2025 年 22 巻 p. 1-38
本研究では、日本の損保業界にあって積極経営で知られた安田火災の二人の企業家、三好武夫と後藤康男の戦略行動を分析する。三好は、モータリゼーション勃興期における極めて不確実性の高い環境にあった自動車保険事業への積極的な転換を図り、交通事故による社会的損害を軽減することに注力した。その際、彼はエフェクチュエーション理論に相当する意思決定を行い、限られた資源を活用しながら不確実性をコントロールする戦略を実行し、業界の大多数の企業がリスクを脅威であると捉える中で、機会と捉えることに成功した。一方、後藤は、CSV概念に通じる手法により、経済的価値と社会的価値をともに実現するべく、総合金融機関化、CSR活動、環境問題への取組みなどの戦略を実行し、企業としての長期的成長に貢献した。これらの戦略行動は、安田火災の企業価値向上に寄与したと考えられる。本研究は、企業家の戦略行動を読み解く上で、エフェクチュエーション理論とCSV概念の有効性を示すとともに、両者のプロセスを統合したモデルによる新たな解釈を提示する。