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研究ノート
インフルエンサー投稿における商業的意図の露見時にスポンサーシップ開示はいかに作用するか
渋瀬 雅彦
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2025 年 22 巻 p. 273-289

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要旨

成長の続くインフルエンサーマーケティングにおいて、企業からのスポンサーシップを受けたことを投稿内に開示することが義務付けられている。一方で、スポンサーシップを開示することによって、投稿の効果を抑制することがこれまでの先行研究で示されており、消費者保護の観点でスポンサーシップ開示の正の影響に関する研究知見が乏しい。本研究では、商業的意図を含む投稿であることが全面的に露見した場合に、スポンサーシップを開示することによる影響を明らかにすることを目的とした。情報源(メガ・マイクロ)と適合性に着目したシナリオ実験からデータを収集して、分散分析を用いて仮説検証を行った。分析の結果、マイクロインフルエンサーにおいて、(1)スポンサーシップを開示することにより、露見時の態度悪化が抑制されること、(2)適合性知覚が低ければ、スポンサーシップ非開示の場合に、露見時の態度悪化が促進されることなどが明らかとなった。本研究の意義は、商業的意図の全面的な露見時において、特定の情報源においてスポンサーシップ開示の効果を示したことである。

Abstract

In influencer marketing, which continues to grow, it is obligatory to disclose in posts any sponsorship from companies. On the other hand, previous research has shown that disclosing sponsorship can suppress the effectiveness of posts, while there is little evidence to date on the positive impact of sponsorship disclosure from the perspective of consumer protection. The aim of this study is to shed light on the impact of sponsorship disclosure when it is fully revealed that the post contains a commercial intention.

We collected data from a thought experiment focusing on mega/micro information sources and congruence, using analysis of variance to test our hypothesis. The results of the analysis showed that in the case of micro-influencers, (1) disclosing sponsorship can prevent a deterioration in attitudes when the source is revealed, and (2) if there is a perception of low congruence, disclosing sponsorship can promote a deterioration in attitudes when the source is exposed. The significance of this research is that it shows the benefits of sponsorship disclosure regarding specific information sources when commercial intentions are fully disclosed.

1.  研究の背景と目的

Instagramなどのソーシャルメディアを活用したインフルエンサーマーケティングに対する注目が高まっている。金銭的対価やサンプル提供を通して、企業からのスポンサーシップを受けたインフルエンサーは、ソーシャルメディア上に投稿を行い、無数のフォロワーに対して製品やサービスを紹介する。企業のマーケティングコミュニケーションにおいて、インフルエンサーを活用することでターゲット層に効果的にリーチすることが可能であり、信頼できる情報源を通じてメッセージを消費者に届けることができる。また、ソーシャルメディアを運営する企業にとっても、収益源となる広告収入に直接関係するトラフィック数を維持拡大するうえで、多数の投稿やフォロワー数を抱えるインフルエンサーは重要な存在となっている(Alibakhshi & Srivastava, 2022)。

一方で、インフルエンサーが行う投稿は、企業からのスポンサーシップを受けたものと個人的な日常生活に基づいたものに分かれる。このため、フォロワーはインフルエンサーからの投稿が商業的な意図を持っているかどうかを識別できないことが懸念されてきた(Shrum, 2012)。そこで、インフルエンサー投稿に対する透明性を高めていくために、投稿に関するガイドラインを設定し、法律的な規制が行われている。我が国でも2023年10月より景品表示法において、企業からのスポンサーシップが行われている場合には、投稿内にそれを開示することが義務づけられている1。例えばInstagramでは、ハッシュタグ(#PR、#プロモーション、#ブランド企業名)や企業からのスポンサーシップを受けたことを明示(例:〇〇株式会社から協賛を受けています)する必要がある。

インフルエンサー投稿におけるスポンサーシップ開示がフォロワーに及ぼす影響に関する研究は近年増加している(Eisend et al., 2020)。そして、投稿内にスポンサーシップを開示することによって、フォロワーはその投稿を広告と認識し、不信感を高めて、ブランドや情報源に対する態度や購買意向に対してネガティブな影響をもたらすことが明らかにされている(Eisend et al., 2020)。一方で、スポンサーシップを開示することによって、フォロワーに対するネガティブな影響を低減することを示した研究も少数ではあるが存在する(例えば、De Cicco et al., 2021Giuffredi-Kahr et al., 2022Kim & Kim, 2021)。

企業やインフルエンサーにとって、スポンサーシップを開示することは、消費者保護の観点でも透明性を高める役割を果たすことである(De Cicco et al., 2021)。このため、開示によるポジティブな効果やメカニズムを示すことは、今後のインフルエンサーマーケティングの適切な発展のためにも重要である。

