イノベーション・マネジメント
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論文
女性起業家育成における伴走サークル型支援プログラムの効果検証
―ネットワーク形成とロールモデル効果に着目したアクションリサーチから―
姜 理惠戸田 江里子
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2025 年 22 巻 p. 81-99

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要旨

本研究は、従来の座学中心の女性起業家支援プログラムの限界を克服するため、「伴走サークル型支援プログラム」という新しいアプローチを提案・実施し、その効果を検証した。特に、帝国データバンク(2023)の調査で日本の女性経営者比率が全国平均(8.3%)を下回る北陸地方(7%)において、ネットワーク形成とロールモデル効果の観点から、女性起業家の成長促進要因を実証的に明らかにすることを目的とする。

同プログラムは、座学とイベント出店や異業種交流会参加といったビジネス実践体験教育を取り入れた点が特徴の起業家支援プログラムである。このプログラム参加者を研究対象とし、2022、2023年度参加者88名のうち45名と、メンター2名に対して期中の参与観察と約3ヶ月後に定性調査を実施した。結果、「自発的・中期的なネットワークの形成」、「ロールモデル効果」が機能し、女性特有のキャリア中断やビジネス経験の不足を補って、プログラム終了後の自発的な起業家行動と継続へ繋がったことが明示された。結論として、ネットワーク理論の「弱い紐帯の強み」を生成し、ロールモデル効果を併用した「伴走サークル型支援」が、女性起業家育成に資する可能性を発見した。本研究の新規性は、①実践的な体験学習の効果の実証、②メンターによる伴走支援の効果の実証、③参加者間の相互学習を統合した支援モデルを提示する、の3点である。

Abstract

In order to overcome the limitations of conventional classroom-based support programs for women entrepreneurs, this study proposes and implements a new “accompanying group-type support program” approach and verifies its effectiveness. Our aim is to empirically clarify the factors that promote the growth of women entrepreneurs from the perspective of network formation and the role model effect in the Hokuriku region, where the ratio of female business owners (7%) is lower than the national average (8.3%), according to a survey by Teikoku Databank (2023).

This is an entrepreneur support program characterized by its incorporation of practical business education, such as participation in classroom lectures, industry fair exhibits and cross-industry networking events. We conducted participant observation during the program and a qualitative survey approximately three months later with 45 of the 88 participants from the 2022 and 2023 programs and two mentors. The results clearly showed that the “formation of voluntary, medium-term networks” and “role model effect” compensated for the career interruptions and lack of business experience that affect women, and led to self-starting entrepreneurial behavior and its continuation after the program. In conclusion, we found that “accompanying group-type support” generates the “strength of weak ties” as predicted by network theory and, applied in combination with the role model effect, has the potential to contribute to the development of women entrepreneurs.

The novelty of this research is that it (1) demonstrates the effectiveness of practical experiential learning, (2) demonstrates the effectiveness of accompanying group support by mentors, and (3) presents a support model that integrates mutual learning among participants.

1.  はじめに

「少産少死」型と高橋(2014)が定義したように、数は少ないが成功率は比較的高い国内の女性起業家を支援する取り組みが拡大している。本研究は、女性起業志願者を対象に「伴走サークル型支援プログラム」を提供、プログラムを通じた参加者の変化をもとに、女性起業家が成長するに必要な要因を探るアクションリサーチである。起業志願者にとって「ロールモデルの不在」が成長阻害要因の一つであることに着目し、プログラム参加中の体験を通じて生まれた新しいつながりとロールモデル効果が、参加者にどのような影響をもたらすかを考える。

Elam et al.(2019)によると、世界には2億5,000万人以上の女性起業家が存在し、その数は継続的に増加し続けているとしたが、Global Entrepreneurship Monitor(以下、GEM)(2022)は2021年のデータとして、COVID-19の影響で男女ともに世界全体で起業率が激減した中、女性の事業撤退率は男性と比較して非常に高いことを指摘し、女性起業家への支援の必要性を提唱した。

日本国内では主に地方自治体が女性起業家育成・支援を担う。内閣府男女共同参画局(2017–2018)によると、2017年度に女性向け起業支援を行った自治体は543箇所、その支援の内訳はビジネスの基本的な知識・技術支援は319件、起業に関する申請や相談支援は281件、意見交換会や情報交流会の提供は283件、融資相談は87件であり、座学が中心であった。

こうした座学中心の支援は、キャリアに断絶が多く、ビジネス経験に偏りや欠如が多い女性には成果が上がりにくいと考えた筆者らは、「伴走サークル型支援」という相方向型のグループ学習と実践プロジェクトを取り入れたプログラムを、女性起業家比率が日本の平均8.3%より低い7%前後(帝国データバンク, 2023)である北陸地方の都市、石川県金沢市及び福井県鯖江市において実施し、その効果を探索するアクションリサーチに着手した。

ライフプランの変化、キャリアの中断などを経て起業を志願する女性に対しての起業家教育は男性向けの支援や教育とは異なるアプローチが必要であるのは自明ながら本テーマに関する研究は、これまで不足してきた。本研究は、日本国内の女性キャリアの実態に即した女性起業家育成・支援のあり方に貢献する知見を探索する研究を目指す。

