび

過度なグローバリズムや新自由主義によって30年間にわたって続いてきた「法人税率の引下げ競争」を防止するために、世界共通の「最低法人税率」として15%の税率が最低限の租税負担により導入される。要するに、多国籍企業が経済活動の拠点をどの国・地域に配置しているかにかかわらず、最低限の租税負担を課すことにより「公平な競争条件」の確保を目的として、「税率引下げ競争」が生じないために15%以上の最低法人税率が全世界的に導入される予定である。

しかしながら、15%の最低法人税率は世界的に通用する妥当な税率であろうか。表1で示されていたように、実質GDP上位20位の国におけるETRは18%~34%であり、平均25.856%(おおよそ25%)であった。GAFAを中心とした米国IT企業の税負担率が15.4%(2018年~2020年の3年間平均)であったためか、15%という最低法人税率の設定は米国主導による政治的妥協の産物でしかなかったと言わざるを得ない。わが国の「租税特別措置法」は、税率20%以下の低税率国をタックス・ヘイブン対策税制対象の「軽課税国等」とみなしているが、20%の「最低法人税率」の導入が適切ではなかったであろうか。

しかも、ETRを算定するに際しては、分母となる所得(税引前利益)から有形資産の帳簿価額と支払給与との合計額の5%相当額を控除するために、本来のETRよりも高い税率となり、その分だけ税負担を軽減できる。各企業の有形資産・従業員の構成・規模により当該合計額は異なるので、企業によってETRも相違することになる。当初10年間の移行期間には、有形資産の帳簿価額の8%相当額と支払給与の10%相当額から段階的に逓減・控除されることになったが、移行期間は5年から10年に延期されている。移行期間が長すぎるために、本来の「公平な競争条件」の確保という目的の達成に時間がかかり過ぎる。移行期間は5年に止めるか、あるいは有形資産の帳簿価額・支払給与の5%相当額控除は実質的なETR算定のために廃止すべきである。

ETRを計算するために分子となる税務調整後税額に関しても、IFRSまたは「適格GAAP」に基づいて計算した当期利益に各国税法に準拠して税務調整が施されているが、各国の租税法は独自の税務調整項目・所得控除項目や所得計算方式を採用している。たとえば、わが国では、法定の取得価額・耐用年数・減価償却方法に基づいた「償却限度額」の損金算入が認められているが、英国では、製造・鉱業等を目的として使用される工業用建物(industrial buildings)は減価償却資産として償却されるが、同じ建物であっても、卸売業者所有の倉庫等のような商業用建物(commercial buildings)は非償却資産として償却できない。商業用建物の減価償却対象は、産業活性化等の政策目的のために限定されている(菊谷(2013)6–7頁、16–17頁)。したがって、同じ事業活動・規模であっても当該事業年度の課税所得金額は各国ごとに異なるので、自動的に税務調整後税額も相違し、ETRの算定に影響を及ぼす。

さらに、「BEPS包摂的枠組」の構成メンバー140か国・地域(2021年8月現在)には、バハマ、英領ヴァージン諸島、アイルランド、リヒテンシュタイン、マカオ、パナマ、シンガポール、スイス等のタックス•ヘイブンも参加しているが、米国企業・個人の登録が多い英領ケイマン諸島は参加していない(OECD(2021c))。前述したように、国別に計算されたETRが合意された最低法人税率(15%)よりも低い場合には、差額分が課税されるが、英領ケイマン諸島では所得税は非課税となっているので、ケイマン諸島に所在する事業体の所得に対しては追加納税の手続きが必要となる。

1  デジタイゼーション(digitisation)とは、デジタル技術を既存のビジネスモデルに取り入れて業務の効率化を図ることをいうが、デジタライゼーション(digitalisation:本稿では電子化またはデジタル化と呼んでいる)は、デジタル技術を利用しながらビジネスプロセスを変革し、新しいビジネスモデルを実現することをいう。さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、顧客や社会のニーズに基づいてすべての企業活動をデジタル技術で変革することによって、新しい製品・サービス、ビジネスモデルを改変することをいう(中小企業庁編(2021)165–169頁)。