そこで本研究は、スポンサーシップ開示がフォロワーにもたらすポジティブな効果に着目して実証分析を検討した。具体的には、以下二点に特に着目した。第一に、スポンサーシップを受けていたことが全面的に露見した場合における開示の効果を検証した。これまでの研究の多くは、開示による影響を示す指標としてブランド態度や情報源への態度などが検証されている。一方で、投稿における商業的な意図が全面的に露見した場合における開示の効果は検証されていない。実際のインフルエンサーの欺瞞を含んだ投稿の真実が露見することで、SNSなどに拡散されて炎上が拡大した事例も報告されている。そこで本研究では、スポンサーシップを受けた投稿であることが全面的に露見するシナリオを提示したうえで、ブランドや情報源に対する態度の変化を検証する。第二に、インフルエンサーと投稿内容の適合性(Congruence)に着目した。インフルエンサー投稿の魅力として真正性(Authenticity)があげられる。これは、インフルエンサー本人の本心からその製品を推奨しているかどうかの程度を示し、投稿内容の創造的工夫や両面提示による透明性などが含まれる(Audrezet et al., 2020)。こうした真正性を担保する要素の1つとして、インフルエンサーの情報源特性と投稿内容のイメージが一致している程度としての適合性がある。フォロワーは、特定のインフルエンサーのプロフィール情報や投稿情報に触れる中で、インフルエンサーに対するイメージを構築する。そのイメージと投稿内容に適合性があれば、フォロワーは真正性を感じて、投稿内容を受容していく。加えて、適合性が高いことで、スポンサーシップ開示によるネガティブな影響も低減させることができる(Kim & Kim, 2021)。

本研究では、インフルエンサー投稿の商業的意図が全面的に露見した場合に、フォロワーがブランドやインフルエンサーに対する態度がどのように変化するか、その際にスポンサーシップ開示や適合性がどのように作用するかを検証することを目的とする。

2.  先行研究

2.1  スポンサーシップ開示の直接的な影響

インフルエンサーマーケティングにおけるスポンサーシップ開示の影響を検証した研究の多くは、説得知識理論(Friestad & Wright, 1994)に基づいている。説得知識とは、企業のマーケターが持つマーケティングアクションにおける意図や目的に対して消費者が持つ知識や信念を意味する。消費者は、企業からの説得的試みを読み取ると、その試みに対処するために自身が保有する説得知識を適用して、情報処理や態度形成を行っていく(Campbell & Kirmani, 2000;Van Reijmersdal & Neijens, 2012)。インフルエンサーマーケティングでは、投稿内にスポンサーシップを開示することで、フォロワーはその投稿を広告として認識(広告認識)して不信感を抱き、製品や情報源に対する態度などの成果指標が低下する(例えば、Dhanesh & Duthler, 2019Boerman et al., 2017De Veirman & Hudders, 2020など)。

こうしたスポンサーシップ開示による直接的な影響を調整する要因について検証が進められている。これらの調整要因は開示形式・ユーザー特性・情報源特性に区別される。開示形式については、フォントの色調や文言を工夫して明確明瞭な形式で開示することで、投稿に対する広告認識が高まりネガティブな影響が強まる(Boerman & Muller, 2021;Evans et al., 2017)。ユーザー特性については、企業のマーケティング意図に関する知識の乏しい若年層の場合には明確な説明を行うことでポジティブな態度を形式すること(De Jans & Hudders, 2020)や、投稿メッセージに関与が高いフォロワーでは開示によって広告認識を高めやすいこと(Yang, 2022)などが明らかにされている。情報源については、その特性が商業的活動を行いやすいかどうかの知覚に応じて、スポンサーシップ開示による広告認識や不信感醸成の程度が異なることが示されている(Boerman et al., 2017)。

これまでに実証分析が行われた主な成果指標は、ブランド認知(Boerman, 2020De Jans & Hudders, 2020)・ブランド態度(Boerman, 2020De Veirman & Hudders, 2020Evans et al., 2017;Yang, 2022;Xie & Feng, 2023)・購買意図(De Jans & Hudders, 2020)・クチコミ拡散意図(Boerman et al., 2017Evans et al., 2017)・インフルエンサーへの態度(Boerman, 2020De Cicco et al., 2021Pradhan et al., 2023)などである。

こうした検証が進められる中で、以下のような課題を提示する。実際のインフルエンサー投稿における炎上事例を踏まえると、投稿後に全面的に商業的意図が露見することとなり、企業やインフルエンサーに対してネガティブな影響を多方面から受けることとなる。また、上記に挙げた研究について、De Jans and Hudders(2020)を除けば、調査対象者に対して事前のスポンサーシップ開示に関する注意や理解を実験上でコントロールは行われていない。つまり、開示有り条件であってもスポンサーシップ開示に気づかず、意味を理解しないまま調査回答をしている。このため、スポンサーシップ開示を行っていない場合のフォロワーの反抗的対応は考慮されていない。スポンサーシップを開示することで、商業的意図が露見した場合のネガティブな影響を緩和できると考えられる。よって、インフルエンサー投稿に含まれる商業的意図が全面的に露見した場合におけるスポンサーシップ開示の影響を検証する必要がある。

2.2  スポンサーシップ開示による正の調整効果

インフルエンサーマーケティングやネイティブ広告などのスポンサーコンテンツにおいて、スポンサーシップを開示して、消費者に対する透明性を高めていくことが求められる。そして、消費者の説得知識を高めることで、不信感や懐疑心を高めるだけではなく、透明性や信頼性を高める可能性も指摘されている(Isaac & Grayson, 2017)。インフルエンサーマーケティングの文脈においても、少数ではあるが、スポンサーシップ開示における正の調整効果について言及した研究も存在する。