2.  先行研究

2.1  女性起業家育成について

近年の女性起業家数の増加に伴い、その研究は2007年以降に劇的に拡大している。たとえばScopusのデータベース検索では、2007年には43件、毎年拡大を続け2023年には641本の論文が発表されており、Elam et al.(2019)は女性起業家の数は増加傾向にあることを示し、それに伴い研究課題への関心が高まっていると考える。女性の起業家教育は中高生、MBA取得者、社会人など、さまざまなキャリアの段階にある女性の自己効力感にプラスの影響を与えることがWilson et al.(2009)により明らかとなり、Gielnik et al.(2020)は起業志望者が示す自己効力感の変動は、起業意図の実現を支援し、事業化に影響を与えると主張した。Shinner et al.(2014)は起業家精神育成プログラムが女性に効果的に届いていない可能性があり、効果的なプログラム、ロールモデル、メンターの必要性を提唱した。

GEM(2023)の調査結果によると、失敗を恐れて起業しない女性の割合は男性よりも高く、そのため女性起業家に対するさらなる社会的支援が必要であると指摘している。Kawai and Kazumi(2021)は、日本において公共政策における女性起業家の現状に即した支援の必要性を示した。Somià(2023)は女性の起業におけるジェンダー障壁を取り除くために、体験型起業家育成プログラムやコーチングによる起業についての能力の育成が寄与するとし、Mathur and Phillips(2024)は、起業を目指す女性に失敗の恐怖を与えているのはジェンダーが大きく関連しており、女性向け起業家教育の必要性を提唱した。先行研究により、女性起業家育成に関する課題が指摘される中、本研究では、男性起業家とは違う女性のネットワークとロールモデルの2点について注目する。

2.2  女性起業家育成におけるネットワークの必要性

Granovetter(1974, 1985)は、家族のような強いつながりよりも、知り合いの知り合いといったつながりがコミュニティの橋渡しとなり、結果として幅広い選択肢を得ることができることを「弱い紐帯の強さ」として示したことで知られており、加えて経済活動における社会的ネットワークや人間関係の重要性を指摘した。起業行動と紐帯に関連した研究において、Davidsson and Honing(2003)は、弱い紐帯に基づく架け橋的なネットワークは、創業への準備をさらに進めるための予測因子(手がかりになる要因の一つ)であることを明らかにした。金井(2009)は、弱い紐帯から中程度の紐帯ネットワークへの転化と活性化の必要性を主張、西口(2007)は、ネットワークのつながり方に言及し、レギュラーな「近所づきあい」の土台のうえに、適度のランダム性を持ってなされる「遠距離交際」から生まれる「スモールワールド・ネットワーク」がよい結果をもたらすと指摘した。ネットワークを取り巻く人物について村上(2011)は、起業志望者にとって血縁者よりも開業者の能力を見極めた上で支援する度合いが強い、元の勤務先や知人や友人など非公式なネットワークとの関係構築が必要であると提唱した。

男女のネットワークの相違について、Foss(2010)は男性起業家と女性起業家のネットワーク行動に大きな違いはないと示している。一方でBogren et al.(2013)は起業家支援の政策立案者が女性起業家ネットワークの場を促進することが、彼女たちの成長に寄与すると提唱した。ネットワークの地域特性について、Ribeiro et al.(2021)はジェンダーによる制約が大きい地域、Bastian et al.(2023)は集団主義的文化規範が強い地域においては弱い紐帯よりも、強い紐帯に依存していると指摘した。また、近年はソーシャルメディアやオンラインツールの普及により、女性や若い経営者ほどオンラインのみのアドバイザーを活用する傾向がありKuhn et al.(2016)により弱いつながりが有用であることが示唆されている。これらの研究により、ネットワークの存在は女性起業家育成の重要な要因であると考える。

2.3  女性起業家とロールモデル

Shapiro et al.(1978)によると、多くの定義ではロールモデルとは考えや行動の規範となる人物を指す。女性起業家研究においてはロールモデルの不在が起業への阻害要因の一つであり、ロールモデルの必要性が提唱されている。Gibson(2004)とNaura and Kokaly(2001)はロールモデルの役割に関して、着想のヒントを与えること及び動機付け(人々の意識を喚起し行動を開始させる気にさせる)、自己効力感の向上(自分も目標を達成できると自信を持たせる)、規範による学習(行動の手本の提示)、支援による学習(助言や支援の提供)といった4点を示した。またMorgenroth et al.(2015)はロールモデルは傑出した人物である必要はなく、Greene, Han and Marlow(2011)の研究は娘が生まれた時に母親が自営業者であった場合、娘も自営業者になる可能性が高いことを明らかにした。しかしながら日本において総務省統計局(1997)によると1997年の働く女性の中で自営業者の割合は8.4%であり、1997年に生まれた現在27歳の女性が、母親をロールモデルとして起業する割合は極めて低いと推測される。高橋(2014)はGEMのデータセットをもとに、日本における女性のロールモデル指数を含めた起業態度は4段階中、最低の「0」の割合は82.6%で、他国(米国58.6%、フランス65.4%など)に比べて圧倒的に起業態度が低いことを示し、日本における女性の起業活動の低迷と、起業関心層を増やす必要性を指摘した。

