昨今開発される新薬は、バイオ薬や分子標的薬といった新しい類型の製品に移行している一方で、その新薬の適応市場は小規模化する傾向がある。バイオ/分子標的薬開発への移行は、医薬品企業にとっては、開発・製造コストが嵩み、高いスイッチング・コストや高い開発結果の不確実性というリスクをとる必要がある。それにもかかわらず、開発された新薬の適応市場が小規模化するということは、製品開発イノベーションの一般的な概念からは一見矛盾する。
直近、約20年の肺癌領域の新薬開発の事例を調べると、技術の社会的形成論に沿った「治療標的の具体化」、「バイオ・分子標的薬の登場」、「適応力患者の限定」という3つの局面の相互関係の中で開発が進み、「臨床的価値の向上」という条件を満たして創薬されるという新薬開発プロセスの変化が明らかになった。「新薬市場の小規模化」という現象は、新薬開発プロセスの一つの局面として捉えることができる。