インフルエンサー投稿に対して説得知識を高める要因は、スポンサーシップ開示だけではなく、情報源特性や投稿内容も影響する(Boerman, 2020)。このため、スポンサーシップ開示による正の調整効果が顕在化する要因として、情報源や投稿内容があげられる。

インフルエンサーの投稿に接した際に、フォロワーはその投稿が商業的であるかどうかを類推する度合いに応じて、開示による効果も異なってくることが明らかにされている。Giuffredi-Kahr et al.(2022)は、商業的特性の強い情報源の場合、説得知識を高めやすいことを示したが、スポンサーシップ開示を行うことで、広告認識が信頼性を及ぼす影響を緩和することを明らかにした。彼らは、期待不一致理論に基づき、フォロワーは情報源特性から商業的な投稿であると推測するために、開示が行われることで期待に応えることとなり、ネガティブな影響を緩和することを述べている。

De Veirman and Hudders(2020)は、投稿内容が片面訴求の場合には、スポンサーシップ開示はブランド態度に負の影響を及ぼす一方で、ポジティブ・ネガティブの両面を訴求した投稿の場合には、スポンサーシップ開示によるブランド態度への負の影響は確認されなかった。また、開示方法を細分化して検証を行ったXie and Feng(2023)では、“この投稿は、企業の製品提供を受けていますが、自分の正直な感想を記載しています”などの両面的な開示を行った場合には、インフルエンサーやブランドへの態度が良化することを示している。

インフルエンサーマーケティングにおいて、適合性はその効果を規定する重要な要因の一つである(Mortinez-Lopez et al., 2020;Janssen et al., 2022)。適合性とは、インフルエンサーの情報源特性と投稿内容で推奨される製品の一致度合いを意味する。スポンサーシップ開示の文脈において、De Cicco et al.(2021)は、適合性の高い投稿の場合、明確な開示を行うことで、フォロワーは透明性を感じて、ブランド態度などに正の影響を及ぼすことを明らかにしている。Kim and Kim(2021)は、スポンサーシップ開示により高まった広告認識がブランド態度に及ぼす影響において、適合性が調整効果を果たすことを示している。具体的には、広告認識からブランド態度へ及ぼす負の影響について、低適合の場合には統計的に有意である一方で、高適合の場合にはその影響は棄却されることを示している。つまり、高適合であれば、開示によるブランド態度への負の影響が緩和されることを明らかにした。

3.  仮説の設定

3.1  研究の枠組み

先行研究レビューに基づいて、本研究の枠組みと位置づけについて説明する(図1)。

図1 本研究の枠組み

(出所)筆者作成。

第1章で説明した通り、本研究の目的は、インフルエンサー投稿の商業的意図が全面的に露見した場合に、フォロワーのブランドやインフルエンサーに対する態度がどのように変化するか、その際にスポンサーシップの開示を行うことを効果について検証することである。その際に以下二点に着目した。第一に情報源特性である。ソーシャルメディアの普及に伴い、情報の発信者は、従来マス広告で活用されていたセレブリティに留まらず、一般消費者にも拡張された。インフルエンサーマーケティングでは、フォロワー数やプロフィールに応じて情報源特性が分類されており、企業はキャンペーンの目的に応じて、適切な情報源を選択する。本研究では、Campbell and Farrel(2020)の分類に基づき、メガとマイクロの2つの情報源を対象とする。メガは、フォロワー数を100万人以上保有しており、ソーシャルメディアなどのインターネット上で有名であるが、フォロワー以外では比較的知られていないインフルエンサーである。マイクロは、1万人から10万人のフォロワーを保有して、地理的に限定された活動を行うインフルエンサーである。これらの情報源を選択した理由は、フォロワーにとってその情報源が商業的投稿を行っているかどうかを類推する度合いに応じたためである。インフルエンサー投稿に対して説得知識を高める要因は、スポンサーシップの開示だけではなく情報源特性も影響する(Boerman, 2020)。よって、メガは商業的投稿を行いやすい情報源、マイクロは生活経験に基づいた投稿を行いやすい情報源と想定することで、スポンサーシップ開示の影響が異なることを検証する。

第二に、情報源と投稿内容の間の適合性である。インフルエンサーのプロフィールと推奨する製品や投稿内容がどの程度一致しているかによって、フォロワーに対する効果は異なってくる(Mortinez-Lopez et al., 2020;Janssen et al., 2022)。スポンサーシップを開示した場合でも、適合性が高いことで、投稿の効果を高めていくことができる(De Cicco et al., 2021)。インフルエンサー投稿における商業的意図が露見した場合のフォロワーの態度悪化に対しても、適合性がなんらかの作用を果たすと想定される。そして本研究では、投稿を閲覧したフォロワーがどの程度適合性を感じたかを示す適合性知覚を用いる。