以上の先行研究による考察から、ネットワークの形成とロールモデルの存在は起業家育成に不可欠であると考える。本研究では、伴走サークル型プログラムを通じて、弱い紐帯のネットワークがどのように作用し、ロールモデルがどのような役割を果たして参加者に変化をもたらしたかを分析、結果をもとに考察する。

3.  リサーチクエスチョン

本研究は、メインリサーチクエスチョンとサブリサーチクエスチョン2つを設定した。メインリサーチクエスチョン(以下、MRQ)は「伴走サークル型支援が女性起業家の起業家的行動(entrepreneurial behavior)を促進する要因は何か」とする。サブリサーチクエスチョン1(以下、SRQ1)は「起業家育成プログラムにおける弱い紐帯(weak ties)の作用メカニズムはどのようなものか」、サブリサーチクエスチョン2(以下、SRQ2)は「起業家育成プログラムにおけるロールモデル効果とはどのようなものか」とする。

4.  研究手法

4.1  研究の目的と理論的フレームワーク

本研究では、日本の北陸地方の2つの都市、金沢市と鯖江市が主催し、筆者が所属する大学の研究室が伴走サークル型の女性起業家支援プログラムを提供するアクションリサーチの実施を通じて、参加者の意識や行動の変化とその要因を明らかにする。この研究結果をもとに、女性起業家育成に資する教育プログラムと支援とは何かという問いに対し、ネットワーク形成とロールモデル効果の相互作用メカニズムに着目し、その効果を実証的に検証して解を探る。

本研究の理論的フレームワークは、主に3つの理論的基盤に基づいて構築される。第一に、Granovetter(1973)が提唱したネットワーク理論における「弱い紐帯の強み」や「構造的空隙の架橋機能」である。第二に、Bandura(1977)の社会的学習理論に基づき、ロールモデルを通じた自己効力感の向上を重視する。そして第三に、Sarasvathy(2001)のエフェクチュエーション理論における実践的学習を通じた起業家的行動の促進に着目する。これらの理論的視座を統合することにより、女性起業家特有の成長プロセスを説明する新たな理論的枠組みを提示することを目指す。

4.2  アクションリサーチについて

本研究で実施したアクションリサーチとは、Kemmis and McTaggart(2000)によると研究者自らが、現場で活動に参加し、実践しながら研究を行う手法であり、実行の結果を観察し、収集されたデータを分析・評価を行い、次の改善のステップにつながる研究アプローチである。参加型で協働的であり、現場における課題解決を通じて知識と実践を結びつけることを目指すことからStringer(2007)は「現場と学術の架け橋」となることが研究成果として期待されると示している。Reason and Bradbury(2008)は、現場での課題解決における協働的なプロセスの重要性を、Coghlan and Brannick(n.d.)はリサーチの結果は単なる問題解決だけでなく実践者の自己理解やスキル向上にも寄与するものであると提唱している。

4.3  伴走サークル型支援プログラムについて

今回のプログラムは、地方自治体が主催、筆者らが所属する研究室が内容を構築、運営を行った。Raposo and Paço(2011)は、起業家育成支援策において情報伝達型学習だけでなく小集団学習法(例えばチーム学習、仲間との交流、カウンセリング)に目をむける必要性を示した。鹿住(2023)は、日本において起業を志す女性に寄り添い、継続してメンタリングを行う内容は少なく、公的機関では、起業希望の女性がどこにいるかわからない、支援ニーズが不明であるという課題を抱えていると指摘した。女性は家庭の事情によるキャリアの中断、周囲にロールモデルや相談できる人が不在である等、そのバックグラウンドや環境は多様である。伴走サークル型支援は、これまでの起業家教育研究をもとに参加者自身が自ら考え行動することを促し、参加同士のコミュニティが自律的に成長していくことを目指したプログラムである。調査対象のプログラムは2022年および2023年の8月から12月まで各年4ヶ月間にわたり実施された。表1は「伴走サークル型支援プログラム」カリキュラムの概要である。

表1 伴走サークル型支援プログラム カリキュラム概要

内容 カリキュラム 参加形式 実施日程
ワークショップ
1回目
ガイダンス、講義、グループディスカッション(自己紹介など)、メンターからのアドバイス 対面
180分
2022年8月27日金沢、8月28日鯖江
2023年9月2日鯖江、9月3日金沢
ワークショップ
2回目
講義、事業計画についてグループディスカッション、メンターからのアドバイス 対面
180分
2022年9月24日金沢、9月25日鯖江
2023年9月23日鯖江、9月24日金沢
ワークショップ
3回目
講義、事業計画についてグループディスカッション、メンターからのアドバイス 対面
180分
2022年10月29日金沢、10月30日鯖江
2023年10月28日鯖江、10月30日金沢
ワークショップ
4回目
事業計画プレゼンテーション、講評 対面
180分
2022年11月26日金沢、11月27日鯖江
2023年11月25日鯖江、11月26日金沢
商談・販路開拓実習 企業同士のビジネスマッチングイベント。プレゼンテーションおよびブース出店。場所はANAクラウンプラザホテル。 オプション参加 2022年11月17–18日
2023年11月9–10日
出店実習 金沢駅地下もてなし広場で開催の出店イベント。2日間の来客数は2022年は1万人、2023年は1万5000人。 オプション参加 2022年12月23–24日
2023年12月16–17日
SNS 各グループ毎の情報交換、進捗共有、メンタリング オンライン 随時
オンライン 事務局からのサポートSNSの利用方法の個別レクチャー、プレゼンテーション資料作成アドバイスなど オンライン 随時