2  「BEPS最終報告書」では、新たに国際的に税制調和を図る方策を勧告した「BEPS行動計画」(以下、「行動」という)は、次のようなテーマを課題としていた。

「行動1」電子経済の課税上の課題への対応(Addressing the Tax Challenges of the Digital Economy)

「行動2」ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化(Neutralising the Effects of Hybrid Mismatch Arrangements)

「行動3」効果的な非支配外国法人税制の設計(Designing Effective Controlled Foreign Company Rules)

「行動4」利子控除およびその他の金融支払いを含む税源浸食の制限(Limiting Base Erosion Involving Interest Deductions and Other Financial Payments)

「行動5」透明性・実質性を考慮した有害税制への効果的な対抗措置(Countering Harmful Tax Practices More Effectively, Taking into Account Transparency and Substance)

「行動6」不適切な状況下における租税条約の乱用防止(Preventing the Granting of Treaty Benefits in Inappropriate Circumstances)

「行動7」恒久的施設認定の人為的回避の防止(Preventing the Artificial Avoidance of Permanent Establishment Status)

「行動8~10」価値創造を伴う成果に対する移転価格設定の調整(Aligning Transfer Pricing Outcomes with Value Creation)

「行動11」BEPSデータの測定とモニタリング(Measuring and Monitoring BEPS)

「行動12」義務的開示制度(Mandatory Disclosure Rules)

「行動13」移転価格設定の文書化と国別報告(Transfer Pricing Documentation and Country-by-Country Reporting)

「行動14」紛争解決の効果的手法(Making Dispute Resolution Mechanisms More Effective)

「行動15」二国間租税条約を多数国間協定に改変する展開(Developing a Multilateral Instrument to Modify Bilateral Tax Treaties)

3  2012年設置当時にはOECD加盟国を中心とした40数か国で発足した「BEPSプロジェクト」は、2016年の実施段階に入って、「BEPS包括的枠組」という参加国門戸拡張キャンペーンにより、参加国が増えていった(青山(2018)2–3頁)。「BEPS包括的枠組」は、2021年10月現在、140か国・地域の大規模な組織となっている。

4  OECDが2015年に「BEPS最終報告書」を公表した後に、「BEPS包摂的枠組」が2020年に『デジタル化に起因する税制上の挑戦―青写真に関する報告書』(「第1の柱」と「第2の柱」)を公表するまでの検討経緯・活動については、鶴田(2020)30–57頁、青山(2021)311–322頁、望月(2021)24–30頁に詳しい。

5  2021年10月の「BEPS包摂的枠組」の最終結論およびG20首脳会議の最終合意では、多国籍企業グループ全体の全世界売上高が200億ユーロ(おおよそ2兆6,000億円)を超え、かつ、実効税率が10%を超える多国籍企業を課税対象企業にして、特定の市場国から100万ユーロ(おおよそ1億3,000万円)以上の収益を獲得している場合に、連結収益の10%を差し引いた「残余利益」(residual profit)の25%相当額が市場国に配分される(菊谷(2022)34頁)。

6  平成4年(1992年)の税制改正に伴って、タックス•ヘイブン対策税制における合算課税適用法人の範囲について株式等の保有要件が10%であったが、5%に引き下げられ、適用対象となる内国法人の範囲が拡大された。すなわち、内国法人および居住者の全体によって直接または間接に発行済株式の総数または出資金額の合計額の50%を超える割合を保有されている外国法人(「外国関係会社」という)のうち、軽課税国等に本店または主たる事務所が所有する外国関係会社(特定外国子会社等)の発行済株式等を直接または間接に5%以上を保有する内国法人、および全体として5%以上を直接または間接に保有する同族株主グループに属する内国法人が、このタックス•ヘイブン対策税制の適用対象法人である(措法66の6①二)。

7  「BEPS包括的枠組」の合意を留保したアイルランドは、主要国の中で最も低い12.5%の法人税率を採択し、外国企業の誘致(投資)を推進してきたので、「タックス・ホリデイ」として「タックス・ヘイブン」に分類されている(菊谷(1997)293頁)。

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