3.2  仮説

(1)  スポンサーシップ開示と情報源に関する仮説

投稿の商業的意図が全面的に露見した場合には、フォロワーは心理的リアクタンスを感じることで、ブランドやインフルエンサーに対する態度は悪化することが予想される。心理的リアクタンスとは、人々の自由が排除された時や排除される懸念がある時に生じる動機づけの状態を意味する(Brehm & Brehm, 2013)。リアクタンス理論に基づけば、人々は選択の自由を享受できるはずであるが、選択肢のいくつかが利用できなくなると行動の自由が制約されたと感じて、自由を回復しようという対処を試みるようになる。こうした対処戦略については、既存の態度や行動を守るための思考を行う一方で、反論や懐疑を行い、その対象に対する心象を悪化させる(Yang, 2022)。つまり、インフルエンサーマーケティングにおいて商業的意図が全面的に露見した場合には、対象ブランドやインフルエンサーに対する態度が悪化することが想定できる。また、期待不一致理論によれば(Oliver, 1980)、消費者が事前に抱く期待水準に対して、製品サービスの成果水準が下回ることで、不満を抱くことになる。つまり、本研究で想定する状況においては、企業の商業的意図が全面的に露見する以前に、その投稿に対してどの程度説得知識を高めていたかどうかに影響すると考えられる。具体的には、スポンサーシップ開示を行った投稿の場合には、その投稿に商業的意図を含むことを認識していたために、事前期待が低い水準であったと想定できる。よって、全面的に商業的意図が露見した場合には、フォロワーが抱く態度悪化の程度は低いと考えられる。加えて、商業的意図を含む投稿を行いやすいと類推されるメガインフルエンサーと比べると、マイクロインフルエンサーでは事前期待として商業的意図を含まないと類推される。このために、マイクロインフルエンサーでは、実際の利用体験に基づいた真正性の高い投稿と期待されるために、全面的に露見した場合には、不満に感じやすく、フォロワーの態度悪化につながりやすい。つまり、その場合において、スポンサーシップを開示することによって、露見時の態度悪化は緩和されるであろう。

以上のような議論から、仮説1を設定した。

H1-1:スポンサーシップを開示した場合、開示しなかった場合と比べて、企業の商業的意図が露見した際の態度悪化(ブランド態度・情報源態度)は低下する

H1-2:メガと比べてマイクロが投稿した場合において、スポンサーシップを開示することによって、企業の商業的意図が露見した場合の態度悪化(ブランド態度・情報源態度)は低下する

(2)  適合性に関する仮説

適合性(Congruence)とは、2つの対象や活動の間の類似性の度合いを指す(Olson & Thjømøe, 2011)。適合する情報は、より強い連想ネットワークを構築し、記憶を活性化させて、態度変化を促す(Zdravkovic & Till, 2012)。広告研究においても、適合性は広告効果を規定する要因の一つとされ、有名人広告やイベントへの企業スポンサーシップなどを対象としたマッチアップ仮説の要素として活用されている(Kamins, 1990Ellen et al., 2000)。ソーシャルメディア上のネイティブ広告を対象として適合性の効果を検証したKim and Chung(2017)は、メディアとの文脈が適合した広告の場合に、製品評価などによりポジティブな効果をもたらすことを示している。インフルエンサーマーケティングにおいても、情報源と製品の適合性が高ければ、製品態度は高くなることが明らかにされている(Kim & Kim, 2021)。よって、情報源と投稿内容間の適合性が高いと知覚されることで、商業的意図が露見した後の態度悪化は緩和される可能性がある。

一方で、情報源と投稿内容間の適合性が低いと知覚されることにより、消費者のスキーマが転換することとなり、広告に対してより多くの情報処理をもたらすことも指摘されている(Hastie, 1984)。インフルエンサーマーケティングでは真正性(Authenticity)が重要視されている(Audrezet et al., 2020)。真正性は、情報源が本心からその製品を推奨していることを投稿内容に示すことでその効果を高めることができる。よって適合性が低いと知覚された場合には、真正性が低くなり、フォロワーに懐疑心を抱かせることとなり、情報処理が精緻化される可能性がある。このような状態にあるフォロワーがスポンサーシップ開示のハッシュタグを確認すれば、透明性を感じて、露見後の態度悪化を抑制できると考えられる。一方で、適合性が低いと知覚された投稿内にスポンサーシップが開示されていない場合には、フォロワーの期待を裏切る形となり、露見後の態度悪化は顕著となるであろう。加えて、商業的投稿をあまり行わないと認識される傾向にあるマイクロインフルエンサーにおいて、期待値との乖離が大きくなり、態度悪化は顕著になると想定される。そこで以下のような仮説を設定する。

H2-1:適合性知覚が低ければ、スポンサーシップ開示有りの場合と比べて開示無しの場合において、態度悪化(ブランド態度・情報源態度)は高くなる

H2-2:その影響(H2-1)は、メガインフルエンサーと比べると、マイクロインフルエンサーにおいて顕著となる

4.  調査概要

インフルエンサーマーケティングにおけるスポンサーシップ開示を対象とした研究領域において頻繁に用いられているシナリオ法による実験調査を、本研究でも採用する(Boerman, 2020De Cicco et al., 2021Eisend et al., 2020)。