(出所)実施プログラムの結果をもとに筆者作成。

プログラムは、参加者の自発的行動を促すことを重視し運営された。これは講師から起業に関するノウハウを参加者に与える形、お膳立てされたイベントでの体験は、他者への依存度が高まりその後の成果につながらないことも多い、といった運営側の過去の経験からの学びに起因する。イベントでの体験も、マニュアルなどが存在したわけではなく、参加者自らが設定した目標や準備に対して、起業経験者である講師やメンターが、助言をする形をとり、結果としてそれが参加者同士の連帯感、助け合いを促すこととなった。

体験イベントの場となった「金沢クリスマスマーケット」は、筆者らが、地元企業や店舗の活性化、および起業家育成の体験プログラムの場として提案し、実現させたイベントである。この試みは2022年の初年度は1万人の動員、およびイベント全体で700万円の売上という成果があり、2023年12月に規模を拡大して第2回を実施、2024年12月にも実施が予定されている。また、2023年には当該プログラムは定員を超える応募があり、日本最大級の規模に発展した。

4.4  調査対象者

調査対象者は表2の通りである。2022年及び2023年に実施されたプログラムの参加者88名中、45名と2名のメンターである。対象者には調査内容に関しての同意を得て、インタビューを実施した。なお、今回の研究目的はプログラム参加者の起業家的行動につながる要因を明らかにすることとし、プログラムを途中で離脱した者についての調査と考察は、今後の研究課題としたい。

表2 インタビュー調査対象者

コード 年代 起業したい業種 参加時の状況 参加後の状況 参加年度
1 A 50代 農業 開業済み 事業拡大準備中 2022金沢
2 B 30代 製造・販売 パート勤務 開業準備中 2022金沢
3 C 40代 サービス 開業準備中 開業 2022金沢
4 D 30代 農業 開業済み 事業拡大準備中 2022金沢
5 E 50代 製造・販売 開業準備中 開業準備中 2022金沢
6 F 40代 サービス 開業済み 事業拡大準備中 2022金沢
7 G 40代 サービス 開業済み 事業拡大準備中 2022金沢
8 H 40代 サービス 正社員勤務 社内起業準備中 2022金沢
9 I 50代 サービス・販売 開業済み 法人設立準備中 2022金沢
10 J 30代 サービス 法人代表 事業拡大準備中 2022金沢
11 K 40代 製造・販売 パート勤務 事業計画見直し中 2022金沢
12 L 30代 製造・販売 開業済み 事業計画見直し中 2022金沢
13 M 30代 サービス 正社員勤務 開業準備中 2022金沢
14 N 50代 サービス 開業済み 事業計画見直し中 2022金沢
15 O 30代 サービス 正社員勤務 法人設立(副業) 2022金沢
16 P 50代 サービス・販売 法人設立済み 事業拡大準備中 2022鯖江
17 Q 40代 サービス 正社員勤務 法人設立・資金調達 2022鯖江
18 R 30代 製造・販売 開業済み 事業拡大準備中 2022鯖江
19 S 30代 サービス 開業済み 事業拡大準備中 2022鯖江
20 T 50代 サービス 家業手伝い 開業準備中 2022鯖江
21 U 40代 サービス 開業準備中 開業 2022鯖江
22 V 40代 サービス パート勤務 開業準備中 2022鯖江
23 W 30代 サービス 正社員勤務 社内起業準備中 2023金沢
24 X 40代 サービス 正社員勤務 開業準備中 2023金沢
25 Y 40代 飲食 開業準備中 店舗開業 2023金沢
26 Z 40代 サービス 正社員勤務 社内起業準備中 2023金沢
27 AA 30代 サービス 開業準備中 事業拡大中 2023金沢
28 AB 50代 サービス 開業準備中 法人設立 2023金沢
29 AC 40代 サービス 正社員勤務 事業拡大中 2023金沢
30 AD 50代 サービス・販売 開業済み 社内で新規事業展開中 2023金沢
31 AE 50代 サービス フリーランス 法人設立準備中 2023金沢
32 AF 30代 サービス 法人代表 事業拡大準備中 2023金沢
33 AG 40代 サービス 個人事業主 法人設立準備中 2023金沢
34 AH 30代 製造・販売 法人代表 新規事業準備中 2023金沢
35 AI 30代 サービス 正社員勤務 社内起業準備中 2023金沢
36 AJ 50代 サービス 正社員勤務 社内起業準備中 2023金沢
37 AK 40代 サービス 法人代表 事業拡大準備中 2023金沢
38 AL 40代 サービス 法人役員 事業拡大中 2023鯖江
39 AM 40代 サービス 個人事業主 事業拡大中 2023鯖江
40 AN 60代 サービス・販売 家業手伝い 事業拡大準備中 2023鯖江
41 AO 50代 サービス 個人事業主 事業拡大準備中 2023鯖江
42 AP 40代 サービス 開業準備中 事業開始 2023鯖江
43 AQ 50代 サービス 開業準備中 事業開始 2023鯖江
44 AR 40代 サービス 個人事業主 事業拡大中 2023鯖江
45 AS 40代 サービス 正社員勤務 開業準備中 2023鯖江
46 AT 40代 コンサルティング メンター
47 AU 40代 サービス メンター