4.1  分析対象

分析対象とするソーシャルメディアは、インフルエンサーマーケティングのプラットフォームとして広く活用されているInstagramを対象とする。Instagramは、画像や動画が多用され、フォロワーに対して情緒的な訴求を行うことに特性があり、プラットフォーム内でのスポンサーシップ開示のガイドラインも明文化されている。

投稿内で推奨する製品カテゴリーは、Instagramにおいて多く投稿されている衣服ファッションを対象とした。そのうえで、調査を行う季節とファッション業界の流行を考慮した結果、ダウンジャケットを選定した。そして本研究では、異なる情報源(メガ・マイクロ)や適合性に関する仮説を検証するため、情報源間の適合性知覚の差異が少ないブランドを実験対象とする必要がある。そこで、大学生27名に対して事前調査を行った。調査協力者には、メガやマイクロの情報源特性に関わるプロフィールをそれぞれ読んでもらった後に、「このようなインフルエンサーが存在したら、以下にあげるファッションのブランドはそれぞれどの程度、相性がよいと思いますか?」と聴取して4段階尺度(とても相性がよい~まったく相性がよくない)で回答してもらった。提示したブランドは、ユニクロ・ZARA・ナノユニバース・アーバンリサーチ・ORCIVAL(オーシバル)の5つである。メガ・マイクロの情報源間での適合性知覚の差異がもっとも少なかったのはユニクロであった。加えて、メガとマイクロの間でも適合性知覚の差異に有意差はなかった。よって、本研究ではユニクロを具体的な分析対象とした。

4.2  実験デザインと手順

複数の情報源を対象としてスポンサーシップ開示の影響を検証したGiuffredi-Kahr et al.(2022)を参考として、提示シナリオの検討を行う。提示するシナリオの概要は、(1)架空のインフルエンサーのプロフィール文章を提示した後に、(2)そのインフルエンサーのフォロワー数やフォロー数などの情報を提示した。この情報源をイメージしてもらうことを依頼した後に、(3)被験者は、インフルエンサーがユニクロのダウンジャケットを着用した写真を含めたInstagram投稿を閲覧した。1人の対象者には1つのシナリオを提示する。このシナリオの中に、情報源特性(メガ・マイクロ)とスポンサーシップ開示の有無をコントロールした。一連のシナリオを読んでもらった後に、調査票への回答を依頼した。

まず、インフルエンサーのプロフィール文章について検討した。Giuffredi-Kahr et al.(2022)が用いたプロフィールに基づいて、メガ・マイクロそれぞれのプロフィールを作成した。メガはソーシャルメディアなどのインターネット上で有名で大規模なフォロワー数を保有していること、マイクロは地理的に限定されたインフルエンサーであることを示すことを意図した。次にフォロワー数は両者の差が明確となるように、Campbell and Farrel(2020)の定義に基づいて、メガは103万人、マイクロは4万人とした。提示内容は表1のとおりである2。投稿内容については、Instagram上にあるユニクロのダウンジャケットの投稿を10種類ほど確認した上で、Instagramの特性である情緒的な要素を含んだ写真画像を参考として、画像を作成した。提示する写真は、横浜のレンガ倉庫を背景として、ダウンジャケットを着た女性が歩いているシーンを撮影している。加えて、情緒的な要素をもたらすために、レンガ倉庫の背景にその女性の影が映りこむようにして、ダウンジャケットの姿と対比できるようにした。その際に、投稿者の外見に対する嗜好の差異が調査回答時のバイアスとならないように、顔は後ろ姿となるようにした。投稿に含めるテキスト情報は、「寒かったけど、ダウンであったかくウォーキング」とした。これは、テキスト情報が長文であると、調査回答者が投稿中に表示されるスポンサーシップ開示を見落とすことが懸念されるためである。このテキスト情報の下に、スポンサーシップ開示有りのグループの場合には「#ユニクロ #ダウンジャケット #ウォーキング #PR #プロモーション」などのハッシュタグを表示している。開示無しのグループの場合には、ハッシュタグは表示していない。

表1 提示したプロフィール情報

プロフィール文章 フォロワー数
メガ 「XXXX」は横浜出身の有名なインフルエンサーです。彼女はインスタグラムで写真と文章を用いた投稿を行っています。彼女は、インスタグラムでの活動で有名になりました。彼女には、世界中に100万人以上のフォロワーがいます。彼女のインスタグラムでは、主に日常生活の写真を見ることができます。趣味であるファッションや音楽や食の写真も多く投稿されています。 103万人
マイクロ 「XXXX」は横浜出身で、インスタグラムで写真と文章を用いた投稿を行っています。横浜近辺の数万人のフォロワーが投稿を見て、彼女の生活をフォローして、彼女の投稿を大切にしています。彼女のインスタグラムでは、主に日常生活の写真を見ることができます。趣味であるファッションや音楽や食の写真も多く投稿されています。 4万人

(出所)筆者作成。

最後に、その投稿が企業からの依頼を受けた商業的意図の含むものであったことを告げて、商業的意図が露見した状況を想定してもらった。いずれのシナリオにおいても、シナリオを閲覧したうえで、アンケート調査において広告認識や信頼性、スポンサーシップ開示の認知などの質問を聴取した後に、投稿に商業的意図が含まれていることを調査対象者に知らせた。具体的には、「さきほどご覧いただいたXXXX(架空の氏名)の投稿ですが、企業の依頼を受けて、金銭を供与してもらったうえで、投稿されていました」という文章を読んでもらい、調査対象者はその情景を想像してもらい、ブランドや情報源に対する態度悪化に関する質問を回答した。

4.3  調査サンプル

データ収集は、インターネットリサーチ会社に依頼して、対象者条件を絞り込むためのスクリーニング調査を行ったのちに、本調査を実施した。Boerman(2020)Giufredi-Kahr et al.(2022)に基づいて、Instagramを週1回以上利用している20代から40代までの女性を本調査の対象とした。調査は2023年3月に行われた。なお、検証指標であるブランド態度の悪化については、実験以前のブランド態度が影響することが想定されるために、スクリーニング調査においてユニクロのブランド態度(関心がある・自分に関連がある)を7段階尺度で聴取したうえで、ユニクロへの態度がグループ間で等しくなるようにして配信した。

調査回答者が、提示したシナリオ内容を理解したうえで回答したかを確認するために、質問の最後に提示した情報源がどの程度のフォロワー数であったかを回答してもらい、情報源で提示したフォロワー数の規模に合致しないサンプルは分析対象から除外した。このクリーニングの結果、全体で495名(平均37.2歳)が分析対象となった。内訳は、メガ・開示無しは116名、メガ・開示有りは135名、マイクロ・開示無しは127名、マイクロ・開示有りは117名である。

また、今回の分析対象の4つのグループ間の属性構成の比較を行ったが、年齢・居住エリア・ユニクロに対するブランド態度のいずれの指標もグループ間での統計的な有意差は確認されなかった。配信時のコントロールにより属性情報による影響がないことを確認したので、共変量などの設定は行わずに分析を行った。

4.4  聴取項目

本研究では、投稿の商業的意図が全面的に露見した場合の態度悪化を主な検証とする。ブランドに対する態度悪化については、“この商品に対する印象が非常に悪くなった”を用いた。情報源に対する態度悪化については、“この投稿を行ったインフルエンサーの印象が非常に悪くなった”を用いた。いずれの項目も、7件法による選択肢を設定した(とてもあてはまる~まったくあてはまらない)。分析対象データから、両指標の天井効果やフロア効果を確認した。ブランド態度悪化(M=4.075, SD=1.661)、情報源態度悪化(M=4.574, SD=1.619)のいずれの指標も該当しなかった。

仮説2で用いる適合性知覚は、De Cicco et al.(2021)を参考として、“インフルエンサーのプロフィール内容と、この投稿内容は一致していると思う”、“インフルエンサーのイメージと、紹介された商品のイメージは一致していると思う”の2つを聴取した。クロンバックαは0.87となり、十分な信頼性が確認されたため、この2つの項目から平均値を算出して分析に用いる。

5.  分析結果

5.1  スポンサーシップ開示と情報源に関する仮説の検証

分析対象データを用いて、2(情報源:メガ/マイクロ)×2(スポンサーシップ開示:SP開示有/SP開示無)の二元配置分散分析を行った。

まず、ブランド態度悪化に対する分析では、スポンサーシップ開示の主効果は有意でなかったものの(F(1,491)=1.809, p=.179, η2p=.004)、情報源とスポンサーシップ開示の交互作用効果は有意傾向であった(F(1,491)=2.958, p=.086, η2p=.006)。そこで、分析対象データをメガとマイクロの情報源で分割して、スポンサーシップ開示について分散分析を実施したところ(図2)、マイクロインフルエンサーにおいて、スポンサーシップ開示の主効果が有意となり(F(1,242)=4.824, p=.029, η2p=.020)、スポンサーシップ開示無しのグループ(M=4.29, SD=1.65)は、スポンサーシップ開示有りのグループ(M=3.83, SD=1.63)と比べて、ブランド態度の悪化が高かった。

図2 スポンサーシップ開示有無(ブランド態度悪化)

(出所)筆者作成。

次に、情報源に対する態度悪化について、ブランド態度悪化と同様の分散分析を行った。分析の結果、スポンサーシップ開示の主効果は有意でなかったものの(F(1,491)=0.660, p=.417, η2p=.001)、情報源とスポンサーシップ開示の交互作用効果は有意であった(F(1,491)=5.778, p=.016, η2p=.012)。そこで、分析対象データをメガとマイクロの情報源で分割して、スポンサーシップ開示について分散分析を実施したところ(図3)、マイクロインフルエンサーにおいて、スポンサーシップ開示の主効果が有意となり(F(1,242)=5.402, p=.021, η2p=.022)、スポンサーシップ開示無しのグループ(M=4.85, SD=1.58)は、スポンサーシップ開示有りのグループ(M=4.38, SD=1.55)と比べて、情報源に対する態度悪化が高かった。

図3 スポンサーシップ開示有無(情報源 態度悪化)