(出所)インタビュー調査結果をもとに筆者作成。

4.5  インタビュー調査概要

インタビュー調査概要は表3の通りである。プログラム終了3ヶ月後にオンラインによる半構造化インタビューを実施した、主な質問は、プログラムに参加した感想、受講後の自身の意識や行動の変化についてである。あらかじめ用意した質問を参加者に投げ自由に回答してもらい、それを掘り下げる形でデータを得た。インタビュー内容は、調査参加者の同意を得て録音と録画をした。

表3 インタビュー概要

項目 詳細
方法 半構造化インタビュー、オンライン
時間 一人あたり30から40分
対象者 プログラム参加者45名とメンター2名
期間 2023年3月~4月、2024年4月~5月

(出所)インタビュー調査結果をもとに筆者作成。

4.6  分析方法

本研究では、質的研究の質の保証のため、次のような体系的な分析手順を採用した。まず、データ収集においては、60–90分の半構造化インタビューを実施するとともに、フィールドノーツの継続的な記録とプログラム実施中の参与観察データを収集した。

分析手法としては、Braun and Clarke(2006)のテーマ分析を採用し、5段階のプロセスで実施した。プログラムへの参加を通じて得た、起業についての思い、気づき、行動の変化についての語りから繰り返されるパターンを明らかにする必要があるため、テーマ分析が適すると考えた。

第1段階ではデータの熟読と初期コードの生成を行い、第2段階ではそれらのコード間の関係性を分析した。第3段階では潜在的なテーマを特定し、第4段階でそれらのテーマの検証と精緻化を行った。最終の第5段階では、テーマの定義づけと命名を実施した。

また、分析の信頼性確保については、1)複数の研究者による独立したコーディングを実施、2)一部参加者によるチェック、3)分析プロセスの詳細な記録を残した。

5.  結果

分析の結果、「弱い紐帯をきっかけに形成された中期的ネットワーク」、「強い紐帯とは距離を置くつながり」、「顧客とのつながり」、「起業経験者メンターによるロールモデル効果」、「仲間のロールモデル効果」の5つのテーマが生成された。これらのテーマが、プログラム終了後の起業活動に大きく影響していることが明らかとなった。以下、各テーマについて説明とデータ例を記述する。

5.1  テーマ1:弱い紐帯をきっかけに形成された中期的ネットワーク

参加者同士は、対面でのディスカッションや、イベントでの共同作業を通じて、相互交流や仲間意識を創出していた。プログラム期間中はコミュニケーションツールslack上に情報交換の場を設け、随時情報交換を行なった。お互いに足りないスキルをカバーしあったり、行動に刺激を受けたことを通じ、継続したつながりを持ちたいという関係性が構築された。あるグループでは、自主的にメンターを招いての食事会を開催した。巷のご近所の女性グループに見られるような、馴れ合いや愚痴の言い合いになるような雰囲気を避けよう、前向きなプログラムにしようという、自発的にコミュニティの紐帯を有意義にしようという行動も見られた。参加者同士の自発的なつながりは、プログラム終了後2年を経過した2024年の現在も続いている。

O:私が欠席せざるを得なかった回があって、その時におさらいみたいな感じで

「今日こういうのをやったよ」みたいに教えてくださった方がいて、二人はクリスマスマーケットでも、ご一緒させていただいて…そういったチームとしてのやりとりがあったりだとか、たまに今でも、「近況どうですか」みたいな感じで連絡をいただいたりして、すごく温かい方たちです。

I:メンバーの方から、一回ちょっとあの集まりませんかみたいな話があって、…どうしようかなと思ってて。仲の良いGさんとかに、ちょっとマイナスな雰囲気が出たら、「いや、でもそうは言ってもこうじゃん」ってプラスの発言をしていこうね、みたいな打ち合わせをしてたんですけど。

Q:きっと、このネタで何年も、みんなで飲めるんだろうなと思います。

メンターも参加者たちと同じ感想を持っていた。

ATメンター:クリスマスマーケットで感じたのは、目的意識が明確で期日があるものは、チームワークや共同という意識をつくるにあたっては、非常に効果的であるということを感じました。

5.2  テーマ2:強い紐帯とは距離を置くつながり

ほとんどの参加者は、ファミリービジネスのつながりで入会した地元の商工会議所やオーナーの妻のコミュニティ、自身のスキルを習得するために通ったスクール講師、現在の仕事でのつながりなど、すでに他の強い部類のつながりを持っていた。プログラムの参加による、全く異業種、初対面の参加者との交流は刺激的で、自身の経営資源を客観的に認識する機会をもたらした。

F:夫が事業をしているので商工会議所には入っていて…そこに所属するとしがらみが。

B:それぞれ業種が違うので…出会いは、よかったなと思います。

しかし一方で、参加者の中には、強い紐帯を優先し、プログラムの途中でドロップアウトした者もいた。

H:知人の誘いで参加したYさんは、「自分でお商売をするのは嫌…お金に関してリスクを負うのは嫌、大切なのは家族」との理由で、ドロップアウトしました。

5.3  テーマ3:顧客とのつながり

プログラムの運営側は、参加者に顧客との接点を多く持ってもらう機会の提供を行った。イベントでのプレゼンテーションの反応、マーケットでの売上金額といった数値で示された内容、商談の結果などが、起業家的行動に反映されていた。

A:今までで一番売り上げが上がりました。…ただパッキングとかもやっぱりクリスマスっぽいものにしないと食いつきが悪かったりとか、ディスプレイとかもちょっとクリスマスっぽいものにしないとやっぱりダメなんだなっていうのが勉強になりましたね。

F:12月もおむすびで出たんですよ。あのゼリーも売ったんですけど、ゼリーを完全予約制にして、おむすびを普通に売ったんですよね。そのクリスマスマーケットの時もやっぱりおむすびすごい売れたんです。

G:まあ自分が慣れてなかったことから、ちょっと思うように準備、お菓子の量を準備できなかったていうのがあったんですけど、それでも全部売り切れて、…それでなんとか10万円だったかな…それはまあ自分の力じゃなくて、クリスマスマーケットがすごい集客力あったっていうのが、すごくありがたいなって思います。

R:クリスマスっていう時期だったので皆さんの財布の紐がちょっと緩いっていうか。欲しいから買うっていう人ももいたし、プレゼントにって選ばれていく方とか、彼が彼女に何か探しているとかが多くて、合計20万は行かなかったんですけど、19万8000円とか、それくらいはもらえたんで。

K:イベントに出店してたんですけど、イベントのお客さんの入りにだいぶ左右される。天候とかですかね。で、それでまあ、あのなんだろ、最初に決めた予算からしたらマイナスで今終わっているんですけど。

AP:先月、ちょうどプレゼンの時に聞きに来てくださった方が、商品がすごい可愛かったからって言ってくださって、娘さんの結婚式のお引き出物にオーダーいただいて。

プログラム参加者はビジネスマッチングイベントやクリスマスマーケットの準備のために、法人の担当者との交渉を行う機会があった。プログラム参加者の多くは個人顧客を対象とした事業を計画していたが、イベントでの出会いがきっかけで、法人とビジネス契約に至った事例も見られた。

A:マッチングイベントの方は、ちょっと畑違いだったかなって思いながらいたんですよ。…そこで化粧品を作ってる会社の方と知り合って、キノコの成分を使って化粧品を作るっていうので、今試作をお願いしています。

C:あの、本当に初めて社長さまのところにお電話して、アポをとって、ご提案をさせていただいて、ということを一人で全てするということが初めてだったので、本当に貴重な体験になりましたし、そこからその社長さまと違うご縁で繋がったことがありました。本当にすごく緊張したんですけれども。

I:クリスマスマーケットに関して、いろいろ動いたコリアンタウン、…韓国系の会社にアポをとって、協賛もいただいた。…提携いただいたっていうことの体験が大きいです。

O:大きい企業さんが来られてるので、なかなか個人とマッチングは難しくはあったんですけど、たまたまマッチングハブを観に来られたお客さんが、その方が四人くらいで里芋の収穫体験してくださったっていう、ラッキー。

Q:借りる事務所なんですけど、それもクリスマスマーケットで、商品を販売させていただいた会社さんの倉庫なんですよ。…クリスマスマーケットでのやりとりを見ていただいて、大丈夫っていうふうに思っていただいた部分もあるのかなっていうふうに思いましたので。やってみてよかったなって、本当にいい経験になりました。

参加者は、顧客とのつながりにより、それぞれの学びがあったと語った一方で、本人の経験不足や自己効力感の低さに起因する行動も見られた。ATメンターは、ある参加者へ商品価値に見合った価格設定をアドバイスしたところ、値段を上げたら客から評価されない、と反論されたことを語った。また、休憩時間が多くブースを空ける時間が多かった参加者も見られたという。Jのように、大きなビジネス案件のオファーに対し断りを入れた例もあった。

J:北陸でのセミナーをやりませんかとかいう声もあったんですけど、お断りして。北陸支部長どうですか?って言われたんですけど、やっぱ緊張するし、「無理です」ってお断りしました。

5.4  テーマ4:起業経験者メンターによるロールモデル効果

講師やメンターが個別に行った率直なアドバイスやメンタリングは、参加者にとって衝撃的な内容であったが、起業経験者でもある講師やメンターたちの熱心な指導に納得していることがわかる。

A:最初の頃に名刺交換させてもらった時に、「ペットショップかと思った」って言われたのがすごくショックで。メンターのAUさんのとこに行って、こんな商品があるんだって見せたら「キャットフードかと思った」って言われて。

I:お客さんがアポを取ってもいい雰囲気になって、で、お電話で、じゃいついつお願いできますかっていうタイミング…「すぐ電話しなさい」と。…「もう今よ!」って、おっしゃっていただいて、背中を押していただいて。…もしあの時逃していたら、タイミングがずれていたらどうなっていたかわからないですね。