(出所)筆者作成。

以上の分析結果を踏まえると、仮説1-1は棄却されたが、仮説1-2は概ね支持された。スポンサーシップの開示による直接効果は、ブランド態度・情報源態度いずれにも確認することができなかったが、スポンサーシップ開示と情報源の交互作用効果は概ね確認された。メガインフルエンサーの場合には、スポンサーシップ開示の影響は確認できなかったが、マイクロインフルエンサーにおいて、スポンサーシップを開示することにより、態度悪化が抑制されることが確認された。以上の結果は、商業的意図が全面的に露見した場合、スポンサーシップ開示による効果は、情報源特性によって異なることを示唆している。商業的な投稿が想定されづらいマイクロインフルエンサーの場合には、露見した場合に、その反動によって態度悪化が顕著となるが、スポンサーシップを開示することで、態度悪化を緩和することが考えられる。

5.2  適合性に関する仮説の検証

適合性に関する仮説2についての分析を行う。2(情報源:メガ/マイクロ)×2(スポンサーシップ開示:SP開示有/SP開示無)×3(適合性:高中低)による三元配置分散分析を行った。まず、ブランド態度悪化に対する分析では、適合性の主効果が有意であったが(F(1,487)=20.639, p=.000, η2p=.040)、スポンサーシップ開示や情報源の主効果は有意ではなかった。また、情報源・スポンサーシップ開示・適合性の交互作用効果は有意でなかったものの(F(1,487)=0.224, p=.636, η2p=.000)、適合性とスポンサーシップ開示の交互作用効果は有意であり(F(1,487)=5.130, p=.024, η2p=.010)、情報源とスポンサーシップ開示の交互作用効果は有意傾向であった(F(1,487)=3.698, p=.055, η2p=.007)。次に、情報源に分割したうえで分散分析を行った。メガインフルエンサーでは、適合性の主効果のみが有意となり(F(1,247)=15.217, p=.000, η2p=.058)、適合性が低ければスポンサーシップ開示に関係なく、ブランド態度の悪化は高くなる傾向である(図4)。マイクロインフルエンサーでは、適合性の主効果(F(1,240)=6.679, p=.001, η2p=.026)やスポンサーシップ開示の主効果(F(1,240)=4.998, p=.026, η2p=.020)、適合性とスポンサーシップ開示の交互作用効果(F(1,240)=4.009, p=.046, η2p=.016)いずれも有意であった。図4のように、マイクロインフルエンサーでは、スポンサーシップ開示有の場合、適合性の高低による差異はないが、スポンサーシップ開示無の場合には、適合性が低くなると、ブランド態度悪化が高くなる傾向にある。

図4 適合性高中低別 スポンサーシップ開示有無(ブランド態度悪化)

(出所)筆者作成。

情報源に対する態度悪化に関する分析では、適合性の主効果が有意であったが(F(1,487)=23.756, p=.000, η2p=.046)、スポンサーシップ開示や情報源の主効果は有意ではなかった。適合性が低ければ情報源に対する態度も悪化する傾向である(図5)。情報源・スポンサーシップ開示・適合性の交互作用効果は有意でなかったものの(F(1,487)=0.493, p=.483, η2p=.001)、情報源とスポンサーシップ開示の交互作用効果は有意であった(F(1,487)=6.938, p=.009, η2p=.013)。そして、マイクロインフルエンサーにおいて、スポンサーシップ開示無の場合に、情報源に対する態度が悪化する傾向がある。以上の分析結果を踏まえると、仮説2-1は棄却され、仮説2-2は支持された。マイクロインフルエンサーにおいて、適合性知覚が低くスポンサーシップ開示が無ければ、ブランドや情報源に対する態度悪化が高まる傾向にある。

図5 適合性高中低別 スポンサーシップ開示有無(情報源態度悪化)

(出所)筆者作成。

6.  考察と示唆

6.1  考察

成長が続くインフルエンサーマーケティングにおいて、商業的意図が含まれる投稿に対して透明性をいかに示していくかが重要である。我が国でも法的な規制が導入されたことによって、投稿内にスポンサーシップ開示を行うことが厳密に求められている。本研究では、先行研究で取り組まれていなかった商業的意図が全面的に露見した場合におけるスポンサーシップ開示の効果に関して、情報源や適合性に着目したうえで検証した。

本研究で明らかにしたことは主に以下2点である。第一に、商業的意図が全面的に露見した場合におけるスポンサーシップ開示の効果である。マイクロインフルエンサーにおいて、スポンサーシップを開示することによって、ブランドや情報源に対する態度悪化は抑制されることが示された。投稿の商業的意図が全面的に露見した場合には、開示をしていない場合には態度悪化が顕著となるが、開示をすることにより態度悪化は緩和される。一方で、メガインフルエンサーではその効果は確認できなかった。これは、Boerman(2020)が指摘するように、インフルエンサー投稿においてフォロワーの説得知識を高める要因は、スポンサーシップ開示だけではなく、情報源特性も含まれるためと考えられる。商業的な投稿を行わないと類推されやすいマイクロインフルエンサーでは、フォロワーの説得的な期待が少ないために、全面的に露見した場合の反動が大きいと想定される。

第二に、インフルエンサー投稿における適合性の重要性である。スポンサーシップ開示に関わらず、適合性知覚が低ければ、ブランドや情報源に対する態度悪化は高くなることが示された。加えてマイクロインフルエンサーにおいて、スポンサーシップ開示を行った場合、適合性の高低に関わらず態度悪化の水準に差異はなかったが、開示を行わない場合には適合性知覚が低ければ態度悪化が顕著となることが明らかとなった。つまり、スポンサーシップを開示することによって、商業的意図が露見した場合でも態度悪化を抑制できると考えられる。

6.2  示唆

学術的示唆は以下2点である。第一に、商業的意図が全面的に露見した場合におけるスポンサーシップ開示の効果を明らかにしたことである。先行研究では、スポンサーシップ開示の影響についてブランド態度や情報源態度、購買意向などの指標が主に用いられてきた。このため、調査対象者によりインフルエンサーマーケティングや開示形式に対する認識が異なることで、検証結果の妥当性を問題視した。また、消費者に対して透明性を担保する機能を持つスポンサーシップ開示のポジティブな効果を明示する必要性もある。本研究では、実際の炎上事例による影響を考慮して、調査対象者に対してインフルエンサー投稿に含まれる商業的意図が全面的に露見したシナリオを明示的に組み込んで検証した。そして分析の結果、スポンサーシップ開示によって態度悪化を抑制することを示すことができたことに意義がある。第二に、情報源特性と適合性に着目した点である。先行研究では、スポンサーシップ開示と適合性に関して検証されていたが(De Cicco et al., 2021Kim & Kim, 2021)、情報源特性の差異は検証されていなかった。本研究では、メガインフルエンサーとマイクロインフルエンサーを対象として、スポンサーシップ開示の影響に対する適合性の調整効果が、情報源によって異なる可能性を示唆した。インフルエンサー投稿に対する消費者の説得知識は、情報源特性や投稿内容によっても醸成されるため、スポンサーシップを開示することによる効果も異なることが考えられる。

実務的示唆として以下2点がある。第一に、企業が行うインフルエンサーの選定やガイドがあげられる。インフルエンサーマーケティングを行う企業は、どのような情報源をシード(Seeds)とするかの検討が求められる(水野他, 2022)。そして、選定したインフルエンサーに対してどのような投稿を依頼するかのガイドも求められる。分析結果に基づくと、インフルエンサーのプロフィールと推奨する製品の間の適合性が低ければ、ブランドや情報源に対するネガティブな影響も懸念される。また、マイクロインフルエンサーの場合において、適合性やスポンサーシップ開示の影響は大きいため、どのインフルエンサーに依頼すべきかの精査が必要である。仮に、製品との適合性が低く、スポンサーシップ開示の認識が薄いインフルエンサーに依頼した場合には、炎上によるフォロワーの態度悪化が懸念される。このため、プロフィールや過去の投稿内容と適合性が担保することができ、開示に対する倫理観を持ったインフルエンサーへの依頼を行う必要性がある。第二に、スポンサーシップ開示の正の影響を示したことである。これまでの研究では、開示によって広告認識が高まりブランド態度や購買にネガティブな影響を及ぼすことが示されてきた。インフルエンサーマーケティングの透明性を示すという消費者保護の視点に立てば、スポンサーシップ開示による正の効果を明らかとしたことで、開示ルールの徹底を促すことができるであろう。

6.3  課題と限界

本研究の課題と限界は以下2点があげられる。第一に、メガインフルエンサーに関する検証が不十分なことである。マイクロインフルエンサーと比べると、メガインフルエンサーでは、スポンサーシップ開示の効果は確認できなかった。この原因として、広告認識や不信感などの説得知識に関する要因が媒介している可能性がある。例えば、スポンサーシップ開示が態度悪化に及ぼす影響において、説得知識が媒介要因として作用することで、そのメカニズムも解明できる可能性もある。本研究では、説得知識などの媒介要因を対象としていないことが本研究の限界としてあげられる。第二に、適合性の指標についてである。本研究では、フォロワーがどの程度情報源プロフィールと投稿内容に適合性を知覚したかを用いた。そして、事前調査を行って、それぞれの情報源特性に対する製品の適合性を、複数のファッションブランドの中から確認して、対象ブランドを選定したうえで、適合性がインフルエンサーマーケティングの効果を規定する要因であることを示唆した。しかしながら、De Cicco et al.(2021)Kim and Kim(2021)のように、実験に用いる素材を適合性の高低で区別していないため、適合性の影響について、その他の攪乱要因が作用している懸念もある。今後は、実験素材について適合性の度合いで明確に区別したうえで検証することが求められる。

1  消費者庁では、広告であるにもかかわらず広告であることを隠す、いわゆる「ステルスマーケティング」を規制するために、景品表示法5条3号に基づき、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を新たな不当表示として加えることとなった。この規制は2023年10月1日より施行されており、消費者庁ならびに関係団体のほうでガイドラインを策定して、運用基準が定められている。(消費者庁:https://www.advertimes.com/20231204/article440236/

2  プロフィール文章の「XXXX」には女性の氏名が入っている。この氏名の検討は、調査回答時のバイアスとならないように、実在するインフルエンサーは存在しないことをInstagramの検索結果から確認したうえで用いている。

参考文献
 
© 2025 法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
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