F:結局、あの、言われたのは、「Fさんがやっている事って、天井が見えている商売…例えばすごく売れるようになっても今度は誰か作る人雇わなきゃいけないからそこに人件費がかかるから、結局儲けとして残るのがほとんど変わらないから、なんか本当にその商売で良いのかどうか考えてください」って最初に入れたんですよね。それで、なるほどど思って。

P:当日も先生の駄目出しから始まります。「違うわー」、「もっと」っていう感じで。なので本番も、皆さん一生懸命やられて。

U:えっとこう最初はもう、方向性がはっきりと定まっていたというわけではなく、したいことははっきりと見えたんですけれども…メンターさんにブランディング的なことをしてもらいながら、名刺とチラシを作っていただいたんですけど、それで方向性がバッチリ固まって。…料金設定とかっていうのもそこで結構固めたっていう感じがします。

またメンターによる事業計画やテストマーケティングのアドバイスが、参加者の起業後に起こりうるリスクの認識につながったことも明らかとなった。多くの参加者は借入金の返済リスクは認識していたが、その他に時間やコストの超過、在庫(売れ残り)、対価に見合う価値を提供できるかどうかも、事業を行う上でのリスクであることを認識することとなった。

B:テストマーケティングをもっと繰り返して、初めて大きなリスクを負える自信が出てくるとは思うんですけど。まあやっぱり本当に事業で儲け出していこうと思ったら、リスクをある程度負わないと儲けが出ないっていうのが、一番まあ発見だというか。

F:試食もさせてくれなくて食べたことのないゼリーを、確かに誰も買わないなってしみじみ思って。こんなに人って、その食に対して冒険しないんだなって。

N:本当に計画はちゃんとした方がいいなとは思います。…お菓子作ってもっていったところで、キッチン借りて出店料とかかさんでくるので、今回、じゃあ、ワークショップにしようかな、とかちょっと先回りして考えられるようにはなってきました。

S:広い店舗を借りたいのですが、時間的にも金銭的にもいろんな負担が掛かってくるので、まだ、投資に踏み切れないんです。

プログラム参加後の状態について「ぼんやりしていたことが明確になった」「やるべきことがはっきりした」とのワードが頻出した。メンターによるアドバイス、その後の実習で活動が、具体的な起業活動につながっていった。

G:クリスマスマーケットもですけど協賛探し、頑張りました。…ノウハウをフルに使いました。

L:何も周りが見えないみたいな状態だったのが、まあちょっとずつ、こう、なんか霧が晴れてきたというか。

Q:起業に対して、ぼんやりというか、できたらいいな、ぐらいだった気持ちが、確実にもう今、動き出しているようなところ、本当に実現していけるところまで行動できているっていうところです。

T:受講前は、ぼんやりしていたものが、割と少しずつですけど、はっきりしてきました。…お客さんとの要望と自分のやりたいこととの、こう合わせ方とか、そういうものが少しづつはっきりしてきたかなって感じです。

またメンターATが「Tさん、自分で自分の足にギプスはめてるんですよ」と指摘したように、メンタリングの際に、育児や介護など家庭の事情で、自身の気持ちにブレーキをかけてしまい思うような行動をする決断ができない、と語る参加者も数名ほど見られた。

5.5  テーマ5:仲間によるロールモデル効果

伴走サークル型支援において、他の参加者の行動がロールモデル効果を与えていた。自分と同じスタートラインに立った仲間の成果が大きな刺激となって、起業家的行動の後押しに繋がった。

G:伝説となったIさんの二十万円を超える売り上げ、多分それが一番大きい刺激になって。やはり身近な人が、実績出したのが一番の衝撃でした。

T:Rさんはいつもすごくいろんなことが上手なので、SNSのこととか、いろんなことを教えてもらって。すごく頑張ってる姿を見て、わたしも頑張ろうって思えますね。

AE:法人化して、もっと仕事を取りたいなと今、思ってるので。法人会に登録しようと思ってまして。ここで知り合ったAFさんはすでに法人会の会員で、「法人会に入らない?」って誘ってくれて。まだ、今、忙しくて書類書けてないんですけど、それを書いて出そうかなと思ってます。

6.  分析結果からの発見

これら5つの主要テーマ特定から、3つの発見があった。

第一に、ネットワーク形成のダイナミクスが観察された。弱い紐帯による中期的ネットワークの形成という第一次的効果と、既存の強い紐帯と距離感を維持するという調整効果の2つの側面があった。

第二に、事業創造の実践プロセスが明らかとなった。具体的には、顧客との接点が創出され、顧客・市場からのフィードバック獲得による学習効果が確認された。このビジネス実践プロセスは、参加者の事業の具体化や修正に、重要な役割を果たしていた。

第三に、二層のロールモデル効果が観察された。これは起業経験者メンターからの垂直的影響と、プログラム参加者間のピアグループによる水平的影響である。メンターからは具体的な事業展開のノウハウや経験則が伝授され、一方でピアグループからは身近な実践例として刺激を受けるという相互補完があった。

発見した5つのテーマと上記3つの発見の関係性は図1に示した。特に、ネットワーク形成とロールモデル効果の相乗効果に注目したい。この相乗効果が、参加者の起業家的行動を促進する重要なメカニズムとして機能していることが、本研究を通じて明らかとなった。

図1 伴走サークル型支援と女性起業家の起業家的行動促進のメカニズム

(出所)分析結果をもとに筆者作成。

7.  考察

本研究のMRQは「伴走サークル型支援が女性起業家の起業家的行動を促進する要因は何か」、SRQ1は「同における起業家育成プログラムにおける弱い紐帯の作用メカニズムはどのようなものか」、SRQ2は「同におけるロールモデル効果はどのようなものか」である。

SRQ1に関して、Granovetter(1973)の弱い紐帯理論が示唆する通り、「弱い紐帯を起点とした中期的なネットワークの形成」、「強い紐帯との適度な距離感の維持」、「新規顧客とのつながりの創出」が作用したことが明らかとなった。

SRQ2に関しては、Bandura(1977)の社会的学習理論に基づく「起業経験者メンターによるロールモデル効果」および「Peer-to-peerの相互学習によるロールモデル効果」が影響を与えていることが確認された。これらの要因が統合的に作用し、MRQである「伴走サークル型支援による女性起業家の起業家的行動の促進要因」の解明につながることを実証的に示した。

社会ネットワーク論の観点から本研究の結果を考察すると、仕事や家族関係に基づかない適度な距離感を持つ弱い紐帯のネットワークは、Burt(2004)が指摘する「構造的空隙(structural holes)」を埋める機能を果たし、参加者にとって高い信頼性を持つソーシャルキャピタルとなっているといえそうだ。

Burt(2004)は、仕事や家族関係に基づかない弱い紐帯が、「構造的空隙」を解決することで新しいビジネスチャンスを提供する可能性を指摘した。まさに本研究はこれを裏付ける結果となっている。

起業におけるソーシャルキャピタル(社会関係資本)の重要性を論じたKim and Aldrich(2005)の指摘もあてはまる。社会における様々なネットワークが起業家にアドバイスを提供、リスクを軽減し、起業家としての行動を促進する相互作用が、起業家的意図(entrepreneurial intention)の醸成に寄与する構造を、本研究のセッティングでも実現できたと考える。

ビジネス体験教育がもたらした売上や顧客の関わり合いは、Sarasvathy(2001)のエフェクチュエーション理論が示唆する市場からの具体的フィードバックとして機能し、事業のピボットを促進する要因となった。参加者の起業家精神は所属するネットワークや文化など社会的埋め込み(social embeddedness)によって形成され、ネットワークとソーシャルキャピタルの関わり合いの中で、事業機会が発見されたり、リソースを分配・交換されたりする経緯の中で起業意思が強化されていたことがLoi and Fayoll(2022)Aldrich and Zimmer(1986)により示されている。

ビジネス体験は、Bandura(1997)の提唱する自己効力感(self-efficacy)の形成に影響を与えた。Brindley(2005)は、女性起業家のリスク受容と自己効力感向上における、支援者の深い理解の重要さを指摘した。本研究の伴走サークル型支援はその指摘を背景に設計したものであるが、参加者のリスク性向(risk propensity)にも正の影響を窺える結果を得た。これは今後研究を深める価値があろう。

ロールモデルと出会い、継続的な接触機会の提供は、参加者の起業家的自己効力感(entrepreneurial self-efficacy)を高める効果があり、Austin and Nauta(2016)の研究を支持した。Booth and Kee(2009)が提言した身近なロールモデルの重要性は、本研究のインタビューデータからも十分に裏付けが取れた。

以上、本研究はプログラムを通じて形成されたネットワークとロールモデルの相互作用が、女性起業家の起業家的行動を促進する要因であることを実証的に示した。Welter(2011)のコンテクスト理論の観点からも、支援者には参加者の行動特性を理解し、状況に応じた適切な介入を行うことが有効であると考えうる。

8.  本研究の独自性と価値

本研究の独自性はミドル世代女性を対象に「伴走サークル型支援」を通じての女性起業家育成プログラムが参加者にどのような影響をもたらしたかを、中期的成果を通じて明らかにしたことである。本研究での考察が、今後の女性起業家教育プログラムに貢献することを期待したい。

9.  本研究の限界

今回の調査は日本の北陸地方の都市の女性起業家育成プログラムを完走した参加者を対象とした。そのため他地域との比較検討による地域特性の違い、及び完走に至らなかった参加者の離脱要因も調査分析が必要であると考える。また、今回の対象者が、今後どのような起業行動をとっていくのかは、中期的な育成の観点から引き続き研究の必要があると考える。

10.  結論

本研究にて、ミドル世代への伴走サークル型女性起業家プログラムは、中期的ネットワーク形成とロールモデル効果により参加者の起業家的行動を促すことを示した。レクチャー中心のプログラムと比べて、多大な運営コストとエフォート(労力)を要する。こうしたプログラムを運営できる講師やメンター人材の確保も、容易ではない。

しかしながら、参加者の中期的、継続的な起業家的行動の成果、および日本最大級のプログラムに発展したことを鑑みると、停滞する女性起業家育成への貢献度は高い。女性起業家育成に値する手法として、今後研究を重ね伴走サークル型プログラムを実施する意義は大きいと考える。

参考文献
 
© 2025 法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
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